六十三話 ライvsゼッル・隕石の正体?
空から降ってくる隕石は誰が起こした事なのか、薄々気が付いているであろう"イルム・アスリー"のメンバー。
──それはさておき、時を少し遡る。
魔王の力を解放したライと本気を出すと言ったゼッルの戦いは、激しさを増していた。
「オ──ラァ!!」
「ソ──ラァ!!」
ライが少しだけ魔王の力を使い、ゼッルが魔術で強化した身体を使う。
その二つがぶつかり合った時……。
──ライとゼッルの周りにあった建物が……全て消し飛んだ。
瓦礫も残さず、一瞬にして荒野のような景色が辺りに広がる。
その荒野と化した"イルム・アスリー"の中心にはライとゼッルが立っていた。
「驚いたな……魔術が効かない魔王に対して魔術で強化した身体をぶつける……それで殆ど互角か……!」
ライは、魔術で強化していたとはいえ、魔王の力とほぼ互角のゼッルに驚く。
まあそれでも二割程だが、逆に言えば魔族の国の幹部達は素で魔王の二割程力があるという事。
"レイル・マディーナ"の幹部であるダークも三、四割程の魔王を纏ったライとほぼ互角だった。
やはり幹部という立ち位置には相応の実力者が置かれるのだろう。
これから世界を征服する予定のライにとっては勉強になる事だ。
そして思考を止め、ゼッルに向き直るライ。
「それがアンタの本気か? 中々やるじゃねえか……!」
思考を止めたライは素直にゼッルへ称賛の言葉を与える。
ゼッルはクッと笑って返す。
「ッハハ、お前もな。まだ奥底が見えてねえが……表面上の力だけでテメェがどれ程の実力者か分かるぜ……。テメェ……『手ェ抜いているな』……?」
「……へえ?」
内心、ライは驚いた。
ゼッルの本気とはまだ一回しか攻防をしていないが、それだけでライの実力を見抜いた? からである。
「どうでも良いだろ? ……寧ろ、本気を出していない俺と本気に近い力を使っているアンタが互角って事は……『アンタに俺が倒せるのは今のうちだけ』って言える。……だろ?」
内心の驚きを隠し、ゼッルへ挑発するように話すライ。
ゼッルその意図を読み取ったが、敢えて挑発に乗る。
「ッハハ、ああ……そうだな。……じゃあ、お言葉に甘えさせて貰うかあッ!!」
炎と風の魔術を脚に纏い、加速を付けてライへ向かうゼッル。
荒野のような大地は焦げ、抉れながら爆ぜる。
向かってくるゼッルを相手に、ライは構える。
「ほう──」
「らァ──」
「「よっとォ!!」」
──その瞬間、鼓膜を揺らし、耳を劈く轟音が"イルム・アスリー"に響き渡り、街全体を大きく揺らした。
大爆発でも起きたかのような爆音は音速で"イルム・アスリー"を駆け巡る。
他の者たちは戦っている為、その音には気付かないだろう。
荒野のようだった大地は更に盛り上がり、大岩のような土が空中へ舞い上がる。
「オラァ!!」
「ダラァ!!」
その舞い上がった土塊を足場にし、それを砕きながらライとゼッルは目にも止まらぬ速度で攻防を繰り広げていた。
「そらよッ!!」
まずはゼッルが足の爪先から炎を放出し、その威力で回転して蹴りを放つ。
「おっと……! ……ほらっ!」
そして、それを腕で防いだライはゼッルの脚を掴み、地面に投げ付ける。
「……ッ!」
そんな風に、投げ付けられたゼッルは土塊を数枚砕いて地面に叩き付けられる。そしてそこから大きな土煙が起こり、
「そうらッ!」
それを追撃しようとするライは、土塊を踏み砕き抜いて加速し、ゼッルが叩き付けられた地面に蹴りを放つ。
「ガハッ……!」
腹部に加速したライが突き刺さったゼッルは吐血する。が、腹部に手を回してライの足を掴み、立ち上がると同時にライを投げ飛ばした。
「……ッ! ……オラァッ!!」
「うお……!」
投げられたライは軌跡を描いて遠方へ吹き飛ぶ。
ライはどこかに激突したのか、ライが吹き飛ばされた方向からは砂埃が上がった。
それを確認して直ぐに加速するゼッルは、
「そこかァ!!」
その砂埃の中心にいる人影へ攻撃を仕掛ける。
そして砂埃からは、
「ああ、そうだよッ!」
ゼッルの顔に目掛けて、倒れたライの足が突き出された。
勢いそのままでその足へ突っ込む形となったゼッルは頭から倒れる。
「ケッ、ほぼノーダメージかよ……!」
蹴られたような衝撃を受けたゼッルは直ぐに起き上がり、汚れを払う。
「そうだな。まあ、少しは痛かったぞ?」
倒れた状態で蹴りを放ったライも起き上がり、ゼッルの言葉に返す。
当たり前と言うべきか、まだまだ余裕がある様子だ。
「そうかい。ま、ほんの少しとは言え、痛みを与えられたなら万々歳だな」
ゴキッ、と首を鳴らし、再び構えるゼッル。
ライも腕を天に向けて伸びをし、その場で少しジャンプして動きを確認する。
「さあ、続きと行こうか……?」
「ッハハ、それはテメェの台詞じゃねえよ……!」
クイッ、とライが掌を自分の方に動かし、挑発の動きをする。ゼッルは苦笑を浮かべて返した。
──そしてその刹那、
「オラッ!」
「ホラッ!」
両者は掛け声と共に脚を薙ぎ、回転して蹴りを放つ。
ドンッ! とぶつかった爆風でライとゼッルの周りに砂煙が舞い上がり、二人の脚が止まった衝撃でその砂煙は全て消え去る。
互いに一瞥し、その場から姿が消えたような速度で動くライとゼッル。
「ハァッ!」
「ダラッ!」
ドゴォンッ! と互いに似たような攻撃を与え合い、腕が、脚が、拳がぶつかり合う。
二人の一挙一動で空気が震撼し、小さなクレーターを造り出す。
全てを消し去る魔王の力と、それと互角の魔術。それらが起こす運動はさながら自然災害のようだ。
「"水"!!」
少し距離を取り、ゼッルが大量の水を放出する。
先程放った水とは比べ物にならず、小さな津波を彷彿とさせる程の量だ。
「魔術は効かないって言っているだろ!!」
ライは拳を突き出して正面の水を消し去り、ゼッルに向かう。が、
「"炎"!!」
次いでゼッルは炎を繰り出した。
「そんなもの……! ……!?」
ライはその炎を消そうとしたがしかし、ゼッル狙いはライでは無かった。
ゼッルが水を繰り出してからまだ一瞬も経過しておらず、その水に向かって炎を放出したのだ。
「……! な……まさか……!!」
それを見たライはゼッルの狙いが分かった。
ゼッルはクッと笑い、ライに向けて言う。
「……ああ、此処は科学の街。"イルム・アスリー"……俺が今起こしたのは……──水蒸気爆発だ……!!」
カッ、と『炎が水に引火し』、灼熱の火炎を当てられた水は高熱を持ち、気化する。
そして次の刹那──
──街を大きく揺らす大爆発が巻き起こった。
それによって大気の温度が一気に上昇し、先程の水は全て蒸発する。その衝撃は止まらず、街全体を大きく揺らして粉塵を作り出す。
それと同時にライは吹き飛ばされた。
「……。やったか……?」
防御魔術で爆風を逃れたゼッルは、爆発が消えるのを目視する。
水蒸気爆発とは、水が高温の物と接触したとき、気化する際に爆発する現象である。
その威力は様々だが、ゼッルの魔術で生み出された爆発はとてつもないモノだろう。
煙が晴れ、徐々に全体が見渡せるようになり。
「オラよっと!」
視界が開いたライはゼッルに向けて蹴りを放った。
「……ッ! やっぱ……駄目か……ァ!!」
腹部を思いっきり蹴り飛ばされたゼッルはその衝撃に逆らうことが出来ず、"イルム・アスリー"の街中を一気に吹き抜けた。
幾重もの鉄や木で造られた、何十戸、何十棟もの建物を砕き、綺麗な貫通痕の軌跡を残して吹き飛ぶ。
そして、遠方にあった一際大きな建物に激突し、それが粉砕する。
「おっと……やり過ぎたか? ……まあ、街の外に出たらそれで終わりらしいし……俺的には寧ろそっちの方が良いかもな……」
ライは呟き、大地を蹴り砕く勢いで加速してゼッルの元へ向かうのだった。
「痛つ……オイオイ……俺ぁ五体満足か……?」
そしてその場所では吹き飛ばされたゼッルが仰向けの状態で倒れており、空を眺めていた。
「まあ、両手両足と頭と胴体はくっ付いているな……?」
そして、何時も通り一瞬にして距離を詰めたライがゼッルに返す。
ゼッルは立ち上がって埃を払い、ライに向き直る。
「そうか。……ッハハ……なら、まだまだ遊べそうだな……さて、やろうか?」
「オーケー……」
ザッ! と構えるライとゼッル。
お互いに睨み合い、相手の出方を窺う。
この様子では暫くの間その均衡を保ち続けるだろう──……と思った、次の刹那! 周りの気温が上昇し、天から降り注ぐ目映い光に辺りは照らされる。
「「……は……?」」
そして二人はそれを目撃し、同時に声を上げた。
「「隕石ィ!?」」
それは……場合によっては一つ降るだけで世界が壊滅しかねない宇宙からの贈り物? だった。
*****
そして、その理由は今明らかになる。
──所変わってキュリテとチエーニ。こちらの二人はお互いに技を避ける事の無い攻防を数十分間繰り広げていた。
「岩の針!!」
チエーニが操る岩は先端が細く尖り、速度を上げてキュリテへ向かう。
そして"土"ではなく、"岩"と表現するチエーニ。
「はあッ!!」
その岩をサイコキネシスで砕くキュリテ。鋭かった先端は拉げて砕け散った。
「あーもう! ムカつく!!」
チエーニは両手を使い、生き物のように岩を操る。
真っ直ぐ進む岩と曲がりくねりながら進む岩。
前後左右上下斜めと、全ての方向から岩を繰り出す。
「多いよ!」
キュリテは叫び、周りにサイコキネシスを放ってその岩を全て砕いた。
「これでも駄目……まあ『当たり前ね』。……だったら……!!」
チエーニは岩が砕かれたのを確認し、続いて新たな岩を下から放つ。
そう、始めに砕かれた岩は最初から砕かれる事を前提としたフェイクの岩だったのだ。
「……ッ!」
その岩を何とか防ぐキュリテだったが、岩を砕いたときに生じた破片が肩に突き刺さってしまう。
「今よ!」
そして、勿論その隙を見逃すチエーニではなく、砕かれた破片と新たな岩を創り出し、キュリテ目掛けて放った。
「……!」
魔術の岩はキュリテに向かって真っ直ぐやって来る。
そう、真っ直ぐに。
「やあッ!」
真っ直ぐにしか来なかった為、その岩を防ぐ事が出来たキュリテは、
「自分で食らってみな!」
「……ッ!?」
突き刺さった破片を"アポート"でチエーニに返す。
自身の肩に岩の破片が突き刺さり、痛みで顔を歪ませるチエーニ。
「……どう? これが貴女の力よ……!」
「…………!」
微笑むキュリテと、そのキュリテを睨み付けるチエーニ。
暫し睨んでいたチエーニだが、次の瞬間にはドッと脱力したように肩を竦ませた。
「……どうしたの?」
キュリテはそんなチエーニを怪訝そうな表情で見る。殺る気満々だったチエーニが突然肩の力を抜いたのだから当たり前だろう。
チエーニは口元を緩ませてキュリテの言葉に返した。
「アハハ……そうね。分かったわ。確かに私自身の力はそれなりだけど、『さっきの技』じゃ貴女には到底及ばない。……だから……私の切り札を使うわ……」
「…………?」
訝しげな表情のキュリテを横目に、腕を挙げて掌を天に向けるチエーニ。
その掌の先を見るキュリテだが、変わった様子は無い。
「……一体……何を……?」
キュリテが質問をする。その質問に返すよう、チエーニは高らかに笑い声を上げる。
「アハハ! 今に分かるわよ! キュリテちゃん?」
そして、チエーニが差す天空には巨大な紋様のような物が浮かび上がっていた。
「……あ、あれは……」
その紋様を目撃したキュリテは何かの大技が来ると、直感で理解した。
豹変したようなチエーニは笑って言葉を発する。
「……そう。あれが私の切り札よ♪」
──そして次の刹那……。
ゴゴゴゴゴという振動と共に大地が大きく揺れ、建物にヒビが入る。
「……!!」
キュリテは目を見開き、天を二度見する。
紋様のような物も気になっていたが、その『程度』の事では無かった。
巨大な影……それはまるで、巨大な岩のよう……。
そんな物が天空から降ってきていたからだ。
「アハハハハ!! 気付いた!? そうよ!! 私が出せる、岩の最大魔術!! 当たれば……いや、当たらなくとも多大なる影響を与えてしまう!! それは天変地異を引き起こし、あらゆる種類の生物を絶滅させる力を持つ!! さあ、食らいなさい!! ……キュリテッッ!!」
キュリテの様子を見たチエーニは、叫ぶようにその呪文を唱えた。
──"巨大隕石"!!
ゴオオォォォ!! と大気を大きく揺らし、その衝撃によって近くの山々や"イルム・アスリー"の建物が砕け散る。
たった一つの塊。それだけ……それだけがどれ程の驚異となる事だろう。
第二宇宙速度を遥かに凌駕した速度を出す半径数十キロ程の超巨大隕石は"イルム・アスリー"に向けて一直線、ただ真っ直ぐに降り注ぐのだった。