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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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六百二十六話 ユグドラシルの決戦・世界を統べる二つの王・決着

 魔王(元)から元の精神に戻ったライと、本気を超えると豪語したテュポーンが正面からぶつかり合った。

 それによって先程と同様の破壊が起こり、一人と一匹は弾き飛ばされる。シヴァと戦った時はこれ程の広範囲破壊がそんなに起こらなかったが、テュポーンの巨躯と力がそれを引き起こしているのだろう。

 純粋な力ならばシヴァもテュポーンと同等のものはあるが、巨躯の肉体が力を上乗せしているという事だ。


「成る程、かなりの力だ。だけど、まださっきとあまり変わらないように思えるな」


『フム、それは余も思っていた事だ。まだ完全な力を出し切れていないという事か』


「なら、俺にとっては好都合だな!」


 だが、今起こったのは先程の破壊と同様の破壊。つまり、今のテュポーンは本気のままであるという事。それでは本気の先には遠いだろう。

 なのでテュポーンは改めて集中し直し、力を込めて巨腕を一気に放った。それをライはかわし、踏み込みと同時に加速して眼前に迫る。


「オラァ!」

『まだだ……!』


 迫ると同時に放ったライの蹴りを受け止め、魔術の残骸の元へと放り投げるテュポーン。かなりの距離を移動したが、既に魔王(元)の造った土魔術の残骸がこの場に来ていたようだ。確かにテュポーンと共に残骸を吹き飛ばしていた。それが残っているのだろう。

 その残骸を砕き抜け、一際大きな残骸に激突して停止するライ。つまりテュポーンはそこまで力を込めて投げなかったらしい。


『力がまだ弱いな。主のような者がまだ世界に居たと分かれば、退屈を言い訳に鍛練を怠るべきではなかったか。更なる高見を目指したいものよ』


「力が弱い……? ハハ、アンタは冗談も達者なのか。此方は今の身体じゃ、アンタの攻撃を受け止めるだけで一苦労だって言うのに」


『生きている限り、まだまだ上に行けるだろう。歳月関係無く、どんな老人でも挑戦する事は出来る』


「老人がアンタみたいな者だらけだったら世界は既に崩壊してるよ。それに、それなりに古参かもしれないけどまだ若いだろ。魔物にとっては」


 止まったライに向け、大陸以上の大きさを誇る二つの巨腕と同じく大陸以上の大きさを持つ一つの巨尾を放つ。それをライは避け、一瞬でテュポーンに迫り回し蹴りを放った。


『そうだな。余もまだまだ若い。成長の見込みはあるという事だ』


「それ以上に若い俺は、アンタ以上の伸び代があるって訳だ」


『若さ故に、主は経験が浅い。それが勝負の決め手となりうるだろう。最も、主の力に経験はあまり関係無さそうだがな』


 回し蹴りを受け止め、巨尾でライの身体を吹き飛ばしたテュポーン。そこから炎を吐き付け、視界を消し去る。視界が消えても気配によって位置は分かるが、気を取られてしまう。

 そこから惑星サイズの巨体が迫り、両巨腕と巨尾を縦横無尽に振り回してけしかける。

 元々その様に暴れる事で全宇宙を破壊し尽くしたというのがテュポーンの逸話。今の状態が本領発揮と言ったところだろう。

 本気ではあったが、そこから更に力を上昇させているという事である。


「闇雲……って訳じゃないか。ちゃんと狙いは定まっているや」


 縦横無尽に暴れ回るテュポーンの攻撃を次々と見切ってかわし、上下左右から来る巨腕と巨尾。炎に猛毒もかわしていく。

 瞬く間に眼前へと到達し、そのままの勢いで蹴りを放った。


『動き回る敵に当てるのはやはり困難か。あらぬ方向へと衝撃が向かっているぞ』


「あらら。それは困ったな」


 その蹴りを惑星に匹敵する巨躯の身体でかわし、ライの背後に回り込むテュポーン。刹那に両巨腕をくっ付けて一つに纏めて殴り付け、ライの身体を降下させる。その方向に尾を待機させており、落下途中のライの腹部を打ち抜き大きく吹き飛ばした。

 大陸サイズ以上の尾なので狙った腹部のみならず全身を強く打ち付けたが、それも相まり残骸を砕きながら吹き飛ぶ。


「カハッ……!」


 それによって吐血し、グングニルのダメージの残存によって激痛に歪む身体を無理矢理捻り起こしてテュポーンに向き直る。

 数百万キロは吹き飛んだが、数光年吹き飛ばなかっただけマシだろう。むしろテュポーンの身体を見渡しやすくなっていた。


『ハッ!』

「……ッ! やっぱ一瞬で追い付くよな、そうだよな」


 ライの眼前に巨大な壁が現れる。数百万キロの距離を一瞬で詰めたのだ。

 それに気付いた瞬間ライの身体は目の前の壁を見失っており、全身には強烈な激痛が走っていた。詰め寄った瞬間にテュポーンがライの身体を再び吹き飛ばしたのだろう。

 急降下し、上も下も分からなくなり始めた頃、下方から迫った全身を打ち付けるような巨尾によってライの身体は急上昇した。


『急に動きが鈍くなったな』

「ああ、身体が痛むんでな」


 そのライに正面から巨腕を放ち、ライが返した瞬間に勢いよく吹き飛ぶ。

 何とか無の空間でこらえるが、次の瞬間にテュポーンが来る事は容易く分かるので止まった瞬間に方向転換して距離を置いた。


「背後か……!」

『見事。正解だ』


 距離を置きながら気配を察知し、後ろ回し蹴りを放って迫っていたテュポーンの巨腕を弾き飛ばす。そこから更なる巨腕が近付くが、それをかわし、先程躱した巨腕が再び迫りそれも避ける。

 縦横無尽に暴れ回っているのは変わらない。なので一撃二撃(かわ)した程度では攻撃がまないのだ。


「死角を狙うのは基本だからな。まあ、カウンターを食らわせられないのは手痛いけど……!」


『フッ、そうか』


 旅に出ての数ヵ月。それの戦闘経験もあって、相手が何を考えているのか。どのような攻め方で仕掛けて来るのか。そういう事は大体理解したライ。

 しかしその動きの速さと経験の差がライの思考を上回る事は屡々(しばしば)ある。故に、ダメージを負っている状態でテュポーンの相手は少々難しかった。

 ダメージはテュポーンも負っているが、魔物特有の再生力がライを上回っているのだろう。


「考えても仕方ないか!」


 しかしうだうだ考えていても進展はしない。なので持ち前の動体視力に魔王の力を上乗せしてテュポーンの動きを見切り、ほんの少ししかない隙を突く勢いで肉迫する。


「オラァ!」


『完全には回復しないダメージを負ったその身体でこの動きは流石じゃな。だが、やはり徐々に疲労で鈍くなっておる』


「ハッ! 先を読めば遅い動きでもかわせるってもんだ!」


 拳を放ち、それをかわされる。そこにカウンターを放つテュポーンだが、ライは未来予知染みた勘と読みでそれを避けた。

 避けた先には炎が吐かれ、その炎をライは拳の衝撃だけで消滅させる。消滅させたライは炎の隙間を潜り抜け、テュポーンの腹部に掌を構えた。


「そら!」

『……!』


 そして放つ、掌底しょうてい打ち。惑星程の大きさであるテュポーンは光を超えて吹き飛び、残骸を消し飛ばして彼方に向かった。

 吹き飛んだテュポーンにライは追い付き、回し蹴りで方向を変えて吹き飛ばす。


「まだだ……!」


 小さな土魔術で足場を造り、それを踏み砕くと同時に加速して渾身の力を込めた拳を放った。

 テュポーンもそれを巨腕で迎え撃つが、その巨腕を吹き飛ばして巨躯の身体に打ち付けられる。そのまま更なる力を込め、惑星サイズのテュポーンを遥か遠方へといざなった。


『ヌゥ……強力だ……! だが、まだまだだ……!』


「……!」


 吹き飛ぶ途中に巨腕を伸ばし、ライの身体を掠める。まだ数光年も離れていない。テュポーンの巨腕が届く距離で停止したが為にライにけしかける事が出来たらしい。

 掠めた。つまりギリギリでかわしたライはテュポーンに視線を向け、テュポーンは秒も置かずにライに迫った。


『ハァ!』

「オラァ!」


 咄嗟に反応し、拳を放つ。テュポーンの巨腕と衝突して爆発的な破壊を巻き起こし、周囲の残骸も全てが消し飛んだ。

 互いの力による反発でライとテュポーンは弾かれ、即座に体勢を立て直して互いに迫る。


『まだまだ行くぞ……!』

「受けて立つ!」


 両巨腕を伸ばし、それを全て正面から受け止める。一つ一つに銀河系を大きく揺らす程の威力が込められているが、それでもなお受け止めていた。

 グングニルのダメージは抜けていないが、それはテュポーンも同じ。ライとテュポーン。一人と一匹の戦いで塞がり掛けていた傷が再び開き、魔族と魔物の鮮血を周囲に散らしながらせめぎ合う。


「オラァ!!」


 ライが拳を放ち、テュポーンの身体を吹き飛ばす。次いで蹴りを入れ、吹き飛ばしたテュポーンを無理矢理停止させて追撃をけしかける。


『フッ……!』


 それをテュポーンは軽くいなし、巨腕を鞭のように振るってライの身体を逆に吹き飛ばす。受けたライは数万キロ進むが、小さな土魔術を造って足場にし、急停止してテュポーンに肉迫した。


「そらァ!」

『ハァッ!』


 巨腕が放たれ、それをかわす。拳を放ち、かわされ放たれた尾がライの脇腹を打って骨を砕く。砕かれた痛みを意に介さず、ライはテュポーンに迫り蹴りを放った。

 それによって人間の上半身が砕け、蛇の下半身に風穴が空く。即座に再生して翼を羽ばたかせ、一瞬でライから見た真上に移動し炎と猛毒をけしかけた。

 ライは熱と即死の猛毒を正面から消滅させ、上下左右が分からない無の空間だが恐らく上に居るテュポーンに迫る。


『フッ……!』

「ラァ……!」


 その場でテュポーンは再び両巨腕を縦横無尽に振り回し、それを全て見切ったライがかわしながら迫り行く。

 両巨腕に尾が加わり、更なる激しさと破壊力を秘めて無の空間を打ち砕くテュポーン。何もない空間だが、"何もない"という概念すらをも崩壊させているのだ。このままではこの空間も消え去ってしまうだろう。

 それでも一人と一匹による攻防は続き、ライの内臓が傷付き骨が砕ける。テュポーンの腕や尾が引きちぎれ、翼がもがれ肩の蛇達が複数死滅する。

 海のような鮮血を消し飛ばし、更なる破壊を引き起こしてせめぎ合う一人と一匹。ライとテュポーンは全力の力を込め直した。


『フフ……良いぞ、良いぞ侵略者! 実に面白い戦いだ! お陰で余は更なる次元に行けるだろう! 既に次元を超え、更なる先を超える魔王! その存在に追い付け、追い越せるやも知れぬ!』


「そうかよ! 魔物の国の支配者様! だが、俺もこの戦いが終わったらまた一段階成長出来る筈だ……けど、今の俺は魔王の力と同等。成長し切った状態になれる!」


 己の成長を実感し、内に眠る力を引き出す一人と一匹。ライの十割と魔王の十割。そしてテュポーンの本気を超えた先の力。

 ライは今だけ特別に、魔王の十割に匹敵する力を扱えるらしい。それが意味する事はつまり、今後ライが身に付けるであろう力をこの一瞬だけ使えるという事。この戦いが終われば魔王の四割に匹敵する今のライから成長して魔王の五割に匹敵する力を使えるようになるかもしれないが、現在はこの一瞬だけ先に進むらしい。


『ならば見せてみよ、侵略者。いや、ライ・セイブル! 主の持つ本気の力を……!』


「ああ、見せてやるよテュポーン! 今使える限界……魔王と俺の、いずれは全ての多元宇宙を消し去る力を……!」


 無の空間の現在位置。元の世界から数千次元の先。偽りの"世界樹ユグドラシル"からは数百の次元の先。

 つまり、多元宇宙を崩壊させる力も、本当の意味では使えないライならばレイたちの居場所まで巻き込む事は無さそうだ。

 本当のライが目覚めた時、その力は一挙一動で無限を破壊するまでに至る。今のライは、とてつもない力を誇っているが本当の目覚めに比べれば良くて足元以下だ。

 だが、脅威的他ならない事に変わりなし。ライとテュポーン。現在の一人と一匹が放てる全力を相手に構えた。


「オ──────────ッ!!!」

『ハァ─────────ッ!!!』



 ────力を込め、全てを消し去るレベルに高まる。



「──────────ッ!!!」

『──────────ッ!!!』




 ──────そして二つの全力が、




「────────ラァ!!!!!」

『────────アァ!!!!!』





 ──────"無の空間"に広がり、一瞬にして近隣に位置する多元宇宙を消滅させた。





「『──────ッ!!!?』」


 それ程の破壊力を秘めた拳と巨腕。その衝突により、声にならない悲鳴を上げて歯を食い縛る一人と一匹。

 一人と一匹の肉体は内部から音を立ててぜ、肉片と臓物。骨や皮膚を周囲に散らす。


(まだだ……ッ!)

『……ッ!』


 それでもなお思考し、力を込めて互いの力を相殺して消し去り合う。

 次の瞬間に世界が白く染まり、目映い光が周囲を照らす。

 それによって──────



*****



「『────────────』」




 ────一人と一匹の姿が消え去り、目映い空間に飲み込まれた────




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