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六百五十二話 今後の動き

 ──"地獄・ルシファーの黄金城"。


「話し合い……? へえ……。フルーレティ共々、"また"私の元で働いてくれるという事かい?」


「誰が。……だが、近い意味ではある。かつてのようにではなく、今回は悪魔で対等だ」


「悪魔で対等……か。フフ……言うようになったじゃないか。けどまあ、確かに今の地位ならそれもそうかもしれない。大罪の悪魔で地獄の支配者の一人……肩書きだけなら私と同等だ」


 張り詰めた空気の中、軽薄な態度で淡々と話すルシファーに強気な態度を見せるバアル。この二人にどんな縁。もしくは因縁があるのか分からないが、中々に気難しそうなものである。

 ライたちとアガリアレプト達はそんな二人の様子を見ており、そんなライたちに気付いたルシファーの興味が移る。


「君は……誰だ? 何となく感じた事がある気配だけど……見た事は無い……。記憶力は良い方なんだけどな」


「……! なんだって……?」


 それは、ライの気配を何となく知っているという事。しかしライを見た事がないとなれば、考えられる線は圧倒的に絞られる。

 そして、少なくなった可能性の一つをライは口走った。


「……もしかして、俺の先祖……もしくは祖母や俺の知らない両親に会った事があるんじゃないか?」


「……成る程。確かにそうかも……君のように特異な気配……一度見たら忘れる訳が無いからね」


 それは、ルシファーがライの血縁者の誰かに会った事があるのではないかという事。

 此処は地獄。ライの血縁者が悪行を働いていたのならば地獄に送られていてもおかしくない。それに加え、ルシファーは堕天使。つまり天国や天界に居た事もある。なのでライの関係者の誰に会っていてもおかしな話では無いのだ。


「ほう? 少年の血縁者か。となるとエラトマの部下だった者か……まあ、エラトマとは関係無いかもしれぬがな。しかし、興味深い……」


「君は? 人間や魔族に近い見た目をしているけど人間や魔族ではないね。魔力は高いし魔物かな。とてつもない実力者というのは分かる……本来の姿になってくれれば分かるかも」


「フッ、余を知らぬか。いや、確かに仮初かりそめではなく本来の姿なら分かるかもしれぬな。だが、知らぬならそれも良い。余はそんな事を気にせぬ」


 テュポーンの性格からして全く気にしないという事は無さそうだが、知られていなかった事を根に持っていないのは確かなようだ。その証拠に未だ穏やかな状態であるテュポーン。

 留守番では無く本陣に行けたので機嫌は良いという事だろう。要はテュポーン自身が楽しめればそれで良いという事だ。


「……。さて、話が逸れたね。けど、静聴してくれてありがとう。バアル。お礼に話くらいなら聞いてあげるよ」


「そうか。それは助かる。お前の性格上、お前から動き出すまで待つのが良いのは分かっているからな」


「フフ……流石だね。私の扱いは理解しているようだ。優秀な部下だったからね、それも当然か」


「……」


「……!?」


 バアルがルシファーの部下だった。それを聞いたライは思わず声が出そうになるが、バアルが無言で返しているのと他の者達の様子から余計な事を口走らないようにグッとこらえる。先程も"また"私の元で働いてくれると言っていたが、まさか部下という立ち位置だったとは予想外だったのだろう。

 それはて置き、ルシファーがライとテュポーンに興味が引かれている時バアルがずっと静聴していたのは今回の話を楽に進める為だったらしく、その事についてルシファーが先を促す。


「さて、どうぞ。バアル。説明を続けてくれ。あと、他の者達も楽にしていて良いよ。重い雰囲気は余り好かない。あ、私の部下たちは下がっても良いよ。危害を加えるつもりは本当に無さそうだからね」


「「「はっ!」」」


 ルシファーの部下達が主の言葉を聞いて下がり、ライ、テュポーン、フルーレティの前には三つの椅子が現れた。いずれも金や銀。宝石類で装飾が施されている派手で高級そうな椅子であり、促された通りライたちは腰掛ける。

 その横で、同じく椅子に座ったバアルがルシファーへ向けての説明を続ける。


「……もう知っているかもしれないが、今回の我らが此処に来た理由はお前と協定を結ぶ為だ。地獄では今少々厄介な事が起こっている。そして、我々はその犯人を追っている。責任があるからな」


「フム……責任……ね。君達が逃がしちゃったってところかな?」


「ああ。此処に居る者の他に、少年の知り合いである者。そして大罪の悪魔、アスモデウスを従えていたアマイモンが協力関係にある。戦力ならば申し分は無く、お前が加わる事で無欠となるだろう。当然今回だけの協定となり、今行われている地獄での派遣争いには関係無い」


「ふうん?」


 現状と協力の理由。今回の事件に地獄での派遣を掛けた争いは関与していない。バアルはルシファーに隠し事をせずそれらの事を伝えた。

 この件はルシファーにしてもメリットが無い訳ではない。バアル軍やアマイモン達の戦力を詳しく知る事が出来、恩を売る事も出来るからだ。しかし逆に自軍の状況を知らせる事にも繋がり兼ねないので、今回の協定が難しいと言えばその通りかもしれない。


「まあ、大体分かったよ。何がどういう理由でこうなったのかもね。成る程、となると今回地獄を騒がせている一部の者達を討ち滅ぼすまで、私とバアル達が戦う事はしない……という事か。悪くないが……イマイチやる気に欠けるな」


「やる気か……なら、やる気を引き出す切っ掛けがあれば良いという事……それもそれで難しいな」


 協力するのも悪くないと言うルシファーだが、気紛きまぐれな性格なのか今はやる気もそんなに無いらしい。というよりも本当に気紛れなのだろう。

 なので、ルシファーにやる気さえ出させる事が出来れば協定は結ばれる。それをどうするか、それが悩みどころだった。


「フフ……そこまで深刻になる事はない。その者達が気になって戦争を続行するのも難しいなら、協力してやっても良い。暇潰しくらいにはなりそうだ。君は昔、よく働いてくれたからね。この程度ならお安いご用だ」


 悩むバアルを揶揄からかうように笑いながら見、ゆっくりと歩み寄ってバアルの顎を上げるルシファー。昔の縁もあり、協力する事には別に反対では無いようだ。

 元々やる気が出ないだけで断るとは言っていない。戦争が一時的に中断されると暇なので、その暇潰し程度の感覚で協力してくれるらしい。


「そうか、すまない。それなら助かる。名を借りるだけでも大きな影響は及ぶだろう。その気になった時改めて共に戦場に立ちたい者だ」


 だが、やる気はどうあれ協力してくれるならば有り難い。バアルは立ち上がり、ルシファーの目を見て礼を述べる。

 天使という事もあり、優しい面は持ち合わせているルシファー。上からあれこれ命令されるので無ければ反逆もしないという事だろう。


「フッ……なぁに、ただの暇潰しさ。共に戦場へ立つ日も来るかもしれないが……それは今日か明日かその先か……。いずれにせよ、共に戦う日と敵対して戦う日は近いだろう。その時が何時になるか、それを気長に待つとしよう。早いうちと予想出来るけどね」


 それだけ言い、ルシファーは天蓋てんがい付きのベッドに戻っていった。

 その瞬間に黄金の扉が開き、ライたちを帰す為に部下の悪魔が姿を現す。今回の話し合いでライとテュポーン、フルーレティは大きく関わらなかったが、どうやらバアルだけの言葉で決まる程に温厚な性格らしい。実際はプライドも高いのだろうが、悪魔でライたちは自分よりも下という位置で見ていたからか特に問題は起こらなかったのだろう。


「さて、帰るとするか。口約束だけというのは少々不安だが……何かがあればその時に考えるとしよう」


 気儘な性格のルシファー。次会った時今回の件を無しにされていてもおかしくない存在。それも考慮した上で、バアルは帰路に着く。

 ライ、テュポーン、バアル、フルーレティの四人でおもむいた大罪の悪魔、堕天使ルシファーの拠点での事は終わりを迎える。まだまだ不安要素だらけだが、特に気にせず自分たちの拠点へと戻るのだった。



*****



 ──"地獄・モートの拠点"。


 ライたちより一足早くに自分たちの拠点へと辿り着いたモートとレクスは、兵士達に迎えられて城の中へと入っていく。どうやら位の高い悪魔や神となると城を所持しているのが普通らしく、この地獄には城が複数あるらしい。

 そんな城の中にて揃った二人の犯人は、今後についての話し合いをおこなっていた。


「それで、何処か攻め落とすんだ? 色々な悪魔の力は取り込めるが、名のある悪魔となると兎にも角にも強ぇのなんの。正直、ライ達(あんな奴等)にこっぴどくやられた俺たちに勝ち目は薄いぜ?」


「ほう? 珍しいな、お前がみずから敗北を認めるとは。力の差を理解したという事か」


「……っ。違えよ! ああ間違えた間違えた。お前に勝ち目は無いって事だ! で、どうすんだよ!?」


 何処に攻めるかを訊ねるレクスと揚げ足を取り、そんなレクスを揶揄からかうモート。好き放題言われているので少し仕返しをしたようだ。

 だが、今の自分達が残った悪魔やライたちに勝てないのは事実。それについて話し合う。


「そうだな……。レクス。お主、エラトマを知っているか?」


「エラトマ? ああ、あのガキの近くに居た馬鹿強え奴か。見たから知ってるが……何だよ?」


 ふと、エラトマ。魔王(元)についての事を訊ねるモート。レクスはその本人を見ており、名前もライが言っていたのを聞いているので知っていた。

 その返答に対し、モートは言葉を続ける。


「そのエラトマというのは、本名ヴェリテ・エラトマ。かつて……現世での数千年前に世界を支配していた魔王と呼ばれる存在だった者だ」


「数千年前……? まあ、寿命の長い生物なら確かにそれくらい生きていてもおかしくは──」


「そして既に、とある英雄によって討ち滅ぼされている存在だ」


「……!?」


 続け様に放った言葉に、レクスは驚愕の表情を浮かべてモートを見やる。

 現世に置いても、長寿の種族や不老不死の種族ならば何千年生きてもおかしくはない。だが、既に滅ぼされたという者が封印もされずに自由に動いているという事に驚愕したのだ。


「そして……一瞬だったがそのエラトマを間近で見た結果、やはり奴は肉体も無く、魂だけの存在という事が分かった」


「魂だけの存在……地獄なら別に普通だが……現世でんな存在がいんのかよ……」


「ああ。その事から結論付けられる事は一つ……お前ならばエラトマの力を取り込む事も可能だ……!」


「……!?」


 エラトマという、現世から来た者にして既に魂だけだった存在。ならばとモートは、その力をレクスならば取り込めると告げた。

 先程から開いた口が塞がらない状態のレクスは未だに口を開き目を見開いており、頭を横に振ってモートへ畳み掛けるように告げた。


「待て、待て待て。一旦落ち着かせろ。つまりあれか? アイツから力を奪えるが……その為にゃ戦わなくちゃならねえ! 俺に戦えと?」


「どうした? 怖いのか?」


「いや、んな訳は絶対無い。だが、俺にも心の準備ってもんをだな……!」


 モートの言い方を要約するとエラトマと戦い、勝利して力を奪えとの事。エラトマを警戒していたので幾らレクスと言っても意図を理解したらしく、気が進まない様子でモートに抗議をしていた。

 そんなレクスを宥めつつ、モートは更に続けて話す。


「案ずるな。お前にはバティンから奪った瞬間移動がある。バアルの城に一瞬だけ乗り込み、他の者達に気付かれるよりも前に、一瞬だけエラトマに触れれば全てでは無いにせよ力を奪える筈だ。それならば態々(わざわざ)危険を冒す必要もない。万事解決……そうだろう?」


「……!」


 モートの案。それは直接戦うよりも危険が少なく、力を奪える可能性がグッと高まるものだった。いずれは戦う事になるとしても、力を高めるには持ってこいである。

 それには抗議していたレクスも言葉が止まり、二度三度とモートの方に視線を向ける。


「まあ、お前がどうしても怖いというのならこの案は……」


「……ッ! 怖くねえよ! 怖がる訳ねえだろ!? 良いぜ……ならやってやるよ……! アイツらに吠え面かかせてやらぁ!!」


 レクスの性格を完全に理解したモートの策により、レクスはやる気を出して燃え上がる。元々向上心は高いのか、プライドが高いのかは分からないが実行する気はあった。恐らく後者。プライドが高過ぎるのだろう。

 これにて、先ず次にどう動くかの話し合いを終えるモートとレクス。標的はヴェリテ・エラトマ。かつての魔王のようだ。

 ライたちがルシファーとの話し合いを終えて十数万キロの距離を進む中、モートとレクスも行動に移った。

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