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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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六百話 魔族幹部たちの決戦・武道家と天狗、剣魔術師と総大将・決着

 魔族たちの戦いも多くの負傷者と意識不明者を出し、残るは四人の主力だけとなった現在。ブラックの剣魔術とダークの肉体。ぬらりひょんの刀に大天狗の妖術と武術全般がぶつかり合っていた。

 剣魔術が宙を舞って降り注ぎ、それを全て刀一本で弾く。一方では光速のせめぎ合いを織り成しており、衝撃が全体に走って瓦礫を吹き飛ばした。


「あちこちで戦闘が終わっているみたいだな。どっちが勝ったかは分からねェが、俺たちも終わらせる! "巨大な剣(キビーラ・セイフ)"!」


「ふむ、無駄に巨大な剣だな。その無駄があるから防ぎにくい」


 ブラックが巨大な剣魔術を使い、それをぬらりひょんが刀で弾きつつかわしていなす。

 騒がしかった周囲が静まりつつある現在、その事からブラックは戦闘が終わりに向かっていると考えていた。

 衝撃などは先程から感じていたが、それが収まりつつある今。何時の間にか他の味方たちとは距離が離れてしまったが、着実に終わりへ向かっているという事は分かったようだ。


「ようやくダルい戦いも終わりか……だが、仲間が傷付いているって考えるのはダルいよりも怒りがまさるな……」


『フム、仲間の気配が消えているのに気付いたか。しかし私の同胞の気配も消えている……どっちもどっちだな』


「ああ……そうみたいだな……」


 一歩踏み込み、光の速度で拳を放つダーク。それを大天狗は扇で受け止め、風を起こして距離を置く。

 そこへ妖術が放たれ、それを全て見切ってかわしたダークが更に肉迫して直進する。そのまま足を突き出し、大天狗に向けて蹴りを放った。


『素早いな。私でも見抜くのは大変だ』

「そうかよ……どうせ避けられるなら意味がねェ……」


 その蹴りをかわし、ぬらりひょんの元に大天狗が着地する。ダークも距離を置いてブラックの元に近寄り、相手の事を窺いながらその場にとどまる。

 両者の攻撃はいずれも不発に終わり、未だに決定打は与えられていない。多少の切り傷や打撲はあれど、それら全ては大したダメージでは無いのでまだ戦闘は続く。


「俺の相手はぬらりひょん。お前の相手は大天狗。相手も俺たちも二人……背中を預ける事も出来ねェかもな」


「ああ……。まあ戦いってのはそういうもんだ……。孤独で面倒……。それはそれで良いだろう」


「ハッ。戦争は案外孤独じゃねェが、タイマンだったら基本的に孤独だな。……やられんなよ?」


「ああ……。出来る限りな……」


 それだけ交わし、ぬらりひょんに向けて駆け出すブラックと大天狗に向けて駆け出すダーク。

 二人は一瞬にして敵との距離を詰め、ブラックは魔力を込めてダークは力を込めた。

 魔族の幹部の中でも、ブラック、ダーク、シャドウの三人が頭一つ抜けていると言われている。その二人が本気を出すとなると、瓦礫の山で数キロ程覆われているこの場所でも面積が圧倒的に足りない。故に、更なる距離を進んで二手に分かれた。



*****



「ダルい……!」

『……!』


 その言葉とは裏腹に、光速の一撃が大天狗の腹部に突き刺さる。先程からも何度か受けているが、まともに食らったのはこれが初めてだ。

 それによって大天狗は吹き飛び、数千キロ先まで行く。光の速度で飛ばされた訳では無いのでこの程度の距離だが、力を発揮するには十分な距離だった。


『これは私も相応の力を出す他無いようだ。天上世界を一瞬にして焼き払える神に近い天狗の力……しかと受けてみよ! "神通力・天耳てんに"。そして"他心たしん"……!』


「神通力か……面倒だな……」


 数時間戦って分かったダークの力。しかしそれは決められた範囲に置ける手加減した力だった。

 それをめて解き放った今、大天狗も相応の力を使う。

 ありとあらゆる音を聞き分け、敵の行動を読む"天耳"と他人の心を読み、全てを理解する"他心"。これら二つは併用しても意味が無いかもしれないが、心を読めても身体が追い付かない可能性もある。なので心を読みつつ、筋肉の鼓動で先を読んで確実に相手の攻撃を避けようというのだ。


『さあ、来るが良い……!』

「あー……ダリィ……」


 大地を踏み砕き、爆発的な轟音を生み出して加速するダーク。

 "天耳"を使っている大天狗には響き渡った音よりも遥かに凄まじい音が届いている筈。しかしその音でも怯まないのは日々積んでいる大天狗の鍛練の成果だろう。

 "天耳"を使えば音が弱点になりうるとも分かる事。なので常日頃から聴覚を鍛えているのだ。


『フッ、読めるぞ。貴様の心と鼓動がな』

「そうかよ……」


 肉迫したダークが拳を放ち、それを紙一重でかわす大天狗。ダークは続くように回し蹴りを放つがそれも避けられ、脇腹に畳まれた扇が叩き付けられた。

 それによってダークの身体は吹き飛び、数回転して真っ直ぐな粉塵を舞い上げる。しかし空中で体勢を立て直して構え──既に眼前に迫っていた大天狗の動きを見切ってかわした。


『遅い!』

「……ッ!」


 ──筈だった。

 しかし二つの神通力によって全ての動きを完全に見切られ、脇腹を蹴り上げられる。現在の大天狗からすればその方向を読み、確実な一撃を入れる事も容易いのだろう。

 それによって吐血したダークへ向けて刀を構え、それを即座に振り下ろす。そして今度は咄嗟だったが何とか避けた。


「……ッ。避ける事が出来た……。成る程な。咄嗟の攻撃なら思考も前兆も無く、自然と避けるからかわせるのか……」


『そうみたいだな。ならば次は未来を見よう。"神通力・天眼てんげん"……!』


「……。また──『面倒な事をしたみたいだな』……!?」


 大天狗がダークの言葉へ被せるように言い、動揺を誘った。それに反応してしまったが最後、一瞬の隙を突かれて腹部に深々と刀が刺さった。


『先も、動きも、未来も見れる。これが私の実力だ』


「……ッ! ガハッ……!」


 大天狗はそれを即座に引き抜き、引きり出された肉片と共に真っ赤な鮮血が大量に流れて大きく吐血する。それによって足元に血溜まりが広がり、フラついて膝を着く。

 臓物が引き抜かれた訳では無いようだが、確実に内臓へもダメージがいっており瞬く間に視界が狭まり意識が遠退く。


「ッ……! ダリィ……が……まだまだ……!」


『ほう? 気力もあるな。当然か。内心でも諦めてはいない……それは称賛に値する』


 力を込め直し、一瞬にして大天狗の前から姿を消し去るダーク。

 大天狗は何処に行ったかを理解しており、次の瞬間に刀を背後へと突き刺した。


「……ッ! 掠った……!」


かわしたか。やはりそれ程の速度。場所を理解し、確実に分かっていても一瞬の差で当たらないものだな』


 確実に見切った大天狗だが、自分の身体が追い付かず掠らせる程度のダメージに留まる。

 それを好機と判断したダークが激痛を堪えながらも即座に移動し、背後へと回り込んで回し蹴りを放つ。それも大天狗には読まれていたがそれを先読みして次は正面に回り込む。しかしそれも読まれており、ダークの拳と大天狗の扇が衝突した。

 いや、拳の衝撃は扇越しにも伝わっている事だろう。幾ら先が読めると言えど、己の身体が追い付かなければ意味が無い。故に、ダークは畳み掛けるように力を込める。


「はあ……。ダリィな……!」

『……!』


 ──そして、ダークの様子が変わった。

 口調が少し強くなり、何やら筋肉が大きく鼓動している。

 それは常人には聞こえない程度の音だが、ダークの体内で何かが起こっていると察した大天狗は念の為に距離を置く。

 その瞬間、大天狗の身体が吹き飛ばされた。


『……ッ!? なにっ!?』


 吹き飛ばされた大天狗は数十万キロを一秒も掛からずに進み、惑星程の大きさはあるであろう山に激突する。

 光速を超えた速度で進めば触れる大気の熱と衝撃で肉体が崩壊する事もあるが、その点は問題無い。問題なのは先の先を読む神通力をもちいている大天狗が反応出来ずに吹き飛ばされた事だ。


『まさか……己の肉体のリミッターを外したのか……!』


「ああ。そんなところだ」


 ダルそうな話し方では無くなり、次いで大天狗の頭を蹴り抜いて地深くまで叩き付けるダーク。

 そのまま下方を超え、何も無くなり宇宙のみが広がる元泉地帯に到達した。


『……ッ! まだ来るか……! "神通力・神境じんきょう"……!』


 大天狗は未来を見、次に吹き飛ばされる事を察してもう一つの神通力。"神境"を使用した。

 それは思ったところに行け、思い通りの姿に変化する事の出来る神通力で、宇宙空間はマズイと判断して第二層の世界に戻った。戻ったその世界の更に巨大な範囲。先程の場所から数億キロ程離れた場所だった。

 そしてその前には、ダークの姿があり再び反応よりも早くに吹き飛ばされた。


『リミッター……それは全ての生き物にあるモノだが、それを意図的に解除し、先程の何万倍にも力を上げるとは……!』


「ああ。俺は肉体だけなら支配者に匹敵するって言われている。だから、それを使った。今の時間は使用してから五秒。後五秒でこの覚醒は終わり、俺は生死を彷徨さまよう。だからたった今、テメェを倒す」


『……! それ程までのリスクを背負って戦うとは……!』


 生き物は常に、身体へリミッターを掛けている。

 本気だと思っても実は七割程しか使っておらず、無意識に抑え込んでいるのだ。

 それを解除する方法もあるにはあるが、相応のリスクを背負う事となる。

 傍から見ればダークの変化は何の突拍子も無い突然の変化だが、ライに負けてからの数ヵ月。ダルい鍛練を行い己の意思で外せるようにしたらしい。

 しかしその時間は本人曰く十秒しか無く、次の全身全霊の一撃が最後であると告げた。

 因みに余談だが、先の会話は超感覚になったので大天狗の先読みとダークの現状によって織り成されたモノ。傍から見れば二、三回口を開いたようにしか見えない事だろう。


『面白い……己を犠牲にして私を打ち倒すか……ならばその力、私が全力で請け負おう』


「ああ。分かっている」


 妖力を一気に込め、力を蓄える大天狗。ダークは既に力を込め終えており、何時でも放てる体勢に入っていた。

 刹那に大天狗は全ての妖力を解放し、その呪文を口にする。


『"大御神・焼失"……!』

「ダラァ!!」


 神を焼き払う。これ即ち、天上世界全てを焼き払う炎。

 そしてリミッターの外れた全力の一撃。

 妖力と腕力。決して相容れぬそれら二つが衝突し──第二層の世界。宇宙の四分の一を誇るその世界に置いての、銀河系程の範囲が消滅した。



*****



『……。これで何度目か、私が敗北を喫するのは……ライたちとお主。何度目かになる言葉だが、お主を称えよう。見事だ……!』


「あっ……そ……。ダルい……死にそうだ……残り一秒だけ……リミッターを元に戻したから……何とか生死は彷徨さまよわずに済んだか……」


 そして微動だにせず、掠れた声で話す二人がそこに居た。

 残り一秒。ギリギリで能力を戻したが為に生死を彷徨さまよわなかったダークと、炎ごと弾き飛ばされても尚、発動し続けていた神通力によって辛うじて急所は外した大天狗。

 銀河系が消滅する範囲などかわしたところで意味は無いが、全身を炎で覆ったが為に無事では無いにせよ致命傷は避けられたのだ。

 しかし二人は動かず、意識も次第に消えて行く。そしてこの戦闘、重症だがダークが勝利を収めたのだった。



*****



「何だ? 今の轟音……ダークか……!」

「その様じゃな……ワシの立場からすれば大天狗か……」


 現在、ダークと大天狗の場所は他の主力たちの場所から数億キロ離れている。なので銀河系の範囲が消えても影響は小さかった。大天狗が元泉地帯に落ちた時、そこから移動したのが初期位置からそれ程離れていたのだ。

 そしてその一方で、此処まで聞こえる轟音と目映い光をブラックとぬらりひょんの二人は見て聞いていた。

 此方の二人は初期位置からそう離れてはおらず、ダークたちと別れてからまだ数分。その短時間で決着が付いたと理解する。


「だが、予想以上に時間を食っちまった。テメェらと出会って数時間……それ程の長さとなりゃ、俺とテメェ以外の気配は全部消えちまったよ……」


「そうじゃな。互いに残された最後の主力と言ったところかの。他の場所からはまだ幾つかの気配も感じるが、少なくともワシら百鬼夜行とお主ら魔族の幹部はワシら二人だけじゃ」


 消えた気配。それが意味する事はつまり、それ程の戦いが起こったという事。

 現在の時刻は正午を回って数時間。もう日も傾いている時間帯。敵は全員が強者。そんな戦いで意識を保っているのが難しい程だろう。


「しかし、ワシらの中でも随一の大天狗がやられるとはの。戻って来ない事からやられたと分かる……大天狗を打ち倒した……もしくは相討ちとなった者とお主は同程度の実力なのじゃろう?」


「ああ。まあそうだな。だが、実は俺もダークの底は見た事がねェ。既に支配者クラスの実力があってもおかしくねェって事だ。だから確実に互角とは言えねェが、まあまあだ」


 空を仰ぎ、何かを考えるように話すぬらりひょん。一応ブラックはその言葉に返し、ぬらりひょんの様子を窺っていた。

 そこで何かを思い付いたのか、ぬらりひょんが言葉を続ける。


「そうじゃな。それなら、主とはもう戦わなくとも良いかの? 百鬼がやられたとなれば、立て直すのも一苦労。これから仕事も増える。だから此処は引くというのがワシの提案じゃ」


 それは、お互いに手を引き、仲間たちの元へ駆け付ける事が第一との事。

 確かに気配が無い以上、ブラックも仲間が心配ではある。だが敵に仲間がやられたからこそ、自分が仇を討たなければならないのかもしれない。

 少々。二、三分程ブラックは脳内で思考し、とある結論を出した。


「ああ。その案には賛成だ。最も、この戦場に来た以上、俺たちは全員覚悟は決めている。だから、たった今から俺が行う全力の一撃。それを受けるかかわすかして、テメェが無事だったらこの場を離れるとする。そして、テメェが無事なら俺を斬れ。それ程の覚悟を決めている。俺だけが一方的に攻撃して終わりってのも性に合わねェからな……!」


「フム、このワシに挑戦するか。確かに実力は大天狗、九尾の狐、酒呑童子しゅてんどうじに劣るが……そこまで舐められるのも問題じゃ。騎士道精神とやらで自分を傷付ける事をいとわぬのも問題じゃしな。良かろう。百鬼夜行の総大将としてその勝負、受けて立つ」


 そう言い、ぬらりひょんは刀を改めて構え直した。

 死ぬ覚悟は出来ている。しかし自己犠牲の覚悟はあっても仲間には死んで欲しくないというのがブラックの出した結論。このまま自分だけが何の苦労もせずに引くのも問題なので、この一撃で決める事にしたのだ。

 勝てば良し。負ければ重症。それらの思考を切り捨て、ブラックは片手に魔力を込めた。


「"魔王の剣(シャイターン・セイフ)"……!」


「……」


 魔力を込めて形成した、惑星をも一刀両断する剣魔術。その大きさと破壊力から、防げなくても良い。かわせれば良いというのも納得出来た。

 そしてブラックはその剣を振り下ろし、ぬらりひょんはその動きを読み切る。


「オラァ!」

「む……!」


 刹那に向き合っていた二人は背中合わせとなり、ぬらりひょんの半身が切断された。そしてブラックの腕が吹き飛び、脇腹と首元から出血する。

 二人は一瞬止まり、相手を一瞥した。


「この勝負……」

「……引き分けじゃな」


 そして倒れる魔族の幹部と百鬼夜行の総大将。周囲には大きな血溜まりが生まれ、緩やかに流れ続けて更に広がる。

 あまりに静かな、そして気高い決着。互いに欠損しても尚、敵を狙う姿。それが両者の騎士道と武士道だった。

 そして幻獣の国と魔物の国に引き続き、この決戦にて生じた魔族の幹部と百鬼夜行、プラス二名の被害状況。


 ──魔族幹部の被害、意識不明の者が七人。動ける者は無し。

 ──百鬼夜行と二名の被害、意識不明の者が四人。動ける者が一人。封じられた者が一匹。

 そして第二層の世界から銀河系程の範囲が消滅。

 此方も両陣に多大なる被害を及ぼし、この決戦は終了した。


 宇宙の大樹"世界樹ユグドラシル"の第二層にて行われる"終末の日(ラグナロク)"。六日目も一回り迎えた夕暮れ。魔族幹部と百鬼夜行プラス二名による戦争が終わりを告げた。

 そして残る主力の戦いは三つ。

 ──ライたちとグラオ、テュポーン、オーディン、ロキ。

 ──シヴァ、ドラゴンとヴァイス。

 ──シヴァの側近たちと裏切り者のゾフルとハリーフ、及び生物兵器の軍隊。

 新たに一部が消え去り、更に終焉が近付く"世界樹ユグドラシル"。その波紋は広がり、二つ目の戦いが終了する。

 そして残り三つの戦いを残し、終着へと更に一歩進めるのだった。

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