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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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五百八十五話 研究施設跡地・出口?発見

「あ、あったぞ! 異空間にでも続いているかのように不自然な穴が!」


「本当か!?」


 六日目が始まってから数時間。昼前の時刻となった現在、研究施設跡地にて一つの声が響き渡った。

 その声に反応して近くに居た兵士たちや主力が集まり、一人の兵士の元へと駆け寄る。


「んで、そこの穴が出入口か……?」


「あ、サイフさん。いえ、それは入ってみなくては分かりませんが、隈無く探した結果がこれですので恐らくその線が高いだけという事かと」


 見つけた兵士に向け、訊ねるように話すサイフ。その兵士はまだ確定はしていないが、可能性は高いという判断だった。

 確かに他に不思議なモノや不自然なモノはない。この場所に元々何があったのかは分からないが、出入口という線はかなりあった。


「分かった。じゃあ、俺たち"マレカ・アースィマ"幹部の側近衆が責任持って他の者たちに伝える。色々確かめてみてェから、敵の主力が来たり命の危機に瀕したり余程の事が無い限りはまだ中に入るな。罠という可能性もあるからな」


「「「は、はい!」」」


 迅速に指示を出し、自分たちだけで他の戦場に向かうと告げるサイフ。

 確かに集団で行動するのは今の状況では逆に悪手。敵に自分たちの場所を教えているようなものである。

 だからこそ個人で一つの戦場を指揮する者に報告した方が良いと判断したのだ。

 それに兵士たちは敬礼して返し、サイフ、ラビア、シターの三人は各々(おのおの)の主力たちが戦う場所へと向かった。


「待て。流石に三人で敵の主力も多く存在する戦場を駆け回るのは不利だ。行くというのなら、私も行こう」


「ルミエ。テメェも来るのか?」

「ああ」


 そしてそこに名乗り出る、ルミエ・アステリ。

 サイフたちは三人しか居ない。たったの三人で戦場を行き来するのは危険であると懸念しているようだ。

 サイフの言葉に頷きつつ、ルミエは更に言葉を続ける。


「恐らく、今は大きく分けて五つの場所で敵の主力と戦闘をおこなっていると思う。他にも銃声や爆発音は聞こえるが、五つの場所だけ明らかに激しさが違うからな。一つ目の場所はいつの間にか姿が見えなくなったシヴァさんやドラゴンさんがこの近隣で戦っているとして、残りの場所は四つ……私を入れれば丁度良く分けられる筈だ。シヴァさんたちの場所は他の轟音が響いた所へ続く道中……先ず四人でシヴァさんたちに報告してその後四手に分かれるのが最も適した伝達方法だと私は思う」


「成る程な」


 ルミエの提案は、確かにその通りだった。

 今現在、敵の主力と戦闘を行っている者たち。

 一つ目の場所が此処からかなり離れた殆ど何も無い場所でライたちとオーディン、テュポーン、グラオ、ロキ。

 二つ目が研究施設跡地から数キロ程度の近隣にてシヴァ、ドラゴンとヴァイス。

 三つ目が建物の並ぶ街中にて幻獣の国の主力と魔物の国の主力。

 四つ目が別の街中にて魔族の幹部たちと百鬼夜行、シュヴァルツ、マギア。

 そして五つ目の戦場が魔族の国"ラマーディ・アルド"の四側近と裏切り者のゾフル、ハリーフ。

 この五つの戦場。シヴァたちの場所は他の場所に続く道中。そこから丁度四手に分れており、ルミエが加わる事で余す事なく伝達を行えるのだ。


「良し、分かった。先ずはシヴァさんたちに報告。その後他の者たちへ報告だ!」


 力強く頷き、他の主力たちが戦っている戦場に向かうサイフ、ラビア、シターとルミエ。

 兵士たちと他の側近たちが研究施設跡地の出入口付近にて待つ中、報告を実行する為一気に駆け出した。



*****



 何かを学習してまた一段階強化されたというヴァイスは己の力を込め、シヴァとドラゴンに向き直った。

 シヴァたちはそんなヴァイスへ肉迫し、一気に距離を詰める。相手が何をしてくるのかは分からないが、近付かなければ意味が無いのと一人と一匹はちょっとやそっとの攻撃ではやられないからだ。

 遠距離からの魔術や炎はかわされるのが目に見えている。なので近付いてけしかけようという魂胆なのだろう。


「さて、新たに身に付けたこの力……試してみようかな」


「ハッ。今度は何を覚えたんだ?」

「君の力さ。まあ、君よりはかなり弱いけどね」

「へえ?」


 力を込めたヴァイスがシヴァとドラゴンに構え、そのまま無から岩を創造した。

 そう、ヴァイスが新たに身に付けた力。それはシヴァの扱っていた創造能力だった。通常の魔法・魔術でも様々な物を創造する事は出来るが、それとはまた違い精密に創造する事が出来る能力である。

 細かく創造出来るからこそあらゆる物を生み出せる。土魔法や土魔術で造り出した岩とは違い、長時間その場に残し続ける事も可能という事だ。


「ハッハ、創造の力か。だがテメェの再現力だと、まだ土魔法や土魔術の創造と同じようなもん。最悪それ以下じゃねェか」


「そうだね。これから成長する事を祈るとしよう」


 創造した岩を放つヴァイスと、それを打ち砕くシヴァ。

 刹那にヴァイスの脇腹へ蹴りが放たれてヴァイスは吹き飛び、吹き飛びながら再生する。そのまま新たに岩を創造し、瓦礫の山に佇むシヴァへ放った。

 それをシヴァは正面から破壊し、ドラゴンが加速してヴァイスの前に迫る。


『やはり物理的な攻撃では無意味か』


「だからといって、先程のように細胞が消え去り兼ねない攻撃を受ける訳にも行かないけどね」


 再生したヴァイスに向けて炎を吐き付けて仕掛けるドラゴンと、それを"テレポート"でかわすヴァイス。

 刹那に複数の岩を造り出し、それを鋭利な形へと変換させて振り落とした。


『先程から岩でしか仕掛けて来ていないな。しかもそんなに精度が良くない……お前の扱える土魔法や土魔術の方が良さそうなものだが』


「それを使ったところでどちらにせよ大したダメージは受けないだろう? それなら私自身の成長にも繋がる創造の力の方が良いと判断したまでさ」


 先程から放たれるのはヴァイスが新たに身に付けた創造の力。しかしそれはシヴァのモノと比べると明らかに劣っており、粗も目立つ。

 それ以前に、通常の土のエレメントを使った方が良いかもしれないという程度の力だった。

 しかしそれらの技は敢えてそうしているらしい。覚えたての力。使いこなすまで暫く特訓を兼ねて使い続けるようだ。

 ライたちの成長力も備えたヴァイス。使い続ける事でシヴァに匹敵する力に到達出来るかもしれない。


「なら、本家の俺がそれを阻止しなくちゃならねェな!」


「元祖じゃないなら、私が使っても良さそうなものだがね」


 鋭利な岩にシヴァが同じサイズの岩をぶつけて砕き、ヴァイスの身体を貫く。

 その勢いに押されて吹き飛んだヴァイスは瓦礫の山を弾き飛ばし、数百メートル程の距離に着弾する。


『──カッ!』


 次いでドラゴンが巨腕を振り下ろしてヴァイスの身体を踏みつけ、近距離にて炎を吐いた。

 あらかじめシヴァの放った岩の方向をうかがい、推測してその場で待機していたドラゴン。年の功というべきか、相手の動きを読む事に長けているようだ。


「……ッ。随分と息が合っているね、支配者同士。私にとっては厄介だけど、学べる事も多くて参考になる」


 身体が焼かれ切る前に、超能力をもちいて何とか抜け出したヴァイスが身体を再生させながらドラゴンに向き直る。

 次の瞬間にでも攻めてくるかもしれないので警戒を高めているが、シヴァとドラゴンの動きには学べる。つまり学習出来る事も多いので参考にするようだ。

 一人と一匹で計二つの存在であるシヴァとドラゴン。少なくとも二人居なくてはならないコンビネーションで何をどの様に参考にするのかは分からないが、何時か使う時が来るかもしれないと記憶にとどめておくつもりらしい。


「学んだ事を使える日が来る事はねェだろ。テメェは今此処で終わりだからな。"終わりの炎(ニハーヤ・ショーラ)"!」


「そうかもしれないね。けど、大事なのはそう考えておく事さ。何時かの為に準備をしなくちゃね」


 そんなヴァイスの背後から、片手に魔力を込めたシヴァが姿を現して仕掛ける。

 その魔力からなる炎をヴァイスは悠然とたたずみながらそれを紙一重でかわし、"テレポート"で再び背後に回り込んで覚えたての創造をもちいる。


「そんな何度も背後に回り込まれりゃ、馬鹿でも気付くだろ」


「……。そうか」


 その瞬間に裏拳を放ち、ヴァイスの身体を吹き飛ばすシヴァ。

 吹き飛ばされたヴァイスはまたもやドラゴンの元に向かい、ドラゴンは勢いを付けてヴァイスの身体を押し潰した。


「"終わりの炎(ニハーヤ・ショーラ)"!」

『──カァッ!』


 押し潰すと同時にシヴァが炎魔術を放ち、ドラゴンが炎を吐く。

 細胞一つ残らず消し去るしかヴァイスを倒す方法は無い。なので今度は二つの炎を合わせてけしかけたのだ。

 先程からも二つの炎を合わせているが、先程は隙が無かった。だが今度はドラゴンが押さえ付けているので明確な隙が生まれたのである。

 ──最も、ドラゴンが巻き込まれる事の無いように離れる一瞬は隙が生まれるのだろうが。


「今のは危なかった。いや、君達が相手だと常に危険な状態だね。一瞬の油断が永遠の死、消滅に繋がる程のね」


 ドラゴンが離れた一瞬を予測し、その瞬間に移動を終えていたヴァイス。

 半身は細胞ごと焼けて消滅したようだが、もう半身が残っているので即座に再生した。

 しかしその表情は苦悶なものであり、まだ痛みに慣れていないので確かなダメージにはなったようだ。


「一瞬でも隙が生まれりゃ移動。それで仕留め切れなければ再生で復活……冗談みてェに面倒な相手だな。頭も割りと切れるが……実験好きだからか色々試して最善のやり方を実行しないのが救いか」


えて弱点を上げるなら、その性格という感じか。色々試しているお陰で何度か攻撃を与える事が出来ている』


 移動したヴァイスに視線を向け、改めて厄介。というより、面倒な相手であると話し合う一人と一匹。

 その性格から隙はよく生まれているが、その性格なので直ぐに離脱して体勢を立て直す事によってイマイチ決定打にはならない。

 長期戦は覚悟の上だろうが、何時間戦い続ける事になるかは分からないだろう。


「フフ、少し力を試し過ぎたかな。何とか回避出来ているけど、何度か死にかけたよ。いや、不死身だから死ぬというよりは消滅という表現が正しいかな」


「結局は消えるって事だろ。まあどっちにしろ、昨日の話からしてこの世界が消え掛かっているのは事実。長期戦は避けたいからな」


 会話を終わらせ、巨大な隕石を創造するシヴァ。

 場所からして惑星を造る大きさは無い。なので隕石サイズにしていたのだろうが、それでも落ちれば周囲にこうむる被害は多大なモノになるだろう。


「本気には程遠いけど、少しはやる気を出したという事かな。いや、やる気を出すべきなのは私の方か。力を試し過ぎるのも問題という事だね」


 シヴァに対抗して土魔法・土魔術・創造を合わせた隕石を造り出すヴァイス。

 シヴァが上から隕石を落とすならばと、ヴァイスは下から巨大な隕石を放つ。

 二つの隕石は上下で衝突して大きな爆発を起こし、数キロの範囲に巨大な衝撃を散らした。そこから更に第二波第三波が広がり、瓦礫の山を吹き飛ばして天高く舞い上げた。


『ふむ、主らがその気なら……俺も力を出すか……!』


 秒も掛からずヴァイスの前に移動し、巨腕で押し潰して尾を払うドラゴン。

 ヴァイスの身体はそれによってまた飛ばされるが今度は空中でこらえて止まり、新たに魔力を込めてシヴァとドラゴンに構える。


「あまり魔力は好きじゃないンだけどね。まあ今更かな。先ずは"ラアド"。そしてこれを使うか」


 空中でこらえつつ、魔力からなる雷魔法と雷魔術に"ヴォルトキネシス"を使用してシヴァとドラゴンを狙う。

 本人は魔力などのような魔の力をあまり好いていないようだが、シュヴァルツやマギアも使う魔力であり自分自身も何度か織り成している技。別に使いたくないという訳では無いのだろう。


「ハッ! "終わりの雷(ニハーヤ・ラアド)"!」


『──ハッ!』


 それに対抗すべく、シヴァが雷魔術。ドラゴンが天候のいかづちを放つ。

 雷撃と雷撃は相殺されて周囲に雷片を散りばめ、目映い閃光に包まれて消え去った。


「まだだよ……!」

「当然だ!」

『お前を倒さなくては事が済まないからな……!』


 周囲が目映い閃光に照らされ、その光が消え去るよりも前に二人と一匹は次の行動へと移る。

 一瞬でも気を緩められぬ戦況。それは更なる激しさを増して次の段階へ──


「"光の柱(ヌール・ザウル)"!」

「"矢の磔(サハム・スルド)"!」

「"盾の封印(デルゥ・マクタム)"!」


 ──進む前に光の柱がヴァイスの後ろに現れ、矢によって両手両足を打ち付けられる。そこから全方位を包み込む壁がヴァイスの身体を覆い尽くした。

 そして完成した、ヴァイスを完全に封じ込める要塞。それも時間の問題だろうが、同時に四人が姿を現した。


「シヴァさん。ドラゴンさん。少し話があります」


「サイフ、ラビア、シター、そしてルミエか」


『お前たちは……魔族の主力か』


 研究施設跡地に居たサイフたちである。

 その姿を確認して名を呼ぶシヴァと何者か確認し終えるドラゴン。

 シヴァとドラゴンを一瞥し、サイフは言葉を続けた。


「時間も無いんで単刀直入に言います。出入口らしき穴を見つけました」


「……! 本当か!?」

『それは真か!?』


 告げた言葉は、目的物らしき穴の発見。

 シヴァとドラゴンは目を見開いて視線でサイフたちに確認し、サイフたちは頷いて返す。


「ええ。本当です。今はアイツを封じていますが、それも時間の問題。そしてこの世界が崩壊すると聞きました。早いところ行った方が良さそうです」


「そうか。なら、お前たちが先に行け」


「「……!?」」

「「……!?」」


 伝えた言葉への反応に対し、驚愕の表情をするサイフたち四人。

 思わずドラゴンの方を向くがドラゴンの表情からもシヴァと同じ考えであると理解し、思わず口を噤む。

 サイフはその噤いだ口を開き、疑問の言葉を投げ掛ける。


「けど、シヴァさん! この世界が崩壊したら、幾ら貴方でも……!」


「だからだ。俺たちはコイツを結構良い調子で追い詰めている。ある程度の調べを付けたら兵士たちとテメェらも行け」


「……ッ! ……分かりました」


 シヴァに言いくるめられ、納得するサイフ。他の三人も同等である。

 確かに此処に来る途中で見えた様子からシヴァたちはヴァイスを圧倒していた。ダメージもヴァイスは受けているが、シヴァとドラゴンは大したダメージを受けていない。

 つまりサイフたちはシヴァたちの有利な状態で水を差しただけという事になる。それならばさっさと他の者たちに報告する事を優先すべきだろう。


「話し合いは終わったかな? 全く。不意を突いて私を閉じ込めるとは酷い事をするじゃないか。閉じ込めた張本人達はもう居ないみたいだけど」


「ハッ、悪かったな。んじゃ、続きと行こうぜ?」


 暫くして抜け出したヴァイス。既にサイフたち四人はおらず、シヴァとドラゴンが先程と変わらぬ悠然とした状態で佇んでいた。

 声は聞こえており、出入口が見つかった事も知っているだろうがその事は別に気にしていないようである。

 元の世界に戻れるかもしれない穴を見つけたサイフたちが"ヨトゥンヘイム"を奔走し、シヴァとドラゴン。ヴァイスの戦いも続く。

 だがこの戦争も、着実に終わりへと向かって進んでいた。

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