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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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五百七十二話 五日目の戦い・中断

 ──ライの一撃によって、研究施設跡地が再び大きく陥没して砂塵を舞い上げた。魔王の力を纏った一撃だが、どうやら再生するらしい。

 不死身の性質その物は無効化されているようだが、様々な魔族・幻獣・魔物の肉体に加え高い治癒術。それらがあるので八割の力でも即死しないのだろう。


「オラァ!!」

「冷静さはあるみたいだね……。怒りながら、的確に攻撃を仕掛けている……!」


 拳を放ち、ヴァイスを吹き飛ばす。そのまま跳躍して真上に移り、足で踏みつけて沈める。次の瞬間に爪先を腹部に突き刺して持ち上げ、上へと放った。

 それを追いつつ、連続して蹴りを放つライ。ヴァイスの身体は重く速い一瞬にして放たれた数万回の攻撃に押され、更に高く舞い上がる。そしてそれを追い越し、脳天に踵落かかとおとしを放って大地に叩き付けた。

 そしてヴァイスが地に落ちるよりも前に、真横から蹴りを放って吹き飛ばす。瓦礫と島程の大きさがある複数の建物を貫き、数億キロ程離れた場所にぶつかって停止した。

 現在地からそれを見る事は出来ないが、何となく感覚で分かったのだ。


「凄い連続攻撃だった。だけど、それを受けても骨が数本折れただけのこの肉体は便利だな」


「……」


 その場所から"テレポート"で移動し、ライの背後にある瓦礫に座って話すヴァイス。

 既に傷は癒したらしく、片足の足首をもう片足の太腿ふとももに置きつつ掌で顎を押さえながらライを見ていた。

 確かなダメージはあったようだが、様々な力が合わさった今のヴァイス。辛うじてだが耐える事も出来るらしい。


「僕を忘れないでくれよ」

『余もな……!』


 そこへ、グラオとテュポーンがライに向かう。テュポーンの狙いはライとグラオであるが、ヴァイスはまだグラオとテュポーンも敵対している事を知らないかもしれない。

 しかしヴァイスは、支配者に匹敵する力を身に付けたのでどちらにしてもグラオとテュポーンが加わればそれだけで厄介な相手である。


「やれやれ。ライの奴。頭に血が上って仲間の存在を忘れてんのか?」


『いや、そうでもないようだぞ。一応軽い治療魔術で応急措置がしてある。そして周りに大きな破壊があるにもかかわらず、それによっての傷は無いからな』


 柔らかな草木でベッドを創造し、風で浮かせて負傷したレイたちを寝かせるシヴァがヴァイスを打ちのめし続けるライを見て呟く。

 しかしよく見れば傷が少し癒えているので、まだ不慣れな治療魔術をもちいて回復させたようである。


「なんだ。割りと気が利くじゃねェか」


「まあ、傘さえ無事なら私は時間は掛かるが死なない限り再生出来るがな」


「起きていたのか、ヴァンパイア」


 ドラゴンの言葉を聞き、成る程と納得するシヴァ。その横。というより下のベッドで目が覚めたエマが起き上がる。

 まだ気分が優れないようだが、傘があって日差しは避けられているので自然に再生したようだ。


「ああ。しかしまあ、不死身の私が気を失うとは。やはり聖なる十字架と銀製の武器は嫌いだ」


「成る程。それらを使われてやられたって訳か」


 どうやらエマはヴァイスにそれらの弱点を突かれたので敗北したらしい。

 確かにヴァイスは元々あまり力を持っている訳では無い。

 なので力が無いならと、ヴァイスは様々な物をもちいて戦闘をおこなっていた。その余りとして的確に生物や種族の弱点を突ける物が残っていたようだ。


「しかしまあ、その直後にお前たちが来たからな。苦戦していたが、ライたちのお陰で助かった」


『成る程。来たのは偶然だったが、その偶然によって救われたという訳か』


「ああ。そうなるな」


 力を出したヴァイスによって苦しめられていたところにライたちが来たので結果的に助かったと述べるエマ。

 周りの様子から見ても、かなりの戦闘があったのは分かる。中々に苦労していたようだ。


「オラァ!!」

「……ッ!」


 そして空からライに殴られたヴァイスが落下し、その後を追うグラオとテュポーンがライに追撃する。その隙を突いて抜け出すヴァイス。

 ライは降って来た一人と一匹を両手で抑え、空へ弾き返して抜け出されたヴァイスに視線を向ける。


「オ──ラァ!!」

「"完全なる盾パーフェクト・シールド"!」


 拳を放ち、即座に盾で防ぐヴァイス。

 この盾は恐らくシターの盾魔術のようだが、ヴァイス流のアレンジを加えているので呪文名は魔族と違うようだ。

 その盾は拳に打ち砕かれ、粉々に粉砕して塵と化す。そのままヴァイスへも放つが、ヴァイスはそれをかわして体勢を立て直した。


「思った以上に厄介だ。正面からじゃなくて、別のやり方を探した方が良いのかな」


 如意金箍棒にょいきんこぼうを取り出し、ライへと向き直る。出来る事は多くまだまだ策はあるのだろうが、自分に都合の悪い魔法・魔術・妖術・仙術などの全異能を無効化するライ。

 なので必然的に物理的な戦い方が中心となるのだろう。それに適したのが如意金箍棒にょいきんこぼうという事だ。


「伸びろ如意棒」

「邪魔だ!」


 亜光速で棒が伸び、正面から受け止めて砕くライ。そのまま跳躍して如意金箍棒にょいきんこぼうに乗り、如意金箍棒にょいきんこぼうを踏み砕いて駆け出した。

 一瞬にしてヴァイスの前に現れたライは蹴りの体勢へと入るが、ヴァイスは如意金箍棒にょいきんこぼうを手離してそれをいなす。

 その瞬間にてのひらを向け、その掌に魔力を込めた。


「"衝撃波ショックウェーブ"」

「……!」


 それと同時に魔力の衝撃波を放ち、ライの身体を仰け反らせる。

 しかしそれを受けたライは大してこたえず、ヴァイスの肩を掴んで遠方に放り投げた。

 投げられたヴァイスは複数の瓦礫を消し飛ばし、そのまま数百メートル先に転がる。引き離す為に投げたのでそれ程力は入れていなかったらしい。


「さて、そろそろ俺たちも向かうか?」

『どうだろうな。付け入る隙が見つからんぞ。それに、レイ殿たちはどうする?』

「まあ、成り行きだ。ヴァンパイアが起きているし多分大丈夫だろ」


 ライ達の戦闘に入るかどうかを話すシヴァと、隙をうかがいつつレイたちを気に掛けるドラゴン。

 レイたちの中では既にエマが目覚めているのでシヴァは大丈夫だと告げた。それを聞き、シヴァの作ったベッドで上半身だけを起こしたエマが言葉を発する。


「ああ。大丈夫だ。傷も既に再生しつつある。銀の武器だったから再生も少し遅いが、まあ大した事は無い」


「ほらな。ヴァンパイアもこう言ってんだ」


『ふむ……そうか。ならば行くとするか』


 エマからも大丈夫と言われ、ドラゴンに委ねるシヴァ。そしてそれならば、と少し気に掛けつつ納得するドラゴン。

 これによってライ、グラオ、ヴァイス、テュポーンの織り成す戦闘にシヴァとドラゴンも参加する事となった。



*****



「前軍を退き、次軍を! 敵陣の手は少しずつ遅くなっています! 恐らく生物兵器を作り出す何らかの方法が無くなったのかもしれません! もう少しの辛抱です!」


「「「はっ!」」」

『『『おおお!』』』


 彼方あちら此方こちらにて激しい戦闘が行われる最中、拠点としている巨人の館"スリュムヘイム"にてマルスが兵士たちに指示を出し、魔物の兵士や妖怪、生物兵器の兵士達を払いけていた。

 ある程度の力は鍛練によって身に付いたマルス。しかし王である以上、殺される訳には行かない。

 本人は乗り気じゃなかったが、主に指示を出して前戦には参加しない方向でこの戦争をおこなっていたのだ。


「……っ。僕も戦えたら……!」

「お兄……兄様……」


 一通り指示を出し終え、"スリュムヘイム"から大凡おおよその兵士達を引き離したマルスは己の非力さに歯噛みする。

 王として前戦に出ては行けないと言われたのだが、それによって死する兵士たちを見過ごす。見過ごさなければならない事が嫌なのだろう。

 その横ではヴィネラが心配そうに見ていたが、何も出来ずに見るしか無い事に対しては同じく何かを感じているようだ。


「"マレカ・アースィマ"の王様と王妹。アナタたちが気に病む必要はありませんよ。俺たちのような主力も結構居るんで、兵士たちもそれ程被害を受けてませんから」


「ええ。兄貴たち幹部は前戦に出てますけど、此方には相手よりも主力の数が多いって利点がありますからね」


 そんな不安そうなマルスとヴィネラに向けて話すのは魔族の国"レイル・マディーナ"の幹部の側近、オスクロとザラーム。

 不慣れな敬語を使って励まし、主力の数からしても被害は少ないと話していた。

 それでも死傷者は多数居るが、主力はなるべく前戦にて食い止めているので現在確認されている被害者もこれで少ないくらいである。


「ええ。被害を抑えてくれる皆様には感謝しています。けど、やはり一国の王が高みの見物をするという事が気掛かりで……。王は民を護る者。護らなければならない民によって逆に護られるなんて……。僕は王失格です……」


 倒れ行く兵士たちを見ながら、マルスは思い詰めたように呟く。

 まだ幼いのだから仕方無いという励ましは何度も受けたが、同じよわいにして主力として戦っている者も居るこの世界。能力が違い過ぎるのでその者も特例中の特例なのだが、親戚という事もあって気掛かりのようだ。

 それに加え、王として幼いという事は言い訳にならないと自覚している。

 何はともあれ、色々と苦労しているので要らぬ事まで考えてしまうようだ。


「やれやれ。自分に厳し過ぎんだろ。王様。もっと楽に行こうぜ。アンタを怨みながら死んでいった奴は少なくとも此処には居ねェよ」


「ああ。寧ろ若いのにこんな事をさせられて、同情の目すらある程だ」


 そんな事は考えなくても良いと励ましの言葉を掛ける二人。基本楽観的な魔族の性格上、うだうだ考えるのはれったいのだろう。

 環境が環境なのでマルスが責任感を覚えてしまうのは仕方無いが、それでも責任を感じ過ぎているので少し落ち着いて欲しいのが二人の心境だろう。


「でも……それでも僕は……」


「あー! 面倒だ! ……マルス王!!」


「は、はい!?」


「アンタは此処に居ても良い。アンタの指揮力は下手な指揮官より圧倒的に上だ。アンタのお陰で助かった兵士たちも多いからな! 面倒な事は考えず、少し休んでろ!」


 ザラームが面倒な事だと一蹴し、一先ず休ませる事にした。

 本当はもう少し大きな声で言いたかった様子だが、ヴィネラが近くに居たのであまり大きな声は出せなかったようだ。

 そして後ろ向きの思考も疲労からだと考え、一先ず休ませると告げる。敵の兵士も減っているので、今なら休んでも問題無いと考えたのだろう。


「え……。でも……」


「良いから良いから。気にすんな。妹と一緒に休憩しとけ。まだまだ子供なんだからな」


「わっ……!」

「わ、わわ……!」


 と、ザラームがマルスとヴィネラの背を押して"スリュムヘイム"の中へと移動させる。何かを言いた気なマルスだったが、成す術無くそのまま内部へと入って行く。

 そしてザラームとオスクロは迫る軍勢を前に下方へ降り、戦争に参加する。

 五日目の戦いも、そろそろ潮時かもしれない。



*****



 ──五日目の戦争開始から十数時間。日も暮れてきた今、ライのかかとがヴァイスの頭に振り下ろされ、その一撃で大地が割れて土塊を舞い上げる。

 破壊の範囲は数百メートル程度とかなり狭いが、ヴァイスへのダメージは確かにあった。

 舞い上がる粉塵の中からヴァイスが起き上がり、身体の調子を確認して立ち上がる。


「……。グラオ。テュポーン。今日はそろそろ切り上げたいんだけど……良いかな? 君たちは喧嘩しているみたいだけど」


 そして告げた言葉は、今日の戦いを切り上げるという事。

 グラオとテュポーンが互いも狙っていた事から何らかの争いをしている事も理解したらしく、一応一人と一匹へ許可を取るように訊ねていた。


「……。まあ、僕は別に構わないよ。単純に考えるなら今日を含めず、あと二日は猶予があるからね」


『……。フン。小僧に支配者にカオスとロキ。全員と一時休戦にしてやるか』


「そう。話が早くて助かるよ。一応今は同盟を組んでいる中……拠点でまで争われたらたまらないさ」


 対し、グラオとテュポーンはヴァイスの言葉に乗った。

 時は夕刻。休み無しで朝から戦い続けていたので、常人離れした本人達に疲労は無いとしてもこのまま争い続けるのはあまり得策では無いのかもしれない。

 行いたいのは大規模な戦争。疲労で兵士達の勢いが無くなるのは避けたいのだろう。


「オイ……待──!」

「ライ。君も……早く仲間の治療をした方が良いンじゃないかな? 普通なら致命傷のダメージ……数時間攻撃を続けても私は倒せていない……私を倒す事と仲間を救う事……天秤に掛けるまでも無いよね?」

「──!!」


 帰るヴァイス達を止めようと動くライは、ヴァイスによって逆に止められてしまう。

 確かに魔王の八割で仕掛け続けても倒し切れないヴァイスを相手にするより、大きなダメージを負っている仲間の治療が先かもしれない。

 ライは怒りを堪え、仲間の方が優先であると理解しているのでその場を収める。

 それから数十分後、五日目の戦争は終了した。両軍の主力と兵士たちは各々(おのおの)の拠点。ヴァイス達は第二層での新たな拠点へと戻るのだった。

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