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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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六百二十五話 ユグドラシルの決戦・決着への一歩

 ──"九つの世界・世界樹ユグドラシル・第二層・巨人の国・ヨトゥンヘイム・研究施設跡地"。


 魔族と幻獣の主力と兵士たちが着いてから数時間。行列も消えており、"ヨトゥンヘイム"の研究施設跡地に残ったのはシヴァたちやレイたちのような主力たちと王であるマルス・セイブルだけとなっていた。

 "世界樹ユグドラシル"の崩壊は現在どの程度なのか分からないが、兵士たちを全員帰せたのは上々だろう。


「さて、残るは俺たちだけだ。元の世界に戻ったらまずは一週間主力が居なかった国の安否を確認。その後で国にてアスワドたちと敵の捜索。やるべき事は多々あるな」


「そうですね。魔族と幻獣・魔物の支配者や幹部が居なかった世界……人間の国が攻めてくるかは分かりませんけど、あらゆる事柄で不安はあります」


「僕たちの街は王政です……住民たちが無事かも気になりますね」


 兵士たちを見送り、自分たち。主力の存在とこれから行うべき事を確認するシヴァと、それに答えるシュタラとマルス。

 心配は無いと思うが、やはり自分たちの国は心配のようである。


『それは我ら幻獣の国にも言える事だな。主力の存在が無いというだけで国に及ぼす影響は大きい。早いところ帰るべきだ』


『そうだな。百鬼夜行や魔物の国の主力達が来ないとも限らない。支配者クラスが相手となると、少々キツいだろう。他の主力が帰るまでは俺とシヴァ殿のような支配者が残っておこう』


 国が心配という事は、幻獣の国にも言える事。ワイバーンが幻獣の国を懸念し、それに同意するドラゴンは自分たち支配者が全員帰還するまで残ると告げた。

 というのも、百鬼夜行や魔物の国の者達はまだこの一つしかない出口に来ていない。なので後々来る可能性もあるだろう。その強さは支配者に匹敵する者も多数存在する。なので残るなら支配者である自分たちが適正と判断したのだ。


「なら、私たちも残るよ! ライの事が心配だもん……!」


「ああ。私たちは協定関係だが、魔族の国や幻獣の国に加盟していない。自分の意思でこの場に残る」


「そうだな。仲間と共に居たいというのは当然の感情だ」


「うん……」


 魔族たちと幻獣たちが帰る準備をする最中、シヴァとドラゴンのように残るとレイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人が名乗り出た。

 残り一人で戦っているライの仲間として、ライが戻ってきたらそれを迎える義務があると考えているのだろう。


「ハッ、その覚悟を無下にするのは無粋だな。俺は構わねェぜ。ドラゴンさん。アンタは?」


『ふっ、良いだろう。俺たちが居るのは他の主力たちが全員帰還するまでだからそれまでなら共に居よう。しかし、危険が迫れば直ぐに戻る事だ。恐らく少年は"世界樹ユグドラシル"が完全に崩壊しても生き延びる。だが、お前たちが崩壊に巻き込まれたらヴァンパイア以外は死してしまうだろうからな』


 名乗り出たレイたちに対し、シヴァとドラゴンは許可を出す。

 国の事もあるので一人と一匹が居られるのは残った魔族と幻獣の主力たち全員が帰還するまでだが、危険が迫ったり完全崩壊が始まったら直ぐに逃げるように告げる。共に戦った中であるライの仲間たち。やはり心配なのだろう。


「うん、ありがとう。シヴァさん、ドラゴンさん!」


 その言葉に礼を言い、ブラックたちのような他の主力たちは次々と出口の穴の中へと入っていく。もう魔力を使用しての拡張は無いが、一人だけしか入れない大きさでも十分に帰る事が出来た。

 巨人の国の"ヨトゥンヘイム"、研究施設跡地付近。シヴァとドラゴンが暫く残り、レイたちは信頼と不安を織り交えた感情でライを待つのだった。



*****



【しゃらァ!】

『なんぞ、その掛け声は』


 魔王ライが片腕の十割を放ち、それを惑星サイズ、本来の大きさであるテュポーンは再生させた巨腕で受け止める。

 その衝撃が無の空間を大きく揺らし、銀河軍団を崩壊させる程の破壊を引き起こした。

 だが、既に魔王ライとテュポーンもオーディンのグングニルを受け止めた時幾つもの宇宙を越える距離移動している。此処ならば全宇宙を崩壊させる程度の攻撃はレイたちに影響が及ばないだろう。

 そう、悪魔で宇宙崩壊程度しかない全力の魔王にとっては本気に程遠い攻撃ならば。

 しかし、魔王にも宇宙崩壊のダメージは通る。ライの身体だったとは言え、実際にシヴァのビッグバン。オーディンのグングニルで致命傷に近いダメージを負ったのだから。


『ダメージと共に、大分疲労も蓄積しているようじゃな。余にはダメージはあれど、絶対に疲れる事はない。決着も見えているようじゃ』


【ハッ、そう簡単に終わらせられるかよ。コイツの身体をこんなにしちまったんだ。責任取って、テメェは倒すぜ?】


『責任……かつての魔王からその様な言葉が出てくるとはの。少年を随分と好いているようじゃ』


【ハッハ! さて、それはどうだろうな?】


 魔術で足場を造る事もなく加速し、テュポーンに迫る魔王ライ

 疲れ知らずのテュポーンはそれを受け止め、再び巨腕が消し飛ぶ。しかし即座に再生し、新たな巨腕を形成して魔王ライの身体を吹き飛ばした。

 それによって何光年も一瞬で進み、吹き飛ぶ方向に回り込んだテュポーンが巨腕を振り下ろして叩き付ける。それを受けた魔王ライは更に加速して吹き飛び、壁に衝突する事で勢いを弱めた。


『……! ほう? 侵略者は魔術をそれ程上手く使えなかったが、主は使えるようじゃな。魔王』


【ああ。俺の意思だからな。この魔術は俺の力だ。まあそれはコイツにもそれ程の潜在能力があるって事だが、これくらいなら簡単だ】


 ──そう、巨大な。惑星。恒星程に巨大な壁にぶつかって。


 曰く、ライの意思では使えないが、ライの潜在能力を解放すれば恒星などを形成する事も可能という事。

 今は魔王の十割を纏っているので、魔術の精度も飛躍的に上昇しているのだ。


【……ッ。ボロボロの身体にゃ効くな、テメェの巨腕もよ】


『フッ、主の拳もな。当然か』


 だが、悪魔で魔王の意思での十割。つまり、魔法や魔術は世界が消え去る程のものも簡単に消し去れるが、肉体的。物理的な力はライ程抑えられないようだ。

 以前にシヴァと戦った時、三叉槍トリシューラをシヴァは使った。その三叉槍トリシューラはライならば無効化までにいかないにせよダメージを抑えられた。しかし魔王が受けていたら危険だった。

 つまり、物理的な攻撃は十割のライならば大したダメージは負わないが、現在の常人や達人クラスでも死する程に負傷した身体でテュポーンの巨腕を魔王が受けるのは少々大変なようだ。


【拳だけじゃなく、足もそれなりだぜ?】

『……ッ!』


 恒星サイズの壁を蹴り砕く勢いで跳躍加速し、惑星サイズのテュポーンの腹部に蹴りを放つ。それを受けたテュポーンは吹き飛び、そのまま魔王ライがテュポーンの身体を貫通した。


『フフ……確かにそれなりじゃな!』

【……ッ!】


 瞬間、貫通してテュポーンの背後に向かった魔王ライにテュポーンは尾を巻き付け、蛇達の猛毒と己の吐く炎をけしかけた。

 そのまま炎と毒に飲まれた魔王ライを投げつけ、巨腕で連続した突きを放つ。そのまま叩き付け、最後に一本の巨腕で魔王ライを打ち抜き再び遠方へと吹き飛ばした。


【ああ、テメェの拳もな!】

『そうか!』


 魔王の拳とテュポーンの巨腕の先端がぶつかり合い、再び銀河軍団を消し飛ばす程の破壊が巻き起こる。次の瞬間に尾が魔王ライの脇腹に打ち込まれ、数光年を吹き飛ぶ魔王ライ

 再び魔術で恒星サイズと厚さのある壁を形成して防ぎ、その恒星をテュポーンに投げつけた。


『投石……いや、投星か。余の身体よりも巨大な物を投げてくるのはな。今までにそんな者は多分居なかったぞ』


【ハッ、テメェの大きさに合わせてやったんだ。感謝しろよ】


『そうじゃな。しかし、ちと小さい気もするが』


 対するテュポーンは片手を突き出し、恒星サイズの壁を一撃で粉微塵に粉砕した。

 その欠片一つ一つも惑星や月。衛生のような大きさを誇っているが、その程度は問題無く砕き防ぐ。さながら小惑星帯のような弾幕を抜け、魔王ライはテュポーンの眼前に迫っていた。


【この身体じゃ、テメェの全体を見渡しにくいな。気配で位置は分かるが、なんかやりにくいぜ】


『下らぬ戯れ言を。主の世界に帰ったら周りを見渡してみろ。今の余は主の住んでいる星その物の大きさじゃ。家や城の全体をも見渡せぬ主からすれば、余の強大さがよく分かるだろう』


【よーく分かったぜ。まあ、攻撃する分にゃ、まとがデカイからこそ適当に放っても当たるから便利だがな】


『フッ、余の速度を侮っておるな? 何も光を超えるのは余の腕や尾だけではない』


 刹那、魔王ライの眼前に居たテュポーンが消えた。光を超えた速度で移動したのだ。

 しかし魔王ライはテュポーンを目で追う事も出来る。故に、テュポーンの移動した先を理解し、背後から迫る巨腕を一瞥も向けずにかわした。


【デカくて速い……まあ支配者なら妥当だな。俺の時代の支配者もそんな感じだった。宇宙くらいは簡単に破壊してくれなきゃならねェからな】


『主の時代の支配者か。フム、興味ないな。今の支配者は余だ。主がかつての支配者を抑えて魔王と呼ばれていたとしても、関係の無い事よ』


【ああ、その通りだ。全く関係ねェ。気が合うな、魔物の王】


 互いに言葉を交わし、刹那に光の領域を数段階以上超越して迫る魔王ライとテュポーン。魔王(元)の居た時代にも支配者制度はあった。その時の支配者と比べ、どの程度かを図っているのだろう。

 それに対するテュポーンの一蹴に笑い、再びけしかける。


『昨日は気が合わないと言っていたが……矛盾しているの』


【当たり前だ。俺は封印されても日々成長し続けるからな】


 そんな魔王ライを迎え撃ち、せめぎ合う中で前日の言葉と照らし合わせて矛盾点を指摘する。魔王(元)はもう一度笑い、常に進化し続けるのが魔王であると告げて拳を放った。

 それをテュポーンは受け止めて炎を吐き付け、魔王ライが片足で消し飛ばす。そこに肉迫し、両巨腕と尾を放った。


『そうか、ならばその成長速度に追い付かなくてはならないのう。恒星サイズを目指すか』


【ハッ、その大きさで宇宙を滅茶苦茶に出来るテメェが更なる成長を……ねェ? そいつは見物みものだな】


 常に成長するというライの身体を借りている魔王に対し、それに追い付くと告げるテュポーン。瞬間、更に巨大な巨腕が魔王ライに向けて放たれた。

 それを魔王ライかわし、両手に二つの恒星サイズの岩石を造り上げて放り投げる。

 投げられた恒星は光速以上で進み、その二つをテュポーンが正面から砕き防ぐ。気が付けば、無の空間の周囲には先程から幾つか放った恒星サイズの壁や岩石の欠片が漂っていた。

 元々は何もなく虚しい空間だったが、魔王によって様々な物質が姿を現したと見て良いだろう。


『その程度か? 侵略者よりは魔術も巧みに扱えるみたいだが、まだ魔族の支配者の方が上の魔術だ』


【魔術は専門外だからな。だが、これは悪魔で目眩ましだ。流石にこの身体じゃコイツが死んじまう。だから、回復する為に時間を稼いでいた次第よ】


 そして見せる、無くなっていた片手。傷からの出血も収まっており、まだかなりのダメージは残っているのだろうが生きているレベルの重傷に変わっていた。

 元々精神と膨大な力の塊しかない今の魔王(元)ならば十分ではないにせよそれなりに戦えるが、ライに精神を委ねた時ライが死んでしまうかもしれない。なので激痛は残っているが死なない程度の治療を済ませたようだ。


【まあ、これでお前が死ぬ事はねェだろ。後はまあ、お前の気分次第で俺と変わるかどうかって事だな。コイツは魔法や魔術の異能じゃなくて物理的な力がメインだ。肉体があった全盛期の俺なら問題無く戦えたが、今のお前の身体じゃこの程度で疲労が募る】


(そうか、ありがとう。魔王。そうだな。じゃあ、シヴァの時みたいにお前じゃなくて、俺としての十割を使うか。一回しか使っていないが、一回使えたならもう一回使える筈だからな。お前が協力すれば)


【ハッ、分かったぜ】


 そして精神世界に入り、テュポーンを横に会話するライと魔王(元)。

 この空間では長々と話しても現実時間では一瞬も経過しない程だが、本気のテュポーンが相手では話せる事も限られているだろう。

 なので魔王(元)は死なない程度の治療を終えた事といつでも変われる事を話、ライがそれに返していた。

 魔王の力を借りない素のライでは魔王の四割に匹敵する力が限界だが、魔王を十割纏った状態で使えば肉体的な労力はかなりのものになるがライとしての十割を使えるようになる。

 つまり、今のテュポーンが相手ならば魔王(元)よりもライが適正と判断しての治療だったのだ。


『来ぬのなら、此方から攻めるぞ、魔王!』


 会話が終わった瞬間、つまり現実時間の一瞬未満の刹那。"ライ"に向けてテュポーンが肉迫し、加速を付けて巨腕を放つ。それをライは片手で受け止め、テュポーンの巨腕を駆けながら一言。


「今の俺は、侵略者の方だ! テュポーン!」


『……!』


 そのまま回復した拳を放ち、テュポーンの惑星に匹敵する巨躯を周りの物質ごと数百光年吹き飛ばすライ。

 思わぬ一撃にテュポーンは顔をしかめ、己が炎を吐いて翼を羽ばたかせ、そのまま勢いを殺した。そして数百光年を一瞬で詰め寄り、眼前に迫るのはライの姿。


『成る程のう。魔王との戯れは終わりか』

「ああ。ある意味、これからが本当の戦いだ!」


 勢いを付けて放たれた拳をテュポーンは片腕で防ぐ。その衝撃で再び銀河軍団破壊の衝撃が周囲を迸った。

 テュポーンはそれを意に介さず、巨躯の上半身にある目をライに向けて言葉を続ける。


『ならば、余も本気……限界を超えた力でお主を捻り潰そうぞ。侵略者!!』


「望むところだ、テュポーン!」


 身体に走る激痛をこらえる為に、気を紛らわせて大声を出しながらテュポーンに迫るライ。テュポーンもそれに答えるよう、本気の先にいく為ライの事を迎え撃つ体勢に入った。

 ライとテュポーンの織り成す、最後の決戦。この決着によって決まる"終末の日(ラグナロク)"。

 一人と一匹の決戦は、複数の宇宙分の距離を離れた場所にて終焉に一歩足を踏み入れるのだった。

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