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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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五百八十八話 支配者の側近たちへの報告

「オラァ!」

「遅い!」


 ゾフルが雷速で迫り、ウラヌスが重力の壁を作り出してその動きを止める。

 重力は全ての動きを止め、飲み込む存在。その代表格にはブラックホールなどあるが、類似的なブラックホールを作り出してゾフルの動きのみを止めたのだ。


「行くぜ……!」

「……ッ! しまっ……!」


 そこへズハルが飛び込み、震動の災害魔術を纏ってゾフルの顔を掴んだ。その刹那に震動が起こり、ゾフルの身体を内部から揺らして破壊する。

 たまらずゾフルは身体を雷へと変換させてのがれ、ズハルとウラヌスから距離を置いた。


「あークソッ……! 痛ェ……! あの震動野郎に重力野郎……!」


「ほらほら。あまり怒らずに。最も……ゾフルが闇雲に突っ込んだのが原因ですからね。まあ、先程までは楽しそうにしていましたがね」


「五月蝿ェ。俺の気分は頻繁に変わるんだよ」


 砕かれた場所を見て悪態をき、ズハルと自分を止めたウラヌスを睨み付けるゾフル。

 ハリーフは先程まで嬉々としていたゾフルの態度の変化に呆れつつ、そんなゾフルをなだめていた。

 確かにゾフルの言うようにゾフルは気分屋なのだろう。その態度から大体の事は分かるというものである。


「此処は案外早くに終わりそうだな。地獄での鍛練は積まれど、この世界での肉体が動いていねェ。そして元々が俺たちよりも地位も力も下の存在……。油断は出来ねェが、今のところ俺たちが優位に立てる」


「ええ、そうですね。けれど、彼らは生物兵器を使っております。私の兵士たちが何時まで持つかは分からないので、なるべく早く決めて下さい」


「分かっている。優位に立てるが、弱者って訳じゃねェからな。アイツらも魔族の国で伊達に主力を努めていた訳じゃねェ。元々ゾフルは幹部に近い力もあったし、人数の差で有利に戦えているだけだからな」


 戦況はズハルたち"マレカ・アースィマ"支配者の側近たちが有利である。

 しかしズハル本人やシュタラを始めとした他の者たちは決して油断しておらず、警戒しながら悪態を吐くゾフルの姿を見ていた。

 ゾフルもハリーフも魔族の主力であった事実は変わらない。なので弱い敵という事は決して無いからだ。


「だが、この程度で止まる俺じゃねェ! まだまだ突っ込むぜ!」


「今回は援護射撃をしましょう。文句を言わないでくださいね、ゾフル」


「ハッ、勝手にしろ! 俺の邪魔をしない程度の援護をな!」


「やれやれ。また回りくどい注文をする。まあ、やるしかないのですけどね。"ハルバ"!」


 大地を踏み付け、刹那に雷へと姿を変化させて突き進むゾフル。

 今回はハリーフの援護も加わり、雷その物であるゾフルと魔力からなる槍魔術がズハルたちを狙った。


「槍は任せたぜ、オターレド」

「面倒ね。まあ、言われたらやるけど。"豪雨(マタル・ガゼィール)"!」


 そして雷速のゾフルにはズハルが構え、槍魔術はオターレドが迎え撃つ。

 ズハルは震動の結界を周囲に広げており、オターレドは槍よりも鋭い豪雨を放っていた。

 それによってゾフルの雷が歪み、槍魔術が雨に貫かれて落下する。その隙を突き、歪んだ場所を目掛けウラヌスが周囲に大きな重力を展開させた。


「"重力の空間ジャーディビーヤ・ファダーァ"!」


「……ッ!」


 周囲の重力に圧されて肉迫していたゾフルは止まり、そのまま雷の身体を変化させる。ゾフルに掛かった通常よりも遥かに強烈な重力が雷の形をも変化させているのだ。

 流石にこのままではゾフルも身動きが取れず、徐々に実体を持つ。そこへズハルが来ており、再びゾフルに触れた。


「これで終わりになれば良いな。"震動(ハザ・オーリア)"!」


「……ッ! ぐわあああ……!!」


 願望を呟きながら震動を重力の中へと収め、上乗せしてゾフルの実体を持った身体を大きく揺らす。

 それによってゾフルの近くにある空間だけに砕けたようなヒビが入り、捻るように空間を歪める。あまりの重力と震動に概念である筈の空間が耐えられなくなり、破壊魔術をもちいずとも砕け始めたのだ。

 そのまま空間が割れ、重力のみの闇が映し出される。流石のゾフルもこれでは致命傷を負った事だろう。


「やってないな。まだみたいだ」

「ああ。その様だな。案外しぶといじゃねえか」


 ──しかしゾフルがまだ生きており致命傷を負ってはいないと、それらの災害魔術を放った本人たちは理解していた。

 その直後に周囲へ雷撃が走り、炎が轟々と燃え盛る。そこから一筋の光が現れ、ズダボロの状態ではあるが意識もはっきりと持っているゾフルが立っていた。


「今のは死ぬかと思ったぜ……ズハルさん方……! 不可視の移動術と雷、炎の身体のお陰で何とか脱出できた……!」


「それを言っちまうのか。まあ、大体は分かっていたがな。テメェの身体が雷や炎になる時、身に付けているものも変わる。だから移動する何らかの装置は完全に砕けず、そのまま脱出したって訳だ。まあ、それは道具の場合だが……不可視の移動術が魔法や魔術だった場合も同じ。テメェの身体が地味にこらえたから使えたって事だな」


「ハッ……! 不可視の移動術の正体は分からねェみてェだが……頭は回るじゃねェか……!」


 ゾフルが重力と震動から抜け出せた理由は、己の能力とヴァイス達全員が使える不可視の移動術をもちいたからだった。

 不可視の移動術が使える事は元々知っていたズハル。それが魔法や魔術なのか別の力なのか道具なのかは分からないが、今回も会得えとく。もしくは持参しているだろうと考えていたのでそれを利用して脱出したと判断したのである。

 それは本人の言葉からしてもどうやら本当らしく、不可視の移動術のお陰で助かったようだ。


「まあ、タネが明かされたところで関係ねェ。俺は俺らしく、上を目指して突っ走るだけだ……!」


「なら教えてやるよ。テメェの目指す上には、更なる上が無限に存在しているって事をな……!」


 身体を形成したゾフルは再び雷となって駆け出し、閃光だけを残して雷速で迫った。

 それをズハルは正面から受け止め、震動を起こして牽制する。しかし次の震動はかわされ、ズハルの背後に回り込んで雷の蹴りを放った。


「だったらその上を俺が行くだけだ……!」

「……ッ! 少し強化されたか……!」


 そのままズハルは吹き飛ばされ、大地をえぐり建物を巻き込みながら遠方に粉塵を舞い上げる。どうやら着弾したらしい。そしてその言葉から、ゾフルが少しパワーアップしたようだ。

 刹那にウラヌスが駆け出し、ゾフルの元へと肉迫する。


「やれやれ。戦いの最中で成長するか。それか元々隠し持っていた力なのか分からないけど、厄介だな」


「ハッ。両方だ。強化されたって事は元々俺がその力を宿していたっー事。成長も自分の力の一端に過ぎねェからな!」


 ウラヌスは片足を重力で重くし、踏み込んだ瞬間に全身を羽のように軽く、しかししっかりと質量はある重さにする。

 それによって勢い付けられ加速し、弾丸の如く速度でゾフルの周りに重力の壁を展開した。


「重力は面倒だな。俺の速さが消されちまう」


 その次の瞬間にゾフルは重力の壁から抜け出し、重力に捕まるまいとウラヌスから距離を置く。

 力と速さが主体のゾフルはその両方を消される重力が苦手らしい。なのでズハルの時のように正面から攻めず、改めて行動を起こしているのだろう。


「ゾフルは強化されましたか。私ももう少し強くなりたいものですね」


「なら、私が御相手をして差し上げましょうか?」


「速いですね……。雨関連の力を使える貴女自身も雷速へとなれるのですか」


 ズハルとウラヌス。そしてゾフル。

 この三人が戦闘を続ける最中、オターレドが雷速でハリーフに迫っていた。

 未だに槍のような豪雨は降り続けているが、どうやらオターレドはその中をくぐったようだ。

 やはり自分の雨でダメージは受けないという事だろう。


「"雨の槍(マタル・ハルバ)"!」

「"ハルバ"!」


 そのままハリーフへと迫り、水を集中させて槍を形成して放つ。

 それをハリーフは槍魔術で応戦するが、オターレドの槍を貫く事は出来たが破壊出来ず、ハリーフの肩に水の槍が突き刺さった。


「……。成る程。元々実体を持たぬ液体の水……私の槍で貫いたとしても完全に破壊する事は出来なかったという事ですか」


「ええ、そうよ。水は液体ですり抜けるけど、高圧で噴出すれば鉄も貫く力となる。私の槍はそれが大きくなったモノと考えてくれれば良いわ」


「しかし、洪水魔術の使い手というのに雨しか使っていませんね……」


「当たり前じゃない。洪水の根源は雨ですもの。あらゆる雨の形を生み出せるから私の水魔術が洪水となるのよ。当然、それに伴った破壊は大きいわ」


 水魔術の上位的な存在である洪水魔術。だがそれは元々雨からなる魔術である。

 オターレドは洪水魔術の使い手だが、厳密に言えば"雨"の災害魔術だ。

 通常の水魔術と違うのは、雨からなるあらゆる災害が力となっている事。一つの魔術に台風や竜巻。洪水に雷、しまいには豪雪や雪崩など、ありとあらゆる"雨"に関する事柄が存在している魔術なのだ。

 それは魔力の塊でもあるので、当然それを利用して様々な形に変化させる事も可能という事である。


「しかし、やはり支配者の側近というべきでしょうか。一つの魔術で様々な力を使える……通常の同種魔法・魔術よりも更に強力なモノを……。私も少し本気を出しますか」


「出してみなさい。例え本気を出したとしても、私に勝てる理由にはならないわ」


「なら、遠慮はしませんよ」


 複数の槍を顕現させ、オターレドの頭上に漂わせるハリーフ。それは通常の槍よりも遥かに高い貫通力を有している。

 流石の主力でもそれに貫かれれば死にはしないにせよ手痛いダメージを負いそうだ。


「この程度? 複数の槍魔術の顕現……この技は本気で無くても何度も見た技よ」


「ええ。けど、精度が高いですから。威力は通常時の非にならないと思いますよ……!」


 次の刹那、顕現された複数の槍魔術が一斉にオターレドへと向かって進み、空気を貫き真空を生み出しながら直進する。

 それをオターレドは全て見切ってかわし、余裕を見せながら紙一重で避ける。そのままハリーフへと雷速で駆け寄り、洪水魔術を片腕に集中させ雷速のままハリーフに向けて突き出した。


「今です。"大地の槍(トゥルバ・ハルバ)"!」


「……!」


 その瞬間、オターレドの足元から複数の槍が突き上げられた。

 それに反応を示したオターレドは即座にかわすが、突然の槍に反応が遅れた物もあり少々傷を負う。

 といっても頬を軽く掠ったものであったり深いものでも脇腹を掠る程度。多少の流血はあれど、問題無く行動出来る範囲のダメージだった。


「成る程ね。あまりに隙だらけだったから受けてしまったわ。確かに、あんなに隙だらけだったのは逆におかしいわね。わざとらしく空に槍を顕現させ、足元から注意を空に向ける。大した事が無いと思わせて突き上げるこれが目的だったという事」


「ええそうです。流石は支配者の側近。直ぐに見抜きましたか。これでは同じ手は通じないようです」


「その称賛、白々しいわね。こんな手に引っ掛かった自分に腹が立つわ! けれど引っ掛かったのは事実……。今回の読み合いは潔く敗北を認めましょう」


 互いに構え直し、鋭い雨と槍魔術を作り出す二人。その刹那にそれら全てが放出される。

 今回の読み合いでは負けを認めたが、それはほんの数撃の問題である。故にオターレドは気を取り直して次の行動に移ったのだろう。

 対するハリーフも今度は全方位へと槍魔術を放ちけしかけている。

 それとは別に向こうで戦っているゾフルと言い、此方もまた被害が広がりそうな雰囲気だった。


「そこまでよ。側近の皆様。そしてゾフルにハリーフ!」


「……あ?」

「……?」


 ──が、そこへ一つの声が届き、雷となっているゾフルを複数の盾が閉じ込めた。それに続くよう降り注ぐ全ての槍魔術をオターレドの前に現れた盾が弾く。

 ゾフルは突然周囲を囲んだ壁に疑問をいだき、ハリーフは小首を傾げて声の方向を見やる。他の主力たちも含め、全員の視線が声の主へと向かった。


「"ラマーディ・アルド"のシターか。その様子、何か見つけたな?」


「ええ、そうです。単刀直入に言えば出口が見つかりました」


 姿を現した者、魔族の国"ラマーディ・アルド"幹部の側近シター。

 シターの様子からズハルは何かを悟り、間を置かずに自分たちが見つけた事を告げた。

 敵二人はシターの盾魔術によって動きが封じられているので聞こえないだろうと判断したから告げたのだろう。聞かれても別に構わないという様子だが、一先ず言いたい事は伝え終えたようである。


「本当ですか……!」

「ええ。確信はありませんけど……恐らく可能性は高いかと」

「そう。それなら話は早いわね。コイツらにトドメを刺して向かうとしようかしら」


 確認を取るシュタラと、丁寧に返すシター。見つかったならばこの場に居る必要はあまりない。

 なのでさっさとこの戦いを終わらせ、研究施設の跡地へ向かおうという事で話が纏まり始めた。


「い、いえ。そういう事では無くてですね……私は早く戻りましょうと言う為に此処へ来たのですけど……」


 そしてその思わぬ方向への纏まりに物申すシター。

 確かにシターは始めから先に戻るという方向で話を進めていた。だが"マレカ・アースィマ"の側近たちはそれを聞いておらず、いや、聞いた上でゾフルとハリーフを打ち倒す方向で話しているのだ。

 それでは時間が掛かってしまうとシターは言葉を続け、ズハルたちも言葉を続ける。


「ああ、それも良さそうだ。だが、アイツらを閉じ込めたお前の盾の壁も時間の問題……どうせ俺たちを見失っても暴れ続けるだろうよ。なら、さっさと倒した方が得策と判断した次第だ」


「それに、まだ兵士たちもおりますからね。私が一人で相手をしていますけど、中々大変です。そんなものを放って置く訳にも行かないでしょう」


「それに、此処で倒して置けば後々追われる事もない……元々格下の相手。油断は出来ないが、倒せるうちに倒した方が良いだろう?」


「そういう事。後で向かうから、他の人たちに言っておいて。シターさん」


 ズハルたちの意見は、至極真っ当なものだった。

 確かにゾフルとハリーフを無視して進んだとしても、追われるか他の兵士たちに被害がこうむるかもしれない。けしかける生物兵器の兵士達も厄介。

 それならばある程度の事は此処で済ませた方が良いであろうという判断なのだ。

 そんな、シターを逆に返す方向で話を進める側近たちにシターは言葉を続ける。


「なら、私も手伝います。私の盾魔術は敵の兵士達やゾフル、ハリーフにもそうそう破られません。攻撃だけでは無く、守護も徹してこそですから……!」


 それは、自分の盾魔術で生物兵器の兵士達の進行。ゾフルやハリーフの攻撃を受け止めるとの事。

 確かに幹部の側近にしてはかなりの防御力を誇るシターの盾魔術。それは攻撃に転ずる事も出来るので味方からすれば便利だろう。

 その反応に、ズハルたちは再び言葉を続けて話す。


「んじゃ、手伝いを頼んだ。生物兵器もシュタラだけじゃ大変そうだからな」


「期待していますよ、シターさん」

「遠距離からの槍魔術も面倒だからな」

「ふふ、頼んだわよ。シター」


「はい……!」


 手伝いを任され、返事をするシター。

 此方こちらとしても利点が多いのは事実であり、進行を止めるのに苦労しているのも事実。それならば手伝って貰った方が良いだろう。

 丁度ゾフルとハリーフも盾魔術の結界から抜け出し、姿を現していた。

 魔族の国"マレカ・アースィマ"支配者の側近への報告。それはシターが戦闘と防衛に加わる形となり、終着へと向かうのだった。

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