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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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五百二十七話 晩餐会

 キュリテと出会い、久々にチーム入りしたライたちは"スリュムヘイム"内を探索しつつ他の主力たちと顔を合わせていた。

 しかし話す事も少なく、メインは探索の方になりつつある。本来の目的は挨拶回りだったが、それはもう済んだので久々に再会したキュリテと共に探索しているのだ。

 書斎。書庫。リビングと、部屋は多数あるがその部屋々々(へやべや)を見て回るライたち。

 巨大な本棚が連なる書庫や、ライの身体の四倍はありそうなペンやそれを入れるペン立てが置いてある書斎。テーブルや椅子など、家具類全てが巨大なリビング。

 "スリュムヘイム"に来る前にも似たような館に居たライたちだが、場所が変われば似たような用途の部屋でも違いがある。それを見て回るのは中々に面白かった。


「へえ。キュリテたちは小人の国を拠点にしていたのか。小人の国は確か"ニダヴェリール"だっけ」


「うん、そうだよ♪ ライ君たちとブラックさんたちは人間の国に居たんだね。"ミズガルズ"かぁ、私たちの世界の人間の国とどう違うんだろ」


「ハハ。俺はまだ人間の国の都会の方には行っていないから分からないけど、多分似たような雰囲気だと思うな。キュリテなら人間の国に行っていてもおかしくないけど、意外と行ってないんだな」


「まあねー。向こうは魔族ってだけで酷い扱いを受けるからね。魔族の国も人間とは敵対していたけど、レイちゃんだけは特別扱いで他の人間達なら同じような扱いをしちゃうかもね」


「へえ。今更だけど、生まれた場所が違うだけで何で争いが起こるんだろうな。生き物ってのはよく分からないや」


 キュリテと共に進むライは、キュリテたちが何処に居たのかを聞きながら探索していた。

 キュリテが居た国は小人の国"ニダヴェリール"。ライたちの居た人間の国"ミズガルズ"。巨人の国"ヨトゥンヘイム"とは近くにあるが、小人の国からはかなり離れた場所にある国だ。

 どちらかと言えば、本来ならば下層。この逆さまの"世界樹ユグドラシル"ならば上層に位置する第三層へ続く道の方が近いかもしれない程である。なのに何故シヴァたちが第三層へ行かなかったのかというと、恐らく兵士たちの捜索をしていたからだろう。

 そんな事もあり、兵士や味方たちを探し続けた結果シヴァたち魔族の主力たちがこの国に到着したようだ。


「あ、次の部屋が見えてきたよ。彼処は寝室かな?」


「本当だ。彼処まではまだ私たちも行ってなかったな。行こ、ライ君、レイちゃん、みんな!」


 キュリテと再会してから数十分程の探索にて、ライたちは別の部屋を見つけた。そこは角部屋であり、ほんの少し開いている隙間から見える内部から推測するに、そこは寝室という事がうかがえた。

 一軒家の場合、角部屋は騒音などが遠く聞こえにくいので寝室には中々適している場所だろう。ライたちは巨大な扉を抜け、その部屋へと入って行く。


「ふうん。見たところ、ベッドが一つに棚が一つ。巨大な窓や暖炉にライトがあるな」


 その入り口で目に入った物はライが述べたそれら。巨大なベッドに巨大な窓。ベッドの奥には棚と小さな電灯がある。

 小さいといってもライたちにとってはかなりの大きさ。近付いてみれば、一つの大樹並みの大きさがあった。此処には誰もおらず、静かな空間が広がっている。やはり探索している者たちにとっても目立たない角部屋なので見落としがちなのかもしれない。それか、既に探索を終えているのかのどちらかだ。

 そもそも隙間が開いていたので、既に調べ終えている可能性も高いだろう。


「部屋はこれで全て……ではないけど、残る部屋は浴場や調理場、食堂くらいと考えたら目ぼしい場所の探索はそろそろ終わりかな」


「そうだね。多分夕飯は食堂で摂るだろうし、お風呂場とかに行っても見る物も無さそうだもんね」


「じゃあそろそろ戻る? 結構な時間探索していたから、夕食の準備も出来たんじゃないかな」


 電灯の乗った棚の上から寝室の全体を見渡し、特に目ぼしい物が無いのを確認した後レイたちに訊ねるライ。

 残っている部屋からして、珍しい物もある訳では無いので然程興味も無いようだ。それに返すレイとキュリテ。近くではエマたちも頷いていたので、そろそろ探索は切り上げても良さそうである。

 久々のキュリテとの再会。共に探索出来て楽しく満足もしたので、これ以上は行動しなくても良いだろう。

 これにて探索を終えたライたちは、全員が他の主力たちが居るかもしれない食堂。すなわち晩餐会場へと向かうのだった。



*****



 ──その後ライたちは食堂らしき場所へと到達した。

 そこの場所には既に幻獣・魔族の主力や兵士たちが数百人と数百匹集まっており、恐らく調理場で作ったのか、焼き立てのパンや肉に魚、新鮮な野菜や果実。旅に持つ物なので簡易な物だが、それでも香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる大変美味しそうな料理類が運ばれ、それなりの規模を誇るうたげの席がもうけられていた。

 数は幻獣・魔族の主力と兵士を含めて軽く千人(匹)は居るだろう。つまり、今回の探索によって第二層に居た全ての兵士たちは見つかったという事だ。

 それだけの数が居て食堂に入り切るのか懸念されるが、その点については巨人の国にあるロングテーブルを食事用の席として使っているので千の数程度ではまだまだ余裕があるのだ。


「何か、サクサクと準備が整っているな」

「うん。気圧けおされそう……」

「ふふ、盛り上がっているんだな」

「……。あの食べ物、何処から?」

「お腹空いた……」

「あっ、私も手伝ってくるね!」

「テキパキと進んでいますね……」

「わあ! おいしそー!」


 ライたちが戻って来ると、彼方此方に右往左往する兵士や主力たちが準備を整えていた。その圧に押されそうなライたちだが何とかこらえ、自分たちも手伝う体勢となる。


「"浮遊風(フロート・ウィンド)"!」

「えい!」


 特にフォンセやリヤンは魔術を普通の魔術師よりも巧みに使えるので助けとなるだろう。料理の乗せられた皿は安全かつ迅速に運ばれた。


「次次!」


 ライも自身の身体能力が高いので兵士たちが料理を運び、取りに行っている間にその十倍程の速度で料理を運んでいた。両手両肩頭と、乗せられる所には乗せ、かつ十倍程の速度である。


「手伝います!」

「えい、"サイコキネシス"! ってね♪」


 レイやキュリテもそれを手伝い、自分たちも手伝おうとしたマルスとヴィネラはブラックたちに「王様は休んでいて下さい」と止められてしまう。それには王族など関係無く、まだ幼い二人という事もあって親代わりのブラックたちは心配なのだろう。

 しかし見ているだけにも行かないのでそれを振り切り別の手伝いへ移行するマルス。ライたちの手伝いも加わり、準備の速度も上がったお陰で早々と迅速に食事の準備は整った。


「ライ殿たち。手伝ってくれて感謝する。お陰で早く食事が摂れそうだ」


「ハハ。気にしなくて良いよ。俺たちが来た頃にはある程度の準備もされていたし、手伝うのが遅いくらいだ」


 そして全員が席に着き、人化した状態であるリルフェンと他愛ない事を話すライ。

 その後リルフェンは千人(匹)の前に立ち、場を纏めるように言葉を発した。


「では、皆の者。今日は色々とご苦労であった。この宴の席はほんの休息の意を込めて準備させて貰った。まあ長々と語るのもつまらぬだろう。さっさと始めるか」


 軽く話を纏め、宴の方に意思を向けるリルフェン。

 今回リルフェンは"世界樹ユグドラシル"を知っているという理由だけで宴会の幹事という立場に置かされたが、特に話す事も無いのでさっさと纏めたのだ。

 その後、一つの合図と共に晩餐会が始まった。


「それで、これからどうするんだ? 多分今居る兵士たちで第二層の兵士は全てだ。明日は第三層に向かう事になりそうだけど、全員で行くのか?」


 そんな晩餐会の中、リルフェンに向けて今後の行動を訊ねるライ。此処に居る兵士で第一層と第二層に居た全ての兵士という事は理解している。なので明日、第三層に行くとしてどの様なチームで、どの様に行動を取るのか気に掛かったのだ。

 その質問に対し、リルフェンは言葉を続ける。


「まあそうなるな。既にドラゴンさんたちが行っているが、魔族の主力たちが全員此処に居るとなると第三層に居るのはドラゴンさんたちだけという事になる。既に何人何匹かの兵士を見つけていると考えれば、第三層で決着が付く事になりそうだ。千数人の戦力が居るから、ある程度のチームに分けて向かう事となるだろう」


「成る程な。第一陣。第二陣。第三陣。もしくはそれ以上のチームに分かれてか。魔族の支配者と幹部、側近たちが三十三人。幻獣の国からはドレイクを入れて四人と四匹。そして俺たちが五人。重要人物としてマルス君とヴィネラちゃんの二人。それを中心としたチーム分けになりそうだな」


「ああ。それに加え、両兵士たちが千以上。大変頼もしい限りだ。第三層に居るドラゴンさんたちを含めれば更に数と力が上乗せされる。相手が強力な三チームの集まりだとしても、そう簡単に崩れる布陣では無いだろう」


 幾つかの宇宙すらをも収める事が可能かもしれぬ布陣に対し、頼もしそうに話すリルフェン。

 確かに支配者と支配者クラスの実力を誇る幹部たち。そして支配者以上の実力を持つライと、同じく支配者クラスの実力があるであろう仲間たち。後からドラゴンたちと合流するかもしれないと考えれば、逆に相手が不憫ふびんに思える程の戦力が此処につどっていた。

 元々相手が呼んだ者たちなので、自業自得と言えばそうなるだろう。


「へえ。んじゃ、明日はこの偽物の"世界樹ユグドラシル"で戦争を起こすのか?」


 ライとリルフェンの会話の横から、骨付き肉を頬張るシヴァが姿を現した。

 話も大凡おおよその概要は聞いていたらしく、どういう経緯でこうなったかは教えなくても良さそうだ。なのでリルフェンはシヴァにも話を続ける。


「ああ、そうだな。シヴァ殿たちが良ければの話だが」


「俺たちは構わねェよ。元々戦闘好きな種族。断る理由は何処にもねェ。理不尽に召喚されたんだ。仕事をサボれる名目が出来たのは嬉しいが、相手には相応の礼を受けて貰うつもりだぜ」


「当然、元の世界に戻ったら仕事ですよ。シヴァ様」


「うっ、シュタラ……。お前何処にも現れるな。ーってるよ。ちゃんと支配者の勤めは果たす」


 ライたちと幻獣たちは始めからそのつもりだが、どうやら魔族も戦争に参加する事を了承してくれたようだ。

 ヴァイス達は今更話し合いでどうこう出来る相手では無い。なので物理的に解決する他無いだろう。


「まあ、何はともあれ今日は休もう。折角大人数で食事を摂っているんだ。戦争やら重苦しい話だけでは貴重な食材も不味くなってしまう。取り敢えず今はこの場を楽しもうでは無いか」


「ハハ。確かにそうだな。明日は明日。今は今。明日の事を話すよりも今を楽しむか」


 これにて話を切り上げ、ライたちは食事に戻る。パンを千切って食し、次いで肉を頬張る。

 リルフェンに至っては肉しか食べておらず、たまに飲み物へ手を付けるくらいだ。やはり狼。雑食にもなれる動物ではあるが、肉や骨が好物なのだろう。だが、しかと手を使えているのでそこは幻獣らしさがあった。


「ライくーん! 楽しんでるー?」

「ああ、キュリテ。結構楽しんでいるよ」

「じゃ、私もライ君の近くに座ろーっと!」

「ラビア。そうか、キュリテとラビアは親友なんだっけ」

「「そう!」」


 リルフェンを眺めているライの近くへ、酒などを呑んだ訳でも無いのにハイテンションなキュリテとラビアが姿を見せる。二人は親友らしく共に行動しているみたいだ。


「ほら、フォンセ。もっと食べるんだ。お前は育ち盛りだからな」


「あ、ああ。しかしルミエ。これは多いような……」


 その近くではルミエがフォンセの皿に大量の食材を盛り付け、どんどん食べるように進めていた。

 年齢的にフォンセが育ち盛りというのも別におかしくないが、ルミエはどうやらフォンセを妹のように思っているらしく、姉のように世話を焼きたいようだ。


「おう、女剣士。お前、あれから強くなったか?」


「あ、ザラームさんにザラームさん。久し振り」


「オイオイ、俺はモバーレズって呼ンでくれよ。弟と名字が被っちまうンだからな」

「アハハ……ごめんなさい」


「あら、此方では剣士の方々が話をしているのですか? 良かったら私も混ざってよろしいでしょうか」


「あ、ニュンフェ。うん、構わないよ。多い方が楽しいからね!」


 その近くではレイとザラーム、モバーレズ、そしてニュンフェが集まっていた。剣士として、より高みを目指すという意味で話す事も色々あるのだろう。

 剣士といえば他にもファーレスという者も居たが、どうやら別の場所で話をしているようだ。


「……。…………。………………」

「す、凄い食べっぷりですね、リヤンさん……。僕たちの倍以上食べてます……」

「うん、リヤンお姉ちゃんすごーい!」


 その近くでは、黙々と食事を進めるリヤン。様々な幻獣・魔物の力を宿すリヤンだからこそ他の者たちよりもエネルギーの補給が大事なのだろう。

 近くに居るマルスは驚愕しており、ヴィネラはそれを見て楽しそうにしていた。


「ふふ。賑やかな食事というのも中々悪くないものだな。見ていて飽きない」


「エマさんは食事を摂らないのですか?」


「ああ。血でもあれば良いんだが、普通の食事は摂らずとも問題無いのさ」


「成る程……。けど、それって大丈夫なのですか? 見たところこの世界に来てからはあまり血も吸っていなさそうですし」


「まあ、そうかもな。しかし一応魔物や妖怪からは血を貰っている。通りすがりで打ちのめしたついでにな。上質では無いが、飢えはしのげるといった感じだ」


「へえ」


 そのやり取りを傍観するエマに、アスワドが話し掛ける。

 ヴァンパイアであるエマの食事は血や生気。なので今の晩餐に出されている物の中には参加せずとも行動可能なのだ。一応道中に現れた敵などから血や生気は頂いているらしいが、やはり上質な方が良いのだろうとアスワドはエマを見ていた。


「さて、しかし此処に居るのも退屈だな。私たちも宴の中に向かうか。気を使わせて悪いな、魔族の幹部よ」


「いえいえ。それに、明日あすに備えて力を蓄えるのは大事ですからね。せめてもの食事くらいは摂っても良さそうですよ。血液の成分と似たような成分を持つ食べ物もある筈ですし」


「……。そういう問題では無いのだがな。まあいいか。一先ず時間潰しくらいはしておこう」


 アスワドと共に宴会の輪に戻るエマ。ヴァンパイアが血液や生気を吸い摂るのは栄養や成分が問題では無いのだが、気を使っているのだと軽く笑って返す。

 ライ、レス、エマ、フォンセ、リヤンと他の主力たち。明日は戦争が起こるだろうと、ライたちはみな休息と共に力を蓄える。

 九つの世界・"世界樹ユグドラシル"の第二層・巨人の国"ヨトゥンヘイム"内に位置する館、"スリュムヘイム"にて晩餐会の音と共にこの世界に来てからの三日目が過ぎ去ろうとしていた。

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