五十一話 夢の続き・新たな仲間
──目を開ける? ……と、暗いのか黒いのかよく分からない空間に俺は居た。
そしてその空間では、まるで俺が空中に浮いているかのような感覚だった。
──ここは……どこだ……? ……いや待てよ……確か……最近どっかで見た光景だな……。
瞬きをし、目を凝らしてみる。
するとぼんやり視界が広がってきた。ああそうか。と、俺はその光景を見て納得した。
──ここは……アイツの……記憶の中だ。
丁度良かった、昨日? 一昨日? だか数日前に眺めている途中で目覚めてしまったからな。
俺はアイツの過去を全く知らない。
いや、俺が聞くに聞けないだけなんだが……。まあ取り敢えず……、こうしてアイツの記憶が生み出した夢を見れるのはありがたい事だ。
鮮明になった俺の視界に映るのは、少し成長したアイツだ。
いや、今は俺がアイツだな。しかし、自分で動く事は出来ない。
決められた記憶の中だからだろう。アイツの記憶がそのまま映像として流れるんだ。俺がどう動こうと、その決められた映像を変えることは出来ない。
「…………………………………………!」
「…………………………………………!」
そして当たり前のように、アイツの親であろう夫婦の声が聞こえてくる。
が、またもやボソボソと何を言っているのか聞き取れず、姿もぼやけている。
しかしボーッと待ち続けていると、声と容姿が鮮明になってきた。
「嘘……! 本当に……スゴい! スゴいわ! ────!」
「ああ、まさか……! 四大エレメントを全て覚えるとは……! 本当に"魔神"になれるぞ! ────は!!」
ワイワイと喜ぶ夫婦。
どうやらアイツは産まれてから僅か数年で四大エレメントの全てを所得したらしい。
何故俺は、アイツが産まれてから数年という事が分かるのかというと、言ってしまえば勘だ。
何となくそんな気がする。俺は自分でも知らないうちに"数年"と思ったのだ。
この感覚は何だろうか……?
そして相変わらずアイツの本名だけは聞き取れない。
特に悪い感じの名前でも無さそうだけどな……。
「これならあと数年で"魔神"を名乗っても問題無さそうね!」
「ああ! 優秀な魔族が不足している今、産まれたばかりの────を紹介しても、『支配者様』はお気に召すだろう!」
──今、支配者という言葉が聞こえた? もしや、支配者制度が数千年前からあったのか……?
俺はその言葉に耳を傾ける。
しかし、何というタイミングの悪さだろう。俺が一番気になる事を聞く前に意識が遠退く。
いつも……といってもまだ二回目だがしかし、いつもこんな感じだ。
俺が聞いていたいと思ったり、もっと知りたいと考えるだけで意識は遠退いてしまう。
──もしかしたら考えなければ良いのだろうか……? 自分で言うのも何だが……俺は好奇心旺盛なんだ。
考えるな何て無理な話だろう。
「…………………………………………!」
「…………………………………………!」
──そんな、誰に言う訳でもなく不満を漏らす俺の視界は、どんどん明るみが増していく。
ああ、やっぱり目覚めるのか……。
正直いってガッカリした。重要かもしれない情報がこんな近くに転がっているというのに、俺は何も出来ずに目が覚める。
「……………………………………!」
「……………………………………?」
これを気に、起きたらアイツへ聞いてみるか……? ……いや、どうせなら自分の手で調べてみたいな……。まあ、これは俺の我が儘だけど。
「…………………………!!」
「…………………………!?」
何か言い争っているな……。アイツの両親は明るい性格だったんだろう。
まあ、そんな事を知っても意味無いか……。どうせ話せないんだから……。
「……セイブルさん………?」
「ああ…………………!」
──!?
お、オイ! ちょっと待ってくれ!
今セイブルって、確かに言ったぞ!? ていうかハッキリ聞こえた!!
もしかしたら俺の先祖とアイツの両親は知り合いだったのか!?
これはスゴい発見だ! これを詳しく調べてみれば、俺にアイツが宿った理由を知ることが出来るかも知れない!
「………………」
「………………」
新たな発見をし、俺は高揚感が溢れる。
新しい事を知るというのは、悪い事じゃない。
寧ろ脳が刺激を受け、プラスな影響を及ぼすモノだ。
どんどん小さくなっていく俺の意識とは裏腹に、俺は活性化されていくのが分かった。
「…………」
「…………」
しかし、こんな幸せそうな夫婦に一体何があったのか、それとも何も無かったのか……それだけが気になった。
「………」
「………」
そんな疑問を持ち、新たな発見をした高揚感に包まれながら……。
「……」
「……」
俺の視界は、温かく、優しい光に包まれた。
*****
「……………………」
ライの視界に映ったのは、日の光に照らされた天井だった。
その後眠気から覚醒して意識がハッキリとしていく中で、自分の身体に何やらのし掛かっているのが分かった。
ライは何とか起き上がり、それを確認する。
「……成る程……」
それを見たライは思わずため息が漏れる。
ライにのし掛かっていたのはレイとフォンセ。そして──
「すう……すう……」
「ムニャムニャ……」
──寝息を立てているリヤンとキュリテだった。
魔族の国へ入る前から協力してくれたリヤンが居るのはまあ、大体分かるだろう。
何故接点がほぼ無いキュリテが居るのかというと、時間を少し遡る事となる。
*****
──"レイル・マディーナ"・酒場の貴賓室。
宴会が終わり、他の魔族達は夜に備えて休む事にしたのか、次々と帰っていく。
時刻は大体夕方くらいだ。月が僅かに見えるほどの暗さがあった。
そしてその場に残ったのはライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンとダーク、オスクロ、ザラーム、キュリテの九人だけである。
他の者達がいなくなり、ダークはライへ聞くように言う。
「まあ、なんだ……。お前らはこれから次の街へ行くのか……? 聞いた話じゃ幹部達の居場所が書かれた地図を持ってるって事だけどよ……?」
それはライたちの行動についてだ。
ダークは何処から聞いたのか、ライが持っている地図を知っていた。
まあ、情報屋がダークに話したのだろう。
ライは別に、ダークならば話しても問題が無いだろうと考え質問に答える。
「ああ、そうだな。他の幹部と支配者を倒してこの国を征服する。それが俺たちの目標だ。無論、魔族の国だけじゃなく、いずれは幻獣の国と魔物の国、そして人間の国も支配する。……まあ、最初は人間の国から支配しようと考えていたんだが……気付いたら魔族の国に入っていたんだけどな」
「そうか……。まあ、俺はもう幹部の身じゃねェが……一応言っとくか……幹部も中々腕が立つ……。だからまあ、一筋縄じゃいかねェぞ……ってことだ……」
ライが淡々と話す言葉に、ダークは相槌を打ちながらダルそうに忠告を兼ねて言った。
それは幹部の力はかなりのものであり、ライたちでも苦労するだろうと言うこと。それを聞いたライはフッと笑い、ダークの言葉に返す。
「ハハ、忠告ありがとよ。……まあ何度も言うが、俺は世界征服が目標だからな。こんな所で立ち止まっている訳にはいかないさ」
「そうかい……。まあ、的確に世界征服だなんて面倒な事を目標にしてる時点でなあ……」
ライの言葉に苦笑を浮かべるダーク。元々面倒臭がり屋な性格のダークにとっては世界征服など面倒極まりない事。街の事で手一杯なので世界にまで手が回らないからだろう。
そんなやり取りを横に、レイ、エマ、フォンセは、ライに続き、ダークに向けて言う。
「私たちも止まっている訳にはいかないよ。私が実力不足ってのもあるけど……ライは毎回一人で強敵と戦っているんだもん。私だって手伝いたいのに」
レイは自身の実力不足とライの行動について話す。
ライはヴァンパイア、ペルーダ、レヴィアタン、シュヴァルツ、ダークにゾフル。その他数々の敵を相手にし、途中からは殆ど一人で戦闘している。
途中まではレイも共に戦えているのだが、最後の方はライが一人で終わらせてしまう。
先祖の勇者は一人で世界を救った英雄。
レイはその子孫なのにあまり戦闘を行っていない自分が不甲斐ないのだろう。
そんなレイに続くよう、エマとフォンセも言う。
「ああ、それには同感だ。私だって四大エレメントの全てを扱い、あらゆる魔術を平均以上の力で出せる。だが……ライはそれすらを凌駕する強さで敵を倒すからな。大体何も出来ずに終わってしまうんだ」
「私もだ。この中では一番の最年長。だというのに、私より千歳以上若い小僧が全てを持っていくからな」
この二人もライが負担を多く受けていると思い、少々気が引けている様子だ。
ダークはレイ、エマ、フォンセの話を聞き、小さく笑って返す。
「まあ、信頼してるなら別に良いだろ……お互いを信用できてない方が色々と疑ったりで面倒臭ェからな……」
ダークの言葉に、それもそうだな。と頷くライ、レイ、エマ、フォンセの四人。
自分が仲間の為になりたいのなら鍛えれば良いという結論に至る。
一段落ついた所でダークが再び質問する。
「まあ、取り敢えずそれは良いとして……もう夕方で夜に近いが……これからどうするんだ……? 俺たち魔族はこれからも活発に行動するが……アンタらの所にゃ人間もいる……まあ要するに、このまま近くの街に行ったとしてその道中に何があるか……だな……」
つまりダークは、人間が夜中に行動しても大丈夫か。そして次の街へ向かう道に夜行性の幻獣・魔物が襲って来た場合どうするか。という事が気に掛かっていたのだ。
「そうだなあ……うん。俺はすぐにこの街を出発するさ。世界征服を目標にしているんだからな。……そりゃまあ時には休息も必要だけど、ゆっくりしてはいられない」
ライの言葉に、力強く同意するように頷いたレイ、エマ、フォンセ。ラ世界征服というものは、のんびり行っている暇が無い。余程疲労してない限り足を止める訳にはいかないのだ。
そんな四人を一瞥したダークは頭を掻きながら言葉を続ける。
「そうか……。まあ、それなら別に問題無ェか……」
「ククク……そもそも、アンタに勝てた奴がそこら辺の幻獣・魔物に殺られるようなタマじゃ無ェだろ」
ダークの言った問題無いという言葉。そしてそれに続くよう、オスクロが笑って言った。それに便乗してザラームとキュリテもライたちに言う。
「そうだな。逆に、俺たちに勝っている奴があっさり死んだら俺たちの顔が立たねェだろ」
「そうねえ。……いっそのこと、本当に世界征服を成功させてみたら? それはそれで面白そうだもの♪」
ザラームはライたちを心配しているのか、自分の立ち位置が気になっているのか分からないが、キュリテはただ単に面白そうとの事。
それからライたちとダーク達は貴賓室を抜け、"レイル・マディーナ"の出入口? に辿り着く。
「……よし……行くか」
──そして最後に軽く言い、ライ、レイ、エマ、フォンセが次の街へ向けて歩き出そうとした。その時、リヤンがライたちを呼び止めるように言葉を発した。
「ちょ……ちょっと待って……!」
「「「「…………?」」」」
ライたちはリヤンの言葉に歩みを止め、"?"を浮かべて振り替える。
リヤンは悩んでいるような顔付きだったが、意を決したような表情でライたちに言う。
「わ……私も……私も着いて行っちゃ……駄目かな……?」
「「「「……!?」」」」
リヤンの言葉にライ、レイ、エマ、フォンセの全員が目を丸めて驚きの表情になる。
そもそも、リヤンはこの近くの森に住んでいるのでライは連れて行かず、そのまま別れようと考えていたのだ。
出会って数日だが、リヤンらしからぬ言動に驚いているライたち。そんなライたちに向け、リヤンは言葉を続ける。
「わ……私はずっと森に住んでいたけど……昨日と今日でライたちの様子を見て……その……私も旅に着いて行きたいなぁ……って……」
オドオドした様子で言葉を続けるリヤン。それは森だけでは無く世界を見てみたいから。ずっと同じ場所で生活していたリヤンならば、確かに世界を見てみたいのかもしれない。
「……俺は別に構わないけど……俺たちの目標は何度も言うように世界征服なんだぞ……? その……リヤンの性格にはあっていないっていうか……リヤンは良いのか……?」
「…………」
質問するようにライが尋ねた言葉にリヤンは頷いて返す。
相変わらず大人しい感じだが、その瞳は真剣そのものでこれは止める理由が無いな。と、ライは手を差し出す。
「……そうか。……なら、これからも宜しくな! リヤン!」
「……! うん……!」
リヤンはパッと明るくなり、ライの手を握って頷く。
後ろではエマとフォンセがフッと笑い、レイも嬉しそうにしていた。
そして話が纏まる時──
「あ、じゃあ私も着いて行って良い?」
──突然挙手し、キュリテが名乗り出た。
「「「「……は?」」」」
「「……はァ?」」
「……はあ」
その言葉にライ、レイ、エマ、フォンセにオスクロとザラームの六人は同時に反応した。
その表情からはあり得ないモノを見たかの様子。当然だろう、幹部の側近が旅に着いて行くというのだから。
因みにダークは関わらないように距離を置いている。面倒な事になるのは、火を見るより明らかだからだ。
「オイオイ……一体どういう風の吹き回しだァ? お前がアイツらに着いて行くってよォ……?」
「ああ、俺も気になるな……。いきなりどうした? ヴァンパイアに血を吸われておかしくなったか?」
それを聞いたオスクロとザラームは揃あ、訝しげな表情をして自分が浮かんだ疑問をキュリテに聞く。
キュリテはムッと眉を顰めてオスクロとザラームに返す。
「ちょっと酷くない? 私はただ、この子が連れている女の子達が可愛いから着いていってみたいだけなの!」
「「「…………!!」」」
その言葉を聞き、レイ、フォンセ、リヤンが肩を竦めて警戒を高めていた。
それを聞くに、キュリテはどうやら可愛い物好きらしい。
そして魔族のキュリテからすればまだ十代の少女は産まれたばかりの赤子に過ぎない。
要するに、愛でるという意味でレイたちに興味を持っているのだろう。
オスクロとザラームはキュリテの言葉を聞いてため息を吐き、視線をライへ移して聞く。
「……で、そう言ってるけどよ……そちらのリーダーはどうするんだ?」
「そうだな……。ライ……だっけか? お前が決めるんだろ?」
仲間を増やすかどうかはリーダーが決める事。その為にオスクロとザラームはライに聞いたのだ。
ライは少し考えて言う。
「……そうだな……。俺的には仲間も増えるし、この国の事が詳しい者が加わるのは問題無いな。……が、まあ、あとは若干引いているレイとフォンセ、そしてリヤンの意見を聞いて決めるさ」
ライは視線をレイ、フォンセ、リヤンに移す。
ライはこの国に詳しく無いが、この国に何年も住んでいるであろうキュリテは国の情報を豊富に持っている筈だ。そして超能力は便利な力である。なので了承した。
しかし当のレイ、フォンセ、リヤンがどうなのか気になり尋ねたのだ。
そんなレイたちは難しい顔をするが、言葉を発した。
「わ、私は……ライが良いって言うなら……別に……」
「ああ。それに、確かに国の知識を持っている者が仲間に加わるのは頼もしい……裏切らなければ……だけどな」
「私も……キュリテは知らない人じゃないし……良いよ……?」
三人もライに同意して頷く。
どうやらキュリテが加わる事自体には問題無いようで、キュリテの性格的な問題だったのだろう。
レイ、フォンセ、リヤンの意見を聞き、ライはキュリテの方を見て話す。
「まあ、レイたちも良いって言うし、宜しくなキュリテ」
そしてキュリテにも手を差し出した。
「ふふ……よろしくね……ボウヤ♪ 君も可愛いから……悪戯したくなっちゃうかも♪」
「……!」
手を握り話すキュリテ。その言葉を聞くと同時にゾクッと、ライの背筋に何かが駆ける。が、敢えて気にしないようにキュリテの手を握るライだった。
「じゃ、早速次の街へ行きましょう? 私が"テレポート"で送って上げる♪」
「え? ちょ……ちょっと待て……!」
「おう、達者でな」
そして次の瞬間には、シュン。といきなり"テレポート"によってライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンはキュリテに連れていかれた。
*****
とまあ色々あり、こうしてリヤンとキュリテも旅に加わり、今の街に着いたのだ。
しかしキュリテが加わるのは魔族の国のみという約束だ。
元とはいえ幹部の側近だった為、色々と仕事もあるからである。
(……さて、どうするか……)
──そして現在、ライはのし掛かっているレイ、フォンセ、リヤン、キュリテの四人へどう対処するか悩んでいた。
このまま起き上がっても良いのだが、疲労がある四人を起こしてしまう事が申し訳無いからだ。
四人は寝ているからか、通常よりも体温が高い。
そんな四人の感覚をライは諸に受け、柔らかな感触が包み込んでいる。
「ふふ……目覚めたか……おはよう、ライ。……大変そうだな?」
そして馬鹿にしたような、楽しんでいるかのような不敵な笑みを浮かべたエマがライへ話し掛ける。
恐らく普段冷静なライが困惑している事が面白いのだろう。
「あ、エマ。おはよう。……早速だが、何とかしてくれ」
ライはエマに顔を向け、助けを求める目で見ながら挨拶をした。
「ふふふ……これもこれで面白そうだがな……?」
「ハハ、勘弁してくれよ……」
相変わらず不敵な笑みを浮かべているエマだったが、まずはライにのし掛かっているレイ、フォンセ、リヤン、キュリテを何とかしようと手伝うのだった。