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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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六百六話 ライたちの決戦・魔王の血族と悪神・決着

『狙ってもかわされるなら、闇雲に炎を放つのも一つ手かもしれないな』


 ストレスを募らせつつある悪神ロキは片手を炎に変え、上へと向けてその炎を飛ばした。そこから更に炎を広げ、空を炎塊が覆う。次の瞬間に重力に従い、炎は炎の雨となって辺り一帯に降り注いだ。

 それによって大地は焼かれ、歪みの無い穴が空く。そこから更に続け、炎の雨はフォンセとルミエを狙った。


「そう言えば……奴は炎しか使っていないな。確かにロキは炎の化身だが、それでも炎しか使わないのは少々気に掛かる」


「だからと言って手を抜いている訳でも無い……。ふむ、炎の方が効率も良いという事か」


 炎の雨をかわし続け、炎しか使わないロキを疑問に思うフォンセとルミエ。ルミエの言うように手を抜いている訳でも無く、真剣その物で炎を扱うロキ。

 つまり、手加減せず本気で戦って今の状態という事。確かに炎の化身以外にも様々な逸話のあるロキからすればおかしなモノだろう。


「考えられる線は……──」


「──復活したばかりだから、まだブランクがある。……という事か」


「ああ、そうだろうな。だから、倒すのは今がチャンスという事だ」


「うむ。分かっていた事だが、全盛期の半分以下の今のロキなら苦労も少なく倒せる……もしくは封じられそうだ」


 巨人の血も引いており、力も強い筈のロキがかたくなに炎だけで戦う理由。それが復活したばかりだからという事ならば、それはフォンセやルミエにとって都合の良い事。

 この機を逃せば、依然として勝てる可能性はあるだろうが苦労は倍以上になる事だろう。それならば今の状態のうちに倒した方が良さそうである。


『何を話しているのか。まあ、大凡おおよそは考え付くがな。当然私はそれをさせぬぞ……!』


 遠方で話す二人の言葉は聞こえないが、ある程度の事は理解しているロキ。故に、そう簡単にやられる訳にもいかないと炎を周囲に広げた。

 先程から、厳密に言えば数時間。炎を広げては掻き消され、炎を広げては掻き消されるを繰り返しているが、それでも体力に余裕のある三人。やはりというべきか、互いに理解していた事だがかなりの実力者のようだ。

 次の瞬間、炎を放出して炎の大波を二人に向けて放つ。その温度も太陽に匹敵する程の温度。直撃すれば飲み込まれしまい、単純に焼かれるよりも遥かに大きなダメージを負うかもしれない。


「"魔王の水(サタン・ウォーター)"!」

「"終わりの水槍ニハーヤ・マイヤ・ハルバ"!」


 そしてその炎はフォンセの魔術によって掻き消され、生じた水蒸気から水からなる槍が放たれた。

 それにロキは直撃するが、即座に蒸発させる。そのまま身体を消し去り、フォンセとルミエの背後に姿を現せた。


「"ウォーター"!」

「"マイヤ"!」


 刹那に二つの水魔術が放たれ、ロキはギリギリでかわす。視界が見えなくなれば周囲を警戒するのも当然。ロキ自身も理解していたらしく、かわした瞬間にその背後へと炎を回り込ませていた。

 しかし二人は意に介さずかわし、距離を置いて炎の状態であるロキに視線を向ける。


「やはり炎でしか仕掛けて来ないな」

「ああ。肉体的な戦闘もしていた気がするが、少なくとも今は炎だけを使用している」


 二人は様子を窺い、ロキの状態が不完全な事を確信した。元々ほぼ確定だったが、攻め方を研究して推測していたのだろう。

 それならば話は早い。相手が弱っていようと手加減せず、今の状態で確実に打ち倒すだけである。


『フム、やはり闇雲に攻めるか』


 対するロキは巨大な火球を複数創り出し、天空に漂わせた。それの一つ一つはかなりの高温。全てが落とされては少々面倒だろう。

 しかしロキは間を置かず、その火球を一斉に下方へ放つ。隕石の如く速度で落下する火球は更に温度を上げ、二人の視界は赤く、白く染まった。


「この程度なら私一人で十分だ。"魔王の水(サタン・ウォーター)"!」


 だが当然、その程度の火球は容易く防ぐ事が出来る。それでも魔王の魔術を使わなくてはならないので魔力の消費は激しいが、今日だけで数回目となる魔王の水魔術がロキの炎を消火させた。

 ルミエは既に移動魔術でロキの近くに回り込んでおり、魔力は込め終えている状態だった。


「そして隙は私が狙う。"終わりの水(ニハーヤ・マイヤ)"!」


『先程からそれしかしないな。魔王の魔術に禁断の魔術……確かに炎でたる私には効率的だが、何度も見ればおのずと対策も出来る』


 水の方向を読み解き、身体に穴を空けてかわす。炎その物なので自分の意思で穴を空ける事も可能。態々(わざわざ)全身を使ってかわすのでは無く、近距離でダメージを受けそうな部分だけかわせれば即座に攻撃へと移転出来るのだ。


「……ッ!」

『フム、始めからこうすれば良かった』


 なので次の瞬間、ルミエの腹部に炎の腕を突き刺した。

 刹那に発火して内臓が焼かれ、一気に喉元まで込み上げられた血反吐を吐く。それでも収まる事無く焼かれ続け、肉の焼ける匂いと血の蒸発する匂いが周囲に充満した。


『太陽に匹敵する高温では傷を負わないが、直接刺せば傷を負うか。やはり、エラトマの能力は物理的な力に弱いようだな。最も、貴様はエラトマの血が薄い。元々魔法・魔術でも完全に無効化する事は不可能だろう』


「……──」

「ルミエ!!」


 引き抜かれ、貫通痕から煙を上げるルミエは意識が遠退き地に落ちる。

 フォンセが叫び、ルミエの救出に向かうがその前にロキが立ちはだかった。


『おっと、落下だけで墜落死する訳では無いんだ。次はお前が私の相手をしろ』


「……ッ! ロキ……!」


 炎でフォンセの周りを囲み、正面に立って不敵に笑う。ルミエは落下し、下方に粉塵を巻き上げた。

 見れば、まだ辛うじて意識はあるようだが重症の状態。先程まで余裕の表情だったフォンセには、自分の事では無くルミエの事に対して余裕が消えていた。

 数少ない親戚の一人。その一人が大怪我を負わされたのだ。冷静なフォンセが怒りを見せるのも無理はない。


『フフ、そう殺気立つな。これは元々互い相手を討ち滅ぼす為の戦い……自業自得だろう?』


「……。ああ、そうかもしれないな。だが、それでも理不尽に怒りを覚えるのが血縁というものだ……!」


『成る程。自分の事を中心に考えていたエラトマとは根本的に違うようだ』


 これは戦争。そしてルミエが此処に来た時点で、相応の覚悟はあった事だろう。それはフォンセも理解している事だが、やはり血の繋がりがある者を傷つけられるのは我慢ならないようだ。

 それを聞いたロキは魔王について呟き、改めてフォンセを見た後構え直す。かつての魔王。エラトマとフォンセは違うらしいが、それを気にする暇もない。その瞬間、フォンセの周りを漆黒のオーラが包み込んだ。


「ならば此処からは……私も本気に近い力で行く……。体力を大きく消費するから、ライの手助けには行けなくなりそうだ……!」


『フッ、そうか。全力では無いだけ、まだ私にも勝機は残っているか』


 闇よりも深い漆黒がフォンセとロキを覆い、ロキの炎が闇を照らす光となる。実力的に言えば今のフォンセは既にロキを凌駕しているが、ロキ自身も本気になるようなので五分と五分だろう。

 というのも、ロキも力を取り戻しつつあるからだ。それはつまり、ロキにある即座に再生する炎の身体。フォンセの魔王の魔術をもちいたとして、ロキの性質からしても当てなければダメージを与えられないという事。

 本気なら確実に仕留められるかもしれないが、フォンセに掛かる負担を踏まえても全力は出さない。出せないのだ。


「その余裕、即座に消し去ってやる……! "魔王の怒り(サタン・アンガー)"……!」


 そして放った、灼熱の轟炎。それはフォンセの怒りを表しており、太陽の温度を遥かに凌駕する炎だった。

 それ程の炎を放てば周囲もかなりの大打撃を受ける事になるだろう。しかし、魔王の自分に都合の良い事が起こるという理不尽な能力から、周りへの影響はごく僅かなものだった。

 それでも数万キロは消滅しているが、下方に居るルミエには当たっていない。自分に都合の良い事が起こる、フォンセからすれば、ルミエの無事がそれなのだろう。


『凄まじい熱量だ。しかし炎か。私に炎で挑むとはな』


 対するロキはその炎を受けても微動だにせず、己の炎で相殺していた。

 多少は自分も焼かれているが、元々炎の化身であるロキ。自分に影響を及ぼす炎を操り、自分の被害を最小限に抑えているようだ。


『ほら、お返しだ……!』


 そしてフォンセの放った炎を反射し、フォンセに向けて放った。

 轟々と燃え上がる炎は更に勢いを増してフォンセへと進み、


「邪魔だ」


 ──軽く手を払っただけで消し去った。

 自分の放った炎だが自分に仇なすならばそれは敵。つまり、異能を全て無効化する魔王の能力が作用したのだろう。

 次の瞬間に魔力を込め直しており、フォンセはロキを睨み付ける。


「"魔王の涙(サタン・ティアー)"!」


『……!』


 そして、一つの惑星程はあるであろう水魔術を放ち、ロキの身体を消火させた。

 上空にて織り成されている戦闘なので下方への影響は無いが、惑星サイズの水が空中に浮かびながらロキを消火させているのだ。

 だがロキはその惑星を一瞬にして消し去り、蒸発させる。全盛期には遥かに劣るが本気となったロキ。惑星程の範囲を蒸発させるのは容易い所業のようだ。


「"魔王の吐息(サタン・ブレス)"!」

『次は風……成る程、形の違うエレメントか……!』


 大地を抉り、雲を消し去る暴風が生じてロキを飲み込む。既に空の雲は魔王の炎魔術によって完全に消えているが、更に遠方の雲までをも消し去ったのだ。

 その風には己の炎をぶつけ、巨大な煙炎えんえんとなるがフォンセは気にしない。ルミエの周りには何時の間にか魔王の魔力からなる防壁を造っていたので、全ての影響は無効化されている筈だ。これならば銀河系を消し去る程の力をもちいても無事だろう。

 最も、今のロキにその力を使う必要は無いが。


「"魔王の威光(サタン・マジェスティ)"!」

『……何っ!?』


 次の刹那、先程吹き飛ばした大地が形を変えてロキの身体に纏割り付き、ロキを拘束した。

 流石に飛んだ大地が動くなど想像も付かなかったらしく、先程までの余裕が無くなり慌てた表情となる。

 それもその筈。先程まではロキ自身が自由だったのでフォンセの魔術に自分の力をぶつけて相殺する事が出来ていた。しかし、今回は拘束されたが為に実行不可となっている。炎になっても逃げられぬよう、隙間無くロキの身体を大地の中に閉じ込めた。


「ふん、私が闇雲に攻撃をしただけと思うなよ? 今までの魔術は全てフェイク。貴様を確実に拘束する為のな。他の攻撃を相殺出来たからか、貴様……油断していただろ?」


『……! まさか、これが狙いだったのか……!』


「たった今そう言った。聞いた事を聞き返すな、耳障りだ。悪神風情が……魔王ワタシに逆らったらどうなるか、理解していて挑んだ戦闘だろう? 貴様も自業自得だ」


 ルミエに対するロキの言葉をそのまま復唱するよう、不敵に笑って返すフォンセ。確実に仕留める。今のフォンセにはそれ程の威圧があった。

 仲間を傷つけられた事で魔王の力に目覚めたフォンセは、血縁を傷つけられた事でも当然目覚める。つまり、確実に、容赦なく、悪神をほふるつもりで戦っていたのだ。


「貴様の負けだ。"魔王の処刑サタン・エグゼキューション"……!!」


 そして形成する、形を持たぬ漆黒の刃。

 魔王の魔力からなるこの刃は異能を消し去る事も可能。その能力を使い、土の中で炎になっているであろうロキを一刀両断するつもりなのだろう。

 この土は魔王の魔力が埋められているので通常の攻撃では砕けない。最低で恒星を消し去る力は必要だろう。なのでフォンセには、全く関係無かった。


『フッ……フフフ……面白い……だが、ならば此処は一旦退こう。もうお前達に手出しはしない。どうだ? これで手を打つというのは────』


「嘘だろ?」

『ああ、そうだ』


 ────次の刹那、土の壁に向けて漆黒の刃が斜め方向に振り下ろされた。それは、変に逃げ場を与えず確実に仕留めるという表れだ。

 しかしロキも諦めた訳ではなく、恒星をも焼き尽くす程の炎を周囲と土の中に広げていた。

 存在するだけで何万キロや太陽系すらをも消し去る炎の熱と、全てを切り裂き闇にほふる魔王の刃。それら二つは正面からぶつかり合い──



 ──鮮血と見紛う炎を散らしながら、ロキの頭が吹き飛んだ──



*****



「……っ……」

「目覚めたか、ルミエ?」

「……フォンセ……?」


 ルミエ・アステリが目覚めた時、目の前にはフォンセ・アステリが心配そうな、しかし安堵を含めた面持ちで見下ろしていた。

 ルミエの身体には衣服が無く、治療を施したような痕跡があった。傷は殆ど完治していたので包帯なども必要無いようだ。因みに焼かれて破れた衣服は直ぐ近くに置かれている。そしてフォンセの服もボロボロで、治療はしたようだがかなりのダメージはあったようだ。

 その後ルミエは周りに視線を向け、驚愕の表情で目を見開く。


「……世界が……消えている……?」


 そこに残っていたのは、フォンセが造ってくれたであろう防壁とフォンセ。そして自分だけだったからである。

 土とは違い、木材でも石でもない何かが全域に広がっており、頭と胴体の離れた悪神が目を見開いたまま転がっていた。そんなものを見ては、世界が消えたと錯覚するのも無理は無いだろう。

 対し、フォンセは笑って返す。


「ふふ、少しやり過ぎてしまった。流石に銀河系を消し去る程の攻撃をしたらライに影響が及ぶと考えてしなかったが……数十光年は消え去ってしまったよ。"ヨトゥンヘイム"とは逆方向だったのが幸いだ」


「……これが、魔王の魔術か。薄くとも、その血が私に流れているとはな。誇らしいと同時に少し恐怖を覚えるよ」


「ああ、私もだ。自分で自分が恐ろしい。怒りで我を忘れると、制御が出来なくなってしまうからな……」


 魔王の血筋。それが何を意味するか、改めて理解した二人。フォンセは仲間を護る為とはいえ、仲間や親しき者以外見境無くなってしまう現状を憂えていた。

 そしてルミエは、魔王の力がどんなものか目の当たりにして苦笑を浮かべる。


『…………』


 ──そんなフォンセの背後から、静かに迫るそれがあった。その、ロキの胴体がゆっくりと近付いている事にフォンセは気付かず。


「──お前は暫く眠っていろ、"封印マクタム"……!」


『……!?』

「……!」


 そしてルミエが、ロキの身体と頭を魔力の中に閉じ込めた。

 フォンセは遅れてから気付いたらしく、慌てて後ろを振り向く。残っていたのは、魔力からなる入れ物に入り行くロキの身体だった。


「すまない、ルミエ。頭を切断したからてっきり死したと思っていた……」


「いや、大丈夫だ。私は殆ど足手纏いだったからな。傷も治療して貰ったお礼だ。私たちは封印の魔術もそれなりに身に付けているんだ」


「成る程、それでか……」


 ロキは、そう簡単に死なない。なので過去に封印されていたのだろう。

 ルミエが幹部の側近として仕事をする以上、魔物の封印などを請け負う事もある。なので魔族の幹部や側近たちは封印魔法や封印魔術を身に付けているらしい。


「しかし、これで一段落付いたと見て良さそうだな。後は少し休んだらライたちの元かレイたちの元に行くとしよう」


「ああ。それが良い。オーディンやテュポーン、カオスは何時いつ戻ってくるか分からないからな」


 完全に何もなくなった場所にて、軽く座ってくつろぐフォンセとルミエ。ロキの脅威も去り、残るはライとグラオ、テュポーン、オーディンだけとなった。

 当然これで終わりでは無いので仲間たちに報告するかライの手助けに行くつもりだが、ロキとの戦いで疲弊したので少し休んでから行動を起こすつもりなのだろう。

 フォンセ、ルミエとロキが織り成していた戦闘。それはロキの頭を切り離し、封印魔術によって封じる事で幕を降ろした。


 ──そして二人が寛ぐ一方で、ロキが残したであろう陽炎が風に煽られ、意識を持っているかのように暫く揺らめいた。その直後、ロキを封印した入れ物を二人に気付かれないよう、何処かへと持って行くのだった。


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