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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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五百九十話 出口確認・主力たちの戦況

 ──"九つの世界・世界樹ユグドラシル・最下層・泉地帯"。


 崩壊が始まってから一日と数時間。もう泉地帯の見る影も無くなっていた。

 此処にある泉は知恵を与える"ミーミルの泉"と浄化する力を宿す"ウルズの泉"。その二つの泉を潤す水は枯れ果て、既に無機質な大地が剥き出しとなっている。

 それだけならばまだ再生出来るかもしれないが、泉の中にあった水は外に流れた。つまり、"世界樹ユグドラシル"から消え去っているのだ。

 それでは再生のしようも無く、崩壊の一途を辿っているだけである。

 というのも、もう残った場所が枯れた二つの泉だけというのが現状だった。


 周りには何も残っておらず、闇よりも深い黒が彼方あちら此方こちらに彩られている。

 消え方は光の粒子と成り果てる静かで儚げなものだが、それを覆う闇が静かな消滅を恐怖対象へと変えていた。

 此処に誰も居ないのが幸いというべきだろうか、誰かがこの光景を見ていたら息を飲み、息も出来ず、叫び声や阿鼻叫喚が飛び交う処刑場にて死刑執行を待つ囚人の気分を味わえた筈だ。


 そして"世界樹ユグドラシル"を暗黒へといざなう消滅は徐々に無事だった大地をむしばみ、ゆっくりと、しかし確実にこの世界を飲み込んでいた。


 ──その直後、一筋の光と共に泉地帯が静かに完全消滅した。



*****



 ──"九つの世界・世界樹ユグドラシル・第二層・巨人の国・ヨトゥンヘイム・研究施設跡地"。


 泉地帯が誰にも気付かれず静かに消滅していた頃、見つかった出口らしき穴の前には一部の主力を除いた全主力と全兵士たちが揃っていた。

 こんなに集まっていると色々な不都合もありそうだが、敵の主力は既に出揃っており残っている敵は魔物兵士や生物兵器、妖力の低い妖怪のみ。

 仮にそれら全軍が統制を取って攻めて来たとしても、此処につどっている主力や兵士ならば容易に迎撃出来るだろう。

 特にレイ、リヤン、エマの三人。彼女たちが居れば三人で全ての兵士を打ちのめし、そのまま払い退けられるという事まであった。

 それに加えて魔族幹部の側近など、支配者クラスの実力者でも対等に渡り合えるだろう。支配者に匹敵するレイとリヤンはこの中ならば飛び抜けた存在である。


「皆さん! 無事でしたか……! あれ? ライさんたちや一部の主力たちが居ませんね……」


 そして、そんな全軍の前で指揮を取るのは"マレカ・アースィマ"の王、マルス・セイブル。

 そんなマルスはキュリテに掴まるレイたちを見て近付き、ライとフォンセ。そして報告に向かったルミエや元々主力と戦っていたシヴァのような一部主力が居ない事を気に掛けた。

 その反応を見、レイたちは頷いて返す。


「うん。ライたちは多分残ったんだと思う。私も今さっき気付いたけど……水蒸気に紛れてフォンセたちも居なくなっちゃった……」


「ライが残る事は知っていたが……フォンセとフォンセの親戚……ルミエと言ったな。アイツらが残るとは」


「心配……」

「うん、そうだね……」


 ライたち。その中でライが残る事はレイたちも理解していた。しかしフォンセとルミエが残った事を気に掛けているようだ。

 気付いたのはつい先程らしいが、心配はすれど別段慌ててはいなかった。

 レイたちもフォンセたちの強さは知っている。フォンセとルミエの相手がグラオ、テュポーン、オーディン、ロキの全てならば苦労しそうなものだが、ライが居るのでその者達全員とも渡り合えるだろうと判断しているのだ。


「そうですか……。戦いの余波で水蒸気が出現したが為に離れてしまったという事でしょうか……。僕も心配ですけど、ライさんたちを信じて待ちましょう……。となると他の主力の皆様も戦闘を続行しているという事ですね」


 ライと共に行動していたレイたちの言葉ならば疑う余地もない。なのでマルスは納得した。

 そしてライたちとは違う他の主力や報告者の事だが、ライたちの行動からして大凡おおよその事を予測する。

 確かに他の主力が素直に戻って来るとは信じられない事。なのでライたちと同様、報告者を含めて戦闘をおこなっているのだろうとおのずと分かるのだ。


「……。ライさんたちやブラックさんたち、他の皆様も心配ですけど……だからこそ今はこの穴を詳しく調べなければなりませんね……出口の可能性は高いですけど、罠の可能性も当然ありますから」


 マルスの言葉と共に、レイたちや他の主力、兵士たちの視線が不思議な穴へと向いた。

 出口の可能性が高いこの穴。しかし用心深いヴァイスの事なので何かを仕掛けているかもしれない。その懸念があったのでまだ誰も入っていないのだ。

 思い過ごしという事も有り得るが、此処が敵地である以上警戒するに越した事は無いだろう。


「どちらにせよ、行ってみなくては分からないからな。此処は不死身の肉体を持つ私が率先して行こう」


「エマ……!」

「エマ……」

「エマお姉さま……」


 その穴に向け、真っ先に立ったのは日除けの傘を持ちながらたたずむエマ。

 例え何らかの罠が仕掛けられていたとしても、弱点以外では致命傷にならない不死身の肉体を持つヴァンパイアのエマが適正であると自分で判断したのだろう。

 レイ、リヤン、キュリテは不安そうにエマを見やるが、エマは真っ直ぐ穴へと向かい試しに片手を穴の中に入れた。


「……。何も起こらないな。変な警戒をし過ぎたか?」


 しかし何も起こらず、エマの身体は無事である。試しに入れた腕を引き戻してみるが何ともない。

 いて問題点を挙げるとすれば、少々小さな穴なので数万人と数万匹が入るのに時間が掛かりそうであるというくらいだ。

 そして次は顔を入れ、穴の中を覗く。


「見たところ私たちの世界が広がっているな。場所は恐らく魔物の国……催眠などの可能性も考えられるが、そんな気配は無い」


 そう言いながら自分の頭をえぐるエマ。

 催眠や幻術というものは脳に作用させる事で幻覚を見せたりする技。なのでみずから脳を破壊すればそれらの術には掛からないという、ヴァンパイアの再生力あっての方法だ。

 それもあってこの穴から繋がる場所は本物の元の世界である事が分かったようだ。


「まあ、まだ罠の可能性はあるな。念の為に安全地帯かも確かめよう」


 可能性が僅かでもあるのなら警戒をしなくてはならない。なのでエマは頭に続いて片腕を引き千切り、その腕を試しに穴の先へ広がる地面に投げ付けた。

 千切った片腕は即座に再生し、穴の中に放られた腕は日光によって消滅する。だがその先に罠などは無さそうである。


「うん。大丈夫みたいだ。しかし油断は出来ない。念の為に私たちは最後に入る。先ずはお前たちが元の世界に戻ってくれ」


「「「…………」」」

「「「…………」」」

『『『…………』』』


 何もなかったかのような涼しい顔で言い放ち、マルスたちに促すエマ。マルスとヴィネラからすれば中々にショッキングな光景だろうが、一応二人の目には付かぬよう注意していた。

 しかしエマの周りに広がり日光で消え去る血液から何かを察したのか軽く引いているようだ。

 そして文字通り身を犠牲にして確認を行うエマにレイたちと他の主力、兵士たちは絶句していた。


「ん? どうした、レイ、リヤン、キュリテ、そしてマルスにヴィネラ。他の主力たちよ。安全は確認したんだ。後ろから敵が来る可能性もあるからな。さっさと行った方が良さそうだろう?」


「あ、うん。そうなんだけど……」


 己の行動とは裏腹に、呆気からんとした表情で訊ねるエマに他の者たちは何も言えなくなる。あの光景を目撃したのだから当然だろう。


「やれやれ。何を思い詰めた表情をしているのか」


 呆れるような表情のエマに対し、全員が「誰の所為せいだよ」と思ったが、エマのお陰で安全を確認出来たのは事実なので何も言わない。

 意外と天然なところもあるのだなと考えたレイたちと他の主力は、エマの言う通り一先ずマルスやヴィネラ、兵士たちをその穴へと送り込むのだった。



*****



 ──六日目の"終末の日(ラグナロク)"が始まり、早数時間。

 時は正午を過ぎており、もう二、三時間で日も傾き始める事だろう。

 そんな戦場に置けるライたち、魔族の国、幻獣の国の主力があらゆる場所で織り成す戦闘。

 研究施設跡地から数キロしか離れていない場所ではシヴァとドラゴン。幹部の能力を移植したヴァイスが戦い続けていた。


「"終わりの炎(ニハーヤ・ショーラ)"!」

『──カッ!』


「"完全な守護(パーフェクト・ガード)"……!」


 二つの炎が放たれ、それをヴァイスは防ぐ。

 朝から数時間戦い続けているが、しぶとさも生物兵器譲りのようだ。知能を持たぬ生物兵器だからこそ簡単に倒せるが、様々な力を宿すヴァイス。知能も高く、二国の支配者と数時間渡り合えるだけでかなりのものである。


「"無数の矢アダド・ラー・ニハイィ・サハム"!」

『伸びろ如意棒!』

『魔族の主力よ。この程度か? 斉天大聖も面白味の無い攻撃だ』

『ブヒィ!』

『ハア!』

『そうだな。確かに単調な攻撃……しかし、此方の二匹よりもそちらの方が手強そうだ』


「やあ!」

『当たらぬのが天命と何度も言っているだろう』


『ナーガ族には容赦せぬ……!』

『仲間にも龍族が何匹か居るようだがな』

『ハッハ! 俺はナーガとは違うが、テメェも同じ龍ならもっと力を見せてみろ!』

『生憎、お前達のように好戦的では無いからな。積極的に挑むのは我が認めた者くらいだ。実力者であるとは知っているがな』


『弟だとしても貴様を打ち倒す……!』

『兄だとしてもお前を討ち滅ぼす……!』


『焼き払います!』

『それは自分の台詞だ』

『なら敵の炎は私が消すよ!』

『ならばそれを阻止するまでだ』

『案外纏まっていませんね、アナタ方』

『まあ、それでも十分強いから良いのよ』


 一方ではサイフと孫悟空と沙悟浄に猪八戒。そしてアジ・ダハーカに牛魔王。

 もう一方ではニュンフェとブラッド。

 その近隣にてガルダとワイバーン、ヴリトラにニーズヘッグ。

 フェンリルとヨルムンガンドが巨大化して暴れ回り、そこから更に離れた場所で戦闘を織り成すフェニックス、ジルニトラ、ユニコーン。敵がスルト、ヒュドラー、ヘル。

 研究施設跡地から離れた街中、新たな主力を加えた幻獣の国の主力たちだが、数時間で両者疲弊しているようだ。


「"光の爆発ヌール・インフィジャール"!」

「面倒だな……」

「ハッハ! やる気出せよダーク! "影の刃(ディッル・セイフ)"!」

「まあ、囲まれていてもあまり関係は無いな。"無数の剣アダド・ラー・ニハイィ・セイフ"!」

「けれど、数が多いのが少し面倒ですね。私たちの方が一人多くなりましたけど。"ショーラ"!」

「良いンじゃねェか? これくらいが丁度良い」

「そうだな。俺的にも丁度良いぜ。"ショーラ"!」


「フム、刀ですら遠距離攻撃にしうるか」

『しかし総大将、それくらいからば我らも容易い所業だ』

『ならば私は風で煩わしい炎を払うか』

『ついでにわらわの炎を強化しておくが良い。"狐火(フー・ホォ)"』

「ハッ! 全て破壊してやるよ! "破壊ブレイク"!」

「もう、皆好戦的だなぁ。"風の炎(ウィンド・ファイア)"!」


 他の主力たちと同様、瓦礫の中で戦闘を行う魔族の主力と百鬼夜行、シュヴァルツ、マギア。

 ラビアが加わった事で広範囲を狙う事が可能になり、戦略の幅が広がっていた。

 しかし一人一人が強力な力を有している百鬼夜行と二人。それでも互いに放った攻撃が打ち消されるのが関の山だった。


「ハッ! 誰が増えても関係ねェ! 俺は自分がなれるだけじゃなく、その身体の一部を放れるんだぜ!」


「やれやれ。まあ、遠距離からの攻撃には私も賛成ですね。あの盾魔術なら防がれそうなものですけど、生物兵器の兵士達が複数体居るので近距離は任せますか。"無数の槍アダド・ラー・ニハイィ・ハルバ"!」


「遠距離から攻めて来るか。まあ、想定の範囲内だな。"震動壁ハザ・オーリア・ジダール"!」

「遠距離攻撃は俺たちには無駄なんだがな。"重力壁ジャーディビーヤ・ジダール"」

「生物兵器の進行は私が止めます。"盾の壁(デルゥ・ジダール)"!」

「なら、私はまた雨を降らせようかしら。"豪雨(マタル・ガゼィール)"!」

「生物兵器は私が相手をしていますので安心を……!」


 遠距離から炎といかづち。複数の槍魔術が放たれ、それを防ぐ"マレカ・アースィマ"支配者の側近とシター。

 彼らの能力上、大抵の遠距離攻撃は防げる。今日の現在、"ヨトゥンヘイム"の一角にて地震と雨、重力の歪みというおかしな災害が確認された。


「【オラァ!】」

「"魔王の水(サタン・ウォーター)"!」

「"終わりの水(ニハーヤ・マイヤ)"!」


「そらっ!」

「"衝撃波(ショック・ヴェイファ)"!」

『フッ!』

『焼き消えよ!』


 そして、恒星複数個分の範囲が一気に消滅した。

 魔王の七割と魔王の魔術。禁断の魔術。混沌の拳。主神の衝撃波。山をも超えた巨腕。全てを飲み込む炎。

 それらによって第二層の世界にあるその範囲が消滅したのだ。

 更なる本気ならば銀河系や宇宙。複数の宇宙からなる多元宇宙をも消し去れるだろう。全力には程遠い力なのでこの程度の範囲が消え去るだけで済んだようだ。

 このように、至るところで行われている戦闘。大多数が元の世界に帰る最中さなか、残った主力数十人と数十匹。

 数日に及ぶ長さの"終末の日(ラグナロク)"は、愈々(いよいよ)終着を迎えようとしていた。

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