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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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五百九十六話 幻獣と魔物の決戦・龍の息子と悪の根源・決着

 次々と終わる幻獣と魔物の決戦。残る戦いは一つ、ドレイクとアジ・ダハーカだけとなった。

 両軍共に主力への被害や負傷者は多いが、どちらに転んでもこの戦いで勝利した方の勝ちとなるだろう。

 最も、アジ・ダハーカが勝利したとしても辛うじて戦える者も幻獣の主力に何人か居るので状況的に言えば幻獣の国が有利である。

 しかし、定められた者以外は絶対に倒せない悪の三頭龍。ドレイクが勝てなければ、即座に回復して攻め来るか封じられたヒュドラーを解放するかもしれない。どちらにせよ、勝てるならば勝つに越した事はない。


『──カッ!』

『──カッ!』


 ドレイクが炎を吐き、アジ・ダハーカが炎魔法で応戦する。二つの炎が衝突して燃え広がり、周囲に炎の波を引き起こす。

 次に二匹は距離を置き、一度ぶつかって弾かれた後再び炎と炎魔法が衝突した。


『これくらいは防げるか。ならば水ならどうだ?』


『その気になれば蒸発させる事も出来るが、避けた方が余計な力を消費しなくて済むな』


 次に水魔法を放ち、複数の水柱が正面から迫る。

 それをドレイクは縫うようにかわしてくぐり抜け、一回の羽ばたきで水を払い除けて肉迫した。


『ハァ!』

『成る程』


 そのまま体重を乗せた突進でアジ・ダハーカにぶつかり、それをアジ・ダハーカは受け止めて弾く。

 続くように身体を捻って尾を放ち、ドレイクの身体は空中から下方へと落下した。


『さて、次は風で行こう』


 落下場所目掛けて風魔法を放ち、何百トンの重さに匹敵する勢いの風がドレイクを上から押し潰した。

 ドレイクもそれくらいではやられないが飛ぶに飛ぶ事が叶わず、そのまま風に追いやられる。


『そして土だ……!』

『……!』


 刹那にアジ・ダハーカは別の魔力を込め、風に潰されるドレイクへ土魔法からなる鎚のような塊を放った。

 雨のように複数の鎚が降り注ぎ、そのうちの一つが地に伏せるドレイクを叩き潰す。それのみならず、連鎖するように次々と土の鎚が一ヵ所を集中的に破壊した。

 轟音と共に大地は陥没し、大きな粉塵を舞い上げる。それを見たアジ・ダハーカが鎚を止め、


『ハァ!』

『フッ……!』


 ──背後から近付いていたドレイクを己の肉体で吹き飛ばした。

 鎚によって多少のダメージを負っていたドレイクだが、何とか抜け出したらしくアジ・ダハーカの前に躍り出たのだ。

 しかし見ての通り返り討ちにあってしまい、空中で吹き飛ばされながら体勢を整える。

 今度は地に落下せず、何とか空中でこらえたようだ。


『さて、次はどうかな?』

『俺をもてあそんでいるだけかお前は……!』


 どのエレメントにも属さない闇魔法をドレイクに放つアジ・ダハーカ。

 闇は周囲のものを全て飲み込み、熱いような冷たいような衝撃を散らして進む。

 厳密な攻撃という事では無い闇。周囲を覆うだけでは無く、闇を攻撃にもちいた場合は矛盾の衝撃が放たれるらしい。

 それら全てをかわしたドレイクはアジ・ダハーカに迫り、その巨腕と爪で切り裂くような一撃を放った。


『フム、危ないな。そんなものを振り回すのでは無い』


 ドレイクの巨腕をかわし、光魔法からなる光線を放つアジ・ダハーカ。

 闇と違って明確に熱と言える衝撃が光速で進み、辛うじてかわしたドレイクに掠ってしまう。そこから更に光速の光線が注がれ、それら全てを何とかいなした。


『悪の根源が"光"を使うとはな。光の悪というのは分からないものだ……!』


『そうだな。外面だけ良く、内面がすさんでいる者などは光の悪になりうるな』


『説明感謝する』


 全く心を込めずに感謝し、ドレイクは旋回して突進する。

 それは避けられたが尾で追撃してアジ・ダハーカを弾き飛ばし、近距離にて炎を吐き付けその身体を炎上させた。

 尾の一撃と炎。ようやくまともな攻撃が加えられたと言えよう。


『熱いな。通常の魔物や生物兵器ならば細胞一つ残らず蒸発しているところだった』


『やはり大してこたえぬか。分かっていた事だが、改めて目にすると絶望感を覚える』


『いや、多少のダメージにはなったぞ。その証拠に私の傷からザッハークが創り出された』


『……っ! また厄介なのが現れたな……!』


 先程の攻撃により、多少のダメージを負ったというアジ・ダハーカ。その傷口は再生し、その欠片からアジ・ダハーカの化身である大蛇、ザッハークが創り出された。

 本来は血から創り出される大蛇だが、打撃によるダメージと炎によるダメージからでも創れるらしい。

 刹那にそのザッハークを焼き払い、改めてアジ・ダハーカに構えるドレイク。面倒なのはさっさと倒すのが最善の策。故にザッハークを一瞬にして消し去ったのだ。


『お前も一瞬で消せれば良いものの……!』


『フッ、私はそれ程(やわ)ではない。だが、ザッハークだけでもある程度の国は容易く落とせるのだがな。支配者ドラゴンの息子、父親にも比毛を取らぬ力を宿しているという事か』


『ふん、下らん称賛を。ザッハークは精々通常の生物兵器よりも力の強い程度。国は難しいが、一体で街一つくらいは落とせる生物兵器より少し力が強いだけなら容易く消し去れる』


 己が吐いた事で生じた炎の渦の中で翼を広げ、周囲の炎を消し去るドレイクが姿を現す。

 他の主力やアジ・ダハーカよりも圧倒的に劣るザッハークなど、支配者ドラゴンの息子にして既にドラゴンに匹敵する力を宿すドレイクにとっては簡単な相手だった。


『そうか。しかし私の攻撃はまだ続いているぞ?』


『ああ、そうだろうな……!』


 雷魔法を顕現して放ち、雷速で電撃が走る。それをドレイクは全て見切ってかわし、再びアジ・ダハーカの眼前に迫った。

 先程は光速の光線を避けたのだ。それよりも圧倒的に遅い雷速など、かわすのは簡単な事である。


『──カッ!』

『……!』


 そして先程と同様に近距離にて炎を吐き付け、アジ・ダハーカの巨躯を焼き払う。

 炎に包まれたアジ・ダハーカの姿は消え去り、その炎から飛び出してドレイクに新たな魔法をけしかける。


『炎には炎だ』

『そうか……!』


 炎魔法を放ち、ドレイクの身体を包み込むアジ・ダハーカ。しかしドレイクは即座に羽ばたいてその炎を消し去り、己の速度を光の領域に到達させて突進し、アジ・ダハーカの身体を吹き飛ばした。

 光の速度のドレイクがぶつかった事によって遠方まで吹き飛ばされ、真っ直ぐの粉塵を舞い上げて轟音を響き渡らせる。


『肉体にはどうする?』

『無論、同じように返すだけだな』


 瓦礫が無くなり溝のような亀裂が生まれ、その先に居るアジ・ダハーカへ挑発するように訊ねるドレイク。

 アジ・ダハーカは即答で返し、三つの首を正面と左右に放ってけしかける。それをドレイクは跳躍してかわし、次の瞬間に下方の左右から光と闇の物質のようなものが放たれた。


『成る程、同じように返すというのは嘘だったか』


『ああ。嘘も立派な悪。正直に正面から放っていても意味が無いだろう』


 光魔法と闇魔法をかわし、鎌を掛けられたと理解したドレイクの真下からアジ・ダハーカの中心にある首が迫る。

 その首から魔力の塊のような光線が放たれ、ドレイクの身体が負傷した。


『……ッ。そう言えば、魔法を放ったのは二つの首からだけだったな……! 真ん中の首を見落としていた……!』


『フッ、まだまだ攻めさせて貰おう……!』


 次いで火と水と風と土。光と闇といかづちの塊がアジ・ダハーカの周りに展開され、刹那にそれら全てが放たれた。

 アジ・ダハーカの魔力はほぼ無尽蔵。それに加えて魔力を変化させる事で放てる千の魔法がある。

 そしてその強靭な肉体に強力な素の力。まさしく最強に近い生物だ。定められた者にしか殺せれない性質を解釈すれば、永遠。延々では無く半永久的に攻め続けられてしまう存在だ。


『……ッ。本気に成らざるを得ないか……!』


『そうして貰おう。その方が私も嬉しい』


 放たれた、エレメントを始めとした複数の魔法を巧みに避けつつ、全身に力を込めるドレイク。

 アジ・ダハーカが相手では多少の被害を配慮しつつも全力を出さなくては張り合う事すら敵わないと理解していた。故に本気を出すらしい。


『行くぞ……!』

『来い……!』


 ──その刹那、光の領域を何段階も超越した速度のドレイクがアジ・ダハーカに向かった。

 一瞬よりも刹那よりもその更に早い時の更に更に上の早さの時よりも素早い、限り無くゼロに近い速度でアジ・ダハーカへと肉迫した。そしてそれを感じ取られた瞬間にアジ・ダハーカの身体は数十光年を過ぎ去っていた。


『成る程、手強いな。支配者に匹敵する者の全力。私も相応の力で相手をするか』


 遠方を見、ドレイクが確かに強くなったと理解するアジ・ダハーカ。

 刹那に背後へ尾を放ち、回り込んでいたドレイクの身体を吹き飛ばす。しかしその尾は外れ、次の瞬間に上からドレイクが急降下していた。


『──ガァッ!』

『……ッ!』


 それに対してアジ・ダハーカは水魔法と風魔法を組み合わせ、緩衝材のような魔力の塊を造り出してドレイクの速度を緩める。

 それでも光の速度は何段階も超越したものなのでアジ・ダハーカでも抑え切れず、ドレイクが押し潰した。そして上方向に土魔法の槍を造り出して放ち、ドレイクはそれもかわす。


『──ギャア!』

『本気になると獣と化すか……!』


 かわした瞬間に炎を吐き付け、アジ・ダハーカ。及び半径数万キロを焼き払った。

 その炎は更に広がり、数億度に達して周囲を消し去る。惑星一つならば容易く蒸発する温度の炎だ。


『面白い……ならば私も獣となろう……!』


 不敵な笑みを浮かべ、全身の魔力に力を込めるアジ・ダハーカ。

 獣となり敵を討ち滅ぼす事のみに集中しているドレイクへ対し、敬意の意味も含めて自身も獣となりうる。

 三つの頭にある六つの目と三つの口。そこから歯切れの悪い唸り声が響き、アジ・ダハーカを闇が覆った。その闇は更に広がり、周囲を暗くする。


『ガァ!』

『ギャア!』


 獣二匹が正面からぶつかり合い、弾かれた瞬間にアジ・ダハーカの魔法がドレイクを撃ち抜く。

 アジ・ダハーカもドレイクと同様、獣のように目の前の敵を討ち滅ぼす事だけに集中しているが、魔法を使ったりなど生まれ持った戦闘のセンスから千の魔法は健在のようだ。

 悪の根源として、常に強者として、二匹の戦闘は続く。


『グルァ!』

『ガギャア!』


 幻術魔法を使い、ドレイクの視界を消し去る。それをドレイクは気合いのみで打ち払い、光の速度を超越してアジ・ダハーカへと突撃する。

 それを受け止めたアジ・ダハーカは魔法でドレイクの身体を砕き、肉が裂けて鱗が剥がれ大量の出血が周囲を濡らした。

 しかしドレイクは止まらず進み、砕かれながらもアジ・ダハーカの肉を裂く。そのまま三つの頭のうち一つを引き千切った。

 しかしそこからザッハークが生まれ、新たな頭が再生する。そのザッハークは一瞬で焼き払い、今度はアジ・ダハーカの身体その物を吹き飛ばした。

 光の速度を超え、恒星でさえも容易く打ち砕ける今のドレイクによって吹き飛ばされたが、大したダメージは受けずに構える。そして殆どの魔力を込め、何かの塊を形成してドレイクへと向き直った。


『グルル……フフ、中々やるな。ドレイクよ。しかしたった今、残った魔力でこの世の三分の一を消し去る塊を創り出した。思ったよりも手強く、予想よりも魔力を消費してしまったが為に精々銀河系の三分の一しか砕けぬ破壊力だがな……!』


『ギャア……ふっ、そうか。アジ・ダハーカ……! それで、その塊をどうするつもりだ?』


『もう言わずとも分かるだろう。これを放てば、数時間は魔法を使えなくなる。お前とは今一度全力で戦いたいが故に、今回はこの力を最後の力とする……!』


『成る程、心得た……!』


 つまりアジ・ダハーカは、銀河系の三分の一を消し飛ばす塊を最後にこの戦いから降りると告げた。

 魔法が使えなくとも生身の肉体で宇宙を荒らす事も出来るが、ドレイクの実力を認めた。だからこそ、次に会う時は全力で戦いたいらしい。その為に今回は終わらせるとの事。

 その事から理解したドレイクは残った全身の力を込め、塊に向けて構え直した。この六日間で疲弊したドレイク。疲労はピークに達している。それをアジ・ダハーカの気紛れで終わらせられるのならば乗る他無いだろう。

 今までもライたちや自分たちがおこなってきた、単純明快な方法。どちらが耐えるかの我慢比べだ。


『行くぞ……!』

『受けて立つ……!』


 三つの頭の中心に塊が移動し、周囲の空間や大地。万物をむさぼりながら巨大化する。

 ドレイクは一度全力に近いその力を見ているので、アジ・ダハーカの塊がどれ程の威力を秘めているか理解している。だからこそ、以前のものより若干弱い今回の魔力ならばやり方はあると考えていた。


『以前は多数で止めたこの力、貴様一匹で止められるか!!』


『破壊の範囲は以前の数億分の一。止められなければ支配者の座を親父から奪えぬ!!』


 ──その瞬間、巨大な塊が放たれた。

 概念を含めた全てをむさぼるアジ・ダハーカの力。それの具現化した塊がドレイクを狙う。

 対するドレイクは残った力を振り絞り、天候を操り炎を吐き付け、光の速度を何段階も何段階も超越した速度で向かう。



 ──そしてそのまま、大きな衝撃が第二層の世界を飲み込んだ。





*****



 ──"九つの世界・世界樹ユグドラシル・第二層"、ヨトゥンヘイムから数十光年離れた場所。


『……有言実行だ。耐えたぞ、アジ・ダハーカ……! 続きをするか……?』


『いや、私は嘘は吐くが今回は嘘では無い。今日は此処で引き上げるとしよう。いや、お前はもう元の世界に戻るのだな。決着はまた今度となりそうだ』


『そう……か……』


 銀河系の三分の一を貪るアジ・ダハーカの塊を防いだドレイクが意識を失った。

 嘘を吐いてまたけしかけられる事を懸念していたドレイクだが、定められた運命の元に生きているアジ・ダハーカはその約束を破らなかったらしい。

 先程の一撃で数光年は消滅したが、数億光年以上はある銀河系の三分の一を数光年程度で抑え込んだドレイクはかなりの実力者だろう。

 よって、強者に対する敬意も込めて無粋な真似はしなかった。意識は失ったが、結果としてアジ・ダハーカは今回の"終末の日(ラグナロク)"を降りるらしい。


『フッ、面白いな。いつか出会うだろう英雄"フェリドゥーン"よ。お前に殺されるその日まで、まだまだこの世を楽しむ事は出来そうだ』


 最後にフッと笑い、残った魔力から辛うじて移動魔法を創り出してこの場を離れる。無論、ドレイクも一緒である。そして二匹は巨人の国"ヨトゥンヘイム"へと戻った。

 この決戦にて生じた、幻獣の国と魔物の国の被害状況。


 ──幻獣の国の被害、意識不明の者が五人と六匹。動ける者が一人。

 ──魔物の国の被害、意識不明の者が三人と三匹。動ける者が一人と一匹。意識はあるが動けぬ者が一匹。

 両陣に多大なる被害を及ぼし、この争いは終了する。


 宇宙の大樹"世界樹ユグドラシル"にて行われる"終末の日(ラグナロク)"。その六日目。幻獣の国と魔物の国による戦争が終わりを告げた。

 残る主力の戦いは四つ。

 ──ライたちとグラオ、テュポーン、オーディン、ロキ。

 ──シヴァ、ドラゴンとヴァイス。

 ──魔族の幹部と百鬼夜行、シュヴァルツにマギア。

 ──シヴァの側近たちと裏切り者のゾフルとハリーフ、及び生物兵器の軍隊。

 終焉が近付く"世界樹ユグドラシル"で続く戦争は一つの戦いが終了し、四つの戦いを残して終着へとまた一歩進むのだった。

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