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六百四十九話 捕らえた二人・二日目の調査終了

 ──"地獄・バアルの城"。


 バアルの城の外にて行われた話し合いは、特に難航する事もなく進んでいた。モートはて置き、重要なのはレクスから聞く話。そのレクスも強がってはいるが、普通の亡者。つまり人間だった存在。なので口の割り方は色々あったという事だ。


「成る程な。生者なら悪魔達の力を奪えるのか。それを知って実行に移り、行く行くは地獄を支配するつもりだと」


「だから、そう言ってんだろ。これで満足か? さっさと俺を解放しろ!」


「それを聞いて解放する訳無いだろう。少なくとも何とかして吸収した悪魔達を外に出させなきゃならねェ」


「チッ、んだよ……」


 未だに強気なレクスだが、やはり疲労はあるらしく徐々に言葉から覇気が無くなりつつあった。取り込んだ悪魔の放出方法は分からないのか、敢えて隠しているのか何も言わなかった。

 しかしこの様子を見るに、知っているのではなく知らないという線が高いだろう。


「俺やテュポーンも他の悪魔を取り込めるかもしれないって事はエラトマの推測で聞いたけど、本当に実行出来るんだな。面倒だしやらないけど」


「そうじゃな。自分よりも格下の力を取り込むなどやる価値も無かろう」


 前にエラトマから聞いた言葉を思い出し、"もしも"ではなく本当にそれが出来ると分かるライ。しかしライやそれを知ったテュポーンに実行するつもりは無いらしい。そんな事をしなくても良いのでやらないのだ。

 だが放出方法が分からないのは少々面倒なところ。今レクスとモートには魔法・魔術によって生み出した鉄や金剛石よりも頑丈かつ強靭な拘束を施しているが、悪魔の中には何かを開ける者や何処にでも行ける者が居る。その力を既に取り込んでいる可能性もあるので、今後バアルの城の牢獄に入れるとして見張りはそれなりの実力者でなくては勤まらないだろう。


「さて、取り敢えず一段落は付いた。後はコイツらの見張り役を誰に任せるか……」


 その事に関して思案するバアル。前述したように捕まえた二人の実力からして生半可な者では直ぐに逃げられてしまう。しかしそこに人材を割り当てると城が手薄になり兼ねない。それらが相まり、少々難しい問題となっているのだ。

 そこで、バアルの忠実な部下である一人。フルーレティが挙手した。


「なら、私が見張りましょうか? 治療の魔法や魔術も施しておらず、手負いの二人。恐らく私だけでも大丈夫だと思います」


「フルーレティか。確かに中将でもあるフルーレティなら実力は問題無い。しかし、幾ら相手が手負いで数時間事の交代制にはするが一人では危険だと思う」


 フルーレティの実力はバアル軍の主力の中でもかなり上。敵が逃げようとしても凍らせる事も出来て見張りには適しているだろう。

 だが、何を起こせるのか分からない実力者二人。魔法や魔術を封じる事も出来ないので魔力が回復した時、二人がけしかける可能性もある。たかが見張りと言っても危険は多かった。


「なら、我ら三人がフルーレティ様の代わりに見張りましょう。フルーレティ様を危険に晒す訳にはいきませんので」


「ええ。私たちが居れば十分かと」


「それに、俺たちなら数も三人。実力も悪くないと自負しています故に」


「……。"エリゴス"。"プルソン"。"バティン"……!」



 ──"バティン"とは、ソロモン七十二柱の十八番目に位置する三十の軍を従える大公爵の爵位を持つ悪魔だ。


 フルーレティの支配下にある悪魔の一人で、敏捷であり炎の源泉に属していると謂われている。


 とある悪魔の二番手の実力者でもあり、薬学などにけていて宝石の効力も知っており、人を国から国に一瞬で運ぶ力も持っているらしい。


 フルーレティの支配下で薬学に詳しく瞬間移動も使えて敏捷性の高いソロモン七十二の一人。それがバティンだ。



 ──"プルソン"とは、ソロモン七十二柱の二十番目に位置する二十二の軍を従える王の爵位を持つ悪魔だ。


 此方もフルーレティの支配下であり、元々は天使だったと謂われている。


 獅子の顔を持っており、熊にまたがり毒蛇とトランペットを常に持っていると謂われている。しかし此処に熊はおらず毒蛇やトランペットも持っていないので、何処かにおり何処かに仕舞っているのだろう。


 財宝を見つけ出す力を持っており、過去現在未来を語り地上の事柄や神学などに詳しいと謂われている。


 元天使であり様々な事を知るソロモン七十二柱の悪魔。それがプルソンだ。



 ──"エリゴス"とは、ソロモン七十二柱の十五番目に位置する六十の軍を従える公爵の爵位を持つ悪魔だ。


 フルーレティの支配下にして槍を携えており、蛇か杖を持ち旗を掲げた端正な騎士の姿で現れると謂われている。


 未来予知の力を持っており、隠し事を暴く力もある。そして目上の者から特別扱いされるようになる力なと、戦闘面では無く社会的に優位に立てる力に長けている。


 騎士の姿をした未来予知や秘事を明かす力を持つソロモン七十二柱の悪魔。それがエリゴスだ。



 三人の姿を見、心配そうな面持ちで名を呟いたフルーレティの横で、バアルが納得したように話す。


「ふむ、確かに純粋な力も高くサポート能力に長けているお前たちなら見張りとしても優秀だ」


 それは、三人に対する高評価な意見。しかし、と、バアルは改めて三人を見渡しながら言葉を続ける。


「だが、責任は重大だ。触れるだけで力を奪えるような者。少しでも油断すればお前たちが取り込まれてしまうだろう」


「ええ。百も承知です。だからこそ、居なくとも戦況に大きく影響しないであろう我らに任せて貰いたいという所存です」


 バアルの質問に返すエリゴス。大きな責任を伴うが、それは承知しているとの事。事実、サポート面からしても適正であり、これ以上の人材は今のバアルの城には居ない。

 危険は誰にでもあり、それが一番薄いのはこの三人という事だ。誰からも異論は無く、バアルは頷いて返した。


「そうか。なら任せる。……しかし、何を仕掛けてくるかは分からないからな。何かあったら正面から挑まず、何とかして我らに報告してくれ」


「「「はっ!」」」


 バアルの指示に敬礼して返す三人。

 想定外の事が起こった場合は他の主力に報告をするという方向で話が纏まった。

 その後、アマイモンは自分の拠点に帰り、バアルの城にある地下牢にレクスとモートを送り込む。その警備に三人が付き、ライたちとバアルたちは地下牢を離れるのだった。



*****



 ──"バアルの城・地下牢"。


「やれやれ。まさか地獄でまで捕まるとはな。元々罪を犯した者が送られる地獄。そこで捕まるというのはおかしな話だ」


「まあ、常に生き返る地獄で死刑には出来ない。捕らえて動きを封じるというのは合理的だろう」


「そういうもんか。チッ、折角もっと能力を楽しみたかったのによ」


 バアルの城にある地下牢にて、収容されたレクスとモートが退屈そうに会話をおこなっていた。それ程仲が良いという訳ではないが、あまりにも退屈なので話し相手が欲しいのだろう。

 そのやり取りを見やり、バティン、プルソン、エリゴスの三人は呆れたように二人の姿を見る。


「捕まったというのに随分と呑気なものだな。魔力で強化されている牢獄。そう簡単に抜け出す事も出来なかろうに」


「油断は出来ないがな。逃がしてしまえば地獄を巻き込む大規模な戦いが始まってもおかしくない」


「ああ。気を抜かず、慎重に見張ろう」


 捕まり、ダメージも残っている状態にも関わらず余裕の態度を見せる二人。エリゴスたち三人はやはり侮れないとより警戒を高める。

 此処の牢は頑丈な金属に魔力を加え、更なる強度を誇っている。だが、二人の実力からして何時砕かれてもおかしくないので油断は絶対にしないつもりだった。


「オイ、木っ端悪魔の警備共。これから俺達をどうするつもりだ?」


「口が悪いな。まあ、地獄に礼儀正しい者が居ても変だがな。一応教えてやるが、今後の事はウエが決める。だから我らは詳しく知らない」


「なんだよ。所詮は下っぱ。何も知らねえのか使えねえ」


「……」


 捕まっているのに大きな態度。調子に乗らせるのは頂けないが、この態度に憤りその怒りに任せて暴力を放ってはこの者と同類になってしまう。偉大な悪魔のバアルの配下として、ぐっとこらえて耐えていた。


「ハッ。何も言い返せねえのか。雑魚が。所詮は神から悪魔に成り下がった奴の部下って訳だ。……ッ!?」


 ──瞬間、レクスの肩に槍が突き刺さった。それによって大きく出血し、取り込まれぬように槍を即座に引き抜く。そのまま血を払ってレクスを睨み付けるエリゴス。


「バアル様を引き合いに出してしまえば怒らざるを得ない。次何かを言えば片腕が消え去ると思え。……まあ、直ぐに再生するのだろうが再び腕を切り落とせばその痛みが延々と続くだろう」


「……チッ、やはり悪魔……あまり調子に乗るのも考えようだったな」


 バアルへの暴言を言われて黙っている訳にはいかない。

 先程の思考を切り捨てるようだが、今この牢獄ではどちらが上かを力関係をはっきりさせる方が良さそうなので先の一撃は肯定する。私利私欲の為の攻撃という訳では無いのでこれもありだろうと三人は自分たちで納得した。


「理解すれば良い。憂さ晴らしの暴力は無いから安心しろ。後はどうなるか、バアル様たちが決める」


 警戒を解かず牢獄から離れ、恐らく安全であろう位置から二人を見張る。近付き過ぎたら何をされるか分からないので、見張る事が出来つつ被害が及ばない場所が最も適していた。

 バアルの城にて、捕らえられた二人は三人のフルーレティ配下の悪魔たちに見張られるのだった。



*****



 ──"バアルの城・貴賓室"。


 今日一日の問題が解決した今だが、ライたちは休まず貴賓室に向かって今後の話し合いをおこなっていた。

 今の時刻は現世で言うところの夕刻から月が見え始めた頃。なのでまだ話し合いをする時間があるのだ。


「さて、生きている亡者は悪魔を取り込めるという事が分かった。だとしたら、他の亡者がそれに気付くのかどうか。そしてレクスとやらは死んだ身体だったがどうやって力を取り込んだのか。この事が大きく分けて話す事だな」


「ああ。確か、身体の一部を生き返らせて触れたって言っていたな。回復の魔法か魔術で一時的に再生させただけだと思うけど、それだけで悪魔の力を取り込めるって事を他の亡者たちに知られたら大変だ」


 レクスから聞いた事を纏め、それに対して起こる事柄を思案して警戒する。大した実力も名も無かったレクスが実行出来た"その事"。他の元人間・魔族である亡者に知られたら地獄はたちまち混乱に陥る事だろう。

 それが起これば、ライたちとバアルたちでも苦労は強いられる事となる。そして、そんな事を話していたライたちにエラトマが口を割って入った。


【クク、問題ねェよ。あのレクスって奴の性格を考えてみろ。手っ取り早く力を手にする方法を他人にゃ教えねェだろうよ。それに、その事を知っているのはレクスと俺たちだけ。裏切り者でも現れねェ限りは無問題。裏切り者が出ても自分の不利益になる事の方が多いから、結局は問題ねェって事になる】


「「……!」」


 エラトマの言葉は確かな事実だった。

 自分だけが扱える特権。レクスはそんな特別な力を態々(わざわざ)他の者に教える性格でもないだろう。

 それに加えて、ライ、エラトマ、テュポーン以外の誰かが裏切って他の亡者に言いらしたとしても信じて貰えるか分からない。信じられたとしても罪を犯して地獄に落ちた亡者達ならば目の前に居る者で試す事だろう。それに取り込まれてしまえば元も子もない。

 つまるところ、それを知って得するのは限られた者だけになる。そんな事はしないだろう。


「……。じゃあ、結局今警戒する事は変わらず、他の大罪の悪魔かレクスとモートって訳か」


【クク。そうなるな。……まあ、俺が居ればそいつらも問題ねェ】


「自信満々だな。まあ、その自信に伴った実力があるから当然か」


 話し合いの結果、今後行う事は今日の事柄とあまり変わらない。捕らえたモートとレクスに警戒し、残りの大罪の悪魔や地獄の王達に注意するくらいだ。

 バアルの城にて行われている話し合いはこれにて終わり、ライたちは各々(おのおの)で休息に入る。今日一日も終わりを迎えるのだった。



*****



「なあ、モートとやら。王の右腕になってみねえか?」


「……。何を言うかと思えば。何を企んでいる?」


 閑散とした空気の立ち込める地下牢にて、数十メートル離れている見張りの三人に聞こえないような声音でレクスが一つの事を提案した。それを聞いたモートは小首を傾げ、自身の質問への返答を待つ。


「ハッハ……。此処の牢屋には俺達しか居ない。そして、アイツらは俺達を同じ牢獄に容れた。そこが命取りだ。……まあ、別々の牢獄だったとしてもやり方は幾らでもあるがな。それは捨て置き、王の右腕となるつもりがあるなら共に脱獄しようじゃねえか」


「……。悪くない話だが、それは断る。その言い方からして私の力が必須と見た。上下間系は無い。お前が下か対等ならば考えてやらん事もない」


 味方になり、自分の下に付くならば力を貸すと告げるレクス。提案は此処からの脱獄だ。

 しかしモートは、その態度と様子からして自分の力が必要と判断し、悪魔で対等以上の関係を望んでいる様子だった。

 それを聞き、一瞬嫌そうな顔をしたレクスは頭を壁に擦り付けて掻き、言葉を続ける。


「……。チッ、思い通りにはならないか。だが、このまま此処で地獄の地獄を待つよりは良い。そして悪魔で対等なら悪くない。……協定成立だ」


「そうか。ならば断る理由は無くなった。神である私の力は取り込めないようだからな」


「ケッ……」


 モートに言いくるめられ、渋々その案を受け入れるレクス。

 自分が上でありたい事に変わりは無い様だが、何よりも此処を抜け出すのが最優先。神の力を取り込めない事からして自分が下にならないだけ良いかと結論を出したらしい。

 ライたちが地獄に来てから三週間と一ヵ月。そして二日。その二日目が終了すると同時に、レクスとモートの間で密約が交わされるのだった。

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