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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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五百五十五話 幻獣たちの戦闘・その2

『オラァ!』

『フッ……!』


 神珍鉄の棒と鋭い鉄の刃がぶつかり合って火花を散らす。その刹那に再び二つの鉄が連続して交差し、金属音を周囲に響かせた。

 孫悟空は如意金箍棒にょいきんこぼうの突きを放ち、それを紙一重でかわす大天狗。かわした瞬間に刀を薙ぎ、孫悟空はそれを避ける。

 互いに織り成す高速のせめぎ合い。叩く、斬る、弾くという単調なやり取りだが、それは目にも止まらぬ程のものであった。しかしこれでまだ本気に掠りもしないのだから両者恐ろしいものである。


『ハァ!』

『猪口才な!』


 孫悟空と大天狗の一方で、沙悟浄と九尾の狐が行う戦闘。

 半月刃の付いた降妖宝杖こんようほうじょうを九尾の狐は九つの尾だけで受け止め、そのうちの数本を伸ばして付け狙う。沙悟浄は全てを見切ってかわし、大地を蹴って更に迫る。

 次々と尾は放たれるが、それを掻い潜りながら降妖宝杖こんようほうじょうを薙ぐ沙悟浄。しかしそれも受け止められ、腹部に尾を食らってしまう。だがただ吹き飛ばされるだけでは無く、その尾を掴んで引き寄せ、九尾の狐にも半月刃からなる一撃の斬撃を食らわせた。


『やあ!』

『フン。豚畜生が』

『豚を舐めたら駄目だよ!』


 そのまた一方で、九本歯の馬鍬まぐわを巧みに操る猪八戒とその馬鍬を刀でいなす酒呑童子しゅてんどうじ。此方でも金属音が響き、それとは違う枯れた木の音も響く。

 歯の部分と刃のみならず、長い柄の部分ももちいて攻撃をしているのでこの様な音も響いているのだろう。

 他の幻獣たちに比べて小さく軽い猪八戒の身体は力不足にも見えるが、小回りが利くので酒呑童子しゅてんどうじを翻弄する事も出来ていた。

 しかしやはり、同じ妖怪とはいえ豚と鬼では個体負けするのだろう。神や仏に近い存在であるがやや力負けしてしまうようだ。刀によって弾き飛ばされてしまった。


『至るところで戦闘が繰り広げられているな。あわよくば打ち倒したいものだ』


「フッ、そうか。しかしワシらもそう簡単にやられる訳にはいかぬからな」


 そしてドラゴンとぬらりひょんが周囲の戦闘を見て向き合う。

 戦闘が始まった事により、各々(おのおの)が戦闘を繰り広げているこの国。ヴァイスは他の者と戦闘をおこなっているのでドラゴンの前には居ないが、百鬼夜行の総大将と幻獣の国の支配者が向き合う光景というものは中々に威圧感のあるものだった。

 見た目だけなら翼のある巨大爬虫類みたいな生物とただの老人だが、それでも互いの格が違うのか存在するだけで常人ならば気付けづいてしまう程である。


「ハッハッハ! 良い感じに盛り上がって来たじゃねェか! "連鎖破壊チェイン・ディストラクション"!」


 周りの盛り上がりに便乗し、テンションを上げるシュヴァルツが周囲の空間に連鎖する破壊魔術をもちいて打ち砕く。

 その欠片は雨のように降り注ぎ、向き合う者たちの皮膚を傷付ける。強靭な肉体の龍や頑丈な毛皮に覆われたフェンリルは大したダメージを受けていないが、人と変わらぬ肉体のニュンフェや他の主力に比べて少し劣るユニコーンが傷付く。

 だが、たかが欠片が降り注いだだけなのでそれ程深い傷という訳でも無く、皮膚を少し切る程度の怪我である。それよりも問題はやる気になったヴァイス達敵の主力だろう。

 シュヴァルツやゾフル辺りは始めからやる気満々だったが、ヴァイス達が加わればより厄介なものへとなってくる次第だ。


「一先ず欠片は邪魔なので蹴散らしましょう。地味に痛みますから、この切り傷」


 レイピアを振るって風魔法を放ち、自分たちの周りに降り注ぐ欠片を払った。

 空間の欠片なので魔力からなる魔法が通じるのかは疑問だったが、どうやら同じ魔力からなる破壊なので防げたようだ。

 今までも防いだ事があるような気もするが、よく分からないので考えるだけ無駄と判断する。確かに今は目の前の敵に集中するのが先決である。

 防ぐと共にフェンリルたちが駆け出し、ヴァイス達に向けて直進した。


『厄介な存在は任せろ!』

「やれやれ。血気盛んな狼だな。飼い主のしつけはどうなっているのか。いや、狼だからこそ気性が荒いのかな」


 巨腕を振るい、ヴァイスを押し潰すフェンリル。しかしヴァイスは岩を再生させて速度を緩め、その隙にかわす。

 次の瞬間に鉄片から剣や銃を再生させ、数発発砲して牽制する。そのまま駆け出すと共に剣を振るってフェンリルを斬り付けた。だが、ただの剣でダメージを受ける訳も無いフェンリルは身体を揺らして弾き、巨腕を横に薙いでヴァイスの身体を吹き飛ばした。


「痛いな。骨が数本折れたよ」


 無詠唱で身体を再生させ、軽く動かして確認する。次に剣と銃を砕いて欠片を仕舞い、懐から孫悟空から奪った如意金箍棒にょいきんこぼうを取り出す。

 確かに普通の剣や銃よりも神造の如意金箍棒にょいきんこぼうの方が的確なダメージを与えられるだろう。その重さは伸ばし切れば数tは下らないが、フェンリルはそれ程遠く離れていない。なのでそこまで重くはならないだろう。


「伸びろ如意棒」

『……!』


 亜光速で棒が伸び、フェンリルの身体を打ち抜く。流石の如意金箍棒にょいきんこぼうは少し効いたみたいで怯み、怯んだ隙に再び如意金箍棒にょいきんこぼうを振るうヴァイス。

 しかしそれをフェンリルは片手で防ぎ、薙ぐと共に弾き飛ばして口に炎を溜め、空中で自由の効かぬヴァイスを焼き払う。

 ほむらに包まれ、全身に大火傷を負ったヴァイスは着地と同時に膝を着くが即座に再生させて傷を癒す。


「攻撃した方が逆にダメージを受けるとはね。やはりフェンリルの相手はただじゃ済まなそうだ」


『面倒な再生だな。即死するか気を失わなければ直ぐに復活するか』


「それでも痛みはあるんだ。毎回毎回、ダメージを受けるたびに死ぬか気を失った方が楽な痛みを受けるからね。ヴァンパイアみたいに痛みも軽減するなら良いけど、普通の再生も楽じゃない」


 再生にもデメリットはある。それは何度も苦痛を受けるという事だ。しかしそれを受けても再生させて挑むヴァイスは底が知れずほんのりと恐怖すら覚える執念だった。

 何がヴァイスを駆り立てるのかは分からないが、凄まじいものである。


「百鬼夜行の三幹部が平天大聖達。ぬらりひょんがドラゴン。で、ヴァイスはフェンリルか。俺の相手は誰だ? 他の奴らを逃がしてやったんだ。弱い奴とはりたくねェぞ」


 孫悟空たちとドラゴン。ヴァイスの戦闘を横に破壊魔術で周囲を砕きながら、自分の相手になりうる者を探すシュヴァルツ。

 レイたちを逃がしたのは此処に居る者たちも十分満足させる力を有しているから。なので己の対戦相手となる者を探しているようだ。

 基本的には誰でも良いのだろうが、やはり強敵の方が良いというのが本心。なので闇雲に破壊しつつ、相手の兵士たちを払いながら移動しているのだろう。


『ならば、お前の相手は俺が請け負おう。兵士たちに危害を加え、他の主力の驚異にもなりうるお前は危険だ』


「ハッ。ドラゴンの息子だっけか? 確か名はドレイク。支配者に匹敵するっーその力……十分だ。俺の退屈凌ぎに使えるって事を認めてやる」


『随分と上から目線だな。実力で言えば俺の方が上だと思うぞ。これはおごりでは無く事実だ』


「ハッ。挑発には挑発で返すか。上等だ。それが事実かどうか、さっさとろうぜ?」


 シュヴァルツの前に降り立ち、赤い身体で立ちはだかるドレイク。対するシュヴァルツは挑発するように言い、ドレイクも挑発で返した。

 両者の挑発で相手を乗せる事は失敗に終わったが、闘争心に火は付いたらしい。互いの相手に向けて構え、睨みを利かせていた。そして次の瞬間に炎が吐かれ、その炎が砕かれる。

 炎の欠片は周囲に散って消え去り、ドレイクとシュヴァルツが駆け出した。


「さて、私たちは貴女のお相手を致しましょう……アンデッドの王……!」

『よろしくね……リッチ……!』


「貴女達が私の相手をするの? ふぅん……?」


 次々と主力たちが戦闘を行う中、ニュンフェとジルニトラがアンデッドの王、リッチ。もとい、マギア・セーレの前に立ち塞がった。

 後方では兵士たちの戦闘による流れ弾が届くが、それすら涼しく感じる程の威圧感を前にニュンフェとジルニトラは警戒を解かずに構えていた。

 しかしそのマギアは余裕のある態度で一瞥し、不敵な微笑を浮かべる。様々な魔法や武術を使えるエルフと魔法の神と謳われるジルニトラを前でもこの態度とは、やはり侮れない相手という事だろう。


「じゃあ、よろしくね。皆。さっきの炎は危険だったから力を少し使っちゃったけど、貴女達が相手なら使う必要も無いからね」


「随分と舐められたものですね。しかし、貴女の力は確かに恐ろしい……その力を使わないと言うのなら遠慮無く攻めさせて頂きます……!」


『そうだね。リッチの本当の力は見た事無いけど、危険ってのは大体分かるからね。私も遠慮無く攻めさせて貰うよ』


 遠回しに力不足であると悪意無く告げるマギアの言葉に、激昂せず冷静に返すニュンフェとジルニトラ。

 マギアに悪意は無いので挑発しているつもりも無いのだろうが、傍から聞けば挑発にも取れるその言葉。冷静さを欠けては戦闘もままならないので、この様な態度を取れるのは戦闘に置いて必要不可欠な事である。


「うーん、そうだねぇ。私が認めたら少し本気を出そうかな。そこまで持っていけると良いね♪」


「行きます……!」

『続くよ……!』


 マギアの言葉が終わると同時に、レイピアを構えたニュンフェと魔力を込めたジルニトラが高速で飛び掛かる。

 対するマギアも魔力を込め、周囲に魔力の壁を展開させてレイピアとジルニトラの魔法を止めた。


「それで、残る主力はワイバーンとユニコーンですか。まあ、他の主力に比べたら少し見劣るかもしれませんね」


「ハッ。上等だ。始めの敵が弱くて後から強くなるってのは当たり前の事だからな。これくらいが丁度良い」


『ですって、ワイバーンさん』

『ふむ。中々舐められているな。しかしあのハリーフという奴とは少々因縁がある。都合が良いさ』


 そして最後の主力。ゾフルとハリーフ。ユニコーンとワイバーンが向き合う。

 他の主力たちの相手は既に決まっている。残った者たちがこの二人と二匹。いずれも実力者だが、ゾフルとハリーフは侮っているような面持ちで話す。対するユニコーンとワイバーンもあまり危険視はしていないようだ。

 というのも、他の主力に支配者クラスがチラホラ居る中、この中ではワイバーンとゾフルが頭一つ抜けているが他の一人と一匹はそこまで戦闘に長けているという訳でも無い。槍魔術のハリーフはまだやり方もあるが、ユニコーンの場合は主にサポートを中心とした幹部だからだ。

 なので自然と互いに余裕が生まれているのだろう。


「んじゃ、さっさとけしかけるか」

「そうだね。"ハルバ"……!」


『容易い。さっさと貴様らを討ち滅ぼし、他の連中の手助けに向かうとするか……!』

『そうですね。では、邪魔にならぬよう邪魔者の排除とサポートは私に任せて下さい』


 余裕はあるが、油断はしない。その心意気は主力である以上常に持っているもの。二人と二匹は細心の注意を払い、己の向き合う主力に構えた。

 九つの世界"世界樹ユグドラシル"にある死者の国"ヘルヘイム"にて行われている今の戦闘は両主力の相手が決まり、次の瞬間に"ヘルヘイム"にて大きな爆発を起こす。建物や枯れた草木が消し飛び、周囲が砂塵粉塵に包まれた。

 激しさを増して行くこの"終末の日(ラグナロク)"。此処のみならず、この"世界樹ユグドラシル"の世界で主力や兵士たちによって激しい戦闘が行われている現在。

 "世界樹ユグドラシル"が戦闘の余波だけで崩壊し兼ねない"終末の日(ラグナロク)"の戦いは、まだまだ続くのだった。

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