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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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六百十四話 魔族と幻獣、百鬼夜行の戦い

 エルフ族であり、幻獣の国にて幹部を努めるナトゥーラ・ニュンフェは長蛇の列が作られている"ヨトゥンヘイム"の街を疾風のように駆け抜けていた。

 後方の部隊に百鬼夜行が攻めて来た事を伝え、先を急ぐように促すのが目的である。

 今回は武器として弓矢を手に持ち、剣術や魔法を使う為のレイピアは腰に携えている。後方の場所にも百鬼夜行の妖怪達がおり、弓矢で射抜いて敵の戦力を削ぎながら進んでいた。


「皆さん! 周りに居る妖怪達を見ての通り、百鬼夜行が現れました! 速度を上げ、この世界からの脱出口に急いで下さい! 百鬼夜行の主力達は我ら幻獣と、その協定関係にある魔族の幹部たちが相手をしています! 妖怪達を払いけつつ、真っ直ぐに!」


「「「オウ!」」」

『『『ハッ!』』』


 後方に向かいつつ、中軸の者たちにも指示を出す。それに反応を示した兵士たちは返事を返し、己の速度を上げて進んで行く。

 その間にも周囲に居た妖怪達を打ち倒し、兵士たちの逃げ道を切り拓く。


「テメェら……ダルいが……百鬼夜行が現れた。さっさと急げ」


「ダークさん。多分その声じゃ聞こえませんよ。皆様! 百鬼夜行が現れました故に先を急いで下さい!」


「おお……シュタラ……。お前も先頭部隊か……」


「ええ。何人かの兵士を創りましたから、全体に兵士を向かわせています。それで、私自身は先陣の先導をしているという事です」


 ニュンフェが後方部隊の兵士たちに注意を促す一方で、先頭方面ではダークとシュタラが兵士たちに指示を出していた。

 数万人と数万匹居る兵士たちの列は、昨日のうちに半分が帰ってもかなりの数残っているので数キロ先まで続いている状態である。

 そんな数を先導しなくてはならない。なので兵士を創れるシュタラが先陣に向かっているのだ。他の主力も居るが、状況をいち早く理解しているのが中軸部隊という事である。


『見れば、まだまだ妖怪達の群れが居ますね……。シュタラさんの創り出した兵士たちや、孫悟空さんの分身が主力以外を相手取っていますが……果たして皆さんは逃げ切れるでしょうか……』


 先頭部隊とも後方部隊とも中軸部隊とも取れぬ上空にて、戦況を見極めていたフェニックスが思考するように呟く。

 百鬼夜行。今は昼間であるが、"百鬼"の名が示す通り妖怪達は多数存在する。それに加えて妖怪は、生物兵器程では無いにせよ肉体も強い。再生力などが高いのだ。此方こちら側の主力ならば簡単に払い除けられる相手だが、兵士たちは少々苦労する事だろう。


『物陰にも何匹か妖怪達が潜んでいますね。この数、確実に百以上居るみたいです……』


 飛び回り、戦況を確認すると同時に炎で妖怪達を焼き払うフェニックス。もう既に崩壊途中の"世界樹ユグドラシル"で、加減する必要など無い。なので建物などにも構わずに炎を放っているのだ。

 慈愛も象徴とされるフェニックスだが、今回は悪魔としての面が大きく出ているのかもしれない。


「アイツらが行ったから……報告は問題無さそうだな。後はあまり負傷しねェように逃げ切れるかどうかだな」


「ハッ。逃げるってのはしょうに合わねェが……今回はしょうがねェな。うか、酒呑童子しゅてンどうじの腕も治ってやがる」


『ブラック殿の腕が治ったからな。リヤン殿のように触れただけで全てを治す程の特殊な力が無くとも、敵には様々な妖術を使う九尾の狐も居る。全知全能を求めるリッチも居た。何ら不思議では無いな』


『そうだな。敵も回復済み……まあ、今回は倒さなくても良い戦いだが、そうだとしても厄介な敵である事に変わりはないか』


 ブラック、モバーレズ、フェンリル、孫悟空が百鬼夜行の主力を見て話し合い、相手の出方をうかがっていた。

 別に今すぐけしかけても良いのだが、兵士たちが逃走を終える時間を稼ぎたいというのも一つの意思。それに加え、いきなり攻めても利点は少ない。なので様子を窺いつつ警戒しているのだ。


「警戒しているようじゃの。まあ仕方無い事か。見たところ、兵士たちを何とか元の世界へ戻る穴に連れたいようじゃからな」


『そうだな。しかし、あの侍とまた相見あいまみえる事になるとはな』


『私が戦った者は別の場所に行ってしまったな』


わらわの相手はリッチに連れ去られてしもうた。まあ、リッチはわらわの封印を解いてくれたからのう。連れさらった事への文句は言わぬ』


 ぬらりひょん。酒呑童子しゅてんどうじ。大天狗。九尾の狐玉藻(たまも)まえ

 計三人と一匹の百鬼夜行の主力達は、魔族と幻獣たちの様子を見てブラックたちと同様、相手の様子を窺う。下手に動けば攻められると分かっているからだ。


「……」

「……」


 体感数分間。実際の時間数秒。ブラックたちと百鬼夜行はその数秒間黙って睨み合い──次の瞬間にその均衡は破られた。


「向き合っていても始まらねェか……"高速の剣スリート・エアリア・セイフ"!」


 ブラックが一瞬で魔力を込め、通常の剣魔術よりも遥かに速度のある剣魔術を放った。

 高速の剣魔術は空気を切り裂きながら進み、瞬く間にぬらりひょん達を切り刻む。そして剣魔術の弾幕が晴れた時、百鬼夜行の主力達の姿は無かった。


『攻めて来たか。しかし、大した速さでは無いな』


「……!」


 気付いた時にはブラックの背後に刀を構えた大天狗が来ており、その刀を振るう体勢となっていた。それをブラックはギリギリでかわし、剣魔術を複数放って牽制しつつ周囲を警戒する。

 そして、九尾の狐はフェンリル。酒呑童子しゅてんどうじはモバーレズ。ぬらりひょんは孫悟空と向かい合っている事が分かった。


「また、俺の相手はテメェか。酒呑童子しゅてンどうじ……!」


『なに。今回は決着を付けないつもりなのだろう? 我らは優秀な者をさらうという目的があるが、決着を付けないつもりならば少々キツい鍛練と同じよ』


 酒呑童子しゅてんどうじが巨大な刀を振るい、それをモバーレズが一本の刀で受け止める。その衝撃によって足元には小さなクレーターが造られており、もう一本の刀で酒呑童子をは弾き飛ばした。


『狐と狼。種族は同じ犬族じゃな。わらわ其方そちが好みじゃ。仲良くしようぞ、巨狼よ……』


『断ろう。種族は同じと言えど、幻獣と妖怪。俺達は始めから相容れぬ存在だ』


「ホホ。つれないのぅ……。妖怪も一説では幻獣の仲間じゃ。幻獣と魔物。決まった種族が無いが故に、どちらにもなれる」


『ならば、お前を中心に世界が廻っているかのような態度は止めるんだな。上から見るな』


『そうかの? じゃが、わらわは基本的に失敗した生涯を送っとらん。何度か封印されたり、傷付く事もあったが、現状に満足しているからの』


 炎を放ち、九尾の狐を狙うフェンリルと妖力からなる壁でその炎を防ぐ九尾の狐。そのまま妖力を固めて球体とし、一気にフェンリルへと放った。

 魔族に合わせた大きさだったフェンリルはそれらの球体を全て見切って避け、徐々に身体を巨大化させて九尾の狐へけしかける。


「フム、ワシの相手は主か。斉天大聖よ。かつて単体で天界に勝負を挑み完膚無きまでに敗北したお主が、今では天界に仕える聖者とはの。生きているのか死んでいるのか分からぬが、この世は何が起こるか分からぬものよ」


『そうだな。だが、案外他人に仕えるってのも悪くねえぜ? 御師匠さんと旅した時から、そう思い始めたのかもしれねえや』


「そうか。本人が悪くないと思っているのなら余計なお世話じゃろう。ワシは爺じゃが、今のは老婆心というやつじゃ」


『じゃあ爺さん。テメェはさっさと隠居生活を満喫してな。この世を生きてもう長いだろ!』


「フッ、年齢としなどうに忘れたが、ワシとお主は同じくらいの年齢じゃろう」


 亜光速で伸びる如意金箍棒にょいきんこぼうを放ち、ぬらりひょんはそれを刀一つで受けていなした。そのままぬらりくらりと揺れるように動き、一瞬にして孫悟空の前へと姿を現す。

 それを見た孫悟空は飛び退いてかわし、近くの建物の上に登って距離を置く。


「ほれ、こっちじゃ」


『……! 見切れねえ? おかしいな。"正見の術"を使っている筈なんだがな……!』


 距離を置いた瞬間に現れたぬらりひょん。孫悟空は即座に周囲へ如意金箍棒にょいきんこぼうを払い、その高さの位置にある半径数百メートルの建物を砕いてぬらりひょんに視線を向けた。

 そこにぬらりひょんはおらず、次の瞬間に気配を感じた背後へ如意金箍棒にょいきんこぼうを払い、振り下ろされた刀を受け止めた。

 それによって甲高い金属音が響き渡り、空気が痺れるように振動する。その衝撃で足元から建物に亀裂が入り、二人を中心に音を立てて崩れ落ちた。避難途中の兵士たちもまだ居るので、あまり大きな被害が出ないように気を付けたいところだ。


「お前たち! 主力の皆様が戦っているうちに早く!」


「ああ! 主力以外の妖怪ならば簡単では無いにせよ払える。矢や銃。大砲など、なるべく近付けさせるな!」


「「「おおお!!」」」

『『『おおお!!』』』


 主力たちの一方では、魔族と幻獣の兵士たちが投擲武器をもちいて妖怪達を相手にしていた。弦の引く音や銃声。砲撃音などが響き渡りたちまち黒煙が立ち込める。

 しかし避難している兵士たちには返って好都合。気配を感じる力が弱い主力以外の敵が相手ならば黒煙に紛れて逃げる事が出来るからだ。


「兵士達は逃げ行くか。まあ、良いじゃろう。元より眼中にない者達じゃ」


『そうか。にしても、他の幹部に比べたら大した事が無さそうなテメェだが、やっぱ並み以上の実力は持ち合わせているんだな』


「伊達に総大将はやっておらんからの。これでも全盛期に比べたらかなり衰えておる。妖力は全盛期以上じゃがな」


『それが妖怪だ。歳を取れば妖怪も人間も魔族に幻獣・魔物も力は衰えるが、人間・魔族の武人が老獪ろうかいな熟練者になるように、妖怪は妖力が上がるんだ。……ま、老獪な熟練者になるのは幻獣・魔物も同じだけどな』


「フフ……当然知っておるわ」


 崩れた建物の瓦礫から立ち上がり、黒煙に紛れて逃げる兵士たちを見届けるぬらりひょん。どうやら兵士は狙わないようだが、やはりかなりの実力者らしい。

 力こそ全盛期よりも劣ると述べたが、妖力は高い。"猫又"などのように歳を取れば妖力が高くなる妖怪も存在する。なので現在のぬらりひょんも妖力が上昇しているのだ。

 人間でも魔族でも、歳を重ねた熟練の達人は経験から高レベルの巧みな技を繰り出す事が出来るようになる。人間・魔族には無い妖力を扱う妖怪だからこその力だろう。


「さて、少し長話が過ぎたようじゃ。戦いはまだ終わらんようじゃからの。行くぞ、小童こわっぱ……!」


『年齢が同じくらいってテメェが言ったんだろ、ジジイ!』


「主こそ儂を爺扱いしとるじゃないか」


 妖力を込め、切れ味と強度が上がった刀を振るうぬらりひょん。孫悟空は如意金箍棒にょいきんこぼうでそれを受け止め、建物の瓦礫が二つの衝撃で消し飛ぶ。それによって主力ではない妖怪達も吹き飛び、魔族と幻獣の兵士たちは凄まじい風圧に押されながら先を行く。

 妖怪と魔族・幻獣。その主力たちが織り成す戦闘は、更に激しさを増していくのだった。

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