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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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五百九十八話 魔族幹部たちの決戦・侍と鬼、影使いと破壊者・決着

 光魔術の爆発によって生じた粉塵は全てが消え去り、視界が晴れて良好となる。

 天候は依然として燦々(さんさん)と、"世界樹ユグドラシル"を中心に廻る太陽の光が照り付けている。

 ライたちの星でも使われる一般的な地動説では無く、過去に消え去った天動説が現実となっているこの世界。当然だろう。

 そんな陽の下、けたたましい金属音が響き渡っていた。

 風の切る音が響き、金属音が鳴る。しかし音が鳴る頃には既に次の動作に入っており、刀の速度は三本とも音速をうに超越しているらしい。


「ハァ!」

『フン!』


 そして縦斬りと横斬りがぶつかり、火花が散った少し後に甲高い金属音が響き渡る。

 その二つの刀は離れ、酒呑童子しゅてんどうじの死角からもう一本の刀を斬り付けるモバーレズ。二刀流というものは弾かれたりした時など、こういう時に有利である。

 戦略の幅が広がると言った通り、隙を見つける事が出来れば相手よりも多い手数で攻める事が出来る。それを続ける事で、いつかは致命傷になりうるダメージを与える事も叶うだろう。


「まあ、いつかじゃ駄目だな。今倒すべき相手だ」

『……? 何を言っている?』

「独り言だ」


 距離を置き、刹那に詰めて斬り掛かる。それを防がれ、刀を軸に跳躍してもう片方の刀で斬り付ける。

 そしてそれをかわされ、モバーレズの脇腹に重い蹴りが放たれた。


「……ッ!」

『フンッ!』


 それによってモバーレズが吐血し、怯んだ隙に刀を横に薙ぐ酒呑童子しゅてんどうじ。腹部が斬られ、鮮血が周囲に飛び散る。

 辛うじて急所は外し、致命傷は避けられたが重症だ。恐らく内臓への蹴りと追撃の斬撃で内臓も負傷している事だろう。

 しかし常人なら立っていられない程の傷でも退く訳に行かず、モバーレズは二本の刀を握り締めて酒呑童子しゅてんどうじに迫った。


「ハッ!」

『……!』


 一瞬にして距離を詰め寄り、重く鋭い一撃を加えた。

 それに酒呑童子しゅてんどうじは少し押され、そこから追撃するよう蹴りを放つ。

 刀を放っても良かったが、まだ隙は小さなもの。常に警戒しているであろう刀を放ったところで防がれるのは目に見えている。なので刀とは真逆の位置にある足で蹴りを放つ事によって確実な一撃を入れたのだ。

 それによって一瞬刀から足の方に酒呑童子しゅてんどうじの意思が向けられるのは必然。その隙を突いてそこから酒呑童子しゅてんどうじの片腕を斬り伏せた。


『……ッ!』

「腕一本……貰い受けたぜ、酒呑童子しゅてんどうじ!!」


 切断された酒呑童子しゅてんどうじの腕は宙を舞い、鮮血を流しながら数回転して落下する。飛んだ腕の着地と同時に切断面から遅れておびただしい量の血液が噴出し、周囲を赤く染めた。


「これは確実なダメージになっただろう。片腕だけじゃ、一刀流の利点でもある力を込める事は難しい……俺とテメェの力は近いものがあるから、腕一本刀一本と二刀流じゃ俺の勝利は揺るぎないぜ?」


 刀を振って刀身に付着した血を払い、握り直して構えるモバーレズは挑発するように酒呑童子しゅてんどうじへ告げた。

 二刀流と違い、一本の刀を使うに当たって両手で掴めばその力が上乗せされるので切れ味はそのまま、重さが増す。

 しかしそれを片手で使うとなれば、両手で握るよりも劣る力となってしまう。元々二刀流で片腕ずつの力しか使っていなかったモバーレズからすれば、酒呑童子しゅてんどうじが感じているであろう腕の激痛も含め自分が圧倒的優位に立てたという事だ。


『フム、片腕を失ったか。だが幸い、利き腕じゃない。それならばまあ良しとしよう。刀を持つ時は利き腕が上を握る事になるからな。お陰で下に位置していた利き腕とは違う腕を失って良かった』


「あ? 激昂しそうなもンだが……そンな事はねェのか?」


 腕を失った事によって現在目にした酒呑童子しゅてんどうじの反応。しかしそれはモバーレズの予想していたものとは違っていた。

 利き腕では無いとはいえ、腕を失ったのだ。常人なら激痛で苦悶の表情を浮かべ、気にするどころでは無いのだろうがそれを耐えられる酒呑童子しゅてんどうじならば激昂して挑んで来るものとばかり考えていたモバーレズ。

 拍子抜けとは全く違うが、キョトンとした意外そうな表情で酒呑童子しゅてんどうじを見ていた。

 そんなモバーレズの表情と視線を見、酒呑童子しゅてんどうじは不敵に笑って返す。


『ああ。昔の我ならば激昂して呪いを掛けながら戦っていた事だろう。だが、それでは貴様の思う壺……我が不利な状況であるという事実は変わらないが、今は純粋にこの戦いを楽しみたいというのが我の思案する事柄よ。丁度押していた先の戦闘……これぐらいが丁度良いハンデであろう?』


「成る程な。挑発には挑発で返すって事か。だが、それなら俺も敢えてこう返そう……──俺の勝利を決定付けるハンデ。感謝する」


 二人は笑い、酒呑童子しゅてんどうじは腕一本。刀一本で構える。対するモバーレズが二本の刀を握り締め、先程以上に集中力を込めて構え直す。

 この戦い、確かにモバーレズが押され気味だった。しかし支配者に近い実力がある酒呑童子しゅてんどうじ相手ならば当然。

 故に、不本意だがこの状態で勝利を掴むというのがモバーレズの行える最善の事だった。

 最も、腕を狙ったような言い分から不本意と告げるのは自分勝手かもしれないが。


『我は百鬼夜行が幹部、悪鬼酒呑童子(しゅてんどうじ)……いざ再び参らん……!』


「魔族の国"シャハル・カラズ"幹部ザラーム・モバーレズ……参る……!」


 二人は返し、居合いの形を取る。その刹那に駆け出し、一瞬にして通り過ぎた。

 次に互いへ振り向き、モバーレズは肩。酒呑童子しゅてんどうじは脇腹から出血する。それによって周囲は更に真っ赤な血液で染まり、それを意に介さぬかの如く大地を踏み締め、己の血で足を濡らしながら再び迫る。


「これにて終わらせよう、悪鬼酒呑童子(しゅてんどうじ)よ!」


『それを望むのならばそれに答えん。魔族の侍、ザラーム・モバーレズ……! 討ち仕留めてくれよう!』


 そのまま通り過ぎるかのように刀を振り抜き、次の瞬間には振り向く事も無く──モバーレズが地に伏せた。

 その後モバーレズは動かず、モバーレズを中心に血溜まりが形成される。

 たったの一瞬。それだけでモバーレズは敗れ、意識を刈り取られた。ヴァイスの趣向が無ければその一筋の命すらをも奪えた事だろう。


『今回は我の勝利だ、モバーレズ。強き侍よ。しかし我もいささか血を流し過ぎた。暫しの休息を取るとしよう……』


 モバーレズの方を向かず、一歩踏み出した酒呑童子しゅてんどうじが糸の切れた人形のように倒れ伏せる。見れば同じく大量の血液が流れており、片腕の負傷も相まってモバーレズよりも遥かに出血の量が多かった。

 しかしその意思はモバーレズの意識が消え去るまで残り、勝利という結果を残した。

 モバーレズと酒呑童子しゅてんどうじ。両者の織り成す戦いは、モバーレズが敗北するも酒呑童子しゅてんどうじを行動不能に陥らせる事で雌雄しゆうが決した。



*****



 強き侍と悪鬼の戦闘が終わる頃、影使いと破壊魔術師の戦闘も終わりに向けて急加速していた。

 魔王の影が周囲を覆い尽くして縦横無尽に黒い手が伸び行き、それを次々と破壊する魔術師。もとい、破壊者。

 破壊された影は即座に形成再生を繰り返して更に強化され、相手を捕まえる為に飛び回る。それも破壊されるが、幾分実体を持たない影。触れる時のみ実体を持ち、一方的に攻撃出来るが実体を持たないからこそ破壊されても即座に再生するのだ。

 しかし相対するは空間などの概念すら破壊しうる魔術。一筋縄ではいかないというのも現実であった。


『……!!』


「ハッ! 魔王の影か! そう言う割りには破壊魔術を破壊する事は叶わないらしいな!」


「ハッハ! 悪魔で"影"だからな! 生前の動きとかはコピーされているが、能力まではコピー出来ねェよ!」


 次々と影を破壊し、高らかに笑って話すシュヴァルツとそれに返すシャドウ。

 返しながら影を伸ばし、前後左右から挟み込むようにシュヴァルツの身体を覆う。


「だがまあ、影だからこそ生前の魔王には出来なかった伸縮自在の攻撃や破壊されても即座に再生する肉体が出来ているけどな! もしかしたら出来たかもしれねェし、必要すら無かったかもしれないけどなァ!!」


『……!!』


 魔王の影は、影その物である。実体は無いが、攻撃やシャドウへの防御に限って実体を持つ影。

 つまり、この影を使う事によって魔術師本人が狙われない限り、此方こちらが一方的に攻撃出来るという理不尽な影なのだ。

 それに加え、魔術師が狙われたとしても影を己の元に引き寄せれば逆に防御へ転ずる事も出来る。一方的に攻撃を仕掛けられ、敵からの攻撃を防げる。そういう意味では本来の魔王が持つ力、自分の都合が良いように事が運ぶソレに匹敵するかもしれない。

 流石に魔王のようにこの世の全ての理不尽を具現化して身に宿しているレベルでは無いが、確かな強さはあるだろう。

 それを聞いたシュヴァルツは獰猛な笑みを浮かべ一言。


「ハッ! そうかよ! "破壊ブレイク"!」


 ──それによって影が決壊した。

 それも直ぐに再生するが、一方的な存在への攻撃方法をシュヴァルツは使える。本人の性格からしても、一方的にやられるだけなどというヘマはしないだろう。

 破壊魔術は文字通り全てを破壊する。理不尽な存在や影、概念だろうと関係無い。素のシュヴァルツよりも力が劣るのならば、魔王のように無効化する能力の持ち主も破壊魔術で破壊出来る。

 そう、自分の力さえ高ければ、相手がどのような能力を使おうとも破壊出来るのだ。

 最も、何事にも特例というものは存在する。少なくともほぼ互角のシャドウとシュヴァルツではドングリの背比べだろう。


「影を破壊しても、直ぐに影は集まるぜ! それに加え、俺自身が攻めれば力は倍増だ! "影の矢(ディッル・サハム)"!」


『……!!』


「下らねェ! 全て砕けば同じだ! "連鎖破壊チェイン・ディストラクション"!」


 シャドウと魔王(影)が同時にけしかけ、それを広範囲に影響を及ぼす破壊で砕いて防ぐシュヴァルツ。

 その名の示すように破壊は更に連鎖して続き、シャドウと魔王(影)を取り囲んだ。


「おっと、危ね……ッ!?」


 それを見切ってシャドウがかわした、その瞬間。シャドウの右腕と左足が──破壊(・・)された(・・・)

 砕かれた箇所からは真っ赤な肉と白い何かが見え、一瞬後に勢いよく鮮血が噴出し、その少し後にドクドクと緩やかに流れる。

 シャドウは確かに破壊の軌道を読み、完全に見切ってかわした筈。

 しかし破壊の連鎖が当たり、右腕と左足。逆の場所に位置する四肢の二つが砕けたのは事実。

 シャドウは激痛に耐えながら困惑した面持ちでシュヴァルツを見やり、何をしたのは即座に思考を回転させて推測する。


「ハッハッハ! 何が起こったのか分からねェって顔だな! だが教えねェ! 不可視の破壊を受けやがれ!」


「不可視……?」


 勝利を確信したように高笑いし、再び連鎖する破壊魔術を放つシュヴァルツ。

 シャドウはシュヴァルツの告げた言葉に気を引かれながらもそれらを見切り、触れぬよう今度は魔王の影を使ってかわした。

 ──そして、魔王の影が破壊された。


「……ッ。成る程な……分かったぜ、テメェのトリック……!」


「あ? マジかよ!? つか早過ぎだろ!? ……。いや、考えてみれば喜びのあまりヒントを使った瞬間に出しちまったような……クソッ! 自分の能力や技をベラベラ話すのは初歩的なミスだってのによ!」


「ハッハ……! 安心……しろ……! 右腕と左足が砕けたお陰で……俺に危機感があったから脳が刺激されて分かっただけだ……!」


 シュヴァルツのタネを見抜いたと告げるシャドウに対し、今度はシュヴァルツが困惑する。しかし自分の言葉を思い出し、我ながら馬鹿な事を言ってしまったと後悔する。

 だがそれをフォローするように返すシャドウ。四肢の二つを失った事で激痛は凄まじいが、それと同時に身体が必死に生きようとする。なので思考が急速に回転したからこそ即座に理解したと告げた。


「だが、そのタネは簡単だ。不可視の移動術……それはテメェらを移動させるが……魔法や魔術を移動する事が出来ないとは言ってねェ。簡単に言や、派手な破壊でカモフラージュして意識をそちらに逸らさせる。その隙に、当たれば上々程度の意気込みで幾つかの破壊魔術を放った。当たらなくても良いと考えりゃ、表情には出にくいし直ぐには見抜けないからな」


「ハッ、正解だ。だが、今の状況を見てみろよ。テメェは右腕と左足を失っている。んで、頼みの綱の魔王の影も消えた……俺が消した。八方塞がり、俺の勝利は確定だ」


 シュヴァルツは、己が勝ち誇ったように話す。

 確かに現状、右腕と左足の欠損でシャドウはまともな思考が出来ない程の激痛が走っている。

 先程の推測はダメージを受けたばかりだからこそ、アドレナリンが分泌されて痛みが薄かったから出来たものだ。それを見破ってしまったが故に、これ以上不可視の破壊を食らう事は無いという多少の安堵から激痛を覚えてしまっていた。

 シャドウの現状、脂汗が額を濡らし己を噛み砕きそうな程に歯を食い縛って耐えている状態。とても勝算は見えていなかった。

 しかし、その顔から不敵な笑みは消えていない。何かを企んでいるような、そんなほほみ。当然シュヴァルツもそれに気付いているが、流石にどんな方法かは思い付かない。こんな何時いつ気を失ってもおかしくない状態の者に何が出来ようか。

 そして暫しの沈黙が周囲を包み、不敵な笑みを浮かべたままのシャドウがシュヴァルツの返答である言葉を発した。


「さて、どうだろうな?」

「……!」


 ──その刹那、シュヴァルツによって破壊されていた影の欠片が集まり、形を形成してシュヴァルツを覆い尽くした。

 その影は一つの箱のようになり、突然の状況でシュヴァルツが破壊魔術を使わず一瞬だけ閉じ込める事に成功する。


「……ッ! 成る程、これが狙いか! だが、俺の破壊の前には──!!」


「長い……!」


 シュヴァルツが何かを察し、何かを言い終える数秒前。シャドウは左手を広げ、箱の形をした影を更に変化させた。

 左手の平が開くと同時に複数の槍が内部で形成されて中のシュヴァルツを貫いたのだ。

 生きているのか死んでいるのか分からないが、断末魔は聞こえない。ほんの数秒。箱を形成してからのチャンスやシュヴァルツの力量からして、ほんの一瞬。刹那の行動。それを終わらせ、確かに箱内でシュヴァルツの身体を貫いたのだ。


「"影の処刑(ディッル・エイカブ)"……! 有無を言わないうちにやらなきゃ……俺も……もう限界だったからな……」


 それだけ告げ、シャドウは意識を失った。それと同時に影の中から血塗れのシュヴァルツが姿を現し、シャドウに続くよう倒れる。

 無数の槍で刺された割りには出血量は少ないが、恐らく致命傷になりうる箇所を破壊魔術で破壊したのだろう。

 影の箱が創られてからトドメを刺した時間は数秒。それも、限りなくゼロに近い数秒。そのうちに破壊魔術を使って一命を取り止めたのは称賛せざるを得ない。

 だが、互いの主力を沈めた代償として二人は意識不明の重体である。

 モバーレズと酒呑童子しゅてんどうじ。シャドウとシュヴァルツ。此方の戦いは、四人全員が致命傷に近い重症を負って終わりを迎えるのだった。

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