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六百五十三話 敵襲再び・三日目の行動終了

【まあ、こんなもんか。思った通り、もうすぐ完成するんだな】


「ええ。結構な時間があったからね。それに、エラトマ君が手伝ってくれたお陰でより短縮出来たわ。まだ暫く地獄での生活は続きそうだけど、帰れるまでは後少しね」


 ライたちとレクス達。敵と味方の二チームが行動を起こしている時、エラトマとアナトが元の世界。というより現世に戻る為の装置製作を手掛けていた。

 どうやらエラトマがライたちへ着いて行かずに残った理由は自分の魔術を使い、現世に戻る為の装置をより迅速に作り上げる為だったらしい。


「クク……構わねェよ。此処じゃ何が起きてもおかしくねェからな。早めに作っとくに越した事はねェだろ」


 どうやらエラトマも地獄では何が起こるか分からないらしく、念の為にその手伝いをしていたらしい。

 例え何が起ころうと敵がおり戦いが起こるなら正面から打ちのめすつもりではあるが、作っておいて損はないと踏んだのだろう。確かに事が済んだら直ぐに帰る事も出来るので利点は多い。不利点は敵によって壊されてしまう可能性があるかどうかというくらいだろう。


「……さて、また客人が来たみたいだな。今朝振りか?」

「……。そうね。けど、一人だけみたい」


 作っている途中、一つの気配をかなり近くにて感じたエラトマとアナトがそちらの方向を見やる。そしてそこには、予想通りの人物。レクスが立っていた。レクスはエラトマとアナトの作っている物を見、小首を傾げて訊ねる。


「それ、なんだ? 何かすげえ装置みてえだけど……」


【ククク……第一声がそれかよ。まあアレだ。テメェにゃ全く関係ねェもんだよ。で、本題に入りてェところだが……テメェは何しに来た?】


 事実、現世に帰るこの装置はレクスに関係無い。本人が現世に戻りたいと考えるならば関係あるが、そもそも肉体が無いので結局は関係無いのだ。

 なのでエラトマはその話を切り捨て、流れるように此処に来た理由を訊ねる。レクスは軽薄に笑いながら返答した。


「そりゃあもう決まってるだろ。テメェから力を……っと、そういや他の奴等にバレねえようにしなくちゃならねえんだった……」


【……?】


 その途中、何かを思い出したように話すレクス。モートの作戦ではこっそりと行動する事が目的だった。だが、何時も通り堂々と登場してしまったので慌てて口を噤んだ。そのまま説明すれば触れる前にやられるのは目に見えている。レクスにしては良い判断だろう。

 最も、エラトマ。つまりライたちにとっては面倒な選択を選ばれたという事になるが。


「ハッ、まあどうでもいい。要するに来た理由は一つ。テメェをこの場で打ち倒し、少しでも戦力を削ることだ……!」


【クク……分かりやすくて助かるぜ。オイ、お前も一応魂だけの存在……気を付けろよ】


「ええ。勿論分かっているわ……!」


 変に誤魔化しては逆に怪しまれる。故に、悪魔で戦闘がメインの目的だと話すレクス。確かにその言い方なら何時ものレクスも言いそうな事。なので誤魔化しには丁度良いのだろう。

 エラトマは戦いならばと嬉々として体勢を立て直し、構えを取る。


【まあ、俺様も肉体はねェ。取り込まれねェように気を付けるか……】


「……ンガッ!? ば、バレてた……!」


【当たり前ェだろ。幾ら身の程知らずなテメェでも態々(わざわざ)来るなんてアホ過ぎるからな】


 当然、レクスの企みは理解しているエラトマ。例え知らなくとも触れたら取り込まれる事は知っているので始めから警戒していたのだ。

 元々ライにそれを教えた本人故に、それによって自滅という事は無いだろう。


【ま、テメェがその気になりゃ触れたら即終了……多分(てのひら)か。そこに注意してやってやるよ】


「……! フフ……クク……ハハハ! 良いだろう! 実を言うと俺も正面からりたかった! 逆に返って好都合だ!!」


 なか自棄ヤケとなり、高笑いをしてエラトマに構えるレクス。本心ではビビっているが、それでも逃げないのは素直に評価出来る点である。

 二人は構えを取り、刹那に踏み込んで駆け出した。


【此処じゃ被害がデカ過ぎる。手始めにテメェを外に吹き飛ばしてやるぜ!】


「ならば被害を気にしなくて良い俺には有利って事か! 何としても此処に残ってやる!」


 エラトマは踏み込んだ瞬間に加速して肉迫し、レクスのふところに飛び込んだ。瞬間的に山河を砕く拳を放ち、それを正面から両腕で受け止めるレクス。

 それによってレクスの身体を後方へと押すがそれはこらえられ、掌を向けてエラトマの身体に触れようと試みる。エラトマはそれをかわし、次いで蹴りを放つ。その蹴りには両手を向けるレクスだが、それをあらかじめ予期していたエラトマは蹴りの勢いのまま踏み込み、身体を宙に浮かせて身体を捻りながら放つ蹴り、エリアルツイストを放った。

 しかしそれもかわしたレクスは駆け出し、音速を超えて拳を放つ。エラトマはその拳を紙一重で避け、腹部に膝蹴りを打ち込んだ。


「カハッ……!」

【そらよ!】


 それによって怯んだ瞬間、両手を組んだダブルスレッジハンマーを背部に叩き付け、身体を沈めて床に大きく陥没させた。その衝撃が部屋全体を揺らし、連鎖するように周囲に広がる。

 そのまま下方へと落下し、落下途中に腹部へ蹴りを放って外へと弾き出す。


【クク……有言実行だ……】

「ぐっ……ゴホッ……」


 重い一撃を受けたレクスは空気を吐き出すように咳き込み、少量の血が混じった唾液を吐き捨てる。

 自身はまともなダメージを与えられず、一撃一撃で意識が飛びそうな程に重い連撃を受けたレクスは既にフラフラだった。腹を押さえて咳き込みつつエラトマの方を睨み付ける。


「くっ……やっぱ実力差は明白か……!」


【ああ、そうみたいだな。触れたら即ゲームオーバーの戦いだが、案外簡単みてェだ】


 昨日今日では覆せない実力差。それを目の当たりにしたレクスは後退り、エラトマの出方を窺う。しかし隙は無く、それならばと再び駆け出して一気に距離を詰め寄った。


「クソッ……!」

【ヤケクソかよ。だがまあ、戦意喪失しないだけその心意気は認めてやるよ】


 拳を放つレクスと、放たれた拳の腕を少し横に掌で弾き、がら空きとなった懐にカウンターのように掌底しょうてい打ちを放つエラトマ。

 それを受けたレクスは吹き飛び、近隣の山々を砕きながら爆発的な粉塵を舞い上げて遥か遠方に行ってしまう。何時も通り後を追って追撃しようと動き出すエラトマだが、背後から掛かった声によってその動きを止める事となった。


「……ッ! 貰ったぜ!」

【……。クック……成る程、瞬間移動か……】


 ──瞬間移動を使い、背後に回り込んで掌が振り下ろされた。それをエラトマは咄嗟に左腕でガードするが、判断を誤った。

 魂だけの存在が触れたら即終了なレクスの掌。それに触れた事により、エラトマの力の少しがレクスの身体に取り込まれる。


「やった! これでテメェの力は……ッ!?」

【そうか、見事だな】


 エラトマの力を奪い、歓喜するレクスの頬に斜め上から膝蹴りが放たれる。それによって顔がひしゃげ、肉が揺れて歯が抜け飛ぶ。瞬間、レクスの身体は大地に叩き付けられて大きな穴を空けた。


「まさか……! まだこんなに実力差があるのか……!?」

【さあ、どうだろうな?】

「……ッ! だが、目的は達成した……! 今回はこれで終わりだ!」


 エラトマの力を取り込んでもまだ覆らぬ実力差。流石にマズイと判断したレクスは一時的に戦線を離脱し、瞬間移動をもちいてバアルの城から逃げ出した。


【なんだよ。もう終わりか。警戒する程の事じゃなかったな】


 確かに力を奪われたが、あの程度の実力ならば他の悪魔たちはて置き、エラトマが警戒する必要も無い。なので肩透かしを食らったように拍子抜けする。

 だが、エラトマの力を手に入れられたのは事実。あまり油断はしない方が良いだろう。

 レクスが再びやって来たバアルの城での騒動は、エラトマがレクスを追い出す事で終わりを告げた。しかし少しの力を取り込まれたので少しは警戒すべき対象となったかもしれない。

 ともあれ、今回の事は解決したので後はライたちが帰ってくるのを待つエラトマだった。



*****



「力を奪われたって本当か? そうは見えないけど……」


「やはり攻めて来たか。それに、エラトマの力を少しとはいえ取り込まれるとはな……」


【ハッハ。だがまあ、見ての通り俺自身には大した影響も出ていねェ。また敵が来ても問題ねェぜ】


 バアルの城へと戻ったライ、テュポーン、バアル、フルーレティの四人は、エラトマから事情を聞いてその姿を上下に何度も見ていた。

 一見するだけならば変わった様子も無く、本人も変わらぬ状態。なので、だからと言うべきか、本当に少しの力を取り込まれたとはとても思えない状態だった。


「確かに問題は無さそうだ……けど、エラトマの力を少しでも取り込んだなら後々レクスの体質や性質その物が変わってくるかもしれないな。敵も更に強化されたって事だ」


 ライの懸念はそこだった。

 エラトマの力。それは純粋な腕力のみならず、超上級の魔術に魔法・魔術などのような異能の効かない特性。その他にも様々な力があるが為に、その力を少しでも使えるという事が最も危険な事だった。


【まあ、なるようになるだろ。さっき言った通り、俺の力全てが取り込まれた訳じゃねェんだ。それなら強化されたっっても大した事はねェよ】


「まあそうだろうけどさ。お前の力で俺みたいに本来? の力とかが目覚める可能性もあるかもしれないだろ?」


【クク……そん時もそん時だ】


 懸念に対し、全く問題が無いと告げるエラトマ。元々自分の方が遥かに上の実力を誇っている。そしてその力を取り込まれても軽くいなせたので然程さほど危険視はしていなかった。

 一応警戒はしているが、内心では侮っていると見て間違いないだろう。


【それで、お前たちの方はどうなんだ? ルシファーとの対談は成功したのか?】


 城で起こった事を言い、次いでバアルたちにどうだったのかを訊ねる。別に成功してもしなくても構わないという雰囲気だが、気には掛けていた。

 そんなエラトマに対し、バアルが答える。


「ああ。自由気ままなアイツがどう動き出すかは我でも分からないが、一応は協力してくれるらしい。少なくとも、名を借りる以上我らに敵意が無ければルシファーの拠点に入っても良いだろう」


【ハッハ、そうか。拠点が一つ増えたとなりゃ、それなりに事を優位に運べるかも知れねェ。あー後、やっぱお前の部下の能力も取り込んでやがったぜ。アイツ】


「……ッ!」


 バアルの返答に笑って返し、部下の悪魔たちから力を奪っていたと告げるエラトマ。隠しても意味がない。逆に教えた方が良いと判断して流れるように告げたのだ。

 それを聞いたバアルは一瞬眉を顰めるが大凡おおよその予想通りであるが為に直ぐに平常心に返る。


「……。そうか、分かった。となると……やはり何とかして取り込まれた者たちを放出させる方法を知らなくてはならないな。アマイモンと協力しているのもアスモデウスの事があるから……まだまだやるべき事は多いな」


「ああ、そうみたいだな。他の悪魔とは協定を結ぶのか?」


「それはまだ分からない。だが、此処に来たのが数時間前となれば相手も何らかの行動に移っている事だろう。此方こちらとしても急がなくては」


 やるべき事は山積み。協力理由である悪魔たちの救出も考え、一旦この場は解散となる。

 現在の時刻は体感で正午を過ぎで二、三時間程。まだまだ体力面も余裕があるライとテュポーン、エラトマにバアルを始めとした味方の悪魔たち。ルシファーとは形だけでも協定を結べた。そして敵はエラトマの力を少し手に入れた。今日やるべき事は敵の警戒とアマイモンへの報告くらいだが、それをするだけでも日は落ちてしまうだろう。地獄に日は無いが。

 ともあれ、ライとバアル。エラトマとテュポーン。味方の悪魔。その他諸々の者たちが数時間後、三日目の行動を終わらせるのだった。

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