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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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五百五十一話 "ヘルヘイム"

 ──"九つの世界・世界樹ユグドラシル・第三層・ヘルヘイム"。


 ライ、グラオ、テュポーン、ロキの戦闘によって吹き飛ばされたレイたちは、"ヘルヘイム"の街中に居た。

 死者の国だけあって周囲は暗い雰囲気だが、国は国なのでちゃんと建物などもあるようだ。

 しかし当然生き物の気配もなく、閑散とした空気が立ち込めている。

 此処にある物は木を骨組みとした石造りの建物類を中心として周囲に広がる街並み。それを始めとし、枯れ木としおれた花。それだけならば国の入り口と大差無いが、内部の方がより不気味な雰囲気だった。

 街中には霧のようなものが立ち込めており、枯れ木によって妙な影が作られその影が生き物のように伸びつつ揺らぐ。霧に映る影と地面に映る影。周囲の暗さもあるが影の一つ一つが不気味である。


「霧が深いな。私的には日光が当たりにくいので都合も良いが、敵を気配のみで探らなければならないのが少し面倒だな」


「うん。かなり不気味だね」


 そんな、濃く深い霧を見て呟くように話すエマと、それに返すレイ。

 霧が日光を遮断しているのでエマからすれば過ごし易い環境だが、感性が常人と同じであるレイはその不気味さに息を飲む。

 正午に近付きつつある朝にもかかわらず夕刻並みの暗さを誇るこの国では敵以外にも足元など細かい注意も必要そうである。


「一先ず、先を進むかそれとも戻るか……。どちらにするかだな。戻ってもライの邪魔になり兼ねないが、先を行く宛も無い」


「そうですね……。邪魔になるのは避けたいですし、此処が敵の拠点ならば出口を捜索するというのは如何でしょう」


「確かにそれが良いかもねえ。場所さえ分かれば私の"テレポート"で移動する事も出来るし、他の皆にも私の能力が届く範囲に居れば"テレパシー"で場所情報を送る事も出来るからね」


「確かにそうですね。私はそれに乗りましょう」


 ライの方へ戻ったとしても足手纏いになり兼ねない現状。それならばとニュンフェは、元の世界に戻る為の出口を探した方が良いと考えたようだ。

 それにキュリテが賛同する。確かにキュリテの言う通りで、キュリテがその場所を見つける事に成功すれば超能力の"テレポート"をもちいてライたちを連れたり"テレパシー"をもちいて他の主力たちに伝える事も出来る。

 つまり出口を見つける事が出来ればかなりの利点があるという事だ。先ず始めにニュンフェがその案に乗った。


「うん。それが良いかもね。邪魔にならないのが一番だし、出口は必要になるからね」


「ああ。私もキュリテに賛成だな」

「無論、私もだ」

「私も……」


 ニュンフェに続き、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人も賛成する。

 そしてこれにて、レイたちの目的は"ヘルヘイム"の街中を探索して出口を見つけ出すという事が決定した。

 そうと決まれば善は急げ。決まるや否や"ヘルヘイム"の街を先に進む──


『む、レイ殿たちではないか。気配を追ってみたら……我らもレイ殿たちに追い付いたみたいだな』


『そうだな。ライの姿は見当たらないが……向こうから激しい音が聞こえる。戦闘中みたいだな』


『となると、ライ殿とは別行動に移っているのか』


「フェンリルさん。孫悟空さん。ドラゴンさん」


 ──その瞬間、既に"ヘルヘイム"へ入りこの国を探索していたフェンリルたち孫悟空たち、ドラゴンたちの連合に出会った。

 といっても偶然の出会いでは無く気配を感じて来てみたと言う。それに加え、レイたちが六人居たので六つの気配から感じたという線が高いだろう。

 偶然ならばヴァイス達に出会った可能性もあるが、先陣は七人と決まっている。ヴァイス達は今グラオが抜けているのでヴァイス、シュヴァルツ、マギア、ゾフル、ハリーフの五人。対するレイたちはライを除いた六人。なので最も七人に近い人数の方へ向かった結果がこれである。

 偶然でも何でもなく、必然的に出会ったと言えよう。


『となると、一方に感じる五つの気配。あれは敵か味方か……』


「五つの気配……。それなら多分敵だよ。ヴァイス達が"ヘルヘイム"に居る。向こうから聞こえる音と感じる衝撃はライとグラオ、そして支配者にロキ。三人と一匹で戦っているの……!」


『何と……! 強い気配とは思ったが、取り逃がしたロキがそこに居たとはな……!』


 そしてそんな、感じた気配について気に掛けるフェンリルと答えるレイ。

 フェンリルたちは一度ロキを追い詰めたが取り逃がしているので、此処にロキが居るという事が一番衝撃だったようだ。


「レイちゃーん! エマお姉さまー! フォンセちゃーん! リヤンちゃーん! キュリテー! ニュンフェさーん!」


「あ、ラビア!」


 フェンリルが衝撃を受けていた時、兵士たちを掻き分けてラビアが姿を現した。

 全員の名を呼んで現れるラビアへ、真っ先に反応を示したのはラビアの親友であるキュリテ。そしてレイたちもラビアの方へ視線を向ける。


「ラビアか。後まあ当然だが、他にも主力が居るな。だが居ない者も多い。第二陣と第三陣にドラゴンたちが加わったって事で良いのか?」


「まあそんなところだね。エマお姉さまたちは何をしていたの?」


「私たちはこれからこの世界の出口を探そうと思って行動に移っていたところだ。お前たちは?」


「エマお姉さまたちと同じだね。私たちもこの世界の出口を探してたんだ」


 決めた第二陣と第三陣に行方不明だったドラゴンたちが加わっている事から、二つのチームにドラゴンたちが入ったと推測するエマ。

 それに答えるラビアはエマに此処に居る目的を聞き、その返答とエマによって聞かれた新たな質問からレイたちとドラゴンたちの目的が同じであると伝わった。


『ならばどうだろう。共に出口を探すというのは。当然、多少はバラけて全メンバーが一ヶ所に留まるという事はしないが、協力するというのは悪い事ではあるまい』


「そうだな。人数は多い方が良い。数だけならば兵士たちを含めて数百居るが、敵と会う可能性を考慮すれば主力も多い方が良いからな。是非協力させてくれ」


 此処には当然、ライたちの戦闘による余波で飛ばされた兵士たちも居る。出口を探すなるば主力と兵士の数が多い方が良いのも事実。なのでエマはドラゴンの提案に乗った。

 目的が同じで戦力になるならば参加しない理由は無いからだ。


『恩に着る。これなら出口の捜索も早くに終わりそうだ』


「ふふ、協力する事には利点しか無いからな。礼を言わずとも良いさ。此方から他のみたい程だ」


 これにてドラゴンたちとレイたちのチームも合流した。

 数も戦力も増えたこのチーム。出口を探すという事柄も、直ぐに終わるだろう。


「追い付いた。けど、数が増えているみたいだね」


『数が増えたのは此方こちらも同じ。気にする必要はあるまい』


 ──最も、邪魔が入らなければであるが。


『……! 白髪の侵略者……! そして百鬼夜行……! 先程は五つの気配しか無かったというのに……!』


「ふむ、妖怪だからか。気配を消すも現れるも自由な存在だからな、妖怪は……!」


 此処に現れた、ヴァイス達と百鬼夜行。ドラゴンとエマが反応を示し、レイたちとドラゴンたちが警戒を高める。その横で兵士たちは武器を構えていた。

 それに伴って無効の妖怪達と生物兵器達も武器を構えるが、ヴァイス達と百鬼夜行の主力はまだ動かない。レイたちも警戒を高めているだけで動くという訳ではない。しかしその膠着状態も直ぐに解かれるだろう。

 思わぬ形で出会ったレイたちとドラゴンたち。そしてヴァイス達と百鬼夜行。死者の国"ヘルヘイム"の街中にて、もう一つの戦闘が始まろうとしていた。



*****



 ──"九つの世界・世界樹ユグドラシル・第三層・死者の国・ヘルヘイム・入り口付近"。


 レイたちが合流した一方で、同じ国にある別の場所では激しい戦いが続いていた。

 衝撃によって大地が抉れ、その大地が炎で気化する。その炎を切り裂いて姿を見せる者達が新たな破壊を生み出す。

 レイたちとはほんの数キロしか離れていない現状、ライには自然と力を抑えなくてはならない制約があるがそれでもグラオ達と渡り合っていた。


「ハハ、ライ。もう少し力を出したらどうかな? 仲間なんて気にしなくても良いじゃないか」


生憎あいにく、そういう訳にもいかないんでな。仲間は信頼しているけど、俺が傷付ける訳にはいかないさ」


『フン、下らぬ。ならば余がとっとと貴様の仲間を討ち滅ぼし、本気にさせてやろうか?』


「そうさせるつもりはない……!」


 ライ、グラオ、テュポーンが会話しながら物理的に相手へけしかける。

 ライとグラオが正面からぶつかって衝撃を散らし、そこへテュポーンの巨腕が入り込み二人を払う。

 当然(かわ)す二人はテュポーンの腕に乗って互いの相手をしつつテュポーンに近付き、ライの拳がグラオの腹部。足がテュポーンの顔に当たり、グラオの拳がライの頬。足がテュポーンの腹部。テュポーンの両腕が二人の全身を捉える。そしてそれによって二人と一匹は勢いよく"ヘルヘイム"の国を吹き飛んだ。


『物理的な争いには参加したら押し負けるな。今がチャンスか』


 そして上空にて、身体を炎に変換させながら飛行するロキが両腕を炎に変えて下方へそれらを一気に放った。

 爆発的に広がる炎は下方へ流れ、"ヘルヘイム"の半径数キロを焼き尽くす。レイたちには当たっていないだろうが、その余熱は感じているかもしれない。

 しかしそれはさておき、炎によって"ヘルヘイム"の砕けた街並みが炎の国のように変わった。轟々と燃え盛る炎は、死者の国は死者の国でも地獄を彷彿とさせる感覚だった。


「参加したいなら、もう少し近付いたらどうだい、悪神ロキ!」


『いやいや、カオスよ。私は貴方方よりも肉体的な強さが低いんだ。遠距離から細々とやらせてくれ』


「断る」


 ロキの背後に回っていたグラオが空中で体勢を変え、宙返りのように身を前方に投げる。そしてそのまま、オーバーヘッドの形でロキの頭を爪先が捉え、ロキの身体を下方へと突き落とした。

 蹴られたロキは勢いそのままで落下し、炎の中に落ちて衝撃で炎を消し去る。しかし消え去る前にその炎を身体に移して身体を再生させ、ほぼ無傷の状態で起き上がった。


『炎その物の私を蹴り飛ばすとはな、混沌を司る神よ。全てが混ざり合った混沌なら私に触れられるのか』


「さあね。さっきまでは避けられていたんだ。触れる事が出来るかどうかは分からないな」


『成る程、この一撃の為に触れられる事を隠していたという訳か。諸に食らったから、少し痛かった』


「流石の嘘吐うそつき……相手の嘘も見分けられるみたいだ」


 今がほぼ無傷なのは、炎を使って再生したから。なので微量ながらも痛みは残っているのだろう。

 そしてグラオは触れられないフリをしていた事がロキに気付かれていた。嘘吐きというものは、よく嘘を吐くので相手の嘘も簡単に見抜けるのだろう。しかし確かな一撃は入れたので、多少ながらもグラオは満足したようだ。


「そんな事、話している暇があるのか?」

「ないね」

『ないな』


 そこへ、二人の話を聞いていたライが姿を現し、二人に向けて回し蹴りを放った。

 しかしグラオとロキはそれをかわし、ライから距離を置く。そこへテュポーンが再び鞭のような巨腕を振るってけしかけ、今度は三人が避けた。空を切ったテュポーンの腕は虚空を抜け、周囲に衝撃を散らす。


『やはり猪口才な……! こうも避けられると気分が悪い……!』


「ハッ、避けなきゃ痛いからな。アンタの一撃は。そりゃ避けるさ」


 かわされ機嫌の悪いテュポーンとかわし軽く笑って話すライ。

 ライはそのまま駆け出してテュポーンに迫り、その頭に蹴りを放つ。しかしテュポーンはそれを腕で防ぎ、炎を吐いて牽制。その刹那にグラオとロキが間に入って蹴りを放つが、テュポーンはそれも防いだ。


「その巨体で俊敏な動きだね。割りと器用なのかな?」


『フン。戯れ言を』


 防ぐと同時に腕を弾き、二人を薙ぎ払うテュポーン。グラオとロキは少し離れたところに着地し、体勢を立て直すと同時にテュポーンへ視線を向けた。

 そこへライも加わり、二人と一匹に拳を放つ。


「「『……!』」」


 そしてその拳は、巨大なクレーターを生み出しながら周囲に衝撃を走らせた。

 そのまま大地が深く陥没し、遠方にまで放射状のヒビが入ってライを中心に"ヘルヘイム"の国を大きく傾ける。刹那に粉塵が舞い、周囲が爆発した。


「へえ。何処かに行った仲間達を気にしないのかい。ライ」


「いいや。悪魔でアンタらだけを狙うつもりだ。それに変更は無い。レイたちの居場所は大体把握出来るからな。だから、レイたちに届かない範囲で少しだけ力を解放する」


 ライの放った一撃は、先程までの抑えた一撃とは少し違う感覚だった。

 魔王の七割とライ自身の力があれば銀河集団は砕けるのでこれでも数兆、数京分の一程度。もしくはそれよりも更に力を抑えているが、必要以上の余波を生み出しているので少し本気になったという事だろう。

 そんなライと敵対するグラオ、テュポーン、ロキも身を引き締めて構え直す。

 レイたちとドラゴンたちが出口を捜索する中でヴァイス達、百鬼夜行と相対している時、ライ達の織り成す戦闘も更に大きくなりつつあった。

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