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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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五百六十四話 停滞

「オ──ラァ!」

『フンッ!』


 七、八割から落としていた力を六割に戻し、光の領域を超えたライが拳を打ち付けた。その拳をテュポーンは受け止め、周囲に熱と衝撃が走る。

 音速で動くだけで身体に数百度の熱が起こる程の空気、光の領域を超えたライは身体に何万度感じているか分からない。それを平然と行い、平然と止めるテュポーンや他の主力達。何はともあれ、常人の領域では語れない戦闘だった。

 受け止められた瞬間に回し蹴りを放って牽制するライと、それをもう片方の巨腕で抑えるテュポーン。そこにシヴァの創造した隕石が複数落とされ、ロキの炎に焼かれて消え去る。そのロキへドラゴンが向かい、グラオがドラゴンとロキを纏めて吹き飛ばす。そしてライがテュポーンの腕を持ち上げて放り、グラオ、テュポーン、ロキを纏めて吹き飛ばした。


「どうだ。これでも仲間に手を出す余裕があるか?」


『フッ、まだまだ余裕だ。放り投げられたのは腹立たしいが、それも直ぐに切り返す』


 投げ飛ばし、テュポーンの数十メートル前に立って話すライとまだ余裕の表情を見せるテュポーン。

 与えたのがほんの数撃なので大したダメージが無いとは分かっていたが、これ程までに無効だと少々思うところがある。しかしライもテュポーンの攻撃を何度か受けていてほぼ無傷なのでどっちもどっちなのかもしれない。


「ついでに僕を巻き込んでおいて、二人だけで会話とは本当に余裕があるみたいだね。いや、一人と一匹が正しい言い方かな?」


『私も巻き込まれたんだがね。どうやら誰も私など眼中に無いらしい』


 そして投げ飛ばされたテュポーンに巻き込まれたグラオとロキが文句を言う。

 というのも、自分たちが然も居ないかのように話されるのが嫌なのだろう。グラオもロキも、自己顕示欲が強い。なので目立ちたいという性格なのだ。

 最も、ロキの場合は逃げる時は普通に逃げたりとその場の状況などはわきまえているが。


「ハッ。ならお望み通り目立たせてやるよ! "落石(スクット・アルハジャ)"!」

『そうだな、ついでにテュポーンを討ち仕留められれば上々だ』


 自己顕示力の強い二人とその場に居るテュポーンに向け、シヴァが創造した複数の弾丸。もとい、弾岩ダンガンとドラゴンの吐いた炎が放たれた。

 岩が炎に熱せられて高温となり、隕石の如く降り注ぐ。ドラゴンの炎ならば普通の岩は容易く熔解するが、シヴァの魔力からなる岩は別。逆に力が上乗せされ、更なる破壊力を秘めてグラオ達の元へ落下した。


『小賢しい!』

「ほいっと!」

『やれやれ、面倒だ……!』


 対し、テュポーンが巨腕で岩を打ち砕き、グラオが拳で砕き退ける。そしてロキは身体を炎に変換させてそれを受け流していた。

 グラオ、テュポーン、ロキはライの投げたテュポーンに巻き込まれ、纏まっていた。なのでライに攻撃の影響は受けず、グラオ達だけを狙えているのだ。

 しかし見ての通り全ては容易く防がれるか受け流されている。精々目眩ましが関の山だろう。


「そらっ!」

『……!』


 そこへライが駆け出し、テュポーンに拳を打ち付ける。まだ岩は降り注いでいるが、それを全て見切ってかわしながら直進したのだ。

 岩の方に気を取られていたテュポーンはその拳をまともに受けた。だが、光の領域を超えた速度の拳を受けても少し背後に押されるだけでこらえ、片手で岩を払いながらもう片手で拳を受け止めた。


『フン、下らぬ真似をしてくれる。だがその程度、気配だけで受け止められるわッ!』


「だろうな。けど、巨体の所為せいで当たる面積が広いから岩を防ぎながらしか攻撃出来ない。岩が当たっても大したダメージは無いんだろうけど、煩わしさはあるから防ぎたくなる。まあ、何はともあれアンタは少し不利な状況だ」


『試してみるか? 逆に貴様が消し飛ぶ事になるぞ』


 拳で片手を払い、テュポーンに隙を作り出すライ。しかしテュポーンは冷静にライを見ており、払われた腕を再び振るうった。

 それをライはかわして飛び退き、腕に足を付けて駆け出す。テュポーンは己の腕を気にせず炎を吐いて牽制するが、ライはそれも避けて眼前に迫った。

 そこから空気を蹴って加速し、光を超えた速度で拳を放つ。それによって凄まじい爆音ととてつもない熱と衝撃が生まれたが、テュポーンは簡単に耐えた。そのまま腕を払い、ライを大地に叩き付ける。刹那に大地が盛り上がって粉塵が周囲を覆い、巨大なクレーターが造り出された。


「ハハ、不利な割りには十分動けてるじゃねえか」


『フン、消し飛ばす事は出来なかったみたいだ。頑丈な身体をしているな。面倒だ』


 互いに互いの攻撃を受けたライとテュポーン。この一人と一匹は相手を侮らず、警戒しながら会話をする。

 戦闘の一挙一動によって生じていた煙の降り注いだ岩は全てが消え去っており、ライとグラオ、テュポーン、ロキが再び向き合う。


「君達だけで楽しんじゃって。僕は嫉妬しちゃうなぁ」


『どの口が言うか。気持ち悪いぞ、お前』


「酷い事言うね。退屈を紛らすのは僕の至福なんだ。もっと楽しみたい純粋な気持ちさ」


 そして一方では先程の攻防に参加出来なかったグラオとロキ。グラオが文句を言い、ロキがそれに返したりと穏やかな雰囲気だった。

 ──そう、二人の織り成す戦闘によって周囲が崩壊していなければ。

 グラオが拳や足を放ち、ロキが炎を展開しつつ周囲を焼き払う。大した事のない会話をしながら行われるその光景は、会話に似合わぬ地獄絵図だった。


「しゃーね、俺たちも行くか」

『そうだな。遠距離から攻撃をしてもあまり意味の無いようだ。投石などよりは己の力で叩いた方が力も出る』


 ライとテュポーン。グラオとロキ。この者たちの戦闘に感化され、シヴァとドラゴンもそちらに向かう。

 遠距離からのサポートを兼ねた攻撃をおこなっていたシヴァたちだが、創造した物を放ったり炎を吐いたりといった攻撃ではあまりダメージが無いのは明白。常人なら投石の方が破壊力の高い攻撃を放てるが、シヴァやドラゴンにとっては己の力で肉体的に戦う方が良いのだろう。

 それも、シヴァの投石では投げられた物が形を保つのが難しく、ドラゴンの炎は相手に掻き消されてしまう。なのでそういう意味でも肉体的に攻めるのが良いのだろう。


「ハッ! 俺たちも混ぜろやァ!」

『あまり戦いたくはないが、右に同じだ』


 ライとテュポーン。グラオとロキの戦闘にシヴァとドラゴンも参戦し、更に激しさを増す戦況。

 支配者クラス同士の戦いは、まだ進展はしなさそうである。



*****



「やあ!」

『……!』


 レイが勇者の剣を薙ぎ、ライたち。つまり自分たちの完成品がそれを剣で払う。

 そのまま二つの剣が弾かれてレイと完成品は距離を置き、次の刹那に斬り掛かる。縦に振るって横に薙ぎ、下から突き上げられた物をいなして弾く。感覚が研ぎ澄まされ、斬撃が周囲を飛び交う。瓦礫が斬れて木が倒れ、空が割れて大地に亀裂が入る。

 戦闘開始から数分。レイの速度が更に増し、完成品の動きを分かっているかのような動きでかわして斬り伏せる。


「見える……さっきまで追い付かなかった相手の動きが……!」


『……』


 完成品の放つ剣尖を全て見切り、逆に斬り付けて腕や足を何度も切り落とすレイ。即座に再生するが、再生した瞬間に再び切り落とす。

 勇者の剣は時折完成品や生物兵器の不死身性を無効化するが、今回は切断された場所を持ち前の再生力とリヤンの持つ治癒力をもちいて回復させているようだ。なので切断された瞬間致命傷になる頭などへの攻撃は防いでいた。

 そしてレイ本人はその実力が再び目覚め掛けているようだ。まだ完全では無いが、開花されつつある事に変わりは無い。それは無自覚の覚醒。自在に使い切れるようになればそれはかなりのものだろう。


「レイの動きが変わったな。本人は気付いていないみたいだが……かなりの速度だ」


「うん。けど、レイちゃんだけじゃなく此方にも気を付けなきゃね……!」


「ああ。当然だ」


 その一方で魔物の完成品と戦うエマとキュリテは、魔物の完成品が放った魔力のような何かの塊をかわす。

 それも魔法・魔術の一種なのだうが、何か少々いびつな力。なのでエマとキュリテも攻めるに攻め切れないようだ。


『……』


「だがまあ、所詮は生物兵器。単調な動きだ。これから更に学習すれば力も強くなるだろうが、他の生物兵器に比べて劣っているようだ」


「完成品の中の未完成品って事かな……? それでもかなりの力を秘めているけど」


 無言のまま魔法・魔術のような何かを放ち、素の身体能力で巨大なクレーターを造り出して破壊する魔物の完成品。しかし他の三体に比べて単調な動きを見せている。

 これはエマたちは知らない事だが、魔物の完成品は未完成品に近い完成品から創られている。なのでライたちの完成品と魔族の完成品。幻獣の完成品より少々劣るようだ。


「はあ……!」

『まだまだ未熟だな』


 リヤンが幻獣・魔物の筋力をもちいて幻獣の完成品に迫り、重い一撃を放った。それを幻獣の完成品は片手で防ぎ、身体を変換させてリヤンの身体を縛り付ける。

 どうやらこれはニュンフェ。つまりエルフの魔法のようだ。魔法ならば触媒となる物が必要だが、それを無くして扱えるらしい。そしてニュンフェのデータはライたちの完成品にあった物だが、恐らくデータ細胞を移植した事によって使えているのだろう。

 その魔法で近くの木々や植物を操り、更に強く締める。魔法によって意思を持った木はかなりの力である。


「……ッ。苦しい……!」

『案ずるな。殺しはしない。意識を奪うだけだ主らは生かす契約になっているからな』


 リヤンの身体を這う木と枝とツタ。その一つ一つにはかなりの力が込められているので確かに意識を失うのも時間の問題だろう。

 殺すつもりは無いのでこの程度で済んでいるが、相手が本気だったならばリヤンの身体が切断されてもおかしくない程かもしれない。当然植物は強化されているのでそれ程の破壊力となっているのだ。


「けど、植物なら……焼き切れる……! ……植物に悪いけど……!」


『ほう?』


 バロールの炎魔術を使い、植物を焼き切るリヤン。身体に痛みの感覚は残っているが、それを気にしている暇は無い。そのままバロールの魔術を使って完成品の眼前に放った。

 完成品はそれを防ぐが弾かれ、リヤンが幻獣・魔物の怪力で頭を蹴り飛ばす。その程度で頭は取れないが、確かな破壊力は秘められていたので幻獣の完成品を瓦礫の方へ吹き飛ばした。


「皆善戦しているな。私も善戦しなくてはならない。"終わりの風(ラスト・ウィンド)"!」


『ハッ。言うじゃねェか! 俺もまだまだやるぜ! "終わりの風(ニハーヤ・リヤーフ)"!』


 二つの禁断の魔術がぶつかり合い、研究施設を吹き飛ばす程の暴風が生じた。その二つは相殺されて空に消え去り、上空にあった全ての雲を消し飛ばす。

 暴風の中から二人は姿を現し、かなりの近距離にて更なる魔術を放つ。


「"終わりの元素(ラスト・エレメント)"!」

『"終わりの元素(ニハーヤ・オンスル)"!』


 数十センチの差にて放たれた二つの禁断の魔術。その衝撃は周囲を更に吹き飛ばしてフォンセと魔族の完成品の身体も吹き飛ばした。

 身体を背後の瓦礫に強く打ち付け、口から息が漏れるフォンセ。魔族の完成品はフォンセよりも遠くに飛んでおり、片手を失っていたが即座に再生する。この威力の差を見るにまだフォンセの方が魔術が強いらしい。


『『『…………』』』


 レイたちが完成品と戦う中、研究施設か複数の生物兵器達が姿を見せた。どうやら先程第三層にあった時作られていたモノが完成したようだ。

 それなりに時間が掛かったので確かに作り出す速度は落ちているが、まだ完全に壊れるまでは時間が掛かりそうである。

 ライたちと支配者。レイたちと完成品。この戦闘はまだ続くのだった。



*****



 ──"九つの世界・世界樹ユグドラシル・最下層・泉地帯"。


 そして、最下層に位置する泉地帯ではそこの水が全て消え去っていた。

 既に亀裂から流れ溢れており、無機質な大地が残る。そして亀裂が更に広がり、地響きと共に大地が沈み行く。

 まだ続く戦闘の最中さなか、泉地帯では着実に崩壊が進んでいた。

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