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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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五百八十二話 支配者の側近と裏切り者の戦い

 ──周囲が大きく震動し、大地が波打つように揺らいだ。

 その震動によって周囲の建物が崩れ、敵の兵士達は立っていられない程のものとなる。それは生物兵器の兵士も例外では無く、立てるのはこの震動を起こした張本人のズハルとダメージを与えぬように調整された味方くらいだった。

 だが、ズハルたちと相対するゾフルとハリーフは空へと移動しており震動から免れていた。


「やれやれ。手荒ですね"槍の雨(ハルバ・マタル)"……!」


 対し、空中から槍魔術をシュタラ、ズハル、ウラヌス、オターレドに向けて放つハリーフ。

 魔力で形成された複数の光の槍が降り注ぎ、"ラマーディ・アルド"支配者の側近たちを狙う。


「手荒なのは互いに同じだな"震動障壁ハザ・オーリア・ハジズ"!」


 降り注ぐ槍に向け、空気を震動させた衝撃で受け止めるズハル。

 そして歪む空間によって槍魔術が掻き消され、跳ね返るように周囲へ霧散した。


「矢を構え……放ちなさい!」

「「「…………」」」

『『『…………』』』


 その横にて、シュタラが兵士を創造して複数の矢を放ち槍魔術にぶつけて消し去る。

 魔力の槍なので通常の矢ならば複数十本必要だったが、シュタラの魔力が上乗せされているので一本の矢で一つの槍魔術を打ち消せたようだ。


「そのくらいの槍魔術なら、簡単に跳ね返せるさ。"重力反射ジャーディビーヤ・インイカース"!」


 そしてウラヌスが槍魔術に掛かる重力を軽くしてどんどん弱めながら強め、徐々に重力の方向を変化させる。

 最終的に空へと重力を掛け、魔力がその重力によって反転し反射された。


「私はどうしようかしら。ただの雨では抑えられたとしても結構大変よね。"竜巻イサール"……!」


 オターレドは洪水魔術では無く、竜巻を発生させて槍魔術を吹き飛ばす。

 洪水魔術でもやろうと思えば弾けたのだろうが、大量の水が必要なのは面倒なので水魔術と風魔術、そして少しの土魔術が必要なだけである簡易的な竜巻で済ませたのだろう。風だけの竜巻よりは力もある筈である。


「やれやれ。こうも簡単に抑えられてしまうとは。そのうちの幾つかは私の方に返って来てますね」


「ハッ。んな事最初から分かり切ってるだろ。やっぱ遠距離からチマチマ狙うよりは正面から叩き潰した方が良い!」


「本来は遠距離から攻める方が良いんですけどね」


 身体を雷へと変え、雷速で支配者の側近たちに迫るゾフル。

 主力がゾフルとハリーフしか居ないにもかかわらず正面から挑める根性は流石である。


「オイオイ、無謀にも程があんだろ。自分の実力分かってんのか? "震動(ハザ・オーリア)"!」


「ハッ! 元々幹部に匹敵して、地獄で戦略も鍛えられたんだ。身体が着いて来れるかは分からねェが、算段は既に立ててある!」


 震動を正面に放ち、雷速のゾフルを止めるズハル。止められたゾフルは雷に変換させた身体を炎へと変換させ、炎でズハルの身体を拘束した。

 しかしズハルは震動でそれを砕き、己の身体を拘束から解き放つ。


「考えてみりゃ、炎と雷の二つになれる俺は噂の悪神ロキより能力に優れてんだな。やはり俺には支配者に匹敵する力を有する事も可能って事だ!」


「能力が同じだけなら世の中に沢山居るだろ。創造するって事だけなら、一流の魔法使いや魔術師はシヴァさんと同じ能力って事になる。だがシヴァさんは一流のそれらより圧倒的に上の存在……魔力の量と規模が違うんだよ。テメェが支配者に近い存在とは言えねェだろ」


「んだと!? だったらそれを越えりゃ良いだけだ! ロキを越えてやるよ!」


 炎と雷になれるゾフルの力。確かにそれは優れた能力だろう。

 だが、だからと言って同じ能力を持つ地上よりも上の存在より優れているという事にはならない。

 なのに支配者と比較したがる様子。元々魔族の国を裏切った理由が地位などにあったゾフルからすれば、上を目指す事が一つの目標となっているのかもしれない。


「ロキと同じような能力で、大抵の攻撃を流動させて受け流せるか。まあ、基本的に重力の前では大抵のモノが無力になるって事を知っておいた方が良い。"重力ジャーディビーヤ"!」


「……ッ!」


 炎となっているゾフルに向け、集中的な重力を掛けて押し付けるウラヌス。

 存在しておりその存在から人の形が作られているゾフルにも、当然重力は掛かっている。重力が無ければ炎は丸みを帯びる。重力の影響は炎にも生じているからだ。

 なので逆に強い重力を掛けた場合、少しいびつな形にはなれど押し潰される事は変わらないのである。


「今よ。"洪水ファヤダーン"!」


 そこへ灯火を消し去るべく、オターレドが洪水の災害魔術を放出した。

 ゾフルの近くへ向かっているので重力の影響も少なからず受けているが、狙いは確かにゾフルである。


「……ッ! やべェな……」


 対するゾフルは洪水を見た瞬間に雷となり、重力に潰されながらも洪水の影響を軽減させる。

 それでもダメージは受けるのだろうが、炎として完全に消え去るよりはマシと判断したのだろう。


「やれやれ。一人で先走るからですよ"無数の槍アダド・ラー・ニハイィ・ハルバ"……!」


 洪水に押されるゾフルを見やり、呆れながらも手助けとして複数の槍魔術を放つハリーフ。

 真っ直ぐ正面から叩くゾフルと遠距離からサポートを兼ねた槍を放つハリーフ。主力の数は少ないが、中々に相性の良いコンビなのかもしれない。


「槍は全て効きませんよ」


 そんな槍へ、ゾフルには手出ししていないシュタラが兵士を操り矢。今回は大砲なども放って防いだ。

 ゾフルの相手に三人が努めているなら、自分はハリーフという主力の一人を狙うつもりのようだ。

 生物兵器の兵士達や他の兵士などもシュタラの作り出した生き物で相手をしており、一人で複数の兵士と一人の主力を狙えるシュタラも流石のものである。


「やれやれ。ただでさえ厄介な主力が四人に、数で優勢な兵士達もシュタラさんの創る兵士によって止められますか……厄介極まりないですね」


「やれやれ言い過ぎだ、ハリーフ。んでもって厄介事も多過ぎだろ」


「おや、ゾフル。無事のようですね」


 四人の主力を見、気が滅入っている様子のハリーフとそんなハリーフの元に姿を現すゾフル。

 どうやら洪水から抜け出せたらしく、常に達観したようなやる気の無い態度を見せるハリーフへと突っ掛かっていた。

 確かに場を盛り下げるような発言をしているハリーフ。戦いを楽しみたいゾフルだからこそ場を盛り上げたいのだろう。

 そんなゾフルへ言葉を続けて返す。


「いやいや、こう見えて内には熱いものを秘めていますよ。やる気はありますからね」


「なら態度で示せよ。俺は超能力者じゃねェからな。相手の思考を推測する事は出来ても完全に読み切る事は出来ねェんだから」


「そうですか。検討してみます」


 会話を切り上げ、改めて下方の四人に構え直すゾフルとハリーフ。好戦的なゾフルとは裏腹に、まだ怒りなどを見せていないハリーフは自然とこのような態度になるようだ。

 そして下方の四人、シュタラ、ズハル、ウラヌス、オターレドもそちらを見やる。


「なんか盛り上がってんな、上の奴ら」

「そうですね。というか、二人はどうやって飛行しているのでしょう」

「ゾフルは分かるとして……ハリーフの奴は謎だな」

「多分槍魔術の魔力を足場にしているのでしょう。よく見れば白い光に乗ってるわ」


 なお、その話の内容はどうやって二人が浮かんでいるのかという本筋にあまり関係の無いものだった。

 結果、ゾフルは炎や雷の力。ハリーフは槍魔術の魔力を応用して空中浮遊しているという結論に至ったようだ。


「さて。んな事はどうでもいいか。取り敢えず引きり下ろしてやるか"空気振動(ハワーァ・エイチザズ)"!」


「「……!」」


 空気を"震動"では無く"振動"させ、空を大きく揺らすズハル。

 揺らいだ空はヒビが入り、空を覆う雲や重火器の黒煙を振動が振り払って吹き飛ばした。

 天変地異を引き起こす事など、"ラマーディ・アルド"の幹部たちには簡単な所業。空間に干渉した振動は更に強まり、ゾフルとハリーフを空から揺らし落とした。


「チッ。叩き落とされたか。いや、叩かれてはいねェな。バランスが崩れただけか」


「主力相手に安全地帯なんて無いという事ですね」


 落とされた事で粉塵が舞い上がり、落ちた事へのダメージは無い状態の二人が粉塵の中から姿を現す。

 空が揺れて落下しただけなので落下自体のダメージはそうそう無いようだ。


「俺たち災害を前にすりゃ、上も下も、全てが危険地帯だ。テメェも正面から掛かってきたらどうよ、ハリーフ?」


「そうですね。遠慮したいところですけど、どうやらそういう訳にも行かないと理解しましたよ」


「ハッ。始めからそうすりゃ良いんだよ、ハリーフ。兵士も多く居るが、敵の主力は四人だからな」


 挑発するように話すズハルと、余裕の見せるゾフルとハリーフ。

 主力の数や質からして不利な状況だが、本当の意味での地獄を経験した二人にとっては大した事が無いようだ。

 その返答を返した瞬間、ゾフルは身体を再び雷に変換させた。


「んじゃま、さっさと倒されてくれや」

「断る!」


 刹那、雷速でズハルの眼前に迫ったゾフルが雷の拳を放ち、それをズハルが震動で受け止める。

 その次の瞬間にゾフルは片手を炎へと変え、再び拘束しようと行動に移った。


「それしか出来ないのか、ゾフル。先程俺たちが破った技じゃねェかよ」


「ハッ! 何度でもやってやるよ! 当然他にもやり方はあるけどな!」


 再び震動で炎を砕き、ゾフルに触れ震動を身体に引き起こす。しかしゾフルは震動が伝わるよりも前に飛び退き、ズハルから距離を置いた。

 そこにウラヌスの重力が掛かるが今度はそれもかわし、片手に炎。片手に雷を纏ってズハルとウラヌスへ熱と電力を与えた。


「成る程な。鍛練もしっかり積んでるみてェだ。確か地獄に行ったんだっけか?」


「そういや、幻獣の国から魔族の国に帰って来たときブラックから聞いたな」


「ああ。まあ最も、頭ん中で思い浮かべている行動に運ぶにゃ、俺の現実世界の肉体が着いて来れねェけどな。身体が着いて来れりゃテメェらも倒せるんだが」


 その熱と電力を防ぎ、片方は震動。片方は重力で防ぐズハルとウラヌス。

 地獄の鍛練はき、二人はゾフルとハリーフが地獄に落ちていた事も知っている。なので判断力と精神力は地獄の成果と理解していた。


「それはおごりって奴だ。体感時間数千年以上なんて、俺たちに追い付ける要因にはならねェ」


「試してみるか?」

「こちとら始めからそのつもりだ。さっさと来いよ」

「やってやるよ!」


 ズハルの返答を聞き、雷速で迫るゾフル。ズハルは先程と同様に震動で防ぎ、ゾフルの身体へけしかける。

 しかし次のゾフルはそれをかわし、周囲に電撃を放出して牽制した。

 その牽制にズハルは反応を示して飛び退き、先程までズハルの居た場所は目映い雷光に包まれる。放電の中にズハルは突っ込み、ゾフルの身体を大きく震動させた。


「……ッ!」

「ガハッ……!」


 ズハル自身もダメージを負いつつ、ゾフルが吐血して膝を着く。

 それによって雷撃は消え、パチパチと小さな破裂音だけが周囲に響き渡る。


「ハッ。確かに少しばかりはキレも増しているみてェだ」


「ハッ。テメェもな、ズハル……!」


 肩で息をしつつ、ズハルはゾフルに向けて話す。

 触れるだけでかなりのダメージを負う筈の雷撃。それを受けても少し息を切らしているだけのズハルも大概超人だろう。


「フム、一筋縄で行かないのは知っていましたが、まさか此処までとはね」


「当たり前だ。俺たち全員で相手をするまでも無さそうだな」


 その一方では、ウラヌスの重力に押し潰されるハリーフが苦悶の表情を浮かべながら呟いていた。

 周りの建物や地面には複数の傷があり、潰されている物もある。その事から槍魔術と重力で大きな被害が起こったと理解出来る様子だった。


「まだです……! "巨大な槍(キビーラ・ハルバ)"……!」


「まだか。重力の中心に居てよく動けたもんだ。"重力ジャーディビーヤ"!」


 ハリーフが会話の隙を狙い、巨大な槍魔術を創造して穿うがつ。

 ウラヌスはその場から動かずに槍を重力で押し潰し、周囲に大きな亀裂を生み出す破壊力で巨大な槍を消し去った。


「ハッハ……想像以上だ……! まだまだ楽しめそうだな、この戦争……!」


「楽しむ時間なんて与えるつもりはねェが、もう楽しんでるから今更か」


 ゾフルとハリーフ。二人が押されるこの状況。しかし二人からまだ余裕の笑みは消えていない。地獄の経験故に、ちょっとやそっとでは怯まないのだろう。

 その事を不気味に感じつつも、シュタラ、ズハル、ウラヌス、オターレドは警戒を解かずに相手をする。

 巨人の国"ヨトゥンヘイム"にて行われるこの戦争、"終末の日(ラグナロク)"。それは全ての主力が戦い続ける。

 崩壊する世界が近付く中、主力同士のせめぎ合いもまだまだ続くのだった。

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