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六百五十六話 叫喚地獄

 ──"地獄・モートの拠点"。


「帰ったか。成果はどうだ?」


「上々だ……だが、まだライとかいうガキと同程度の実力って事が分かった。衆合地獄の悪魔共を全員取り込んだ後だったから良かったものを、もう少し早くに会っていたら絶対全ての悪魔共は取り込めなかったぜ。いや、やろうと思えば出来るんだけどな」


 瞬間移動を使い、モートの拠点に帰ったレクスはモートから近況を聞かれて淡々と返す。

 どうやらライと出会ったのは衆合地獄の悪魔達を取り込み終えた後だったらしく、既に目的は達成していたらしい。だが、アスモデウスに幹部クラスの悪魔。エラトマのほんの少しの力にその他多数の悪魔を取り込んでもライと互角だった現状に悩んでいるようだ。

 強がってはいるが、やはりエラトマなどの者にはまだ勝てないと理解しているのだろう。


「フム、エラトマの力を取り込んでも急激な強化はされないか。やはりまだお前の身体に馴染んでいないのが原因だろう。そのうちどうなるかは分からないが、それらの力全てを完全に使いこなせれば地獄でも最上位に入れる力を宿せるというのに」


「あ? 俺は今でも最上位だ。……まあ、確かに最近は不調だな。決して実力不足って訳じゃねえ。だが、力を使いこなすか……悪魔を取り込むだけじゃ、一時的に強くなった気がするだけで本当の実力はあまり変わらない……。いや、そんな事しなくても俺は最強だがな。地獄の王になる男だし」


 自信家のレクスだが、色々言いつつも実力不足は感じているらしい。

 取り込んだ悪魔達の力が純粋に上乗せされるのならば、今の状態でも全ての大罪の悪魔を凌駕する力を宿している筈。それが無いという事は、やはり使いこなせていないというのが現状なのかもしれない。


「まあ兎に角、この力を馴染ませれば良いんだろ? じゃあ次から、時間は掛かるがただ取り込むんじゃなくて全員ぶちのめして取り込んでやるぜ。一応アスモデウス、マモン、ベルフェゴールにゃ勝てたんだ。完全にぶちのめした訳じゃないが、その時点で俺は強い。さっさと馴染ませるのは簡単だ!」


「ほう? まさかお前からそんな言葉を聞けるとはな。私もそれを言おうとしていたところだ」


「ハッハ! 未来予知使わなくても大天才の俺はこれくらいヨユーで分かるぜ、ヨユーでよ! まあ、今日は身体中が痛えし、行動を起こすのは少し休んでからだな。まだベルゼブブの部下共が彷徨うろついているかも知れねえけど、まあ治療を終えてから直ぐに行くぜ」


「ならば、次の目的地は少し変えるとしよう。奴らが来たならば行動のパターンは読まれていると見て間違いないからな。休養が終わったらそこに行ってくれ。それならベルゼブブ……バアルの部下も居ないだろうからな」


「ハッハ! 了解!」


 珍しく自分から何をすれば良いのか判断し、その実行に移るというレクス。モートはそんなレクスに感心しており、当の本人は当たり前だと胸を張る。

 と、ライたちにとって色々と大変な事になりそうだが、早速レクスは行動を開始するつもりのようだ。しかし今は傷を癒す為に療養するらしい。だがそれも数分くらいだろう。

 着々と作戦を進めるモートとレクスに、それを追うライたち。まだまだ厄介事は去らなそうである。



*****



 ──"地獄・バアルの城"。


 衆合地獄から拠点であるバアルの城に戻ったライたちは、早速起こった事を報告していた。

 報告と言ってもする事は少ないが、直接会った事と相対した事は報告していた方が良いだろう。相手の詳しい行動やパターンを見抜くヒントになるかもしれないからだ。


「成る程。それで、同じくらいの実力だった訳か。失礼かもしれないが、それは少しおかしいな」


「ああいや、失礼なんかじゃないさ。今の俺はそこまで強くない。にもかかわらず、エラトマや他の悪魔達を取り込んだレクスは少し弱過ぎるかもしれないな。俺と互角なのは変だ」


 その内容はレクスの実力について。

 レクスは既に大罪の悪魔を三人取り込んでおり、エラトマの力も少しだが取り込んだ。しかしライから見ても勝てなくは無さそうという雰囲気の強さだったのが疑問なのだ。

 単純に考えれば力に慣れていない。本当の力を引き出せていないという事になるが、言い方を変えればレクスが力に慣れれば地獄でも最上位に入れる本領を発揮出来るという事。なるべく早く手を打ってみたいところである。


「……。まあ取り敢えず、今はお前たちの現世で言う時間の正午過ぎ頃……まだ今日という一日は多く残っている。元々人間だった亡者のレクスは既に次の地獄に向かっているかもしれないな。また直ぐに向かった方が良さそうだ」


「ああ。俺もそう思っていたところだ。検討は付いているし、治療はもう受けた。また行ってみるとするよ」


 今一番恐れるべき事はレクスが更なる力を付ける事。故に、それを止める事が出来れば事は有利に運ぶ。

 傷の治療も終えたライは、そのレクスを再び探す為に行動へ移ると告げた。


「そうか。それならまたお前たちに頼もう。エラトマ。居場所は特定出来るか?」


【いや、今は無理だな。気配が察知出来ねェ程遠くに居るみてェだ】


「お前でも駄目なのか……。となると居場所の特定は難しいな」


 早速探す為、気配を感じるかどうか話すバアルだがどうやら今度は気配を掴めないらしい。

 気配が消される洞窟ですら感じる事が出来たエラトマの力。それが届かないとなると、衆合地獄の更に下の下に居るのかもしれない。


「まあ、見つからないなら仕方無い。取り敢えず衆合地獄の下に下に行って探すしかないか」


【クク……確かにそこに行けば気配は掴めるようになるかもしれねェ。俺的には強くなって欲しいが、まあ別に構わねェ】


「そうじゃな。地獄は幾らでも再生する。破壊しながら進んでも良いだろう」


 再び捜索する事が決まったライたちは、早速その行動に移る事にした。

 時間が経てば経つ程に敵は強くなる。それは常に成長し続けるライも同じだが、取り込む事で強化されるレクスの方が圧倒的に強化速度は上だろう。

 ライ、エラトマ、テュポーンの三人は、ライにエラトマが力を貸しつつかなり遠くである事を踏まえ、光の速度で移動した。



*****



 ──"地獄・叫喚地獄"。


 此処は衆合地獄の一つ下に位置する叫喚きょうかん地獄じごく。常例通り一つ上の地獄の十倍の苦痛を伴うと謂われている地獄であり、罪人は熱湯の入った大釜。猛火に包まれた鉄の部屋に入れられるらしい。

 そこでは罪人の悲鳴や泣き声。すなわち叫喚が絶え間無く響き渡り、獄卒が弓矢で射抜いたり罪人を焼けた鉄の上を裸足で走らせたり、鉄の棒で打ち付けるという。

 そしてそこで八百兆年以上過ごさなければならないというかなり悲痛な地獄。その叫喚地獄にライたちは数分で辿り着いていた。秒速三十万キロの光速ですら数分も掛かるとなると、やはり距離は惑星間並みに離れていたようだ。


「また熱いところか。確かに熱は手っ取り早く苦痛を与えられるけど。まあそれは良いか。……それにしても、まだ此処に悪魔達は居るな。となるとレクスは来ていない……もしくは来ていても取り込み終えていないってところか」


 辺りを見渡し、獄卒に苦痛を与えられる亡者を眺めながら悪魔達の存在も確認するライ。

 悪魔達が居るのでまだレクスが来ていないか本格的な行動に移っていない事は分かるが、功績が無いという事なので逆に悩んでいた。


【いや、そもそも此処には居ねェみたいだぜ? さっきから気配を探っているが、見つからねェ】


「成る程……モートと手を組んでいるなら、俺たちがレクスのパターンを見抜いたと考えてもおかしくない……となると厄介だな……」


 レクスの行動は、下へ下へと順を追って悪魔達を取り込むというものだった。しかしそのパターンが変わった今、かなり広大な地獄で見つけ出すのは至難の技になるだろう。

 流石に距離があり過ぎてはエラトマの力も及ばない。そもそも、エラトマを取り込んだ事で気配を感じにくくなっているのかもしれない。馴染んできた事によって身体に変化が現れたのなら今から数時間前の、衆合地獄でのレクスから変化していてもおかしくないのだ。


「取り敢えず別の地獄に行くしかないか。俺たちが居なくなった後で来る可能性もあるけど、それを待っていたんじゃ進まないしな」


【ああ。それが最善だな。同じ場所なら俺も気配を察知出来る。ま、また俺がお前に力を貸せば移動距離も問題ねェだろ】


「そうじゃな。移動は面倒だが、退屈よりは良い」


 此処に居てももう何の意味も無い。事前に見張りを付けておくという手もあるが、それは非効率的だろう。

 なので叫喚地獄に来て数分。ライたちは別の地獄を探しに向かうのだった。



*****



 ──"地獄・某所"。


「成る程……少し漏れている魔力や他の者が常に発している別の力を感じる事で気配が分かるのか……。これなら不意を突かれる可能性は減るかもしれないな」


 地獄にある何処かの地獄にて、レクスは悪魔を狩りながら己を鍛えていた。先ずは初歩的なモノで、気配を察知する特訓をおこなっているようだ。

 気配を読み取れるようになれば大抵の不意討ちをかわせるようになる。そして相手の動きも先を読む事が出来る。初歩的な力だが、強者と謳われる者のほとんどは実行出来ている事だった。

 努力は嫌いな性分であるレクスだが、力が上がった事を実感するのは嫌いじゃない。なのでまともに戦って力を得るという今の行動にも嫌な顔はしていなかった。


「右に二人……」

「「……!」」


 死角の右から攻める悪魔の気配を読み取り、そちらに一瞥も向けず側頭部に蹴りを放って吹き飛ばす。悪魔は山に激突して動きが止まり、他の悪魔達が背後から飛び掛かる。


「ハッハ! 成る程な! こりゃいい! 元々大罪の魔王クラスの悪魔を取り込んでいたからか、敵の気配が手に取るように分かるぜ!」


「「「…………ッ!」」」


 飛び掛かってきた一人の悪魔に裏拳を放ち、吹き飛ばして意識を刈り取る。そのまま流れるように回し蹴りを放ってもう一人の悪魔を打ち倒し、正面に拳を放って残りの悪魔を巻き込みながら取り込んだ。


「そう言や、アイツと戦った時に魔法や魔術を使うの忘れてたな。体術だけじゃ、そりゃ互角程度だわ」


 武術で悪魔達を打ち倒しつつ、ライとの戦いで魔法・魔術を使わなかった事を気に掛ける。何も体術にこだわる必要は全く無かったからだ。

 魔法や魔術を使った方が武術だけの相手に対して優位に運べる。エラトマに魔法が効かず、ライが体術のみで攻めてきたからつい魔法と魔術を封じてしまったのだろう。


「なら、焼き払うか」


 魔術の応用で槍を創造し、その槍に魔力を纏う。魔力は熱を持って発火し、レクスの周りに揺らめく炎が漂った。

 槍を造るくらいの魔術は使えるが、やはり大罪の悪魔の魔法には劣る。なのでアスモデウスの炎魔法を使用するつもりなのだろう。


「ハハハ! 良いな! 悪魔共が次々と焼き消えて行く! ……おっと、そうだ。倒した悪魔を取り込まなくちゃならないな」


 一定数。周りに居た悪魔達を焼き払ったレクスは悪魔だった煤に触れてその力を取り込む。今回は体術と魔法のような力を使い、ただ触れるだけではなく力でじ伏せたので身体にも少しは変化があったようだ。

 その後取り込み終え、軽く身体を動かしてその力を確かめる。だが、やはり数十人の悪魔を倒しただけでは然程さほど変化が無いのか特に高揚感も無い様子だった。


「まあいいか。まだまだ悪魔は居る……アイツらに見つかる前に、さっさと他の悪魔も取り込みつつ俺自身を強化してやるぜ……! ハハ、ハハハハハ!」


 グッと握り拳を作り、不敵に、そして高らかに笑うレクス。ただの亡者だった頃より性格が荒くなっており、獰猛な笑みが地獄の某所に木霊こだまする。

 ライ、エラトマ、テュポーンの三人がレクスを探す中、そのレクスは順調に力を集めながら己を鍛え続けているのだった。

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