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六百五十四話 衆合地獄

 ──"地獄・モートの拠点"。


 時を少しさかのぼり、レクスがバアルの城を襲撃してから数分後。拠点へと戻ったレクスは身体を治療の魔術で癒しつつモートに報告をしていた。


「ハッハ……! ハッハッハ! 流石の俺だ! 現世での魔王とかいうエラトマとやらの力を少し奪ってやったぜ!」


「少しか。いや、十分だな。実力には完全に差があった。それで少しでも力を取り込めたなら十分という他無いだろう」


「クハハ! もっと褒めろ! あがめろ! たたえろ! それが俺の糧になる!」


 エラトマの力を取り込んだ事に対し、此処までは思い描いた通りに動いていると考えているであろうモート。そんな事は気にもしないレクスは高揚感に満ちており高らかな笑い声を上げていた。

 傍から見れば完全にモートが上の立場だが、これでも一応対等である。ともあれ、モートは続けて指示を出す。


「ならば、後はその力を更に扱えるようにさせる為、他の悪魔達を狩りに行くか。残っている大罪の悪魔はいずれも曲者揃い……その力を慣れさせなければ手痛い目に合うだろう」


「ハッハッハ! 分かってるよ! 指示関連はテメェが出す。それに従っているだけなら楽なもんだ。だが、パシリみてえな命令はすんなよ? 俺とテメェはどこまでも"対等"だからな」


「当たり前だ。対等というのは部下になれというお前の意見に反対する為の言葉だからな。自分で言った手前、その言葉は変えないさ」


 悪魔狩り。それはそのままの意味であり、より強い力を手に入れる為の行動。レクスはそれを待ち望んでいたのかこころよく従いつつ、き使うような命令はしないように念を押す。

 そう、対等という条件で手を組んでいる二人からしても相手は従順な部下では無い。モートは当然それを理解しており、レクスを刺激しない範囲で指示を出しているので賢かった。


「それなら良い。さて、んじゃ早速取り掛かるとすっか」


「ああ。任せた。私が行っても悪魔の数を減らせるくらいで意味がないからな。それならば取り込んで力に出来るお前の方が良い」


 モートの指示に従い、バティンの瞬間移動で適当な地獄に向かうレクス。悪魔達を取り込む事で力を上げれば、今は圧倒的な差があるエラトマにも近付けるかもしれないという考えなのだろう。

 戦い関連ならば簡単に乗ってくれるレクスはやはり扱いやすいと考えるであろうモートだった。



*****



 ──"地獄・バアルの城"。


 そして時を戻し、昨日から数時間が経過した一ヵ月と四日目現在の朝。時間という概念は無いが、大凡おおよそ朝であろうという時間帯。ライたちは目覚め、生者なので朝食を摂った後にバアルたちの居る貴賓室に来ていた。

 此処にはバアルとフルーレティ、アナトのみがおり、そこに来たライ、エラトマ、テュポーンでその数は六人だ。

 その六人は向かい合い、今日行う動きを話し合っていた。


「さて、恐らくだがある程度の力を手に入れたレクスは昨日から悪魔狩りを始めている筈だ。結局同じく脱獄したモートの居場所は分からないままだが、まあレクスと組んでいる線は高い。今日は此方こちらも本格的に敵探しを行いたいと思う」


 今日やる事。それは敵。つまりレクスとモートの捜索との事。残りの大罪の悪魔も、行方不明のレヴィアタンと協定を結んだルシファーを除いた者も一人だけだが、その悪魔にはまだ手を出すつもりはない。余計な戦闘と接触は避けるべきだからだ。

 なので今回は悪魔でレクスとモートの二人を探す事だけに集中するという方向だった。


「ええ。確かにそれは良さそうですね。狙いがあるとすれば他の大罪の悪魔達かバアル様と思いますけど……実力差を理解していたのなら魔力の小さな悪魔達を狙うかもしれません。モートと組んでいるなら尚更です。モートなら頭脳役は兼ねられますからね」


「成る程……確かにその通りだな。まあ、俺がモートってのに会ったのは捕まえた時だけ……バアルたちの方が詳しいのは明白だ」


 バアルの考えに同調するフルーレティ。その意見に対し、モートを詳しく知らないライは、知らないからこそモートをよく知るバアルたちが言ったその方が良いと考えていた。

 実際、ライたちはレクスの動きは読めるが、モートの行動を読めるのはバアルたちだけ。なのでライ、エラトマ、テュポーンの三人も同調していた。


「なら、行動は決まったな。今日は我が城に残る。ライ、エラトマ、テュポーン。お前たちもそろそろ部下たちに信用されている筈。だから今日の探索は任せた」


「ああ、分かった」

【ククク……了解】

「うむ、しかと任せよ」


 今日の行動は現世から来た三人に任せたバアル。三人にも断る理由は無く、今日の行動はライたちでレクス達の捜索という事に決まった。

 捜索する者たちの数は多い方が良いかもしれないが、主力の何人かが取り込まれてしまったので多くの主力が残らなくてはならないのだ。そしてエラトマを除いて取り込まれる事の無いこの三人なら、レクスと鉢合わせた時も有利に戦える筈である。


「これにて解散だ。我も我で城で出来る事を調べてみる。さっさと事を解決した方が良いからな」


 ライ、エラトマ、テュポーン。バアル、アナト、フルーレティの六人がこの場で解散となり、ライたち三人が地獄の外へと向かって行く。そしてバアルたちも各々(おのおの)で出来る事を調べ始めた。

 地獄に来てから一ヵ月と四日。その四日目が探索と共に開始された。



*****



 ──"地獄・衆合しゅうごう地獄じごく"。


 此処は八大地獄に位置する衆合地獄。場所は黒縄地獄の下にあり、黒縄地獄の十倍の苦痛を与えられるという。

 この地獄には鉄の山があり、罪人に向けて崩れ落ち押す潰すと謂われている。剣からなる草木もあり、男女問わず美人がその上で誘惑して剣に突き刺すという。そして時折鉄の足が降って来、その足も罪人を潰すと謂われている。そして此処に居る罪人の寿命は現世で言う百兆年以上との事。

 そんな鉄が罪人に罰を与える衆合地獄にて、ライ、エラトマ、テュポーンの三人は来ていた。態々(わざわざ)三人で同じ場所を探す必要も無いが、連絡手段が皆無に等しいので三人で行動しているのだ。

 広い地獄なので此処に来るまで雷速以上の第四宇宙速度程で進んでいたが数時間掛かってしまった。これから探すので更に時間は掛かる事だろう。


「さて、と。またエラトマ頼みになるけど、気配を探れるか?」


【ああ、出来るぜ。だが、どうせなら最初から探せば良かったんじゃねェか? これでこっからヤベェ距離離れてたら洒落になんねェだろ】


 鉄の山と鉄の足。剣の草木。ライたちを誘う謎の影を見ながら、ライはエラトマにレクスの気配を探らせる。エラトマはもっと前に調べた方が良かったのでは無いかと言うが、ライにも考えがあっての事だった。


「いや、多分レクスは自分が勝てる範囲で強い悪魔を狙っている筈……上の等活地獄と黒縄地獄は既に通ったから、順に行くならこの衆合地獄に居ると思う。実際、此処に血塗ちまみれの罪人は居ても悪魔は居ないからな」


【ほう? クク……確かにそうかもな。まあいい。例え何処に居ても、追い付いて片付けりゃ終わる話だ】


 瞬間、エラトマの周囲に全体の気配が集まった。いや、エラトマが気配を探る為に気配を探る何かを広げているのだろう。

 それによってエラトマは静かになり、ライとテュポーンは周りの亡者が襲って来ないかを見張る。だが、恐らく亡者は亡者の目に映っているであろう美人に気を取られているのでライとエラトマ、テュポーンの姿は眼中に無いようだ。

 それから数分後、エラトマの探知は終了する。


【ハッ、ビンゴだ。掴んだぜ、奴の気配。結構遠いが、間違いなく衆合地獄に居る。南東に数万キロだ】


「良し、分かった! 急ごう!」

「余に命ずるな。だが、特別に急いでやろう」


 ライの予想通り衆合地獄に居るというレクス。ライ、エラトマ、テュポーンの三人は速度を第四宇宙速度に引き上げ、加速して南東へと向かう。第四宇宙速度ならば数万キロというのは数十秒から数分で行ける距離。瞬間移動を使われる前に辿り着けるかもしれない。

 それから数分後、ライたちは気配を感じたという位置に来ており速度を音速以下の更に下に緩めて辺りを捜索する。衆合地獄にある剣や鉄はライに効かないので、ダメージを負うかもしれないエラトマとテュポーンよりもライが率先して探していた。なので三人は近隣を別々で行動を起こしているようだ。

 というのも、普通の剣などならば二人はダメージも負わないが、地獄にある物は罪人に罰を与えるのに特化した凶器。なのでダメージを負う可能性があり、それを懸念しているのだ。


「……! 見つけた……!」


 それからライは鉄の山々に囲まれた剣の草木の間にレクスの姿を見つけ、体勢を低くしてその様子をうかがう。エラトマとテュポーンは離れた場所を探しているが為にそう簡単に呼びに行く事は出来ずにいた。

 移動している間にレクス自身が居なくなってしまうかもしれない。その可能性が有る限りは迂闊に動き出せないのだ。


(さて、どうするか……)


 バレぬよう、声に出さず思考するライ。レクス自身は悪魔達による上乗せがなければ大した力は持たない。なので近付いても気配などでバレる心配が無いのだ。

 しかし悪魔達の上乗せがあるが為に、現在の強さはエラトマを纏わないライの全力と同等かそれ以上だろう。互角ならまだ何とかなるが、自分以上の実力があった場合は下手に攻撃をすると返り討ちに遭う危険性がある。悩みどころだ。


「うがぁ!」

「……!」


 ──その背後から、血塗れの亡者がライ目掛けて飛び掛かってきた。ライは即座に飛び退き、そちらの方向を見やる。何とか避けたが直前まで気付けなかったのはレクスに集中し過ぎて警戒するのを怠ったライの怠慢が原因だ。そしてそこには、


「「「あ、あぁ……」」」


「……っ。ゾンビみたいだな……」


 フラフラと足りない血を求めるように歩く全身血塗れの亡者"達"が立っていた。

 剣の草木に斬られ、鉄の山や足に潰された亡者達。その姿は現世で見たゾンビにそっくりであった。


「てか、今の物音……」


 そして先程の亡者の大きな声。それは恐らく数十メートル先まで届くもの。ライは慌ててレクスの方を見やり、今の声に気付いたかどうかを確かめた。


「……なんだ……今の声? 向こうに居るのは多数の亡者か。別に普通だな」


「……。ふう、何とか気付かれなかったか」


 呟く程度で話すレクス。呟くように話したのでライに声は届いていないが、その様子から気付かれてはいないという事が分かったのでホッと胸を撫で下ろす。

 そもそも一ヶ所に亡者が集まっている時点でおかしいのだが、そんな事は気にも留めていないようである。


「ああああッ!」

「なんで俺を襲うんだよ……!」


 正面から飛び掛かってくる亡者をかわし、亡者の肩に手を置いて軸とし、空中回し蹴りで亡者の側頭部を打ち付けるライ。それによって亡者は鉄の山に頭をぶつけてフラつき、近くにあった剣の草木に突き刺さって固定された。痛みなどもあるので中々むごい光景だが、死ぬ事は無くライの行動は悪魔で正当防衛だったのでそれで良いと一先ず割り切っていた。


「レクスもだけど……亡者も面倒だな……」

「「「うがぁ!」」」


 やられた一人の亡者を余所に一斉に飛び掛かり、それを一人一人打ち倒して剣の草木に固定させていくライ。ついでに土魔術で動きを封じ、数分で亡者達を全員固定した。


「さて……」

「オイ、テメェ。バアルんとこに居た奴だよな?」

「流石に気付かれたか」


 亡者達は片付けたが、流石に数分間戦闘があれば気付かれる。それを理解していたライは諦めて立ち上がり、レクスに向き直る。そしてレクスの方を見やり、その言葉に返答した。


「ああ。アンタを探しに来たんだ。捕まえなくちゃならないからな」


「ハッハ! そうかよ! だが、他の奴らに比べて弱そうだな。いや、見た目だけならエラトマとやらと近い感じだな」


「まあ、確かにあの二人やバアルには劣るだろうな。けど、俺もそこそこやると思うから油断はしない方が良いぜ?」


 レクスを捕らえようと試みるライに、ライの実力は大した事無いと告げるレクス。本人は確かにその通りだと認めているが、言われっぱなしというのもしゃくさわるのでフッと笑いながら挑発するように返答した。

 それを聞いたレクスも不敵に笑い、力を込めて構え直す。


「ハッ! 上等だ! ベルゼブブ軍の奴らにゃまともに勝ってねえし、テメェで憂さ晴らししてやるよ!」


「おー怖い。注意しなくちゃあな」


 手負いアスモデウスや他の大罪の悪魔であるマモンにベルフェゴール。そしてバアル配下の悪魔の一部には勝利しているが、ライたちには勝てていないレクスは俄然やる気を出す。ライも警戒を高め、相手の出方を窺った。

 八大地獄の一つである衆合地獄にて、目的の人物と鉢合わせる事となったライ。エラトマやテュポーンはまだ来ていないが、やるしかない戦いが始まるのだった。

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