六十四話 キュリテvsチエーニ・決着
空から降ってくる隕石を眺めながら、ゼッルは言う。
「オイオイ……この街……いや、この国ごと破壊する気か……?」
その言葉を聞き、ライは訝しげな表情でゼッルに尋ねる。
「……? ……何だ? お前の仲間が隕石を降らせたのか?」
それは、ゼッルの言葉からゼッルの知り合いが隕石を起こしたという事を読み取ったからである。
ゼッルはライの方を一瞥し、再び空を見上げて言う。
「……ああそうだ。……まあ、それ以外考えられねえがな。……ほら、よく見れば隕石を紋様のような物が覆っているだろ? あれがあるって事は魔術や魔法で召喚させられた……ってのが普通の考えだ」
ゼッルは苦笑を浮かべ、呆れているような表情だった。
それを聞いたライは納得したように頷く。
「へえ……。隕石を召喚ねえ……? 確かに幹部の側近ならそのレベルが居てもおかしくは無い……か」
ライの疑問が晴れたところでライはゼッルの方を見て言葉を続ける。
「じゃ、早速続きをやろうか?」
「……オイオイ、あの隕石は良いのかよ?」
ゼッルは、そんなライの行動に疑問を感じた。
あの隕石は放っておいた場合、莫大な被害を引き起こすだろう。
その隕石を無視し、自分の戦いを優先したライの行動にゼッルは疑問を感じたのだ。
ライは軽薄な笑みを浮かべてその疑問へ返す。
「ハハ。……まあ確かに、此処が戦いの場じゃなければあの隕石を優先したさ。……けど、アンタの仲間があの隕石を引き起こしたなら、そこに俺の仲間も居るって事だろ? ……なら心配はいらねえじゃん。レイにせよフォンセにせよ、リヤンにせよキュリテにせよ、あの隕石『程度』なら簡単に防ぐだろうよ。……まあ、リヤンは少し不安だけどな」
「……ほう? お前は仲間って奴を信頼しているんだな。それは良いことだと思うぜ? じゃあ、言葉通り続きを始めるとすっかァ? ライ・セイブル……!!」
ゼッルはライの考えに思わず笑みを溢しそうになるが、何とかそれを堪えてライの意見に賛成する。
ゼッルの言葉を聞いたライは軽薄な笑みを消さずに言葉を発する。
「そうこなくちゃな。ゼッルさんよ?」
一つの隕石が降って来る街中、ライとゼッルはお互いに構え、戦闘を再開するのだった。
*****
そして、此方も隕石を確認したリヤン、フェンリル、ユニコーン、ブラックドッグとジュヌード、イフリート、タキシム。
「ククク……滅茶苦茶しやがるぜ……。まあ、これはこれで面白ェけどな……」
ジュヌードは隕石を眺め、楽しそうに笑う。
リヤンは呆然として隕石を見ていた。
しかし、隕石に気を取られているジュヌードを狙うなら今が絶好のチャンスである。
リヤンは腹を括り、フェンリル、ユニコーン、ブラックドッグの方を一瞥して視線で合図を送る。
『『『…………!!』』』
そして三匹は吠えずに了承し、一斉にジュヌード、イフリート、タキシム目掛けて駆け寄る。
「ケッ、ブラックドッグは完全にそっち側に移ったみてェだな……イラつくぜ……折角手に入れた幻獣を横取りされるのはな……!」
ジュヌードは視線をやり、イフリートとタキシムに指示をする。
確かに隙はあったが、どうやら完全に隙だらけという訳でも無かったらしい。
イフリートとタキシムは指示に従い、リヤン、フェンリル、ユニコーン、ブラックドッグへ襲い掛かる。
『ワオォォォンンンッ!!』
フェンリルは口から炎を吐いてイフリートとタキシムを狙う。
『グオオオォォォォォ!!』
しかし、身体が炎で創られているイフリートは炎を無効化し、自分の持つ炎魔術をフェンリルに放った。
『ウオオオォォォンンン!!』
フェンリルは身体に炎を纏い、イフリートの炎魔術を自らの炎で打ち消す。
「チッ! ガキでも厄介だなフェンリルっつー猛犬は……!!」
それを見たジュヌードは自分から飛び出した。
そう、ジュヌードは自分でも割りと戦闘を行えるのだ。
ただ面倒臭い為、操った動物を使っているという事なのである。
「使えねェ雑魚共!! もっと力振り絞れやァ!!」
イフリートとタキシムを自分の近くに寄せて活を入れ、戦闘に乗り出すジュヌード。
リヤンはフェンリルに跨り、リヤンなりの戦闘体勢に入る。
「フェン……! ユニ……! ハウンド……! 行くよ……!!」
三匹に指示をするリヤン。
フェンリルとブラックドッグは高らかに吠え、ユニコーンは低く唸る。
目映く空を照らす光を無視し、この場に居る全員が構えてこの勝負はまだ続くのだった。
*****
快晴の青空を眺め、ボーッとしながらフォンセとスキアーは会話をしていた。
「……隕石か……。……そうだな……あれを見る限り、恐らくキュリテかキュリテと戦っていた幹部の側近……そうそう、チエーニとかいう者が引き起こしたのか……? ライやリヤンは隕石を落とすのは無理だろうからな。キュリテが彼方へ逃走し、その後を岩に乗ったチエーニが追っていたしな」
「……だろうな。……まあ、チエーニが落としたんだろう。岩を操るアイツにとっては鉱物から創られている隕石も似たような物だろ」
冷静に隕石を眺め続け、誰が放った物かを考えるフォンセとスキアー。
そして、フォンセが一言。
「……"土の拳"!」
「うぐはァ!!?」
スキアーの不意を突き、近くに立っていたスキアー目掛けて土で創られた拳をぶつけるフォンセ。
完全に不意を突かれたスキアーは困惑の声を上げ、建物を数戸砕きながら吹き飛んだ。
「"炎"!」
そして追撃をするよう、フォンセは建物の瓦礫に火を放つ。
その魔術で生み出された紅蓮の炎は建物を焼き尽くし、大火事を巻き起こした。
「ふ・ざ・け・る・なァ!!!」
そして、その残骸からスキアーは這い出て銃を乱射する。
「油断していた奴が悪い。……"土壁"!」
フォンセは土で壁を創り、スキアーが放った銃弾を全て防いだ。
スキアーは苛立ちを隠せずにフォンセへ向けて怒鳴る。
「テメェこのクソアマァ!! 確かに油断していたが、不意討ちは汚ェだろさっきからよォ!!」
弾が全て無くなったのか、スキアーは持っていた銃を捨てる。
そして剣を取り出し、大地を蹴ってフォンセの元へ向かうスキアー。
フォンセはフッと笑って挑発するように言葉を続ける。
「ふふ……自覚があるならそれで良いだろ……? 完全に油断し、隙を生み出したお前が悪いんだからな」
不意討ちした事を認め、それでも尚悪びれる様子を見せないフォンセ。
その態度がスキアーを更にイラつかせる。
「テメェ……。確かにそれは否定しねェ……否定出来ねェが……言い方ってもんがあんだろ?」
見事に挑発に乗るスキアー。
スキアーは挑発に乗りにくく、中々乗らなかったがようやくフォンセペースにする事が出来た。
「フッ……なら、どうする?」
フォンセが不敵な笑みを浮かべてスキアーへ尋ねる。
そんな余裕のある表情をしたフォンセを前に、スキアーはクッと喉を鳴らして応える。
「決まってんだろ?」
──次の刹那、近くの建物が……『切断された』。
「……ほう?」
ハラハラと髪の毛が少し切れて落ち、髪が揺れたフォンセは横目で切断された建物を一瞥する。
「……どうやったんだ? ただの剣で建物が切断できるか……?」
レイの剣ならばまだしも、スキアーが使う剣は対魔族に特化した物。
幾らスキアーの力が強くとも、巨大建造物を切断できるとは限らないだろう。
スキアーはクッと笑ってフォンセに返す。
「ああ……まあ、そんな事もあるって事だよ。斬撃の範囲が広いのは武器を中心に使うやつでそれなりの実力者なら大抵出来るだろ?」
その瞬間、スキアーは懐に手を忍ばせ、隠し持っていたていた新たな銃を取り出してフォンセに放つ。
「そうか」
そして、フォンセは一言だけ言い、その銃弾を横に避けた。
「チッ、不意討ちで返そうとしたが……まあ避けるか。当然だな」
懐から銃を取り出したスキアーは銃をクルクルと回し、苦笑を浮かべる。
「まあ、当たり前だな。懐からの不意討ちは想定内だ。お前は、『精々その程度の攻撃』しか出来ないからな?」
「……あ?」
ピクリと眉を動かして反応するスキアーは、高らかに笑い声を上げてフォンセに返す。
「そうか! よーく分かったぜ! どうやらテメェは挑発が好きらしい……なら、それに乗ってやろうじゃねェか!!」
フォンセの挑発に完全に乗ったスキアーは何処から取り出したのか、両手に銃と剣を構えてフォンセに放つ。
「ふふ……ようやく私の挑発に乗ってくれるのか……お前は達観していて扱いにくいタイプだったからな……さあ、此処からが勝負どころだ……!」
武器を構えるスキアーに対し、魔術を纏うフォンセ。
巨大隕石が降る中、こちらの戦闘も終わりに向かうのだった。
*****
ゴゴゴゴゴと、大地が大きく揺れ続ける。
脆い地面は浮き上がり、隕石に吸い込まれて消えた。
「さあ……これを防げるかしら? 避けないという約束よね? まあもっとも……避けても避けなくてもこの隕石じゃこの街から抜け出さない限り何処にいても食らっちゃうわよねえ♪」
余裕の表情を見せるチエーニ。
この隕石を食らってしまえば自身にもダメージがいくのだが、そんな事よりも努力せずに全能とも謂える超能力を持っているキュリテを倒せれば良いらしい。
「貴女……。自分も……!」
キュリテがその事を懸念し、チエーニに尋ねる。そう、隕石という物は落ちたら最後、大きさにもよるがその半径数キロを消し飛ばす程の威力を秘めている。
幾らチエーニと言えど、一堪りもないだろう。
そんなチエーニはフッと笑ってキュリテに返す。
「そうよ? けど、それがどうしたの? この技を使った時点でこうなる事は予想していたわ。その程度の事を心得ていないで私が出せる最大魔術を使う訳無いじゃない?」
チエーニは既に自滅の可能性を覚悟しているらしい。
それを聞いたキュリテは顔を俯かせ、フウ……とため息を溢す。
「そう……」
そして、俯かせた顔を上げてチエーニへ力強く言う。
「……なら、私があの隕石を止める……! そして貴女にも勝つよ!」
シュン、と"テレポート"で消えるキュリテ。
チエーニは降り注ぐ隕石を眺め、笑って呟くように言った。
「……出来ると思うの?」
*****
──"イルム・アスリー"、隕石の前。
"テレポート"で移動したキュリテは隕石の前……というより数百キロほど離れた場所にいた。
地上から隕石までの距離は大体五〇〇キロ。そこから"テレポート"で移動したキュリテは二〇〇キロ程の場所に居るのだ。
隕石が落ちてくる速度は秒速十五キロ程で、二分も経たずにキュリテの側を通るという事になる。
遠方から見ても大きい隕石だが、この距離まで来ると更に迫力がある。
「大きい……けど、壊せない大きさじゃない……!」
そして、キュリテは隕石に向けて手を突き出し……。
「はあっ!」
……試しにサイコキネシスを繰り出した。
因みに、キュリテの超能力は自分が見えている範囲が射程距離である。
しかし、隕石はそれを受けても尚落ちてくる。
与える事の出来たダメージと言えば、精々少し削れた程度だ。
「……ッ。……やっぱり頑丈ね……」
キュリテはその隕石の頑丈さに思わず苦笑が漏れる。
「どうやら直接攻撃は無意味ね……」
あと数分で隕石は"イルム・アスリー"に落ちてくるだろう。
その場合はライやその他の者が何とかするかもしれないが、今は自分が何とかする番である。
キュリテは隕石を破壊する方法を考える。
「……よし。こうしよう」
……そして、割かし直ぐに思い付いた。
「表面が駄目なら内部から破壊すれば良いんだね……」
キュリテが思い付いた作戦とは、"サイコキネシス"などで表面にダメージを与えるのでは無く、"アポート"などで隕石の内部に何かを詰め、そのまま砕く……という作戦だ。その大きさ故に砕けないのなら、一度砕いてから小さくして砕けば良いということである。
「じゃ……早速……何が良いかな……」
一旦下を見て何か手頃な物が無いかを探す。
しかし、"イルム・アスリー"の建物では少々小さい。
なのでキュリテは、
「あれしかないか……」
空を見上げ、今降っている隕石の『向こう側』を見る。
「隕石には……隕石を……ってね?」
そして、"テレポート"を使って更に宇宙まで移動したのだった。
*****
──"イルム・アスリー"の宇宙。
空気が無くなり、紫外線が飛び交う宇宙。
キュリテは念力のバリアを張り、空気を確保しつつ紫外線から自分の身を守っていた。
「やっぱり凄いねー……宇宙は……。このバリアも何時まで持つか分からないけど……早く見つけなきゃね……」
そして、隕石捜索に乗り出したキュリテだった。
──が、
「……あ、あった」
探す間も無く隕石を見つけたのだった。
その大きさは約五キロ程で、進む速度は第一宇宙速度くらい。
チエーニが創り出した隕石よりは遅く、これ程の大きさがあれば"アポート"で内部に入れたとき確かな力を発するだろう。
「じゃ、早速持って行きますか……!」
その隕石に向けて"テレポート"で移動し、"イルム・アスリー"まで運ぼうとするキュリテだった。
*****
「……遅いわね……死んじゃったかしら?」
一方の地上に居るチエーニは、降り注ぐ隕石を眺めながら呟くように言った。
キュリテが向かってから三分は経っている為、あとほんの少しでこの街が消滅するだろう。
「生きてるわよ?」
「……!!」
そして、そんな事を考えていたチエーニの背後にキュリテが立つ。
チエーニは振り向き、キュリテに言う。
「……ッ。……隕石は? まだ降ってきているけど……?」
そう、まだ隕石が降り注いでいるのだ。チエーニはそんな隕石を見ながらキュリテに話していた。
キュリテはチエーニへ向け、笑って返す。
「そうね……。今かな?」
「……?」
──その瞬間……隕石が……『砕け散った』。
「……なっ!?」
そして、轟音を立てながら砕けた隕石の様子が見える。
キュリテが来た瞬間、本当に一瞬、瞬く間に隕石は粉々に砕け散ったのだ。
「……一体何を……!?」
驚愕の表情を見せてキュリテに尋ねるチエーニ。
キュリテは隕石の破片を砕き、笑いながら説明する。
「アハハ、何をも何も……約束通り隕石を破壊したんじゃない。……『私の超能力で持ってきた隕石』によってね?」
「……!!」
──キュリテが言った、『私の超能力で持ってきた隕石』。という言葉。つまり、"私の超能力で破壊した"という事。
少々無理がある事だが、キュリテの超能力がなかったら隕石も砕けなかったという事で、チエーニは眉を顰める。
「……そう……」
そしてチエーニは小さく肩を竦ませ、
「なら、今倒せば問題ないわね!」
両手を突き出して再び岩をキュリテに向けて放つ。
それと同時に地面からも岩が生え、キュリテに向かって突き進む。
それを確認したキュリテは……。
「そうだね……。まあ、──『私を倒せたら』だけどね……?」
その岩をサイコキネシスで砕き、チエーニの後ろに"テレポート"で移動する。
「……ッ!」
チエーニは直ぐに後ろを振り向くが、チエーニの眼前にはキュリテの掌が近付いていた。
(貴女の気を失わせるか、貴女を外に出せば私の勝ち……"テレポート"で外に送り出すのが一番楽だけれども、生憎透明な壁は魔法・魔術・超能力etc.を通さない……だから、貴女の気を失わせるよ♪)
キュリテは、話す訳ではなく、"テレパシー"で言いたい事を伝える。
いちいち話していたのでは、直ぐにチエーニが離れるからだ。
「────ッ!」
チエーニは何かを言おうとしていたが、相手に隙を与えてしまうと相手を倒せない。
なので……。
「ゴメンね? 痛くしないから、少し眠ってて♪」
……キュリテはチエーニの話を聞かずに笑いながら一言だけ言い、チエーニの頭に手を当てる。
「お休み♪」
「………………!」
そして"サイコキネシス"でチエーニの脳に刺激を与え、チエーニの意識を消し飛ばした。
「今回は私の勝ちだね。チエーニちゃん」
こうして隕石の件は解決し、キュリテvsチエーニの対決はキュリテに軍配が上がったのだった。