五百八十七話 魔族たちへの報告
「"影の爪"!」
「"破壊"!」
影からなる複数の爪が伸び、シュヴァルツを狙う。それをシュヴァルツは破壊魔術で打ち砕いて詰め寄り、影魔術を放ったシャドウに向けて新たな破壊を放つ。
それをシャドウは影で受け止め、そのまま再び影が砕かれ周囲に破壊と影の余波が散りばめられた。
「そらァ!」
『……!』
シャドウとシュヴァルツが織り成す魔術の鬩ぎ合いとは別に、もう一方では刀を用いた肉体的な剣戟が繰り広げられていた。
一本の刀と二本の刀がぶつかり合って金属音を響かせ、それと同時に弾かれて火花を散らす。
その刹那に何度も剣尖がぶつかり合い、それによって生じた金属音が遅れて響き渡った。
「"剣"!」
「フム……!」
「ダリィ……」
『少しはやる気を見せてみよ!』
ぶつかり合うブラックの剣魔術とぬらりひょんの刀。そしてダークの拳に大天狗の扇。それらの衝突は周りの建物と妖怪達と生物兵器の兵士達を吹き飛ばすには十分な威力が秘められており、周囲を勢いよく吹き飛ばした。
山よりも巨大な建物は風圧で揺れ、カラカラと上から小さな、ブラックたちからすれば大岩程の欠片が落ちる。
「「"四大元素"!」」
「"四大元素"!」
「"四大元素"!」
同じ意味の呪文と共に、アスワド、ゼッルとマギア、九尾の狐によって四大エレメントの塊が放たれた。
火、水、風、土からなる四大エレメントは混ざり合って不可思議な色を醸し出し、四つの塊が正面から衝突して轟炎と轟水、強風を上回る暴風に激しく揺れる大地へと姿を変えて山よりも巨大な建物を複数崩した。
魔族たちと百鬼夜行。そしてシュヴァルツにマギア。
此方でも依然として激しい戦いが続いており、元々は街中で大きな建物などあった景観も既に消え去って辺りは瓦礫の山と化していた。
それでも形の残っている建物は多いが、それが更地に変わり果てるのも時間の問題かもしれない。
「相変わらず手強い相手じゃの。魔族と戦う機会は多いが、大体退けられてしまう」
「なら、とっととテメェも帰って良いんだぜ? 俺たちは戦い好きだが、今は出口が見つかるまでの時間稼ぎに過ぎないんだからな」
刀を構え、"シャハル・カラズ"が始まってからの魔族との関係を呟くぬらりひょん。
百鬼夜行は幾度と無く魔族たちと戦闘を繰り広げて来た。最も、戦闘といっても数回程度であるが。
しかし、その数回が命を懸けた攻防戦なので記憶に残っているのだろう。元々人間の国に居た存在である百鬼夜行。なので魔族と関わる事はこの数ヵ月が一番多かったのだ。
「はあ……。面倒だな。てか……なんでお前達は魔族の国を狙ったんだ……? そんな面倒な事をしなくても良いだろうに……」
『まあ、一応我々も世界を狙っているからな。あの少年と知り合いのお前達だ。皆まで言わずとも分かるだろう。この世を我ら妖怪のモノとする事……考え付いても余程の馬鹿か自信家しか思い付かない事が私たちの目標だ』
百鬼夜行が最初に狙った街は、魔族の国"シャハル・カラズ"。
それはライたちとモバーレズによって阻止されたが、ライたちとは大きく違う、自分にとって都合の良い世界にするのが百鬼夜行の目的である。
なので幻獣の国にてヴァイス達と手を組み続いて魔物の国で魔物達と手を組んだ。単純明快かつ迷惑な事柄。それが百鬼夜行の求める事だった。
「思えば……いや、思わずとも主とは二度目の戦い。先程も言ったが、一度敗北している我にこの機会を設けてくれたのは感謝しておるぞ」
「ハッ。だから言ったろ? 俺は勝った気がしてねェンだよ。だからテメェと再び戦う事にしたンだってな!」
刀と刀がぶつかり、相手を弾きながら会話をするモバーレズと酒呑童子。二刀流が左右から斬り掛かり、それを一つの刀で受ける。二本の刀は受けられた一本の刀を弾き、刀の持ち主へと迫った。
そして酒呑童子はそれも躱し、空中から刀を振り下ろしながらモバーレズを叩く。それをモバーレズは受け止め、互いに近距離にて会話をする。
元々因縁の相手であり、互いに心残りがあったこの二人。今回の戦闘はどうやら逆に都合が良いようだ。
「ライたちと言い百鬼夜行と言い、最近は世界征服が人気だな。世間では世界征服ブームにでもなってんのか? 魔族と幻獣が協力しているこの"終末の日"自体有り得ない事のオンパレードだ。世界は何処か変わりつつあるみたいだ!」
「ハッ。知らねェよ。世界征服を狙っている奴なんてその二チームくらいだろ。……いや、まあヴァイスも似たようなもんだな。それはさておき、有り得ない事なんか逆に存在しねェだろ。……"破壊"!」
ブラックとぬらりひょん。ダークと大天狗。モバーレズと酒呑童子。その会話の一方で、破壊魔術を使うシュヴァルツとそれを躱すシャドウ。
シャドウは最近の世界の動きから、何かが変わろうとしていると実感していた。
不仲という訳でも無かったが、元々相容れる事は無かった魔族の国と幻獣の国が協力しており、誰とも群れず最強を求める魔物の国が二つのチームと手を組む。
そんな事、数年前までは有り得なかった事だ。
この世に絶対というものは存在せず、思い付く限りの事柄全ては本当にそうなる可能性を秘めている。しかしそれでも、まだ信じられないのだ。
「盛り上がってるねえ。うん。かなり盛り上がっているよ! "雷の雨"!」
「盛り上がらない方が平和で良さそうですけどね……"大地の傘"!」
「俺的には盛り上がっても良いがな。ガチな戦闘なんかそうそう出来る機会はねェからな。"鉄の球体"!」
『フッ、野蛮な種族よのう。魔族というものは』
周囲の様子を見、嬉々とした表情で雷を降らせるマギアにそれを防ぐアスワド、ゼッル、九尾の狐。
今現在の盛り上がり、それはマギアやゼッルにとっては楽しい事らしくアスワドにとってはあまり嬉しくないらしい。そして喜ぶ様子を見た九尾の狐がゼッルのみを罵る。
何はともあれ、マギアの雷によって周囲の様子は一変し既に他の妖怪や生物兵器の兵士達は誰一人居なくなっていた。恐らく別の部隊へと向かったのだろう。
「ンで、どうする? 敵さんも結構粘ってるぜ?」
「ああ……。面倒な程にな……」
「てか、俺たちいつの間にこんな近付いたんだ?」
「ハッハ! やっぱり俺たち幹部は気が合うんだな!」
「そんな事言っている場合ですか……まあ、確かに個別で戦うよりはこの方が臨機応変に対応出来ると思いますけど……」
「ハッ。どちらにせよ敵は強敵。優劣付ける事が出来ない程に全部の主力がだ。一応この中では俺がリーダー的な立ち位置だが、正直なところ厄介としか言えねェや」
モバーレズ、ダーク、ゼッル、シャドウ、アスワドの順で告げ、自然と背中合わせの体制となってブラックに意見を委ねる。
リーダーはブラックらしく、そのリーダーからしても打破出来る最善の策は思い付かないらしい。
なのでどうしようも無く、困り果てたように考えていた。
「ハッハ! だったらリーダーは俺が変わろうか? 俺たち魔族幹部は全員が対等だが、実力的に言えば俺とダーク、ブラックが頭一つ抜けてるんだろ?」
「ええ。そうですね。約二名は認めたくないようですけど、実力的に言えばブラックさんたちが上です。けれど、リーダーが誰かと問われれば悩みどころですね」
「認めてねェとか、俺たちはまだ何も言ってねェだろ? いや、まあ認めてねェのは事実だがよ。魔術なら俺が一番だし」
「ああ。鉄からなる刀の扱いは俺が一番だがな」
弱気なブラックに向け、軽薄に笑いながら話すシャドウと同調するアスワド。
ゼッルとモバーレズは自分たちが劣っているとは認めたくないようだが、考えるより行動を起こす事を優先する魔族なのでまどろっこしいのは苦手なのだろう。
「じゃあ全員がリーダーで良いだろ……面倒だから俺はリーダーから降りるが……」
「ハッ、良いなそれ。んじゃ、そうと決まればさっさと目の前の敵を片付けるか。俺も柄に無くうだうだ考えちまったよ」
最終的にダークが纏め、リーダーであるブラックも納得する。
本人たちからすればリーダーなどどうでも良く、考えるよりも行動をおごり既に方が楽なので適当に流してのだろう。
その言葉に他の幹部たちも頷いて返し、改めてシュヴァルツ、マギアと百鬼夜行の主力達に向き直った。
「なんか勝手に悩んで勝手に決まってんな。どうでもいいが、少し腹が立つ」
「じゃあどうでもいいって思ってないんじゃない? シュヴァルツ。私は気にしてないけどね」
「フム、しかし活気はある。変わらず面倒な相手じゃな」
『そうだな。しかし己を高めるならば好都合だ。その方がやり応えがある』
『そうだな。我からしても同意だ。我の狙いはあの侍であるがな』
『ホホ……奮起しても無駄という事を妾らが直々に教えてやれば良いだけじゃ』
纏まり始めた魔族たちへ、シュヴァルツ達と百鬼夜行も反応を示して纏まる。
戦いの最中で六人が背中合わせになった魔族の幹部たちとは違い、この者達は前後左右と瓦礫の山から見下ろすような体制となっていた。
背中合わせの魔族たちとそれを囲む敵の主力達。そして、次の瞬間にはその体制の意味が無くなる現象が起こった。
「"光の球"!」
「「「……!」」」
「「「……!」」」
『『『……?』』』
「「「……?」」」
何処からともなく光球が現れて着弾し、魔族の幹部たち。シュヴァルツ達と百鬼夜行の前に光の爆発を起こしたからだ。
その光球は魔族の幹部たちとは影響の無い場所へと落ち、シュヴァルツ達の近くで爆発した。
当然大したダメージは負っていないのだろうが、多少は汚れたらしい。
「なんだ。ラビアか。どうした? 突然現れて。まあ、研究施設跡地のお前が此処に来た事から大体の予想は着くがな」
「うん。ブラックさん。そして幹部の皆さん。お察しの通り出口みたいな穴が見つかったよ……!」
そこから現れた者、ブラックの部下である"ラマーディ・アルド"のラビア。
その様子からブラックたちは大凡の事を予想しており、その予想通り出口が見つかったとの報告だった。
未だ粉塵に包まれている街中。現れたラビアの声は聞こえているのだろうが、まだ姿も見えていないだろう。
粉塵に加えて光球の光。シュヴァルツとマギアは兎も角、闇に慣れている百鬼夜行は暫く視力も回復しない筈だ。
「ついに見つかりましたか……! それならば此処を離脱するのが吉……どうします?」
「まあ、今まで俺たちが逃げられた事は多かったからな。此処で離脱するのも考えようだ。まあ、逃げる事は性に合わねェがな」
粉塵が晴れるのも時間の問題。その僅かな時間で考えている暇はもうほぼ無かった。
なので魔族の幹部たちが示した答えは一つ。
「んじゃ、相手を大きく吹き飛ばしたら帰るか。一人が加わった事だしな……!」
「「「賛成だ……!」」」
「面倒だが……まあ良いか……」
「まあ、こうなるのは読めていましたけどね」
「アハハ……私もです、アスワドさん」
ブラックが返し、シャドウ、モバーレズ、ゼッルが同意してダークも賛同する。
アスワドは呆れながらも既に魔力を込めて構えており、ラビアも軽く笑いながら魔力を込めていた。
その言葉が意味する事はつまり、相手を倒すという言葉と同義だろう。
「ハッ。この煙幕の中逃げねェか。やっぱ魔族は俺と気が合うな……!」
「いつの間にか向こうに私のお気に入りがまた一人増えたみたいだね。私も嬉しいよ♪」
『フム、あのまま逃げれば追撃出来たものの。退屈な戦いにならず良い事であるがな』
そのまま粉塵が晴れ、軽薄に笑うシュヴァルツとラビアの姿を楽しそうに見やるマギア。
百鬼夜行も姿が見え、大天狗の言葉からはっきりと視線を向けていたのであまり光による視力の影響は無かったようだ。
ラビアの伝達を聞き終えても尚、依然として戦闘を止めるつもりのないブラックたち魔族の幹部。
魔族の幹部たちと百鬼夜行、シュヴァルツにマギア。報告のラビアも戦闘に加わり、此方の戦闘も終わりに向けてグッと近付くのだった。
 




