五百六十六話 vs主力たちの完成品
ライたちが"世界樹"の崩壊を告げられた頃、魔族たちと幻獣たちも変わらず戦闘を続けていた。
お互いの主力が出揃って早数時間。熾烈を極める戦闘は依然として続き、大きな破壊が巻き起こる。
『まだ決着は付いておらんぞ、白髪の侵略者……!』
「やれやれ。まだ来るのかい。逃げるという作業も楽じゃないというのに」
その中の幻獣たち。
幻獣たちの戦闘も未だに終わりが見えず絶え間無く続いていた。
その一部、フェンリルがヴァイスを追って嗾け、ヴァイスはフェンリルから逃げながら返す。
幻獣の国と戦闘を織り成す者達は第三層の時とあまり変わらず、変わったのは一部だけ。
孫悟空と大天狗。
沙悟浄と猪八戒と牛魔王。
ガルダと九尾の狐と酒呑童子。
フェンリルとヴァイス。
ドレイクとシュヴァルツに、ニュンフェとジルニトラとマギア。
そしてワイバーン、ユニコーンとゾフル、ハリーフ。という布陣になっていた。
というのも、敵が変わったのは沙悟浄と猪八戒、牛魔王。そしてガルダが加わり、酒呑童子と九尾の狐がガルダと戦闘を行う形となっている。
そして第三層ではドラゴンとぬらりひょんが戦っていたが、ドラゴンは支配者たちの元に。ぬらりひょんの姿は見えないという状況である。
何はともあれ、互いの戦闘はまだまだ続いている事柄に違い無しだ。
『逃げてばかりだな。戦う気はあるのか。いや、無いか』
「分かっているじゃないか。私はあまり戦いを好まないんだ。基本的にグラオやシュヴァルツに任せているからね」
『という割りには、別の場所に向かおうとはしていない。何かを待っているようにも窺える……』
「フフ、さあどうだろうね?」
巨腕を振るい、掌でヴァイスを押し潰すフェンリル。しかしヴァイスは如意金箍棒を用いて空に避けており、フェンリルの遥か頭上に居た。
それを見たフェンリルが炎を吐いて牽制するが、小石を大岩に再生させたヴァイスが大岩でそれを防ぐ。そして鉄片から銃を再生し、即座に銃弾を詰めてフェンリルに向けて全弾放った。
フェンリルの身体はその程度じゃ傷一つ付かないが、音速の弾丸は牽制にはなる。空中で直ぐ様体勢を立て直し、如意金箍棒を縮めてフェンリルに亜光速の神珍鉄を放った。
『様々な手法で攻めてくるか。一概に再生能力と言っても、用途は多数あるようだ』
「考えてみなよ。何でも直せるのに攻撃が出来ないのはおかしいだろう? 再生で攻撃をする事も、破壊で守護する事も可能なのさ」
如意金箍棒を受け、一瞬怯んだ後で尾を薙いだ。
その尾はヴァイスを掠るが、掠った箇所も即座に再生させる。その瞬間に鉄片から剣を再生させたヴァイスが一気にフェンリルへと降下した。
「という事で……そろそろ逃げずに相手をして上げるよ。時間稼ぎも兼ねてね」
『時間稼ぎか。何やら気に掛かるが、気にしていても答えが見つからぬなら意味も無い。ひたすら相手取るか』
如意金箍棒を振るい、フェンリルはそれを片手で受け止める。まだ答えの見えぬ戦闘だが、ヴァイスがその気になったならそれで良いのだろう。
そして二つの衝撃が周囲に散って大地を大きく抉り取った。
「"破壊"!」
『ふむ、危険な魔術だ』
シュヴァルツが空間を打ち砕き、それを見切ったドレイクが全て躱す。そのまま身体を用いて突進し、シュヴァルツの身体を吹き飛ばした。
だが吹き飛ばされる直前に破壊魔術を正面に放ち、破壊の衝撃で威力を弱めて吹き飛んだシュヴァルツは大したダメージを受けていなかった。
「チッ。ついでに身体を砕こうとしたが砕けなかったか」
『やはり危険だな。破壊というものは』
立ち上がり、周囲を砕いてその破片を飛ばすシュヴァルツ。
破片の弾幕を全て躱したドレイクは更に加速し、口に熱を込めて肉迫する。
『遠距離からの攻撃はどうだ?』
「見ての通りだ。"破壊"!」
その熱。即ち炎を吐き、シュヴァルツを焼き払う。
しかしシュヴァルツはそれを正面から打ち砕き、本人も飛び出してドレイクの眼前に迫る。次の瞬間に破壊魔術を纏うが、ドレイクは上昇してそれを躱した。
そのまま空から炎を吐き付け、一気に周囲を熱する。
「"空間破壊"!」
『成る程。空間を破壊して熱も炎も消し去るか。確かに良い護りだ』
その熱と炎を打ち砕き、無傷の姿を現すシュヴァルツ。
無傷の様子から破壊魔術の応用であると見切ったドレイクは空を舞い、急上昇からの急降下で加速を付けて再び迫った。
『──カッ!』
「ハッ、支配者の息子がその程度か!」
そのまま眼前に灼熱の轟炎を吐き、シュヴァルツはそれを砕く。
炎と空間の欠片が周囲に散りばめられ、余熱で気温が高まった。
「行きます……!」
『行くよ……!』
「良いよ……来てみな! "女王の炎"!」
ニュンフェがレイピアに風魔法を纏って放ち、ジルニトラが風によって更に強まった炎魔法を放つ。
対して、マギアが本来の力に近い炎魔術を放って迎撃し、周囲に凄まじい熱が放出された。
それによって巨人の国が燃え盛り、余波で遠方にある山程の高さの時計塔が焼け落ちた。
「うん。中々良い炎魔法だね。手加減したとはいえ、私の炎魔術と相殺したんだもん。十分だよ、その破壊力」
「手加減したと言われて褒められてもいい気分にはなりませんね……。なので、まだ仕掛けます……!」
『私も続くよ!』
「ふうん? 次は肉弾戦かぁ」
魔法を防がれたニュンフェとジルニトラ。ニュンフェはレイピアを構え、ジルニトラは身体全体を使って体当たりを嗾ける。
対するマギアは悠然と立ち構え、肉迫する一人と一匹を余裕のある態度で眺めていた。
「随分と余裕があるみたいですね……! 舐められたものです……!」
『油断していると足元掬われるよ……!』
「フフ……油断はしていないよ。けど、余裕があるのは確かだね」
ニュンフェがレイピアを突き刺し、ジルニトラの巨体がぶつかる。
しかしマギアは微動だにせずレイピアとジルニトラの身体を受け止め、魔力を軽く込めて吹き飛ばした。
勢いよく貫くつもりだったニュンフェのレイピアとマギアを吹き飛ばすつもりの体当たりだったジルニトラだが、掌に強力な魔力を込める事で緩衝材のような役割となり、二つの衝撃を抑えたのだろう。
そして、衝撃を抑えてしまえば後は簡単。既に強力な魔力が込められているのでそれを弾くだけで吹き飛ばせるのだ。
吹き飛ばされたニュンフェとジルニトラは一つの建物に衝突して粉塵を巻き上げ停止する。一つの建物だけで街以上の面積を誇っているが、それを貫通してしまうのでは無いのかと思う程に吹き飛ばされた一人と一匹は、少しだけ呼吸を荒くして既に目の前に来ていたマギアに視線を向ける。
「軽い態度に似付かぬその力。アンデッドの王は流石ですね……」
『私も一応魔法の神様って謳われているんだけどなぁ……』
「アハハ。貴女達に褒められて私も嬉しいよ。出せるのは魔術くらいだけどね♪」
アンデッドの王、リッチ。その力は流石という他無かった。
当のマギアも力を称賛されて満更でも無い様子だ。称賛というのも少し違うかもしれないが、ニュンフェとジルニトラが一目を置いているという事柄に違いは無いだろう。
「別に、褒めてはいません!」
『ニュンフェちゃんに同じく!』
「あらそう? 残念」
風を纏い、貫通力を高めたレイピアで貫くニュンフェと眼前に迫って雷魔法を放つジルニトラ。マギアは余裕のある態度で返し、魔力をバリアとして反射させた。
それら二つは弾かれるが、ニュンフェとジルニトラは再び進む。
幻獣たちとヴァイス達の戦闘。それもまだ続いていた。
*****
──剣尖が空気を切り裂いて進み、周囲が空間ごと切断される。
それから遅れて周囲が崩落し、剣を振るった者──レイ。その背後に回り込んでいたライたちの完成品が斬り掛かった。
『……』
「はっ!」
甲高い金属音が響き、周囲が振動して瓦礫が斬り落とされる。完成品はそれを無視して斬り掛かり、レイはそれを受け流す。
互いの速度はかなりのものとなっており、斬撃を受ける度に周囲が斬れ、再び距離が置かれた。
『……?』
「……?」
そして、レイと戦う完成品が小首を傾げてレイを見やる。
何かの不具合があったのか分からないが、レイも小首を傾げて完成品に視線を向ける。
『……』
次の瞬間、剣を携えて迫った。レイは勇者の剣でそれを弾き、片腕を切り落とす。即座に治療して再生した完成品は握っている剣を振るい、レイが紙一重で躱す。そこに腹部へ蹴りが入るが、レイはそれも躱した。
躱した瞬間に剣を振るって牽制し、完成品が飛び退いて避ける。レイがその場所へ剣を突き刺し、完成品はそれも避けた。そのまま回転して剣を振り抜き、レイはその剣を己の剣で受け止めた。
「……。さっきに比べて動きが遅い……。私が速くなっているのかな……?」
『……』
受け止めた瞬間に弾き飛ばし、即座に振り抜いて完成品の胴体を切り裂く。真っ赤な鮮血が周囲に散って下半身と上半身が離れ、周囲に臓物が散らばった。
不死身を無効化出来るようになった勇者の剣。普通ならば即死だが、ライたちの力を持つ完成品は元々高い生命力を誇り、加えて身体を己で触れて再生させた。再生した瞬間に完成品が斬り伏せ、レイは剣を躱して蹴りを入れる。腹部に蹴りを受けた完成品は吹き飛び、瓦礫にぶつかって停止した。
「やっぱり……。少し遅く感じる」
『……。理解不能だな。何だか知らないが、コピーし切れない』
「……!? 喋った!?」
敵の速度を遅く感じるレイが疑問を浮かべていた時、ライたちの完成品が言葉を発した。
それを聞いて呆気に取られるレイだが構え直し、疑問を浮かべた表情のまま小首を傾げる。
『ああ、喋れるよ。イチイチ話していたら効率が悪くなるから話さなかったが……どういう訳かアンタが俺よりも早く成長している事が気に掛かる』
「成長……? やっぱり私が強くなってたんだ……。これが勇者の力……?」
『それはどうでも良い。俺はアンタらの力を有している。だから俺は、戦い方が違っても大凡はアンタらの成長通りに進化する筈なんだ。アンタらが俺と戦った時からのな。なのにデータ以上の速度で進化しているのはおかしい』
「何の事……?」
完成品の奇妙な反応は、どうやらレイたち。というより、レイの成長速度によるものらしい。
ライたちのデータを収集した数日前。完成品はその時からどの様な成長を遂げるかを計算して進化するらしい。だがレイの成長速度は計算以上のものだった。なので思考に異常を来して困惑したのだろう。
「どうやら私たちの完成品が話したようだな。会話を聞くに、この何かの完成品も効率を優先して話さないのか?」
「さあ、どうだろう……。他の完成品よりは少し違うけど……」
『……』
レイと完成品の会話を聞き、未だ正体は分からぬ魔物の完成品の話さない理由を気に掛けるエマとキュリテ。
完成品の中の未完成品みたいなものという推測をしているが、果たしてそれが本当なのかエマたちには分からないので一先ず集中する。
『成る程、中々手強い仲間が居るらしい。さっさとお前を捕らえ、手助けに向かった方が良いかもしれぬ』
「……っ」
その一方で、リヤンと向き合う幻獣の完成品。レイの力が思ったよりも強かったので何かを考えているのだろう。
本来は感情も何もない生物兵器だが、様々な種族の力を得る事で思考回路が発達した。なので考えて行動をする事も出来るようになったらしい。
「何か嫌な予感がする……。生物兵器や私じゃなくて、この世界に……。私も少し力を出す……!」
『……? ほう。神々しく高貴な力を感じる。そして気になる事を言うな……』
そんな幻獣の完成品から視線を一瞬逸らし、この"世界樹"に嫌な予感を覚えるリヤンは神の力を込めた。
神の子孫だからこそ何かを理解出来る。神の子孫だからこそ、"世界樹"の崩壊が近付いているのではないかと分かったらしい。
「……。レイが覚醒しようとしていて、リヤンが何かを感じたか。なら、私もそれなりの力を解放した方が良さそうだな。疲れるから念の為に温存していたが、今が頃合いかもしれない」
『ハッ。なんだそれ? 唆らせてくれるじゃねェか。良いぜ、見せてみろ!』
そのまた一方で、レイの状態とリヤンの言葉を気に掛けるフォンセはかなりの労力を消費するが終わらせた方が良いのかもしれないと判断して魔王の力を解放した。
それを見た魔族の完成品は楽しそうに見ているが油断はしていない。
何かを狙うヴァイス達と戦闘を織り成す幻獣たち。そして少しだけ各々の力を本気にさせるフォンセとリヤン。
これにてレイたちと生物兵器の完成品が織り成す戦闘は始まってから数分を経た後、終わりに向けて進み出した。




