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六百五十一話 堕天使の拠点

「……。なんだ、ここ……?」


 暫く進み五万キロ程の場所に来たライは、辺りを見渡してその景色を目の当たりにし、驚きの表情を浮かべていた。

 横に居るテュポーンは気にしておらず、フルーレティも見慣れた雰囲気と気にしていないが、この地獄に置いても余りにも異常な光景が広がっていたのだ。

 そんなライの疑問に対し、移動を止めずにバアルは返す。


「ルシファーの拠点に近付いてきたという事だな」


「いや、でもこれって……地獄というより天国に近い環境じゃないか……」


 ──そう、地獄にしては異常な光景。異常な程に美しい光景が広がっていたのだ。

 足元には様々な花や深緑の野原が広がっており、見た事も無い程に鮮やかな蝶が空を舞う。その空は地獄にも拘わらず地平線の彼方にまで続く快晴の青空。

 小さな川がサラサラと流れており、その奥には大瀑布からなる大滝が青く光る巨大な湖と河を作り出していた。植物などによって水の勢いが殺され、数キロ離れたライたちの場所では小川となっているのだろう。

 その様な光景がこの先数キロ。数十、数百キロは続いており、後方に映る赤と漆黒の彩色が織り成す地獄ですら美しく見えてしまう。


「……。てか、本当に何でだ? 地獄の環境じゃ植物は育たないし、これ程の景色は作り出せない筈……。まあ、植物も生き物だから生前に何かの悪事を働いた植物が来ていてもおかしくないけど……」


 暫く周りの景色に見惚れ、ハッとしたライは新たな疑問を浮かべる。

 地獄には清らかな水も日光も澄んだ空気も無い。なのにこれ程の景色を作り出す自然が広がっているのはおかしな話だった。植物の有無は生き物が落ちる地獄ならおかしくないが、やはり少々違和感があった。


「それは我も分からないな。まあ、天使であって神に次ぐ地位を持っていたルシファー。地獄に消えぬ自然を持ってくるのは容易な作業だったのだろう。その気になれば星一つも作り出せるだろうからな」


「……。やっぱ規格外だな。現世にしても地獄にしても、その上位に入る実力者は俺の次元を遥かに超えているや……」


 本当に地獄へこの景色の世界を移転させたのなら、その力はとてつもないもの。それを改めて実感するライ。元々大罪の悪魔達は地獄でも頭一つ抜けた存在だが、バアル。つまりベルゼブブを始めとした一部の悪魔はそこから更なる実力が飛び抜けている。

 エラトマの力を使う事でその様な存在達と渡り合ってきたライだが、本人の実力は恐らくフルーレティと同等くらい。なので少し不安そうな面持ちだった。


「フフ……これくらいやって貰わなくてはつまらぬからな。創造その物を司り宇宙すらをも創るシヴァの創造には遠く及ばぬが、中々じゃのう」


「ハハ。やっぱエラトマとテュポーンは根本的に似ているんだな……」


 不安ではあるが、此方にはバアルとテュポーンが居る。エラトマと共に居た時もライ自身は対して戦闘をしていなかったので、今回も大丈夫そうだ。

 そこから更に進むと、周りの雰囲気が変わってきた。美しい光景は変わらないままだが、少しばかり人工的な建物が増えてきたのだ。


「……。建物も出てきたな。ルシファー配下の悪魔は此処で暮らしているのか」


「ああ。先程の場所に入った時から既に我らの存在はバレているだろう。気を引き締め直してくれ」


 周りにあるのは大理石をふんだんに使った白亜の建物や神殿。住居。花々や草木は減ったが、その分そう言った物が増えていた。

 そしてバアル曰く、ルシファーには既に気付かれているとの事。それならば速度を早めても良さそうだが、居住区を破壊したら宣戦布告となってしまうかもしれないので逆に第三宇宙速度よりも遅め、周りを破壊しないよう慎重に進む。

 そこから少し進むと、ルシファーの拠点が何処なのか理解する事となった。


「成る程な。あからさまに自分の拠点って言ってるみたいだ。まさか、黄金の建物なんてな……」


 そこにあったのは黄金の城。黄金の建物が"世界樹ユグドラシル"にあったとシヴァたちから話は聞いていたが、まさか地獄でそんな建物を目にするとは思わなかったのだろう。

 この城も塔のような形をしており、何階まであるのか分からない程に巨大。それが全て黄金で出来ているのだから美しい景色とは違った壮観さがあった。


「しかし、傲慢ってよりはただ派手なだけな気もするけど……」


「城や土地は権力の象徴だからな。自然と派手になるものだ」


「へえ……」


 そんな城を見、傲慢とは少し違うのではないかと考えたライだが、この様な所有物は力を誇示するには丁度良いもの。なので別に関係性が無いという訳ではないらしい。

 それを聞いたライは納得し、改めて黄金の城を眺める。太陽か何かの光が反射してその輝きは増しており、そんな光の中から無数の黒い集団が現れた。


「……! 部下の悪魔達か……!」


「御出座しのようだな。警戒はしても戦闘はしないつもりだ。俺の指示に従ってくれ……!」


「はっ!」

「ああ、分かった……!」

「チッ、つまらんのう」


 恐らくそれはルシファーの悪魔軍。だが今回の目的は戦争ではないのでバアルはライたちを制止させる。

 物分かりの良いライとフルーレティはそれに頷いて返すが、テュポーンは少し機嫌が悪そうだ。だが場はわきまえているのか、ちゃんと言う事を聞いていた。

 それから少し経ち、ライたちはやって来た悪魔達に囲まれる。全員が武器類を持っており、ライたちを警戒している状態であった。


「お前達。何の用だ。此処を七つの大罪、傲慢を司る元・大天使ルシファー様の拠点と知っての事か!」


「ああ。当然理解している。我らはルシファーに会いに来た」


「……! バアル・ゼブル……! 暴食を司る悪魔ベルゼブブ殿か……!」


 先端が三つに分かれた槍を突き付けられつつも、変わらぬ態度で返すバアル。訊ねた悪魔はバアルの姿を見て一歩下がり、更なる警戒を高めて畳み掛けた。


「何故ルシファー様に会いに来た! その理由を率直に述べよ!」


「我らは協定を結びに来た。今回、この地獄にて我らの争いとは別の問題が起きてな。それを解決するには我らだけでは少々骨が折れる。故に、縁あるルシファーに力を貸して貰うつもりだ。少なくとも敵では無いと理解して頂こう」


 理由を訊ねる悪魔とそれに返すバアル。敵では無い。協力したいという事を言い切った。

 それにやって来た悪魔達は黙り込み、その後辺りはざわついた。どうやらどうするかを自分達で話し合っているようだ。

 敵ではないと明言しているが為に行動し難いのだろう。なのでバアルが続け様に言葉を発した。


「何をすれば良いか分からないのならば、爵位の高い悪魔を出して貰おう。ルシファーを出せとは言わないが、前述したように我はルシファーと縁がある。高位の悪魔ならば顔見知りも多い!」


 それは対等に話し合いを行える悪魔の要求。地獄の三支配者の一人であるバアル・ゼブル。ベルゼブブ。もしくはベルゼビュート。つまりバアルは此処に居る悪魔達からすれば強大な存在である。なので自分と対等の目線で話し合えない者が多いと言うのも理解しているのだ。

 だからこそ位の高い悪魔を呼び、事情を詳しく話そうと言う事。それに他の悪魔達は賛成し兼ねる様子だったが、一人の悪魔が名乗り出た。


「なら、私が話しを聞くとしよう。謎や考えならば本心を理解出来る。ベルゼブブ様とも知り合いだ」


「"アガリアレプト"か。確かにお前なら話せる」



 ──"アガリアレプト"とは、ルシファーに仕える悪魔にしてベルゼブブ配下の悪魔達の首領だった悪魔だ。


 水を支配する力と謎や崇高な秘密を解き明かすを持っており、精霊群の指揮官も兼ねている。


 ルシファー、ベルゼブブともう一人の悪魔に仕える上級精霊の一つであり、その悪魔達の司令官でもある。


 水と謎を解き明かす力を持つ悪魔群の司令官。それがアガリアレプトだ。



「それで、何の用ですか? ベルゼブブ様。いや、今は神だった頃の名。バアル・ゼブルを名乗っているんでしたね」


 悪魔達への高圧的な態度を改め、丁寧な態度で詳しい事を訊ねるアガリアレプト。バアルは今も変わらず蠅の王であるベルゼブブなのだが、全体的にはバアルという名で通っているのでその名に訂正して返答を待つ。

 バアルは両手をフリーにし、敵対心は無いとはっきり表して言葉を続ける。


「何の用も何も。先程言った通りだ。詳しい事情を加えるなら、お前達も知っているであろう悪魔の失踪事件。その犯人が分かり、事態は思ったよりも深刻と判断しての行動とでも言っておこう」


「成る程。厄介な者を払いける為に態々(わざわざ)ルシファー様を訪ねたと……。確かに合点はいく。フルーレティ以外に名のある悪魔を連れていないのは少々気に掛かるが、後ろの二人もかなりの強者と見た。しかし、バアル様と後ろの二人が居ても大変な事態になるという事ですか?」


「恐らくな。この際隠しても意味がないから厄介たる所以ゆえんを述べるとしよう。その者には悪魔を取り込む力がある。一度は捕らえたのだが逃げられてしまってな。だからより厄介な事が引き起こされると懸念したんだ」


「フム……確かに深刻な事態……全悪魔の力を手に入れれば現世や天界にまで多大なる影響が及んでしまう……。捕らえたが逃げられた。それがわざとでは無いのなら、相応の力も既に秘めているという事ですか」


 質問から返答。返答しつつ新たな質問。二人は問答を行い、置かれた状況と厄介な存在について話し合う。

 他の悪魔達は自分達の司令官と大罪の悪魔にして地獄の支配者の会話を緊張しながら聞いていた。


「分かりました。何にせよ、嘘を吐いていないのは分かった。そして敵意が無い事も……ルシファー様の場所にフルーレティを含めた三人と貴方様をお連れしましょう」


「そうか、助かる。やはり話が分かる奴で良かった」


「大体の考えは読めますから。それに、元・仲間としての情けや信頼も持ち合わせていますので」


「過去の話を持ってくるな」


「え? それって……」


 アガリアレプトからバアルに対しての気になる言葉は出たが、ライがそれを訊ねるよりも前にバアル軍の他の主力とルシファーの部下である悪魔達が移動を開始したので質問を飲み込んでその後に続く。バアル自身、あまり言いたそうな雰囲気でも無いので余計な追求はしなくても良いだろうとライは場の空気を読んだのだ。

 ライ、テュポーン、バアル、フルーレティ。そしてアガリアレプトとルシファーの部下である悪魔達。その数百の者達はルシファーの居るという黄金の城に入って行くのだった。



*****



 ──"ルシファーの黄金の城"。


 城に入ったライたちは、金色の装飾品と床や天井を眺めながらアガリアレプト。そしてバアルの後に続いていた。

 この城は見た目通り全体的に金の施しを受けており、時折深紅や紺碧の宝石類が顔を覗かせる造りだった。見る者が見ればこの輝きに目を奪われる、もしくは目を痛めるかもしれないが物理的な攻撃を無効化出来るライはそう言った外的要因を受けずに周りを見渡す事が出来ていた。

 しかしあるのはシャンデリアに天使をモチーフとした銅像。自画像か他の何かか分からない絵画に何処までも続く黄金の廊下と、輝き以外はほとんど普通の城と変わらない代物だった。


(成る程ね……確かに派手だ。同時に力の誇示にもなりそうだな。この豪華さなら)


 敵地であるが故に会話も無く、ライは関係の少ない事を考える。傲慢らしいと言えばらしい造りだが、別に罠などがある訳でも無くアガリアレプト達は先に進む。

 常人なら目が痛くなる程の黄金道を抜け、黄金の螺旋階段を通る。そこから更に高所へ向かい、ライたちは一際大きく豪奢な黄金の扉の前に立っていた。左右に宝石の装飾が施されており、何処までも派手だなという感想を飲み込んでバアルとアガリアレプトの後に続く。


「ルシファー様。客人としてバアル・ゼブル。ベルゼブブ様とその部下達をお連れしました」


「部下って……」


 敬礼をし、ルシファーが居るであろう天蓋てんがい付きのベッドに言葉を発するアガリアレプト。ライは部下という言葉に苦笑を浮かべたが、確かに今はその方が都合も良いとそれ以上は何も言わなかった。

 そして天蓋が開き、中から天使のような羽を持った色白で眉目秀麗の人物が姿を現す。


「やあ。ベルゼブブ……いや、バアルだったっけ? 久し振り……何か用かな?」


「ああ。話し合いに来た」


 誘うように透き通るような声音で優しく語りかけ、それに頷いて返すバアル。並みの者ならその声だけで落ちてしまいそうだが、バアルとライたちは惹かれずに向き直る。

 現れた者、ルシファー。ルシファーとバアルの二人は数十メートルの距離で向かい合い、互いに相手を見つめる。地獄にある天国のような場所にて、その地獄で支配者と呼ばれる者達の会談が始まるのだった。

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