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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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六百二十一話 出口部隊の合流・支配者との戦い

「見えたぜ。シュタラたちだ!」

『よし、分かった!』


 觔斗雲きんとうんに乗って数分。ブラック、モバーレズ、孫悟空、フェンリルの三人と一匹は先に進んでいた部隊の元へと辿り着いた。

 本来ならば孫悟空の言ったように秒も掛からずに到達出来たのだが、取り残された者たちが居ないかを確認する為にかなり遅めの速度で進んでいたのだ。

 しかし取り残された者などはおらず、速度を緩めても数分で到達出来た。


「あれは……皆様! ブラックさんたちが戻って来ました!」


 そのブラックたちを前に、シュタラが声を張り上げると同時にそれにつられて他の者たちも視線を上げた。その直後に觔斗雲きんとうんから降り立ち、シュタラたちの前へと姿を現す。


「兵士たちの数も大分減ったな。後少しか」

「ええ。ブラックさんたちも御無事で良かったです」


 降り立ち、周りを見渡して兵士たちの数を見ながら状況を確認するブラック。シュタラはそれに返答し、続くようモバーレズ、孫悟空、リルフェンも降り立った。


「おう、モバーレズ。お前も無事だったか」

「うす。シヴァさんも無事なようで」

「ハッハ。たりめーだろ。支配者だからな」


支配者それはあまり関係無いと思うが……しかしまあ、斉天大聖もフェンリルも大した怪我を負っていなくて良かった』


『ああ。身体は頑丈だし、向こうもあまり力を入れてなかったみたいだからな』


「てか、ドラゴンさん。今の俺は一応人化しているんだからリルフェンって呼んで欲しいものだ」


 シヴァとドラゴンが自分の部下であるモバーレズ、孫悟空、リルフェンに近付き、無事を確認して一先ず安堵する。元々それ程心配もしていなかったので、簡単な反応だ。

 この様に、研究施設跡地の出口穴前にはライを除いた全員が揃った。そこへ、ブラックたちに向けて近付く五つの影が映り込む。


「ブラックさん。ライはまだ来ていないの?」


「ん? ライの仲間の女剣士たちとキュリテか。ああ、そうだな。斉天大聖に頼んで此処まで少しゆっくり来たが、取り残されている兵士やライの姿は確認出来なかった。気配も集中したが、気配すら掴めねェ位置にいるんだろうな」


「そう……」


 レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの五人である。

 レイたちはライの事が気になって来たらしいが、気配らしい気配も無く姿も無かった。なのでライはまだずっと離れた場所に居るのだろうと返す。

 それを聞いたレイは肩を落とし、少しだけ思い詰めた表情となる。ライならば無事であると頭では理解しているのだが、相手が相手。不安なものは不安なのだろう。


「そう気を落とすな。レイも分かっていると思うが、ライならば大丈夫だろう。問題は決着が付くまでこの出口が消え去らないかだ」


「うん……」


 不安そうなレイに対し、なだめるように話すエマ。本来の宥めるとは少々意味合いは違うが、何はともあれライならば問題無いという確信があった。

 レイはまだ不安そうな表情を浮かべているが、ある程度は納得したのだろう。静かながらに頷いて返した。


「一先ず、事は済んだみてェだな。まだ妖怪達は残っているし、多分コイツらを片付けてたんだろ? さっさと後始末するか」


 場を確認し、レイが落ち着いたところで近くに居たブラックは周りの妖怪達を見て先を促す。今の主力たちは他の兵士たちを出口から安全に脱出させる為の掃除をしなくてはならない。

 なのでそれを理解したブラックが実行に移った。


「そういう訳だ。ライも心配だが、私たちも先ずは他の者たちの手伝いをしよう」


「ああ。レイ、リヤン、キュリテ。行くぞ」

「うん」

「心配だけど……多分大丈夫……」

「はーい。エマお姉さま」


 そのブラックに続き、妖怪達を払いける行動に移るレイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの五人。

 フォンセが先に向かい、エマの言葉に頷いたレイ、リヤン、キュリテもそれに続く。巨人の国"ヨトゥンヘイム"。その研究施設跡地にある出口前。合流したブラックたちを加え、更に兵士たちの世界移動は加速していた。



*****



「オラァ!」

『フッ……!』


 戦闘が始まってから数十分。依然として魔王の力を纏うライと身体の大きさが更に倍になったテュポーンの戦いはまだ続いていた。

 レイたちの居る"ヨトゥンヘイム"からは数十光年まで離れており、ライが拳を放ちそれを受け止めたテュポーンが恒星程の範囲を消滅させる。見たところ、まだオーディンは来ていないようだ。


『この場所でもまだ力は上げぬか。者達の場所からは随分と離れたようじゃがな』


「ハッ。今の俺が纏っている魔王の力からしても、一挙一動で銀河系程の範囲は消滅しちまう。今の"世界樹ユグドラシル"がどれ程の範囲かは分からないけど、銀河系一つ程度の範囲でも大打撃を与えちまうだろ?」


『フム、確かにそうじゃがつまらぬのう。楽しみたいから機嫌が良いものの』


 巨腕を光を超えた速度で放ち、それを紙一重でかわすライ。次いでもう片方の巨腕と背後から巨尾が迫り、ライはそれらも容易く避け切った。

 現在のテュポーンの機嫌が良いのは、ライとの楽しみがあるから。故に、テュポーンも理解している理由があるとはいえ手を抜いている状態のライを相手にするのは退屈なのだろう。


「俺的には、アンタの機嫌が悪くなってくれた方が助かるんだけどな。冷静だからこそやりにくい」


『それを知って腹を立たせる訳にもいかぬだろう。余は楽しみたくて戦っておるのだからな。余が不機嫌になってこの世界を壊してしまえば元も子もありゃせんわ』


 テュポーンは、純粋に戦いを楽しみたい様子。なので、機嫌が悪くなる事で残り僅かなこの世界を砕いてしまう事も有り得る。

 テュポーン自身はそれでも良いという心境だが、ライがそれによって調子を崩す可能性もある。なのでしているのだろう。


『まあ、それによって主が本当の意味での本気になれば面白いが……世界征服という面白そうな目的を達成しなくなるのも問題じゃからな』


「ハッ、御気遣い有難う御座います。テュポーン様」


『皮肉と挑発を織り交えているようだが、敢えてこう返そう。感謝するが良い』


 ライが調子を崩す可能性と同時に、ライが怒りで更なる力を身に付ける可能性も、当然ある。

 しかしライの目的である世界征服とやらを見届けたい気持ちもあるらしく、暫くテュポーンが不機嫌になる事は無さそうだ。だがそれはテュポーンが負けなくては達成されない目的。テュポーン自身、ライに勝てるのか分からないようだ。


「感謝の印に、拳をやるよ」

『有り難く頂こう』


 一閃。光を超えて加速したライが巨大化したテュポーンの懐へと迫る。それをテュポーンは両巨腕で防ぎ、ライの身体を固定した。その拘束はライならばぐに薙ぎ払えるが、それによって一瞬だけ隙が生じてしまう。そこを突かれ、ライの腹部に尾が突き刺さった。


「……ッ!」


 それを受けたライは"世界樹ユグドラシル"の大地を抉りながら吹き飛び、通常サイズから惑星サイズまで、様々な大きさの山を貫いて砕き一際大きな山に衝突して崩落する山の土塊等を全身に受けた。

 しかし土塊を即座に払い除け、眼前に迫っていた二つの巨腕と一つの尾を跳躍してかわす。それらは土塊を吹き飛ばし、何百キロも先まで進んでいった。


『ハッ!』

「そらっ!」


 そこに向けて炎を吐き付け、ライが拳の風圧で掻き消す。同時に大陸の何倍もの巨躯でのし掛かり、それを片足で受け止めて天空へと吹き飛ばした。

 テュポーンの重さは既に山の重さである数兆tを遥かに超越しており、数京t、数垓tのいずれかに達している事だろう。

 流石にまだ垓までは到達していないかもしれないが、要するにライは凄まじい重さのテュポーンを天空へと蹴り上げたという事だ。


『フム、他人の手……いや、足によって空を飛ぶというのはこういう感覚なのかもしれぬな。空に蹴り上げられた事なんぞ無かった』


 そこは数万キロ程の上空。ライから見て、その巨躯がてのひらサイズにしか見えない程の位置に居るテュポーンが呟くように話す。流石にこれ程の距離では声も届かないので、単なる独り言だろう。

 大気圏よりも遥か上空。そこに居るテュポーンは"世界樹ユグドラシル"にも存在している重力に引かれ、隕石の如く速度と破壊力を秘めて落下する。

 仮に今のテュポーンが隕石ならば、大陸の何倍もの大きさの隕石。ライたちの星なら問題無さそうだが、常人程の実力者しか居ない惑星ならばその人類史は終焉を迎える程の破壊力だろう。


「オラァ!」

『……!』


 そんなテュポーンに向け、ライが下方から加速して近付き拳を放つ。それによって更なる上空へと吹き飛ばされ、元々第三層の世界があった土塊が複数浮いて漂っている場所に到達する。

 グラオの創った"世界樹ユグドラシル"なのでどういう理屈かは分からないが、世界が砕かれてもその欠片は空中に浮いているらしい。その部分だけ無重力なのか気になるところだ。


『かなり上空まで来たな。幸い、足場はあるようじゃ』


「ああ。そうだな」


 土塊の大きさは、小粒程の物から星一つ程の物まで多種多様。テュポーンにとっての少ない足場は不利かもしれないが、別に高所から落ちても問題無いので足場だけで戦況が有利になるとも限らないだろう。元々テュポーン自身も翼で飛べるので大した差にはならない。

 そして次の瞬間、その足場が消し飛んでライとテュポーンが正面衝突した。その衝撃が周りに漂っていた土塊を全て消し飛ばし、一人と一匹の身体も吹き飛ばす。

 ライとテュポーンは数万キロ程土塊群の中を進み、空を蹴って体勢を立て直しそのまま再び相手に向けて駆け出した。


「足場なんて、あって無いような物だな」

『そうだな。それには同意よ』


 一瞬にして距離を詰め、ライの小さな拳とテュポーンの巨腕が激突する。それによって再び爆発的な衝撃波が広がり、既に消滅している第三層の世界を大きく揺れ動かす。

 今度の一人と一匹は吹き飛ばず、ライが巨腕に乗って踏み込む。その衝撃でテュポーンの巨腕の片方が勢いよく下方に飛ばされるが、テュポーン自身は微動だにせず眼前に迫るライへと視線を向ける。


態々(わざわざ)余の腕を駆けるとはの。まとが自分から駆け上がって来ているようなものだぞ』


「ハッ。的もずっと止まっているのは飽きるだろうからな。俺は近付きつつかわす的だ!」


 巨腕を駆けるライに向けて炎と毒。もう片方の巨腕と下半身の尾を放ったけしかけるテュポーン。

 ライは正面から迫る炎を拳で払い、迫る毒を回し蹴りの風圧で消し去る。そして左右から挟むように迫る巨腕と尾は跳躍してかわし、次いで尾に足を踏み込んで一気に眼前へと迫った。

 現在は光を超えた速度で駆け上がっているので、大陸よりも巨大なテュポーンの身体とてライが駆けていたのはコンマ一秒以下の更に短い時間である。そんな限りなくゼロに近い時間だが、手加減している状態にしてそんな短時間でこれ程の攻防を繰り広げる一人と一匹の実力は底無しの脅威だろう。


「オラァ!」

『……!』


 そしてそんなテュポーンの、人間の上半身と蛇の下半身の境目である場所にライは拳を放ち、それを受けたテュポーンが一瞬にして数光年吹き飛んだ。

 そこから更に追撃を加えるよう、数光年の距離を一瞬にして追い付いたライは一回転して威力を高めたかかととしを放つ。それによってテュポーンの巨躯は勢いよく落下し、既に消滅した第三層の世界を突き抜けて第二層へと到達し、そのまま更に下へと落下して第一層も抜け、泉地帯があった場所に到達した。

 テュポーンの落下地点には既にライがおり、己の蹴りで光を超えた速度で落下するテュポーンを蹴り上げて無理矢理停止させる。次いで腹部目掛けて拳を放ち、残骸の土塊を突き破りながら遥か彼方へと吹き飛ばした。


『何のこれしき……!』


 光を超えて吹き飛ぶテュポーンは巨腕と巨尾。炎をもちいて障害物の少ない"無"の空間で停止する。そして迫るライを見つけ出し、ライの身体にそれなりの威力を込めた巨腕を叩き付けた。


「……ッ!」


 その巨腕を受けたライは小さく吐血して飛ばされ、シヴァの創った銀河系にまで到達して複数の惑星恒星を砕き、最大級の恒星にぶつかって静止した。


『フフ。ようやく面白くなってきたのう。力がこの数十分の中では一番強くなっておる。まだ手加減をしているようだが、そのうち全力を解放するのか』


「ハハ。どうだろうな。レイたちや兵士たちが何人帰ったのかも分からないし、確信を得るまでは本気になれないや」


 一連の攻撃を見て少しは力を出した事に対して笑うテュポーンと障壁となった恒星から抜け出し、口元の血を軽く吐き捨てて話すライ。この数十分程度ではレイたちや兵士たちが全員帰っている訳が無いと理解しているので、本気を出すに出せないようだ。


『ならば、もう暫く準備運動を続けようか。そろそろ"世界樹ユグドラシル"の主神も来そうだがな』


「ああ、そうだな。オーディンが来てくれれば俺の負担が増えるけど、テュポーンを相手にするという俺の負担が減る……それまで時間を稼げるといいな」


 そろそろオーディンが魔物の国の主力達を倒したと推測しつつ、まだ現れぬオーディンの存在を考慮するライとテュポーン。その存在が現れる事は利点も不利点もあるので、可能性として考えていた方が良いと一人と一匹は理解しているのだろう。

 ライとテュポーン。そして来るかもしれないオーディン。"世界樹ユグドラシル"にて行われる"終末の日(ラグナロク)"の最終戦闘。その戦いも、まだまだ続くのだろうが着実に決着へと向かって進んでいた。

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