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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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五百五十九話 第三層の終わり

 ──"九つの世界・世界樹ユグドラシル"。


 作り出された偽物の"世界樹ユグドラシル"で行われている戦争。"終末の日(ラグナロク)"はより激しく続いていた。

 複数の兵士が負傷し、主力クラスにも所々に負傷がうかがえる。

 第二層では魔族たちと魔物の国の主力によって戦闘が行われており、第三層ではライたち。ヴァイス達。幻獣。魔物。百鬼夜行。生物兵器の完成品が戦闘をおこなっている。

 元の世界に置いて、人間の国を除いた国々がおこなっているこの戦闘。どちらが勝ってもおかしくないものだが、少なくともヴァイス達かロキが勝てば世界は混乱に陥るかもしれない。ライたちが勝てば世界はどうなるか分からない。

 元々世界征服が目的なので、どちらにせよまだ話していない幻獣の国と争うかもしれないだろう。

 何はともあれ、この戦争の結果次第で世界に何らかの影響が生じるのはほぼ間違いない事である。

 そんな"終末の日(ラグナロク)"に置いて今最も激しい戦いをおこなっているのは、やはりライ、グラオ、テュポーン、ロキの戦闘だろう。


「オラァ!」

「そらっ!」

『下らぬ!』

『ハァッ!』


 魔王の力を七割纏ったライと、自身の力を込めたグラオ、テュポーン。そして身体を炎に変化させそのまま突進するように近付くロキの三人と一匹が衝突した。

 それによって周囲は破壊と衝撃に包まれて大きく揺れ、複数の建物が砕けて大地が大きく割れた。半径数キロは軽く崩壊している事だろう。

 恐らくレイたちやドラゴンたちにも何らかの影響が及んでいると窺える。だが、レイたちならば大丈夫だろうという信頼があるのでライは目の前の敵に集中していた。


「ハッ!」

「っと」

『『……!』』


 向き合った瞬間に光の領域を超えて駆け出し、拳を放つライ。グラオ、テュポーン、ロキはそれをかわして距離を置きつつ周囲の相手に拳や足をもちいて牽制する。

 そこへライが向かい、足を薙いでその衝撃を飛ばす。空気が押し出された事によって生じた衝撃は大地を大きく粉砕し、数キロのクレーターを生み出してグラオ達へ飛んだ。

 空中で放った蹴りなので弱まってはいたが、地上で放っていたら第三層の世界が崩れてもおかしくない程の衝撃波だった。


「ハハ。やる気になって嬉しいよ。ライ。もっと僕を楽しませてくれ」


『フン。下らぬ。どの道主らは余に滅ぼされる運命よ……!』


『やれやれ。気性の荒らい者達だな』


 ライのやる気を楽しそうに笑って見るグラオと、一蹴して全員を相手取るテュポーン。ロキは傲慢な性格の筈だが、此処に居る者達の中では割りと常識人なのかもしれない。

 確かに神話では悪神だったが、人間臭いところもあったりと小物みたいな感じだったりもする。なので周りが異常者だらけになれば必然的に常識人に見えるのだろう。

 だがその実力は常人離れしており、次の瞬間にはライ、グラオ、テュポーンを炎で包み込んだ。

 空気が焼け、周囲が歪むように揺れる。それは陽炎による目の錯覚だろう。しかしその熱さは健在なので、この"ヘルヘイム"がかなり苦痛の感じる環境と化していた。


「そらよっと!」

「ほら!」

『猪口才なッ!』


 当然それも、常人の範囲ではあるが。

 太陽並みの気温に位置した炎ですらライたちの手に掛かれば一瞬にして消し去れる。

 普通の太陽が近距離にあれば本来は全てが熔解ようかいするのだが、この偽物の"世界樹ユグドラシル"が頑丈に創られている事と周囲に熱が到達するよりも早くにライ達が消し去った事で全く影響が及ばなかった。

 ライ、グラオ、テュポーン。彼らはつくづく恐ろしい力を秘めた存在である。


『フム。予想よりも容易く防がれてしまったな。太陽に匹敵する温度というのは、お前達にとっては暖かい程度か』


「そうだね。僕達にダメージを与えるには遠い温度だ」


『なら、成す術が一気に無くなったな。まだ温度は上げられるが、子供でも熱いと分かる太陽の温度を防がれたのだからな』


 身体を炎に変換させ、ライ達を囲み込むように輪となるロキは太陽の熱量に匹敵する炎があまり効かない事を気に掛けていた。

 太陽の温度はライ達の住む星に存在したら地上が消滅する程のもの。それを容易く防いだのだから、大抵の炎は効かないという事になってしまうだろう。


『仕方無い。焼き殺すのでは無く絞め殺す方向に移転するか』


「その程度じゃ俺には効かねえよ!」


 炎の輪となっているロキが、一気に力を込め、ライ達を締め付ける。だが即座にライに打ち破れ、身体が千切れるロキ。

 その千切れた部分は再生し、元の姿を形成して炎を放つ。その炎も容易く防ぐライ達だが、遠距離からの攻撃は視界も悪くなるので少々面倒だった。

 それなら気配を追えば良いかもしれないが、グラオやテュポーンなどのように強い気配を持つ者が周りに居る。余計は気配を拾ってしまうか、逆に此方が隙を突かれてしまうかもしれない。なので周りを気にしつつ相手取る必要があるので面倒なのだ。


「隙あり。二人ともね?」

『貴様もな……!』


 炎に包まれる中、グラオとテュポーンが拳を放つ。それをライとロキはかわして距離を置き、炎と飛ぶ拳を放った。

 ライの飛ぶ拳とロキの炎は一人と一匹を捉えて弾き、隣のロキへライは迫る。次の刹那に二人が衝突し、此処に残った瓦礫や残骸を複数消し飛ばした。


『小賢しい者ばかりだな。纏めて吹き飛ばしてくれよう……!』


 巨腕を更に伸ばして振るい、一回転したテュポーン。そしてそれによって、周囲が大きく粉砕した。

 その衝撃は千里を駆け抜け、それすらをも容易く超えて第三層の世界を揺らす。その震動は更に広がり、周囲を大きく粉砕した。


「……っ。危ないから暴れるな……!」


 対し、その腕を避けたライがテュポーンに近付き、魔王を七割纏った拳を放つ。それによってテュポーンが粉砕した世界は更に揺らいで砕け、巨大な爆発を彷彿とさせる粉塵を舞い上げた。

 たかが余風で世界を滅ぼす力を宿すライ。やはり魔王という存在は脅威的他ならないのだろう。


「君もだよ、ライ!」


 それに便乗するよう、少し力を込めた蹴りを放つグラオ。ライとテュポーンはそれをかわしてグラオの蹴りが大地に刺さり──複数の大陸を消し飛ばした。

 ライとテュポーンの攻撃で既に何百キロと崩壊したこの世界。それを更に砕き、"ヘルヘイム"の国を崩壊させたのだ。


『末恐ろしい力だ。カオスやテュポーンは兎も角、ライという小僧。エラトマの力を意図も簡単に操っておる』


 終わる世界を前に、ライの力に感心するロキが巨大な炎を展開させた。

 その炎が空にて纏まり、惑星程の大きさとなって周囲を焼き尽くす。これ程の炎では下方に居る全生物が死してもおかしくないが、惑星の大きさでも温度は少し低い。太陽ならば世界が崩壊していたが、核融合などによるエネルギーでは無く自然に発生する炎と同じような塊なので影響は精々全ての木々が焼き尽くされる程度だろう。


『少し頭を熱すると良い』

「……! させるか!」


 そしてその炎の塊を落とすロキ。惑星程の大きさならば近隣に居るレイたちや幻獣たちを巻き込んでしまうかもしれない。

 なのでライが一人飛び出し、炎に拳を放って惑星程の大きさはある炎の塊を砕いて消火した。その衝撃は世界を大きく揺らし破壊しながら進むが、先程の塊を落とされるよりはマシだろう。


「このままじゃ先に世界が終わりそうだ。こうなったら──第三層(・・・)()落とすか(・・・・)……!」


『なにっ?』

「へえ?」

『……?』


 ライ、グラオ、テュポーン、ロキの攻撃による余波。それは先にこの"世界樹ユグドラシル"の世界を砕きそうな勢いである。

 なのでライは、一噌いっその事巨大な障害となっているこの第三層を下方に落とすと告げた。これもまたレイたちや幻獣たちを巻き込んでしまうかもしれないが、レイたちならば問題無いという確信があった。

 根拠はないが、落下の衝撃を防ぐくらいは出来るだろうと思っているのだ。宇宙の四分の一である第三層を砕いて落とせば残る世界は第二層と泉地帯だけとなる。なので空がひらけ、更に広くなるという事だ。

 元々最上層に位置する第三層なので空は既に開いているが、宇宙の四分の一つ分の空間が開ければ更に広くなる。消滅させる訳では無いのでレイたちの探す出口も一緒に落ちる。利点は多いだろう。


(行くぞ……魔王!!)

【ハッ。上等だ……!】


 魔王の力を普通の七割から全力の七割に引き上げ、ライ自身の力を上乗せする。

 本来ならば実質十割というだけで宇宙が消え去るが、ライ自身の力は実質にしかならない。なので本来の十割よりも劣ると考えている。

 故に、第三層の世界を落とす決断は済ませたようだ。


「ついでにアンタらを倒せたら良いんだけどな」


 最後に聞こえぬ程の声音で言い、上空から落下するライ。

 光の領域を何段階も踏み越えて加速し、時空が歪む程の速度となって地に降り立った。それと同時に拳を打ち付け──


「これは少しまずいかな……」

『……ッ。面倒な……!』

『……私も危ないか』


 ──第三層の世界を、崩落させた。

 打ち付けられると同時に轟音を上げ、周囲を崩壊させる。それに伴って大地が沈み、大穴が空いたように全てが下方へ落ちた。

 グラオ、テュポーン、ロキは各々(おのおの)で対処して余波と衝撃を防ぐ。逆さまだからこそ落ちる第三層の世界。そしてそのまま、ライたちは第二層の世界へと落下して行くのだった。



*****



 ──"第三層・ヘルヘイムの街"。


 数キロ離れた場所によって生じた破壊の余波は、"ヘルヘイム"のみならず第三層の全域に広がって行く。

 秒も掛からずに大穴が空き、戦闘によって崩壊し廃墟と化していた"ヘルヘイム"の街と共に幻獣たちと百鬼夜行が飲み込まれる。


『何だ、急に地面が……!』


「フム。どうやら向こうで戦っている者達が世界を砕いたらしい。飛べぬワシも落ちてしまうな」


「その様だね。グラオ達が暴れているのかな?」


 沈み行く世界にて、空を飛ぶドラゴンが周りを見渡して訝しげな表情となる。

 対し、空を飛べずそれに伴って落ちて行くぬらりひょんとそこから数百メートルだけ離れた場所に居るヴァイスは何が起こったのか大凡おおよその推測をしていた。


『何と……!』

『一体何が起こってんだ?』

『急に砕けるだと……?』

『フム、突然の崩壊。何故じゃ……?』


 その破壊には当然他の者達も巻き込まれており、幻獣の国の者たちと百鬼夜行が第二層へと落下する。フェンリルと孫悟空を始めとし、百鬼夜行の酒呑童子しゅてんどうじや九尾の狐も反応を示す。


『くっ。皆の者が……!』

『落ちて行くぞ……!』

『ならば、私たちも向かいましょうか……』


『総大将や他の者たちも落ちてしまっているな……。私も向かうか』


 そしてこのまま放っておく訳にもいかないので、ドラゴン、ワイバーン、フェニックス。そして敵の大天狗と飛べる者たちは後に続くよう降下した。



*****



「……! 凄い震動……! 魔族の完成品が使っている力じゃないみたいだけど……」

『……?』


 そしてその一方で、研究施設に居るレイたちもその震動を感じていた。

 その震動は魔族の完成品が持つ震動の災害魔術とは違い、大地が底から揺れているような感覚。ライたちの完成品は未だに無言だが、一応この揺れを気に掛けているようだった。


『……。マズイな。この震動じゃ、この研究施設も壊れちまいそうだ』


「ほう? それは朗報だな。私たちの手間がはぶける」


『この震動じゃどの道テメェらも危ねェだろ』


 レイとライたちの完成品が話す一方で、フォンセと魔族の完成品が会話する。

 魔族の完成品はこの施設が崩壊してしまうのでは無いかと焦っているが、フォンセはそれで手間が省けると笑っていた。

 だがこの震動は危険なもの。フォンセもこのまま余裕ではいられないだろう。


『フム。私は空を飛べるが、お前はどうする? このまま落ちるか空で戦うか』


「……」


 フォンセと魔族の完成品が会話をする次の瞬間に足場が崩れ、落ち行きながら訊ねるように話す幻獣の完成品。

 リヤンは無言で返し、崩れ行く世界を眺めていた。


『ノーコメントか。ならば、遠慮無く攻めさせて貰うか』


「……。どっちでも良い。私はアナタを倒すだけ……!」


 幻獣・魔物の力を使って空を舞い、幻獣の完成品に攻め行く。

 レイたちと幻獣たち。ライの一撃によって、第三層の世界に居た全ての主力と兵士が第二層へと落ちて行くのだった。



*****



 ──"九つの世界・世界樹ユグドラシル・第二層・巨人の国・ヨトゥンヘイム"。


「何だ。アレは?」


 巨人の国"ヨトゥンヘイム"では巨人の家にて、アジ・ダハーカ、ヴリトラ、ニーズヘッグ、スルトの四幹部に囲まれたシヴァが砕け落ちた天井から空を見上げていた。

 戦闘の途中で建物内に入ったシヴァの戦闘はなおも続き、今に至る。ほんの数分にして辺りは大きな被害となっていたのだ。

 そんな中でも、空から天候が関係無い何かが降り注ぐ光景に目を奪われていた。


『あれは……岩。いや、土? 空から大地が落ちているだと……?』


『一体どんな怪奇現象だよ、こりゃ……』


 シヴァに続き、アジ・ダハーカとニーズヘッグもそれを見る。他の者達もそれを見ており、魔族たちと魔物達の目線は空から降り注ぐ大地に釘付けだった。

 それはシヴァとアジ・ダハーカ達だけではなく、全ての者達に同じ。その数秒後に土塊が落ちて遠方に粉塵を上げ、その震動が"ヨトゥンヘイム"にも伝わる。

 そしてシヴァの頭上には、複数の影が落ちてきていた。


「どうやら、着いたみたいだな。第二層に」


「高さもかなりのものだけど、上るよりは早いみたいだね」


『ぬう……。余計な事を……!』

『また戻ってきてしまったな、この国は巨人の国か』


『む? ライ殿。シヴァ殿。そして……カオスにテュポーン、ロキ……魔物の幹部……!』


「オイオイ。何だこりゃ? 主力と支配者が全員集合じゃねェか」


 その影、ライ、グラオ、テュポーン、ロキ、ドラゴン。それを見たシヴァは珍しく困惑したように頭を掻いていた。

 しかしそれも当然だろう。今この世界に居る全支配者と各々(おのおの)のチームに置いて最強を謳われる者たちや者達が揃ったのだから。


「何でこうしたかの説明は後でする。現状について単刀直入に言えば、俺が第三層の世界を落とした」


『何と……。いや、理由があるのならそれで良い。ヴァイスとぬらりひょんは見失ったが、こんなに敵が居ては悠長に会話をする暇も無いからな』


「滅茶苦茶しやがるな、ライ。結構大胆な性格みてェだ」


 ライ、シヴァ、ドラゴンは味方同士。そして周りに居るのは敵だらけ。確かに話している暇は無いだろう。

 グラオ、テュポーン、ロキ。ライ、シヴァ、ドラゴンを見ていたアジ・ダハーカ達もある程度の事を理解し、特に追及はせず構えを取る。

 そして今この瞬間、第二層の世界には本当の意味での最強の主力たちがつどう。

 ヴァイス達と魔物の国の協定によって行われた"終末の日(ラグナロク)"は、彼らを迎える事で新たな局面を迎えるのだった。

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