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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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五百二十二話 一階の戦闘

 ──"巨人の国・ヨトゥンヘイム・巨人の館・一階"。


 二階にあった子供部屋の床を突き抜け、一階へと降りたライはヴリトラを探していた。

 てっきり一階にて待機していると思っていたライだが、どうやらそういう訳では無いらしい。恐らくライが降りて来る事を予測し、自分の優位に戦える場所にて待機しているのだろう。空での自由を得た悪魔のような角と紅い眼を持つ黒龍の姿であるヴリトラにとって、戦闘を行える範囲が広いので良い場所を見つければ確かにライにとって少々不都合である。


「ええと、確か一階にあった部屋はロングテーブルの会食場、煉瓦レンガ造りの調理場、書庫、浴場、暖炉のある薄暗いリビング、一応玄関口。あと、多数の部屋か……」


 移動しつつ、周囲を見渡して一階にあった部屋を思い出すライ。レイたちに話してから直ぐに来たのでそれ程遠くへは行っていないだろうが、場所が分からないので少し困っていた。

 気配を探るも、ヴリトラは自身の気配をも塞ぐ事が出来るのか普通に気配を消す者とは違って見つからなかったのだ。不可視の空間からも気配を探れる今のライにとっても見つけられないと考えれば、ヴリトラは気配を消して溶け込むのが上手いのだろう。


「ヴリトラ……黒龍……目ぼしい場所は……」


 音速を超える程度の低速で進み、ヴリトラが居そうな部屋を探すライ。廊下に居る可能性もあるので常に警戒はしているが、やはり気配は分からない。

 ヴリトラの行動や、相手の大きさによる動きやすさを考えれば会食場に浴場やリビング。エントランス辺りが良さそうだが、先に隠れたという事を踏まえれば身を隠す場所の多い調理場や書庫という可能性もある。選択肢は多いが、そのうちの一つにしか居ないと考えれば中々に厄介なものだろう。


「動きやすさと隠れやすい場所という二つが当て嵌まるのはリビングか? 彼処は暗かったからヴリトラとしても隠れやすそうだ……」


 それらを考えた結果、ライはヴリトラがリビングに居ると見出だす。

 実際、リビングは螺旋階段からも然程離れておらず、子供部屋の直ぐ下から数百メートル程度の距離にあった。ならば、隠れやすいという事と広さを考えてリビングが良さそうと判断したのである。

 そうと決まれば先を急ぐのが最善の策。リビングに居ると判断し、その扉を勢いよく、砕く勢いでじ開けた。


「オラァ!」


 高さ数百メートルはありそうな扉を砕き開け、吹き飛ばすライ。

 砕かれた扉は真っ直ぐに進み、正面の壁へと激突して破壊された。砕けた壁の穴から外の様子が見えるが、それについて今は全く関係無い。そのまま足場が広く辺りを見渡せるテーブルの上に着地し、その場に立ち竦んでヴリトラの気配へ集中した。


「さて、俺の予想が正しいか、また別の場所に居るか……。レイたちの所に戻る可能性も少なからずあるから注意しなくちゃならないな」


 腕を組み、仁王立ちでテーブルの上にただずむ。

 砕けた壁の外から風が吹き抜け、ライの髪を揺らす。集中力を高めているのでその風の音すら五月蝿うるさく感じるが、生き物が居れば直ぐにでも反応出来る程に研ぎ澄まされていた。


「……! そこ!」

『気付かれたか』


 刹那に反応を示し、背後から気配も音もなく近付いていたヴリトラに回し蹴りを放つ。ヴリトラは巨腕でその足を受け止め、弾かれるように吹き飛ぶ。しかし空中で停止し、改めてライへと向き直っていた。

 その衝撃が周囲に散り、リビングを大きく揺らす。しかし破壊は生まれず、精々暖炉の灰が舞い上がった程度である。その瞬間にヴリトラは埃を払い、ライとの距離を詰めて突進する。ライはテーブルを蹴り砕く勢いで駆け抜け、近くの椅子に飛ぶ。そこから跳躍し、ヴリトラに肉迫して拳を打ち付けた。

 ヴリトラはそれを受けても微動だにせず、身体を震わせてライを払う。ライは弾かれ、リビングの床に落下して降り立つ。次の瞬間にはヴリトラが大口を空けてライの方へ向かっており、ライは床を駆けてそれを避けた。

 しかしその先にも一瞬で移動したヴリトラがおり、次いで巨腕に潰される。しかしライはそれを片手で受け止め、軽く弾いてヴリトラの巨体を浮かせた。そのまま跳躍し、空中で回し蹴りを放って吹き飛ばす。吹き飛ばされたヴリトラは壁に激突し、部屋を揺らす振動を起こした。


「ようやくまともな一撃が入ったな。まあ、吹き飛ばしただけだからその強靭な鱗や筋肉に通る直接的なダメージは少ないんだろうけどな」


 吹き飛ばした方向を見、確かな手応えを覚えつつも大したダメージは与えていないと実感する。

 というのも、ライの実質六割の力で殴られても微動だにしない肉体を持つヴリトラ。あの程度でダウンする訳が無いと誰でも分かる事だろう。


「さて、来たかな」

『ああ、待たせたな』


 瓦礫の中から飛び出し、ヴリトラが爪を振るう。ライはそれを避け、ヴリトラの爪は床を切り裂き真空を生み出して真空に吸い込まれるような暴風が巻き起こる。

 次いでライは蹴りを放ち、空高くシャンデリアに届くまでの距離を吹き飛ばす。ヴリトラはシャンデリアに激突し、それによって落下したシャンデリアが硝子ガラス片を散らして床に突き刺さった。そこからヴリトラが飛び出し、ライに向けて鞭のようにしなる尾を放つ。その尾が直撃したライも吹き飛び、壁に激突して砕きそのまま外へと飛び出した。


「外か……!」


 飛ばされたライは空中で体勢を立て直し、その場で減速して森のように生い茂る芝生に囲まれた庭へ落ちる。

 そこで立ち上がり、ヴリトラの気配を探った。


『ガァ!』

「そら!」


 刹那、飛び掛かるヴリトラの側頭部を蹴り抜き、芝生よりも更に巨大な木へと吹き飛ばしてその木を粉砕する。木の破片が芝生に落下した瞬間、ライとヴリトラが飛び出して互いにけしかける。それと同時に二人が吹き飛び、庭の更に奥へと弾かれた。

 そこでライが実質六割の拳を光の速度で放ち、殴り付けると共に豪邸の方へと吹き飛ばす。ヴリトラは壁を砕き、再び豪邸の内部へと戻った。そしてその後を追うライ。


『フム、心無しか、以前よりも力が増しているようだ。それに加え、余計な破壊も少なくなっている。前はあの力でも一挙一動で複数の星を砕き、俺と戦闘をおこなっていたのだが……』


 壁の内側にて、瓦礫の下敷きになっているヴリトラが呟くように話す。以前のライは実質六割の力でも周囲の星々を砕く程に余分な破壊が多かった。

 しかし、今のライは床や壁は砕けど、この屋敷その物は破壊していない。それが意味する事はつまり、魔王の力をモノにしてきているという事だろう。

 ヴリトラと戦った後にも、複数の戦闘をおこなって来たライ。本人も知らぬうちに魔王を我が物としているという事だ。


「オラァ!」

『速度も、一撃の威力も以前より高い。しかし、余計な破壊は生まないか……』


 外から光の速度で蹴りを放つライ。ヴリトラはそれを見て呟き、ライに蹴られて水を割りながら吹き飛んだ。

 そこから数百メートル離れた場所にて止まり、周囲に散った水飛沫が降り注ぐ。ヴリトラの言葉を気にしていない様子のライは辺りを見渡していた。


「水……此処は風呂場か。広い場所に出たみたいだ……」


 その場所、風呂場。つまり浴場。

 外で戦闘を行っていたライはヴリトラを殴り飛ばし、屋敷の浴場にまで来たようだ。先程まではリビングに居たが、外から回り込めば建物内を探索するより幾分早いらしい。


「余所見している暇はあるのか、死ぬぞ」

「……! ああ、勿論警戒は常にしているよ!」


 次の刹那、黒龍の姿から人間の姿へと変えたヴリトラがライの眼前に迫っていた。当然ライはそれも見切り、今の力でヴリトラを受け止める。そこから遅れて水飛沫が上がり、気付けば浴槽の水が全て天を舞っていた。


「その姿になったって事は、今のままでも俺を認めてくれたんだな?」


「ああ。お前を含めて全てを恨んではいるが、この力は認めてやろうという敬意の表れだ。感謝しろ。そして感謝しながら死んで行け」


「それは断るって言ったよな!」


 神格を得た人の姿となったヴリトラに向け、魔王の力を二割程上昇させて拳を打ち付けるライ。実質八割の力で殴られたヴリトラは浴槽を砕き、そこから複数枚の壁を突き破って遠方へと飛ばされた。

 殴り付けたライはその瞬間に移動を始めており、ヴリトラが新たな壁に激突するよりも早く追い付く。そしてそのまま人となったヴリトラの腹部に蹴りを放ち、その部屋の床へと勢いよく激突させた。それによって床の破片が舞い、衝撃が周囲を揺らして皿などの食器類を割る。


「此処は調理場か。広さは風呂場よりも狭いけど、色んな物が置いてあるからその分戦略の幅が広がりそうだ」


 その場所へ来たライは落下させたヴリトラに注意を払いつつ、周囲を見渡していた。そこにある物は食器類と洗い物をする為の水場。煉瓦レンガ造りの釜など。つまり此処は調理場である。

 様々な物があるので、それらを利用するという手もある。何はともあれ、ヴリトラはまだ大したダメージを負ってないだろう。故に、まだまだ戦闘は続く。


「ハッ!」

「っと」


 砕けた床から飛び出し、ライに剣を振るうヴリトラ。ライはそれを見切って紙一重でかわし、その場で回し蹴りを放つ。ヴリトラはそれをかわし、石テーブルの上に着地する。

 刹那にライが迫り来ており、その攻撃を剣の腹で受け止める。それによってテーブルにヒビが入り、ヴリトラはライを弾いて距離を置いた。


「これならどうだ!」

「巨大なナイフ? そこら辺から拾ったのか」


 次いでライはヴリトラに向け、巨大な銀のナイフを剣のように振るってけしかけた。相手が剣ならばこちらも剣で戦おうという魂胆なのだろうか。

 ヴリトラは銀のナイフを軽く受け止め、己の剣で切り裂いてナイフの先端を切り落とした。


「だが、所詮はただの銀。切れ味は良くとも、容易く切り捨てられる」


「ああそうかい。本題はこっちだ!」

「……!」


 その瞬間に先端の無くなった銀を光の速度で放り、槍のように放つライ。当然ヴリトラはそれも切り捨てるが、次の視界に映った時にライはおらず、気配が背後に現れた。それと同時にヴリトラの脇腹へ重い衝撃が伝わり、食器類を砕きながら吹き飛んだ。


「成る程。今のお前が出せる最速よりも遅い速度で銀の槍を放つ。それに気を取られ、隙が生まれてしまったという事か」


「まあそんなところだ。けど、単調で引っ掛かる筈が無いと思っていた。特にアンタ程の実力者ならな」


「ああそうだな。隙を生んでしまっていた。こればかりは完全な油断だ。次から気を付けよう」


 しかし即座に立ち上がり、ライの狙いを読み解くヴリトラ。

 ライはヴリトラがこの様に単純な手に掛からないと踏まえて行った事らしいが、どうやら戦闘に集中しているだけあって案外単純な手に引っ掛かるようだ。


「なら、まだ隙を突くしかないな!」

「そう何度も食らうものか!」


 次の刹那、実質八割の拳とヴリトラの拳が正面からぶつかった。それによって、またもや二人が吹き飛ぶ。

 その間にヴリトラはライを斬り付けるが、剣はライを掠め弾くようにライは煉瓦レンガの壁へ。ヴリトラは調理場を抜ける程の速度で遠方へ消える。


「っと、また逃がしたら流石に面倒だ!」


 だがライはこらえ、壁に激突するよりも前にヴリトラの飛んだ方角へ加速する。いくら広い巨人の屋敷とはいえ、光の速度を超えた速度ならば追い付くのは一瞬だろう。


「次は会食場か」

「ああ、そうみたいだな」


 そして到達したのは会食場のように広い場所。ある物はロングテーブルと複数の椅子。他にも棚やシャンデリアなど色々あるが、それはあまり関係無い事だろう。

 既にヴリトラも体勢を立て直しており、剣を腰に携えていた。居合い斬りか何かを仕掛けてくるのだろうかとライは構え、ヴリトラの行動をうかがう。


めた。今日は本気で戦うつもりは無い。そんな気があれば始めから遊ばずに戦っていた。だから此処で切り上げるとする」


「……。はい?」


 ──そんなヴリトラの告げた言葉は、"めた"。ライにとって予想外の言葉だった。

 これから更に激しさを増し、続くかと思われた戦闘。ヴリトラはそれを途中で切り上げたのである。

 ライがその意図を問おうとするが、ヴリトラはその言葉を制して逆に続ける。


「だから、めたって事だ。元々、俺は此処に用は無かった。第二層の世界を何となく探索していたらこの国で敵の兵士を見つけてな。一応此方も兵士をけしかけて様子を見ていただけだ。そこで強い気配が複数来た。だから敵兵との戦闘を中断させ、彼処の部屋で待機していたという事だ」


「何のために?」


「当然、復讐の為だ。俺は全てを憎み恨む存在。だから嫌がらせも兼ねて相手をしたって事だ。結果としてお前達を数分間足止めしていただろ?」


 復讐にしては軽く、そんな子供みたいな事を。と一瞬思ったライだが、ヴリトラは力の強さとは裏腹に伝承でも嫌がらせの為に行動していた事が多々あったと思い出す。

 確かにただの嫌がらせで水を干上がらせたりとやり過ぎる事もあったので、合点がいった。実際、先を急ぐライたちにとっても邪魔をされたのは中々嫌な事だろう。


「しかしだな……嫌がらせならもう少し足止めしても良さそうなものだけど……何故やめるんだ? いや、俺的にはその方が都合も良いけど」


「ただの気紛れよ。それに、殺してしまっては恨みを晴らす事も出来なくなってしまうと思ってな。やるならもっと徹底的に、お前の仲間を含めて仕留めるのが良いと思った次第だ」


「それはさせられないな。仲間に手を出すなら、俺はアンタの存在を消し去る」


「そういう事だ。俺の目的を晴らせば、確実にどちらかが死ぬ。それにはまだ早いと思っただけだ。俺は兵士を連れて帰る。此処に居た敵の兵士達は二階と三階にバラけている。好きに探すが良い」


 それだけ告げ、その場から消え去るヴリトラ。気に掛かる事や腑に落ちない事もあるが、ヴリトラ程の強敵がみずから帰るならばそれで良いだろうと割り切った。

 なのでライは会食場を抜け、先程空いた穴から二階に戻る。

 巨人の国、"ヨトゥンヘイム"。巨人の屋敷にて行われていた戦闘は、ヴリトラが帰る事で終わりを迎えた。後は味方であろう兵士たちを見つけ、ブラックたちと合流するだけである。

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