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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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五百六十七話 vs自分たち・魔族・幻獣の完成品・決着

「"神の火炎(ゴッド・フレイム)"!」

『ぬぅ……!』


「"魔王の炎(サタン・ファイア)"!」

「ハッ……! "終わりの炎(ニハーヤ・ショーラ)"!」


 力を解放してからおこなわれた戦闘は、接戦だったものが一変してフォンセとリヤンが優位に立ち始めていた。

 それでも確実に勝てるという保証は無いが、かなりの疲労という代償に伴った戦闘能力にはなっているようだ。

 成す術無く神の炎に焼かれる幻獣の完成品と、魔王の炎に禁断の炎をぶつけるも容易く掻き消される魔族の完成品。その瞬間、周囲に神々しさのある炎と暗黒の炎が散って爆散した。

 余波だけでこの国が消滅してもおかしくない炎だが、フォンセとリヤンはまだ一割以下の更にその下にも満たぬ力しか使っていない。なのでこの国が消え去る事は無いだろう。


「向こうは少し本気になったみたいだな。私たちも行くぞ……!」


「うん! エマお姉さま!」


 フォンセとリヤンの戦闘をうかがい、此方も改めて仕掛けるエマとキュリテ。

 魔物の完成品は未だに話さないが構えており、魔力を込めた何かで二人を弾く。しかしその程度で怯むエマとキュリテでは無い。

 キュリテがエマをかかえて"テレポート"を使い、一瞬にして魔物の完成品へと迫る。超能力なら相手も使えるので容易に使えないが、今まで温存していた"テレポート"。ライたちでも魔族でも無い情報データを宿す魔物の完成品は一度だけなら反応し切れないだろう。


「はあ!」

「やあ!」


 刹那にエマがヴァンパイアの怪力で拳を放ち、完成品を地に埋める。そこへキュリテが"サイコキネシス"をもちいて更に沈め、"アースキネシス"で全体を覆って地の底に封じ込めた。

 脱出されるのも時間の問題だろうが、一瞬でも隙が生まれるのなら様々な方法を思い付く事も可能だ。なので戦略の幅は広がる事だろう。


「そこっ!」


 そして完成品が埋まった場所に向け、キュリテが"サイコキネシス"で更に圧力を掛けて押し潰す。

 どの道再生はされるのだろうが、その進行を遅らせる事は可能かもしれない。故にそれを実行するに越した事は無い筈だ。


「一先ず私たちでは生物兵器を倒し切れない。手間を掛けさせるが、レイ、フォンセ、リヤンが他の生物兵器を倒すのを待つとするか」


「そうだね。完成品は多分、発火させる"パイロキネシス"でも消し切れないだろうし、今みたいに動きを止めて待つのが一番かも」


 エマやキュリテでは、不死身の肉体を持つ生物兵器を倒すのは難しい。万能に近い超能力を使えるキュリテならやり方次第ではいけるかもしれないが、敵も超能力を使えるので防がれてしまうだろう。

 何はともあれ、頼みのつなはレイ、フォンセ、リヤンのように生物兵器が相手でも消滅させる事が出来る存在である。

 その中で生物兵器への対抗手段があり、勇者の力が目覚めつつあるレイはというと──


「はあっ!」

『……!』


 ──目にも止まらぬ速度で自分たちの完成品を相手取っていた。

 対する完成品は何とか応戦しているが、少し余裕が無くなりつつあるようだ。

 戦闘開始時はレイが押され、それなりのダメージを受けていた。だが今は逆にレイが自分たち。つまりライたちの完成品を押していた。これも成長の賜物たまものか、元々秘めていた勇者の力だろう。


むを得ないか。データ収集が少しおろそかになりそうだけど、勇者の力と癒しの源以外にも使わざるを得ないな』


「……。やっぱり、他の皆の力も使えるみたいだね……!」


 押され気味の完成品は、このままでは敗北すると判断したのかレイの力とリヤンの治療能力以外の力を使うと告げた。

 本来の戦闘では己の力は簡単に話さない方が良いのだが、元々生物兵器なので考えず口にしてしまうのだろう。

 多少の思考が出来るようになったとはいえ、まだ命令に従い続ける生物兵器という事に変わりは無いのだから。


『移行する……!』

「……ッ! ライの力……!?」


 完成品はライのその時点で使えた力、魔王の三割に匹敵するものを使用する。即ち、第三宇宙速度でレイに向けて迫ったという事だ。

 そのまま拳を放ち、レイは勇者の剣で受け止める。魔王の力はコピーや情報収集すら無効化しているみたいだが、その時点のライが使える力はコピーしたらしい。

 コピーなどの異能とは違う、素の身体能力や物理的な力を無効化させるライの能力ならコピー出来るのだろう。

 受け止めたレイはそのまま力に押されて吹き飛び、複数の瓦礫を粉砕して停止する。そこへ炎が放たれた。


『"ファイア"!』

「次はフォンセの魔術……!」


 その炎は危なげ無くかわし、視線を向けるレイ。

 魔王の子孫であるフォンセの力をコピー出来るのかと一瞬疑問に思ったが、情報収集された時のフォンセは魔王の魔術を使っていなかった。なのでフォンセ自身の魔術は使えるのだろうと納得する。


『硬質化、加速……!』

「リヤンの幻獣・魔物の力……!」


 次いで腕をユニコーンの角のように硬くしてフェンリルの速度で進む完成品。

 先程のライの速度よりも遅いそれも危なげ無くかわす事が出来たレイは勇者の剣で硬度な腕を弾いて距離を置いた。


『そして、俺。いや、私の言いなりになれ』


「……っ! エマの……催眠……!」


 完成品の目に何らかの力が働き、レイの脳内をもやのような何かが埋め尽くす。

 それを催眠術と悟ったレイは目を閉じ、即座に剣を振るって斬撃を飛ばし、操られるのを防ぐ。

 操られたらその時点で捕まってしまうので一番警戒しなくてはならないのがエマ。つまりヴァンパイアの催眠術かもしれない。


『隙が生まれたな?』

「……ッ!」


 物理的な力である斬撃を砕き、第三宇宙速度でレイに肉迫する完成品はそのまま拳を打ち付けた。

 常人ならば第三宇宙速度の拳が打ち付けられるだけでバラバラになってしまうが、勇者の力に目覚めつつあるレイは吹き飛び骨を数本折って内臓が傷付き吐血するだけで済んだ。

 しかし見ての通り重症。かなりのダメージを受けてしまった。


「ゲホッ……! これが……私たちの力……。何……て……破壊力……」


 咳き込み、吐血して虚ろな眼で自分たちの完成品を見やるレイは自分たちの力に驚愕していた。

 自分たちが世界でも上の方に位置している事は自負している。それはおごりや傲慢、慢心などでは無く事実である。しかし、それを敵に回すとこうも厄介なのかと改めて理解したのだ。


『中々良い力だな。生物兵器の未完成品だった時の記憶が呼び起こされる。その時とは比べ物にならない力だ。自分で制御するのも少々厄介な程にな』


「……。ちゃんと記憶は残っているんだ……生物兵器にも……」


 己の力を実感し、造られた本人ですら困惑している力。それを持つ生物兵器の完成品は過去の記憶に合わせてかなりの力と理解した。

 レイは未完成品だった時の記憶がある事に驚いていたが、そんな事を気にしている暇は無い。敵は自分自身なので、身を引き締めて痛む身体を無理矢理叩き上げて立ち上がった。


「……。まさか……自分自身が強敵なんて考えていなかった……。比喩表現で自分と戦うってあるけど……こういう事なのかな……」


『……? 何を言ってるんだ?』


「別に。単刀直入に言えば、アナタを倒すって事かな……!」


 文字通り、自分と戦う。それを呟いたレイに対し、完成品は小首を傾げながら訊ねる。

 レイは痛む身体を動かして剣を構え、答えると同時に完成品に向けて駆け出した。

 完成品はライの第三宇宙速度でレイに向かい、互いの剣が交差する。達人ならば剣尖が音速を超える事もあると謂われているが、レイと完成品のやり取りはそんなに生易しいものではなかった。

 音速を超え、更にその先を超える二つの剣尖。亜光速に匹敵する速度となって互いにせめぎ合いを織り成し、ソニックブームや衝撃波が周囲の瓦礫を更に細かく切り刻む。

 斬る、突く、伏せる、いなす、かわす、避ける。それらは説明すれば単調な作業であるが、確かな殺傷力を秘めた行動。それが亜光速の領域で繰り広げられているとなれば、残像すら残さぬ動きで見せられる戦いとなっていた。


「もっと、強く……速く……重く……!」

『……っ!』


 その速度は更に増し、亜光速の領域から抜け出さんとばかりのものとなる。完成品はレイの猛攻を受けるだけが精一杯であり、珍しく表情に焦りを示し出していた。

 感情が芽生えつつある完成品。それはそれで良いのかもしれないが、ヴァイス達にとってはあまり良くないかもしれない。何はともあれ、レイが押しているのは確定事項である。


「まだ!」

『……!?』


 一歩踏み込み──レイの(・・・)姿が(・・)消え去った(・・・・・)

 それは比喩にあらず事実。光の領域に到達したレイはそのまま速度を上げ、消え去ったのだ。

 一説では光を超えると時間を抜け出すというものもあるが、他の主力の中には既に光を超える者もちらほら居るので違うだろう。

 厳密に言うのなら、読んで字の如く目にも止まらぬ速度で移動したというのが正しいのかもしれない。

 ライたちの完成品は突然姿を眩ましたレイを探すが見つからず──


「トドメ……!」

『……!』


 ──背後に回り込んでいたレイによって、一刀両断された。

 頭の真上。真ん中から勇者の剣を切り下ろされ、縦に一刀両断。それだけでは再生し兼ねないと、次いで頭をねて脳からの伝達を遮断する。頭の無くなった身体は糸の切れた操り人形のように倒れた。

 何も言う暇を与えず、視線すら向けさせずにレイは自分たちの完成品へトドメを刺す事に成功したのだった。



*****



「──急用が出来た。名残惜しいけど、私はそろそろ目的地に向かうとするよ」


『……なにっ?』


 レイがライたちの完成品にトドメを刺した頃、前触れも何も無く、急用が出来たとヴァイスは告げて不可視の移動術でフェンリルの前から消え去る。

 突然の行動に追い付かず、みすみすヴァイスを逃がしてしまったフェンリル。急いで嗅覚を頼りに探してみるが、そこにあったのは先程までの残り香だけだった。


『急用……。一体なんの事だ……』


 空を見上げ、フェンリルが呟く。ヴァイスが突然述べた不確かな言葉。しかしそれを確認しようにもヴァイスは居ない。なのでどうしようも無いだろう。

 一先ず立ち止まっていても仕方ない。フェンリルは他の主力たちを手伝いに、別の場所へ向けて駆け出した。


「ヴァイスが行ったみたいだね。なら、そろそろかな」


『「……?」』


 その一方で、マギアが呟くように話す。遠方にあったヴァイスの気配が消えた事で目的地に向かったと理解し、不敵な笑みを浮かべる。

 マギアの相手をしていたニュンフェとジルニトラは聞き取りにくかったその言葉を疑問に思いつつ、構えは解かない。


「フフ。さあ、続きをしようか?」

「一体何の事を……」

『けど、気にしている暇は無いようですね』


 視線を戻し、一人と一匹に構えるマギア。戦闘を中断する気は無いと分かったので、ニュンフェとジルニトラは改めてけしかける。

 此方の戦闘はまだ続いていた。


「ヴァイスが向かったか。さて、これが成功すれば目標にまた一歩近付けるな」


『一体何の事だ?』


「ハッ。私用ってのがこの状況に一番適切な言葉だな。俺たちにゃ関係ねェからさっさとろうぜ?」


『……』


 そしてドレイクとシュヴァルツ。此方も気になる事を述べていたが、シュヴァルツは即座に戦闘へと戻る。やはり本来の目標とやらよりも目先に存在する戦闘の方が好きなのだろう。

 油断ならない相手なので戦闘に必要無い思考は切り捨て、ドレイクも構える。

 レイたちと完成品の一方で、ヴァイス達と幻獣たちの戦闘も続くのだった。



*****



「"魔王の水(サタン・ウォーター)"!」

『"終わりの水(ニハーヤ・マイヤ)"!』


「"神の洪水(ゴッド・フラッド)"!」

『ぐ……ッ!』


 レイと完成品の決着が付た時、此方の戦闘も終わりへと近付いていた。

 フォンセが魔王の水魔術を放ち、リヤンが神の力で洪水を引き起こす。

 対する魔族と幻獣の完成品は己の技、禁断の水魔術とジルニトラの魔法で対応するが容易く弾かれ追撃を受ける。


「"魔王の風(サタン・ウィンド)"!」

『チィッ……! "終わりの風(ニハーヤ・リヤーフ)"!』


「"神の旋風ゴッド・フウァールウィンド"!」

『ハァッ!』


 そして続き、放たれた二つの風。それも二体の完成品は己の技で返すが、当然弾かれて二体が大きく吹き飛ばされた。

 周囲の瓦礫は舞い上がり、研究施設に衝突して爆発のような音を響かせる。それを見て研究施設の崩壊を焦った完成品二体はより一層力を込めて二人に構えた。


『このままじゃ埒が明かねェ! なら、やってやるよ……! テメェらならこれを耐えられるだろ……! ──"魔王の元素シャイターン・オンスル"!』


『なら、俺も仕掛けるか。──"仙術・四種大円輪"!』


 魔王と神の力をほんの少しだけ解放したフォンセとリヤン。その力は二体の完成品が思う以上に強く、圧倒的だった。

 故に、魔族の完成品は魔族の幹部たちに伝わる星を砕く程の四大エレメントを交えた一撃。そして幻獣の完成品は天に等しき大聖者、斉天大聖こと孫悟空の仙術──四輪を顕現させた技をもちいてけしかける。

 それらは星を砕き兼ねない力だが、これ程の攻撃を仕掛けてようやく互角になれるかもしれないと判断したのだろう。

 対し、フォンセとリヤンは別々の場所に居るにもかかわらず、同じタイミングで術を発した。


「──"魔王の爆発サタン・エクスプロージョン"!」


「──"神の爆発ゴッド・エクスプロージョン"!」


 ──二つの声と共に大きな爆発が巻き起こり、魔族と幻獣の完成品が吹き飛ばされた。

 星すら砕き兼ねない程の技を押し返す程の大爆発。星を砕かぬよう微調整はしているが、完成品達の四肢を吹き飛ばし再生させないようにするのは簡単だった。

 魔族の魔術と孫悟空の仙術。それらを掻き消し、魔王と神の爆発は完成品達を飲み込んだ。


『まさ……か……!』

『……ッ!』


 爆発に紛れ、両手足が吹き飛んで消え去る二体。

 魔王と神の力。それを受ければもう再生する事は出来ないだろう。

 レイとライたちの完成品。フォンセ、リヤンと魔族・幻獣の完成品の戦闘はこれにて終わりを迎える。

 そしてヴァイスが不穏な動きを見せる中残るのは、エマとキュリテが織り成す魔物の完成品との戦いだけだった。

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