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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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五百七十話 生物兵器の力試し

ずは……幻獣の力かな?」

「……!」


 ──刹那、急激に肉体が進化し、その四肢をもちいて一瞬にしてリヤンとの距離を詰め寄った。

 咄嗟に反応するリヤンだが間に合わず、大木を彷彿とさせる程に発達した筋肉の腕で薙ぎ払われ勢いよく瓦礫の山へと吹き飛ぶ。


「フム、まずまずの出来みたいだ。少し醜くなるのが気になるところだけど、そこはまあ慣れるしかないね。逆に愛くるしいかもしれない」


「貴様……! "ファイア"!」


 吹き飛ばされたリヤンを見、ヴァイスを睨み付けるフォンセが魔力を込める。

 その瞬間に込められた魔力を宇宙のエレメントに干渉させ、炎魔術へと変換させて放った。


「魔族の呪文はよく分からないけど……"ショーラ"。こんな感じかな」


 対するヴァイスはそれに対抗するよう炎魔術を放ち、二つの炎がぶつかり合って相殺される。

 熱量の波が広がり、周囲は炎の世界と化した。最も、炎の国ならこの"世界樹ユグドラシル"に元々あったが。


「幻獣・魔族。次は魔物の力を使うとするか」


 両手に魔力を込め、不可思議な黒い塊を放出するヴァイス。

 その言葉を聞くにどの様な力を使えるのかまだ分かっておらず、今は様々な事を試す試行錯誤の段階なのだろう。

 しかし完成品に元々宿されていた力が強力なので、試行錯誤とはいえかなりの破壊力が秘められていた。


「チッ、厄介だな……!」


 その塊をかわし、ヴァイスに視線を向けるエマ。他の者たちもかわしており、同じくヴァイスの方へ視線を向けていた。

 しかしヴァイスはレイたちのかわした方向を見抜き、そこに向けて黒い塊の光線を再び放出する。それも何とかかわすが、このやり取りではキリが無いだろう。


「便利な力だ。さて、次は君達の力を使ってみるよ」


 三つの力を使って実感し、それが便利なものと理解するヴァイス。

 次いで他の力を試す為に、ライたちの力を使用するようだ。

 まだ完全に操れていないが、前述したようにこの力はかなり強力なモノ。試行錯誤だけでやられ兼ねないだろう。


「しょうがない。また使うか。今日のこの数十分だけで魔王の力を使い過ぎているようにも思えるな」


「けど、相手が悪過ぎるから仕方無い……!」


 フォンセの魔王の力と、リヤンの神の力。今日のたった数十分の間で何度か使用していたが、なるべく温存しておきたいというのが本人たちの心境である。

 何が起こるか分からない"終末の日(ラグナロク)"。今のヴァイスは支配者に匹敵する力を有しているだろうが、だからといって本気になっても良いのか気に掛けているのだ。

 最も、今のヴァイス以上の相手となるとそれこそ支配者くらいしか居ないので、使わない訳には行かないが。


「魔王と神の力か。勇者の力はまだ分からないけど、まあ良い。私も早くこの力に慣れておきたいからね。敵が強敵な方好都合だ」


 力を使うという言葉を聞き、ヴァイスは却って都合が良いと返す。

 力に慣れていないヴァイス。慣れるのには"経験"が必要である。それは強敵が相手だったり、身の危険が迫るとより深く入り込める。つまり適応出来る。

 何はともあれ、自分を追い込んだ方が新たな力を使うにも丁度良いのだ。


「その余裕、すぐに消してやるさ……!」

「右に同じく……!」


 そんな、実験体として利用しようとするヴァイスを睨み付けて話すフォンセとリヤン。侮られ、舐められているというのは感覚で分かる。

 それを言えば舐めてなどいないと返されるだろうが、それはただのリップサービスだろう。どちらにせよ、放っておけば脅威になるのでフォンセとリヤンは力を込めた。


「"魔王の粛清(パージ・オブ・サタン)"!」

「"神の粛清(パージ・オブ・ゴッド)"!」


 そして放たれた、世界を滅ぼすかもしれない程の業火といかづち

 力は押さえているので銀河系を崩壊させる程の破壊力は無いが、一点に集中する事でそこそこの破壊力を残しつつ余計な破壊を生まぬ技が構成されていた。


「フム、かなりの高レベルな技だ」


 それに対し、片手をかざすだけで防ぐヴァイス。通常ならそれだけで防げる筈も無い。

 そして防がれた二つの力は──


「「……ッ!」」


 ──反射し、フォンセとリヤンが炎といかづちに焼かれた。

 フォンセの放った力は多少ヴァイスにもダメージを与えたようだが、その大多数が反射されてしまったのだ。


「──"反魔法アンチ・マジック"……! アジ・ダハーカが使っていた千の魔法の一つか……!」


「御名答。けど、どうやら私はまだ使い切れていないらしい。魔王の魔術は弾き切れなかったからね。異能が魔王の力によって無効化されるのは知っているけど、それよりも強い力なら無効化されない。少しでも私に向かったという事は、私もまだまだ未熟という事だね」


 ヴァイスの使った力は、フォンセたちも以前受けたアジ・ダハーカの反射魔法。

 アジ・ダハーカよりも精度や熟練度が低いので完全に返させなかったが、それもヴァイスが自身の力に慣れるまでかもしれない。

 どちらにしても、早く倒した方が良いという事に違いは無い筈だ。


「ウム、少し邪魔かもしれないな。コレ」


 と、フォンセたちを余所にヴァイスは両手足にある鋭い爪や背部にある翼。そして腰にある尾を見て呟いた。

 様々な力を模倣したが故の容姿だが、元々普通の人間・魔族と同じような姿だったヴァイスにとっては個人的に邪魔なのだろう。


「うン。少し引っ込めておくか」


 だからヴァイスは、自分の意思でそれらを引っ込めた。髪の毛や顔の皮膚など、人間・魔族の一部である箇所以外は元に戻り、通常のヴァイスの姿となる。

 皮膚には幻獣・魔物のモノもあるのだろうが、それは変わらないらしい。何はともあれ、スッキリした見た目に戻った。


「身体の変化も変幻自在か。まあ、ヴァンパイア。私にも蝙蝠や他の動物になる力もあるから、それを利用したのだろう」


「力のある幻獣・魔物は人化する事も出来る。それの応用なら確かに姿を変える事も可能だな」


 その変化を見、特に驚いた様子は無くエマとフォンセが話す。

 身体の変化などは他の種族も何度かおこなっている事。なので驚く理由も無いのだろう。


「さて、邪魔なモノが無くなった。アレの有無で戦闘能力に違いがあるのかも確かめておこう」


「「……!」」

「「「……!」」」


 "テレポート"を使って回り込み、"サイコキネシス"で持ち上げた瓦礫を周囲に漂わせるヴァイス。どうやら次は生物兵器の完成品の基礎となる超能力を試してみようという魂胆のようだ。

 レイたちはそれを見切ってかわし、レイが勇者の剣と天叢雲剣あまのむらくものつるぎを振るって牽制する。それを"サイコキネシス"で弾くヴァイスだが、天叢雲剣あまのむらくものつるぎのみが弾かれ勇者の剣はヴァイスの身体を切り裂いた。


「成る程。流石の身体能力だ。私の身体に傷を付けるとはね。傷の治りも遅い。特別な剣だな。勇者の持っていた剣は」


「今更何を……! 貴方は勇者の剣を知っていた事でしょ……!」


「なに。ただ純粋な称賛さ」


 身体を斬られ、確かなダメージを受けたヴァイスはレイと勇者の剣を称賛する。

 それを聞いたレイは皮肉や揶揄からかいであると返すが、対するヴァイスの返答は純粋な称賛との事。

 それが嘘か本当かは分からないが、始めて確かなダメージを与えられたレイと勇者の剣。対抗手段はそれが良さそうである。


「しかしまあ、此方としてもその厄介な手段をもちいられたら困る。やられる前にやらなくちゃね」


「……!」


 再び"テレポート"を使い、レイの眼前に姿を現す。それと同時に再生させた剣を使い、その剣に魔力を纏わせて強化した。

 強化された剣が振り下ろされ、それを弾くレイ。様々な種族の力が融合され、一振りで山河を砕き兼ねないヴァイスの一撃。それをレイは弾き飛ばしたのだ。


「人間の力とは到底思えないね。いや、確かに世界最強の種族だけど、感性が常人に近い君が……と付け加えるとしよう。フム。面倒な気分だが、やはり長々と話してしまう癖は抜けないな」


「……」


 弾かれた自分の剣を見、人間。というより、常人離れした力を持つレイに興味を示していた。

 感性や見た目が力を持たぬ普通の人間に見えるが為、華奢な肉体に何故この力が宿るのか気になっているのだろう。

 魔族・魔物の成分によって少し気が短くなっているが、ヴァイスである事に変わりは無いので知的好奇心は健在なのだ。


「さて、次に進もうか」


 四大エレメントを使用し、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの全員を狙う。

 レイたちはそれを見切ってかわし、ヴァイスの前に肉迫して各々(おのおの)で構えを取った。


「やあ!」

「"魔王の槍(サタン・ランス)"!」

「はっ!」

「"神の雷霆ゴッド・サンダーストーム"!」

「えい!」


「やれやれ。抑え切れるかな。"完全なる盾パーフェクト・シールド"」


 ヴァイスの放った四大エレメントをかわしつつ一部を砕き、勇者の剣と天叢雲剣あまのむらくものつるぎ。魔王の魔術。ヴァンパイアの天候を操り作ったいかづち。神の力。そして"フォトンキネシス"によるレーザーが放たれた。

 それをヴァイスは魔力を込め、魔族やアジ・ダハーカの魔法・魔術とは違う己の防御術で防ぐ。様々な力を応用し、より強力な盾を生み出したのだ。

 それにレイたちの技が衝突し、周囲の瓦礫が全て消え去る。しかし多くの形が残っているので、どうやら防がれてしまったようだ。

 ヴァイスにも多少のダメージはあるが、リヤンの持つ回復力や持ち前の再生術。そして生物兵器ならではの不死性があるのでそのダメージは実感出来なかった。


「防がれた……!」

「なら、畳み掛けるまでだ! "魔王の業火(サタン・ヘルファイア)"!」

「うん……! "神の定め(ゴッド・デクリー)"!」


 防がれた瞬間、魔王の轟炎を放つフォンセと空から隕石を降らせるリヤン。

 それらもヴァイスは防いだが、その視界からレイたちは消えた筈だ。なので追撃するよう、レイたちが再びヴァイスへ迫った。


「フッ。私には超能力も備わっている事を忘れたかい? "テレパシー"を使えば居場所は分かり、他にも様々な能力で特定する事など容易い所業さ」


「知っているよ!」


 レイたちの動きを読んだヴァイスが居場所を特定し、魔力の込めた剣を振るって防ぐ。その剣に天叢雲剣あまのむらくものつるぎで対抗したレイは片手にある勇者の剣をもちい、ヴァイスの脇腹を斬り付ける。

 ヴァイスが動きを読んでいるのは知っている。なので敢えて受け、もう片方で攻めたのだ。

 しかしヴァイスは魔力から剣を創造して勇者の剣も防いだ。


「だから、"テレパシー"があれば次の行動など手に取るように分かると言っているだろう。右からはヴァンパイア。左からは神の子孫が来ているね」


「「……!」」


 レイの剣を予測したヴァイスは左右の二人に言い放ち、怪力でレイを弾いてエマとリヤンをエレメントとは違う魔力の衝撃波で吹き飛ばした。

 つい数分前まで使えなかった超能力を此処まで完璧に使えているのを見れば、やはりヴァイスもかなりの強者だったという事を改めて実感した。

 試行錯誤でレイたちを軽くいなしているのだ。備わったばかりの力を此処まで使いこなせているとなると、思ったよりも相手取るのに苦労しそうである。

 だが、レイ、エマ、リヤンの三人は小さく笑っていた。


「使い塾せている超能力……けど、力に頼り過ぎだよ……!」


「……! ほう?」

「"魔王の槍(サタン・ランス)"!」


 ──そしてヴァイスに、漆黒の槍が突き刺さった。

 それによって大きく出血し、身体の半身を失う。それを見たヴァイスは余裕と称賛を交えたような表情で槍を見ていた。

 そう、魔王の力を使っているフォンセならば"テレパシー"などの全異能を無効化出来る。そんな魔王の性質を利用してけしかけたのだ。

 力を試している段階のヴァイス。ならば、気配では無く己の能力をもちいて行動を読むというのは容易に想像出来る。

 普段のヴァイスならそんな不意討ち受けないのだろうが、力を試している今だからこそ通じた方法だ。ヴァイスの表情はそれを見抜き、実行した事への敬意みたいなものだろう。


「見事だね。前の私なら即死だったか、幸運が働いたとしても動くのも辛い状態となっていただろう。今の生命力に溢れている私なら半身を失った程度じゃ堪えないよ」


「……っ。やはり効果は薄いか……! だが、半身失っている今なら一気に追撃出来る……! "魔王の剣(サタン・ソード)"!」


「はあ!」

「ふっ!」

「"神の鉄槌(ゴッド・アイロン)"!」

「えいや!」


 フォンセに続き、レイ、エマ、リヤン、キュリテが一斉にヴァイスへ向けて集中砲火する。

 魔王の剣魔術を始めとして勇者の剣とヴァンパイアの怪力。神の力に"アースキネシス"による大地の槌。

 今回は物理的な物を中心とした技を放ち、ヴァイスを粉微塵に打ち砕いた。


「やるじゃないか。勇者の剣と魔王と神の力。それを防ぎ切るには少々覚悟を決めなくちゃならないのが大変だ。再生が遅いか、再生しないからね」


「やっぱり再生した……」


 その肉片からヴァイスが復活し、改めて周りを見渡す。

 レイたちにとってもヴァイスが復活する事は想定内。知っていた事だが、目の当たりにするとまた違った面倒臭さが生まれるものだ。


「攻撃面も防御面も大凡おおよそのデータは集まったかな。次はそれらの応用編に向かうとするか……」


「……!」


 その言葉を聞き、レイたちは理解した。

 ヴァイスはレイたちを倒すつもりも無く攻撃を受けていたと。

 先程のヴァイスが次に進むと告げ、その後はレイたちに攻撃をさせていた。ヴァイスも少しは仕掛けたが、それは簡単に防げる攻撃。つまりほとんど己の耐久性を確かめる為のテストだったのだ。

 試行錯誤の連続ではあるが、攻撃と防御を分けて確かめていたらしい。何とも面倒臭い相手だろうか。


「なら、次からは少し本気になるのかな……?」


「まあそうなるね。不測の事態が起こらないでこのまま行けばの話だけど」


 ヴァイスの試行錯誤は続く。そしてレイたちの戦闘も、まだまだ続く。

 終わりに向かい始めていたこの戦闘。それはヴァイスに不測の事態が起こらぬ限り続きそうだ。

 最も。ヴァイスの示す不測の事態が何かは分からないが、苦労する事に変化無し。

 九つの世界"世界樹ユグドラシル"にて行われている"終末の日(ラグナロク)"。その五日目の戦争は、正午から一、二時間程が経過しようとしていた。

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