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六百三十二話 城の探索・悪魔談義

 バアルの城を探索開始してから早数時間。ライはフルカス以降、名のある悪魔や爵位を持つ者たちとは出会わず二、三階は見終えていた。

 この数時間も現世では一秒にも満たぬ時間と考えると少し不思議な感覚だ。


「そういや、この城って何階建てなんだろうな。まさか七十二全ての柱が全員居る訳にもいかなそうだし……悪魔にちなんで六六六階か?」


 四階に到達したライは広い城を眺め、何階建てなのかを気に掛ける。安直だがやはり何らかの悪魔に関係するのだろうかと推測していた。

 悪魔ならば六六六という数は外せない。ソロモン七十二柱から七十二という可能性もある。それか特に関しておらず、普通に五、六階で終わる可能性もある。

 そんな探索の本筋とは関係無い事を考えつつ、一つの部屋の前に来ていた。


「此処は……書庫か? いや、書斎やライブラリとかか? 文字は地獄特有か悪魔特有のモノで分からないけど、本が沢山あるもんな」


 そこにあったのは、恐らく書庫か書斎、ライブラリと思わしき場所だった。

 ライの見立てだと、一階にはエントランスや大広間を中心とした、悪魔で出入口を主張した場所。二階は食堂や調理場など、大人数で集まれる場所。三階からは悪魔たちが寝泊まりしているであろう部屋部屋があった。恐らくこの城の大部分は三階のような造りなのだろうが、この城で書庫を見るのは初めてだった。本類は自室にもあったが、本格的な書庫ならば得られる情報も多いだろう。


「さて、入っても大丈夫か?」


 辺りを見渡し、悩むライ。バアルの話し合いが続いているのか悪魔たちの姿は少ないが何人か本を読んでいる者も居る。書庫というよりはやはりライブラリに近いらしい。

 暫くは足で情報を集めていたライだが、休憩も兼ねて本を読んでみようかと考えているのだ。


「よし、入るか」


 考えるのは嫌いじゃないが、時間を無駄にするのは好きではない。なので一先ず入ってみる事にした。

 ドアを開け、静まり返るライブラリを見渡すライ。チラリと此方を見た者も居たが、新顔は珍しくないのか直ぐに自分の読んでいる本へ視線を戻していた。


(許可書的な物は要らないのか? 普通に入ってしまったけど)


 入った後で再び見渡し、勝手に読んでも良いのか気に掛ける。しかし何も言われなかったので、近くの本を複数手に取ってパラパラと本を読み進めた。


(……うん。知っている言語以外の本は読めそうにないな……。絵や同じ文字の位置から推測すれば何となく読めると思うけど、時間が掛かり過ぎる……)


 そして、数ページ読んだところで時間が掛かると本を閉じた。

 読めない知らない見た事ない文字や言葉でも、推測から大凡おおよその内容を考える事は出来る。しかし、それでは少々時間が掛かり過ぎてしまうので一旦諦めたのだ。


「君、横から失礼だが……見ない顔だな。新入りか?」


「……!」


 そこに、話し掛けてくる一つの声。そちらを見ると人形ひとがたではあるが異形なモノの姿があった。

 腕は長く、鬼のような手をしており、その脇に杖を携えている。身長は低いが長い尾を持ち、大人びた声をしている。ともあれ、やはり悪魔である事は変わらないようだ。

 その者は持っていた本を閉じ、訝しげな表情で見ているライに向けて言葉を続ける。


「おっと、失礼。名乗り遅れた。私はロノウェ。一応侯爵(こうしゃく)をしている」



 ──"ロノウェ"とは、ソロモン七十二柱の悪魔にて二十七番目に数えられる悪魔である。


 十九の軍団を率いる侯爵にして大伯爵であり、修辞学や言語を司っている。

 戦闘方面では無く、使い魔や知識面での役割を担っている。


 言語を司るソロモン七十二柱の悪魔、それがロノウェだ。



「侯爵様でしたか。私はライ・セイブル。縁あって二人の仲間と共に地獄の戦争に参加する事になりました」


「そうか。嘘を言っている顔ではないな。なら、友好の証に大体の文字を読めるよう、言語を教えてやろう」


 ロノウェは使い魔や友情を授けるとされる悪魔。なので仲間であると分かったからには、友好の証としてライが悩んでいた言語を教えてくれるらしい。

 基本世界に平行世界、異世界。場所を問わず様々な言語を司るロノウェ。なのでライに本を読む程度の知識を授けるのは容易いのだろう。


「ありがとうございます」


「フフッ、仲間らしいから当然だ。悪魔は代償に色々貰うけど、少しでも戦力が欲しい今回は無償で渡そう」


 片手をライの額に触れさせ、魔力を込めるロノウェ。元々悪魔は血や肉、命などを代償に力を授ける。

 しかし今回は仲間。いずれ敵になるかもしれない事も考えられるが、それでもロノウェは言語の知識をライに与えた。

 思考が高速で回転し、様々な言葉が脳裏を駆け巡る。そして数秒、ロノウェが手をライの額から離し、ライは改めて先程読めなかった本を見やる。


「おお、本当に読めるようになっている。言葉の意味が分かるぞ」


「フフ、では私は去るとするよ。この戦争で、共に死なぬよう気を付けよう」


「ええ。助かりました。ロノウェ様」


 礼を言い、去るロノウェを見送った後で本に目を通す。読書は言わばライの趣味のようなもの。それの幅が広がるのは、愛読家のライにとってとても有り難い事だった。

 早速複数の本を本棚から集め、読書に入る。地獄のライブラリにて、ライは数時間本を読み続けていた。



*****



「ふうん、成る程。これが地獄の成り立ちか……(……そういや、閻魔大王が居るのに何で魔王達が地獄の派遣を争っているんだろうな)」


 読書を始めて二時間弱。一通り近くにあった本を読み終え、小さく呟くと同時に地獄に居る王という存在について思考する。

 一般的に地獄を収めているのは閻魔大王とされているが、その閻魔が居るにもかかわらず地獄の派遣を巡って争いが起きている。それが疑問だったのだ。



 ──因みに"閻魔大王"とは、知らぬ者など居ない程に有名な地獄や冥界の主である。


 元々は神仏の類いであり、現世にも姿を変えて現れる事のある存在。嘘を見抜く力を持ち、天国か地獄かを決める存在だ。


 しかし一説では天界の更に上界に居る神仏がことわりを守る為に地獄に降りたとされ、一概に閻魔大王と言っても様々な逸話が存在する。多くは変わらないので、一般的な地獄の王という認識で間違いは無い筈だ。


 罪人に罰を与える地獄の王である神仏、それが閻魔大王だ。



(確かに日々亡くなった人々や動物が来る地獄に一人二人の王じゃ足りないだろうけど、そもそも罪人である大罪の魔王が仕切るってのも違う気もするな……)


 一日。現世でのたった一日や数秒で何人の者が亡くなるだろうか。それを異世界問わず裁く閻魔大王。確かに苦労はしているかもしれないが、今更地獄の派遣を争っても意味が無いと考えていた。

 因みに一人二人と言ったが、閻魔大王には妹や妻が居ると謂われる事もある。なので一応閻魔大王は一人だけじゃないかもしれないと考えたのだ。

 そして地獄の王を決める争い。考えられる線は様々だが、決して穏やかな事では無い事ばかりが浮かんでしまった。


(……。考えても仕方無いか。まだそんなに時間も経っていないだろうし、また一通り城を見てみるか)


 現在の時刻は、恐らくエラトマの部屋から出て四、五時間程度。なので厄介な事や面倒な事は考えず、城の探索に戻る事にした。

 読み終えた本を元通りの場所に戻し、最後の本を棚に入れた時、ライの脳裏に新たな思考が巡った。


(そう言えば……魔族の国以降読んでなかったけど、リヤンの家で見つけた"神の日記(ゴッド・ダイアリー)"の読めなかった文章……もしかして今の俺なら読めるんじゃないか……?)


 それは、"神の日記(ゴッド・ダイアリー)"について。

 ベヒモスの出現など、これから起こる事や勇者や魔王について書いていた本だが、読めない文字などもあった。それを知る事が出来れば、更に知識の幅が広がるかもしれないと考えたのだ。


(いや、けどほとんどは読めた。読めないのは単純に古いから掠れていただけで、特に言語を読める力も関係無いか……? なら、古代文字とかを読んでみるのも悪くないな。廃墟の街……かなり昔の街なら、誰にも解読されなかった文字があるかもしれない……)


 "神の日記(ゴッド・ダイアリー)"は、殆ど全てが読めた事。ベヒモスについてなど、後から起こった未来予知のような事が分からないだけで今回手に入れた力は少し違うのかもしれない。

 しかし好奇心旺盛なライ。元の世界に戻った時、いつぞやの海底遺跡や幻獣の国にあった滅びた文明など、調べてみたい事を多数思い付いたようだ。


(なら、先ずは情報収集だな。先人が造った道だけじゃなく、俺も自分で開拓してみるか)


 本を戻し終え、もう暫く地獄にあるバアルの城を探索する事にしたライ。既に爵位を持つ悪魔たちによって近隣の事は調べ尽くされているだろうが、足らない知識を補う意味でも自分の足で進むのだ。

 本に書いてある事も良いが、自分で体験した方が記憶に残ると考えているのだろう。

 ロノウェに会い、言語の知識を授かった事によって知的好奇心が大きく刺激されたライは、ライブラリを後に城内探索を続けるのだった。



*****



「──以上、これが我が今回の戦いで得た情報だ。大罪の魔王達やモートの様子は基本的に変わらない」


 城内にある複数のテーブルによって長方形が描かれ、それを囲うような椅子のある談義室。そこの中心から上方にて、椅子に座るバアルは今回得た情報を話し終えていた。

 現時刻は現世での正午を一時間過ぎた程。内容は大罪の魔王や敵対する肉親、モートについて。そしてライを含めた三名の事など、数時間で終わる程に早い談義だったようだ。

 此処に居るのはバアルを始めとして、王や伯爵、公爵、君主など爵位と地位が高く力の強い主力の悪魔たちとベルゼブブの配下の悪魔たちだった。

 因みにゴエティアのソロモン七十二柱の悪魔は、全てがバアルの配下という訳では無い。ソロモン七十二柱の中にはバアル以外の大罪の悪魔も居る。なのでバアルに仕えるのはほんの一部なのだ。

 それはき、バアルの言葉からするに、ライたちの事以外は今までの話し合いと同じような感じだったのだろう。数時間で全てを説明し終える程に短い話し合い。数百年続いているというこの戦争は物事に進展が無いようだ。


「他の魔王やモートの事はまあ、今まで通り……我が気になるのはライという少年についてだな。前に一度会った事はあるが……本当に我が軍に率いれるのか?」


 バアルが説明を終えた事により、暫しの静寂が流れる。その静寂を破ったのは、前にバアルと共に現世に来ていたソロモン七十二柱の七一番目に数えられる公爵、大公爵。複数の姿を持つ悪魔ダンタリオンだった。

 他の悪魔たちとは違い、ライの姿を見ている本人。なので忠告してまで参加させないつもりだった現世の者を率いれる事が疑問なのだろう。

 その質問に他の悪魔たちの視線がバアルに注がれ、バアルは言葉を続けて話す。


「ああ。我も出来れば参加させたくなかったが、地獄に来てしまった事と本人の意思を尊重した」


「そうか。貴殿がそう言うのなら、それに従うまで。我からは何も言うまい」


 ライの意思を尊重した。それはバアルの本心。バアルに従うダンタリオンはそれならばと特に追及はしなかった。

 そして、もう一人から質問をされる。


「ならば私からも一つ質問をしましょう。その少年と仲間達の実力は確かなのですか?」


 それは少年。つまりライの強さについて。老若男女は関係無い戦い。バアルはライが幼いという事も話したが、年齢も関係無い。地獄で重要なのはその強さのようだ。


「ああ、"フルーレティ"。あの少年は強いさ」



 ──"フルーレティ"とは、地獄の支配者達、ベルゼブブの配下である悪魔だ。


 ソロモン七十二柱とは違うが、ベルゼブブに従う忠実な配下である事は変わらない。中将という立ち位置で精霊を指揮していると謂われている。


 めいを与えれば一晩のうちに片付けてしまう実力者で、雪や氷を操る力を持っている。


 ベルゼブブの配下であり、中将という位置に立つ悪魔。それがフルーレティだ。



「恐らく他にも強さを疑っている者たちは多いだろう。だが、大体は一目で分かる筈だ。他の二人もな」


「フム。そう、ですか。確かに見てみなくては分かりませんね。分かりました」


 見れば分かる。それがバアルの返答。一見適当だが、ある程度の実力者ならば見ただけでその強さの大凡おおよそが分かるので、それもそうだとフルーレティは納得した。

 他の者たちから質問が挙がらなかったのは聞きたい事は大体説明され、肝心の強さもバアルが大丈夫と言った事で信頼に繋がったからのようだ。

 ライが城内を探索し続けている中、バアルと上位の悪魔たちの話し合いは一旦閉幕になるのだった。

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