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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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六百十一話 ラグナロク・七日目の戦い

「……また、戦いが始まったか」


 七日目が始まった世界にて、"世界樹ユグドラシル"の主神であるオーディンは遠方を見渡す魔術を使い"世界樹ユグドラシル"全体を見渡していた。

 昨日さくじつの戦いによって自身は負傷し、グングニルの槍も傷付いたが既に回復は終えている。


「そして今回は、どうやらエラトマを連れる少年もやる気のようだ。長期戦を見据えてまだ力は抑えているが、本気で征服を達成させるつもりだろう……。益々(ますます)エラトマに近付いている……これは危険かもしれないな」


 自分以外は誰も居ない場所にて呟き、ライの行く末を懸念する。

 世界征服が目的の時点で魔王に近かったが、それが現実となる事で更に近付く。主神として、それを見過ごす訳にはいかないのだろう。


「幸いかどうか、カオスはこの世界から消えた。ロキは何処かで蘇っている途中か……敵が二人減ったとなればまだやり易さも見えてくる。となると、事は急いだ方が良いかもしれないな」


 オーディンからしても、グラオとロキが居ない事は有り難いらしい。それもそうだろう。自分と同じような力量を誇る存在。それを何人も相手にすれば、流石の主神も敗北する可能性が出てくる。それはオーディンのみならず、ライやグラオ、シヴァ、ドラゴン、テュポーンなど全員に当てまる事だ。

 そんな脅威的な存在が一人居ない。その利点はかなりある。


「……さて、私も戦争におもむくか。元々戦闘も苦手ではない。今日こそ打ち仕留め、エラトマを少年の身体から追い出してみるか」


 オーディンには、天候神や全知全能のみならず軍神・戦神という一面もある。なので戦闘も得意な事の一つだった。

 その実力は昨日の戦いで明らか。魔物の国全てを相手にしているライからすれば、オーディンの参戦は有利と不利。どちらに転んでもおかしくない事だ。

 殺意もなく、悪魔でライから魔王を追い出して脅威を取り除く事が目的のようである。


「……」


 そのままこの場所から一歩踏み出し、閃光のように瞬いて消え去った。移動の魔術を使用したのだろう。標的はライ。というより、ライに宿る魔王。魔王を相手取る為、ライと魔物達の元に進む。

 崩れ去る"世界樹ユグドラシル"。全員が元の世界に戻るまで、この波乱は続く事だろう。



*****



「オラァ!」

『フッ……!』


 ライが拳を放ち、テュポーンの身体を吹き飛ばす。しかしテュポーンは八割の拳を耐え、そのままライを弾き返した。

 そこへアジ・ダハーカを始めとした魔物の幹部や側近達が凄まじい速度で近寄り、一斉に物理的にけしかける。それをライは身一つで受け止め、身体は吹き飛ばされたが無傷で耐えた。


『ギャア!』

『ガア!』

『グルァ!』


「当然、他の兵士達も居るか……」


 耐えたライに向けて魔物の国の兵士達が迫る。

 そう、此処は元々現在の"世界樹ユグドラシル"に居る魔物の国の全勢力が集まっている状態。なので当然、主力以外にも敵は居るのだ。その数、ざっと見て数千匹だろう。


「そらっ!」

『『『ギャッ……!』』』


 だが、主力クラスでなければライにとって大した相手ではない。力を一度三割程に戻し、ライ自身の力と合わせて実質六割の力で回し蹴りを放つ。それによって爆風が巻き起こり、半分以上の魔物兵士達が吹き飛んだ。


「よっと!」

『『『グエッ……!』』』


 そして遠方に居た残りの魔物兵士は拳の爆風で吹き飛ばし、着地して改めて主力に向き直る。

 その瞬間にテュポーンを始めとした主力達がライの眼前に迫り、力を八割に戻したライは力の込めた拳を放つ。それによって六匹と四人の主力は吹き飛ぶが、弾かれたテュポーンが巨腕の一つを光速以上の速度で放った。


「……!」


 その巨腕に打ち付けられ、一瞬にして数キロ吹き飛ぶ。テュポーンの持つ巨腕の威力ならば今の何万倍も離されていたのだろうが、一々(いちいち)吹き飛ばされていてはキリが無い。なので踏ん張りをかせてこらえ、即座に動き出した。


「そらよっと!」

『フッ、ならば余も耐えねばな……!』


 八割の力で殴り付け、テュポーンはそれを正面から受け止める。有言実行というべきか、その一撃を受けても吹き飛ばなかった。

 しかしその衝撃で背後が広範囲消滅したが、精々惑星一つ分なので銀河系程のサイズである今の"世界樹ユグドラシル"でも問題無い。破壊が加速したとしても元々短時間で終わらせるつもりの戦闘。なので気に留めなかった。


『私たちも続くぞ』

『任せておけ!』


 山程のサイズであるテュポーンと取っ組み合うライへ、アジ・ダハーカが魔法から隕石を造り出して放つ。それに続くよう、ニーズヘッグが加速して肉迫した。

 それを見たライはテュポーンから跳躍して距離を置き、第二宇宙速度程の速度で降り注ぐ隕石に構えてそれを拳の風圧だけで消し去り、ニーズヘッグを踏み台にして大地へと叩き付ける。ニーズヘッグの落下した場所は数キロ程のクレーターが造り出され粉塵を舞い上げた。


『──カッ!』

『──シャッ!』

「っと……!」


 刹那、空中に居て身動きが取れないライに向け、ヒュドラーとヨルムンガンドが猛毒を吐きつけた。ライは空中で転換して回し蹴りを放ち、その風圧で消し飛ばす。それと同時に空気を蹴って二匹の元に迫り、そのまま目にも止まらぬ速度で二匹を吹き飛ばした。


『フン、全員が容易くやられるか技を防がれているな。面倒だ、俺が直接手を下す……!』


「久し振りだな、ヴリトラ……! 一日、二日振りくらいか?」


『まあ、そんなところだ』


 漆黒の肌と黄色い眼を持つ人化して神となったヴリトラが白い八重歯を輝かせ、剣を携えてライにけしかけた。それをライは素手で受け止め、数センチの距離で睨み合う。現在のライは、ライ自身が主人格。なので異能よりも武器などの物理的な攻撃を無効化する事にけているのだ。

 次の瞬間にヴリトラは剣を薙ぎ、ライがかわす。そこへ蹴りを放ち、ライも対抗するように蹴りを放って二人は吹き飛んだ。


「六匹と四人かと思ったけど……ヴリトラが人化しているなら五匹と五人だな……」


『巨人の自分も"人"で換算しているのか』

「ああ。巨"人"だからな?」


 弾き飛ばされ、巨大なクレーターを造り出す勢いで着地したライに向け、炎の巨人スルトが世界を滅ぼす力を宿す炎剣で斬り付ける。それをライは見切ってかわし、空を切り斬り付けられた大地には星の息吹のような炎の亀裂が生まれていた。

 その瞬間に跳躍してスルトの眼前に迫るが、横から重い打撃が走りライの身体は吹き飛ぶ。


『直撃したが、やはり無傷か。厄介な体質だな。ライ・セイブルとやら』


「アンタは、牛魔王か。ならそれは混鉄木こんてつぼく……成る程な。一振りで大地を割りそうだ」


 現れた者、牛魔王。

 幹部は全員が支配者クラスはあるのだろうが、支配者の側近には支配者クラスの実力者は少ない。その少ないうちの、支配者クラスであるたった一人が牛魔王だ。恐らくその次がヘルにブラッド。側近達の格付けはそれくらいだろうとライは独断で考えていた。


『そこよ!』

「エマが居ないのは残念だが、今は侵略者討伐が目的。それが天命か」


「残りの側近か……!」


 思考している時、その二人がけしかける。ヘルが瘴気しょうきの含んだ風を放出し、ブラッドはエマが居ない事に残念そうだが天候を操る事でヘルの風を更に強化していた。

 今回のヘルは最初から本気であり、その風に触れたら最後、常人や半端な力しかない者は即死し、肉体的に強靭な者でも治療困難な重病に掛かってしまうかもしれない。


「邪魔だァ!」

『……っ!』

「フム、防がれたか。まあ、これも天命だな」


 だがライには杞憂だった。

 怒号を上げ、それだけで瘴気しょうきを含んだ風を消し去る。魔王の力で上乗せしているとはいえ、何とも規格外な肺活量だろう。

 そのまま駆け出して二人を拳で薙ぎ払う。他の主力に比べれば軟弱な肉体の二人だが、伊達に側近を努めていないらしい。ライの拳を受けてもこらえ、吹き飛びはしたが直ぐに立ち上がった。

 特に、不死身を無効化される存在なのでブラッドにとってライの力は脅威的な筈だが、肉体が朽ちなかったのは意外だろう。その事をライに訊ねる。


「フム、手を抜いてくれたか。征服をするつもりだが、必要以上の殺生はしないのか」


「ああ。敵を殺しても何も得るモノは無いからな。まあ、そんな敵の出方次第では生かすか殺すかを選択するけどな?」


「恐ろしいものだ。あまり殺したくないが、必要とあらば確実に殺す。魔王とはまた違った恐怖だな」


「俺は別に恐怖による支配はしねえよ。そんな事をしても、俺の求める世界征服は達成されない」


 ふと周りを見れば、全ての主力がライの近くに来ていた。吹き飛ばされた者達も戻ってきたのだろう。今それに気付けなかった事から、流石に五匹と五人の実力者が相手になると、敵への注意もおろそかになってしまうのかもしれない。

 改めて警戒を高め、ライは構え直した。


『世界征服に求める事も何も無いだろう。だが、世界を自由に出来るというのは確かに便利だな』


「多分、アンタの思っている世界征服と俺の世界征服は違うぞ? 悪魔で俺は、平和の為に世界を征服するつもりなんだからな」


『平和の為に争うか。矛盾しているな。お前の相手が魔族の国や、現在は我ら魔物の国だったから戦闘だけで解決するものの、征服はしていないが親しき幻獣の国や巨大な壁である人間の国は戦闘だけでどうこう出来るものではないぞ?』


「そうだな。当然理解している。けどまあ、その時の事はその時考えるよ」


 踏み込み、魔物の主力に向けて駆け出すライ。

 ライの求める世界征服は平和の為。確かに平和の為に戦っていたのではあまり意味は無い。力が全ての魔物の国や、魔物の国程では無いにせよ力が物事を決める魔族の国だからライの征服は上手くいったのだ。

 だが、人間の国や幻獣の国はそういう訳にもいかないだろう。ライたちだけで無理な場合は他の支配者を味方に率いれて征服をするつもりだが、シヴァやテュポーンを味方にしたとしても根本的な問題は解決しない。話し合いよりも力を優先する者達だからだ。

 しかし、それを今考えている時間も無い。故にライは魔物達を相手取る。


『フム、行き当たりばったりの行動か。それも良いだろう。それが生き物の本来の姿だ。我ら魔物は殺される事が定められている者も多いからな』


「それは御愁傷様!」


 定められた運命が無いライと、運命に定められたアジ・ダハーカ。そのアジ・ダハーカを始めとした何匹かの魔物達。思うところはあるのだろう。

 瞬間、テュポーンが巨腕を放ち、炎を吐き付ける。それをライは拳で払い、足で受け止めた。

 そこにアジ・ダハーカの魔法からなるエレメントが放たれ、ヒュドラーとヨルムンガンドが猛毒を放つ。それらも拳で消滅させ、肉弾戦を挑むヴリトラとニーズヘッグ、牛魔王を押し退け、ヘルとブラッドが風を放出してスルトが炎剣でその風を激しく燃え上がらせる。その炎風を先程と同様に肺活量で払い、片手に力を込めて拳を突き出し、世界を崩壊させ兼ねない衝撃を放った。


「……。さて、何時間掛かるかな」

『お前を倒すのにか?』

「……。さあな、どっちが先に倒れるかは分からない……!」


 その衝撃を受けて吹き飛んだ者は魔物の国の兵士のみ。当然というべきか、敵の主力達は全員が無傷の状態でかわしていた。数回(せめ)ぎ合ったが、両者共に大したダメージは無い。

 オーディンが近付きつつあり、他の者たちが元の世界に戻る最中、ライの織り成す七日目の戦闘が始まった。

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