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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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五百十七話 降伏

『主力であるスルトとは俺と猪八戒殿が戦う! お前たちはスルトの率いる生物兵器を足止めしていてくれ!』


『ブヒ! 君たちは無茶しないようにね!』


『生物兵器も厄介だ! 故に我が手伝う事となる! 兵士たちよ! 巨人の足元を崩し、動きを数秒止めるだけで良い! 己の身を案ずる事が優先だ!』


『負傷した場合は直ぐに私の所へ! 癒して差し上げます!』


『『『はっ!』』』

「分かった」


 戦闘が開始された瞬間、主力たちが的確な指示を出して各々(おのおの)の行動に移る。

 ワイバーンと兵士たちが巨人の生物兵器を相手取り、フェニックスが負傷者に備えて待機している。そしてドラゴンと猪八戒が本題とも言えるスルトの相手。

 チームが分けられ、それぞれに課せられた任務を遂行する為ドラゴンたちは行動に移った。


『…………!』


 ──その瞬間、ドラゴンたち目掛けて巨人の生物兵器が巨腕を振り落としてけしかけた。

 ドラゴンと猪八戒はそれをかわしてスルトへ近付き、ワイバーンたちが巨人兵士へ勢いよく飛び掛かる。次の瞬間に巨人兵士は片足を上げ、ドラゴンとワイバーンを巻き込むように回し蹴りを放った。

 流石というべきか、生物兵器なので巨躯に似付かぬ速度である。


『貴様らの相手は我がしてやろう。──カァッ!』


『……!』


 火球を放ち、巨人の頭を消し去るワイバーン。不死身なので即座に再生するのだろうが、ドラゴンたちがスルトの方へ向かってくれたら注意が自分の方を向くのだろうから数秒でも稼げれば上々なのだ。

 その数秒ののちにドラゴンは更にスルトの眼前へと迫り、間近で口から炎を吐き付ける。スルトはその炎を己の持つ炎剣で切り裂いて防ぎ、眼前のドラゴンへ腕をかざして巨腕を振り下ろした。

 その腕をかわしたドラゴンが旋回するようにスルトの背後へ回り込み、再び炎を吐いてその身体を包み込む。しかしスルトは特にこたえず、虫でも払うかのように手を振りかざして吹き飛ばそうと試みていた。

 次の刹那に腕を動かすだけで爆発的な暴風が生じ、溶けて脆くなっている周囲の建物が崩落して砂塵を上げた。その砂塵を切り裂くスルトの炎剣。ドラゴンはそれをすり抜け、スルトの顔へ炎を吐き付ける。

 元々炎の巨人であるスルトにはあまり通じないのだろうが、悪魔で此方に注意を向ける牽制程度なのでこれくらいが丁度良いのだ。


『小賢しい龍だな。支配者とあろう者がこの様なやり方で良いのか?』


『ああ、構わぬ。仮に俺が正面から挑んでも返り討ちに合う可能性があるからな。ダメージを受けぬよう調整し、地道に仕掛けるのが得策だろう』


『フッ、支配者がどの口を。お前が支配者である以上、相応の実力は持ち合わせている筈だ。正面から攻めても十分に戦えるだろうに』


『さあ、どうだろうな』


 スルトの言葉に返し、音速を超えて加速するドラゴン。それによってソニックブームが生じ、その風圧が周囲の溶けた建物や石畳の道を薙ぎ払う。

 瞬く間にスルトへと迫り、ドラゴンに向けて炎剣を振るうスルトだがドラゴンはそれもかわす。空を泳ぐように進むドラゴンは更に加速し、スルトを撹乱かくらんしていた。


『そこっ!』

『……!』


 ドラゴンに気を引かれている隙を突き、猪八戒が九本歯の馬鍬を持ってスルトの足を抉る。肉を削がれたスルトの足から鮮血が吹き出し、スルトが一瞬怯んだ。

 そこから畳み掛けるよう、ドラゴンが直進してスルトの腹部へ頭突きを噛ました。それを受けたスルトは片足のダメージも相まって身体全体のバランスが崩れ、勢いよく背後に倒れ込む。

 その衝撃が"ムスペルヘイム"の街並みを大きく揺らし、ドロドロに溶けた石が波紋を広げて波打つ。追撃するよう、ドラゴンは倒れ込んだスルトの腹部へ再び頭突きを放った。しかし何度もやられるスルトでは無い。倒れた瞬間に左へ転がり、片手で身体を持ち上げつつ巨躯の身体と脚を捻って立ち上がった。

 その際にも回転蹴りのような攻撃を仕掛け、近付いたドラゴンはスルトの巨足によって薙ぎ払われる。即座に体勢を立て直したスルトは炎剣を振るい、ドラゴンと猪八戒を焼き払う。一人と一匹はそれをかわしたが掠り、火傷と切り傷を負った。

 そんな傷口が熱を持って発火し、一人と一匹の身体を炎が飲み込んでいだ。


『ぬぅ。流石に一筋縄では行かぬか……!』


 身体が発火した瞬間に豪雨を降らせ、自分たちの身体に纏割り着いた炎を消し去るドラゴン。

 しかしその雨は直ぐに蒸発してんでしまい、更に湿度が上がって暑くジメジメした不快な空間がドラゴンと猪八戒を包み込んでいた。


『一筋縄で行かぬというのは自分の台詞セリフだ。その速度と攻撃力。なんという強敵か』


 湿気を炎剣で焼き切り、視界を開けてからドラゴンと猪八戒に向けて厄介な難敵であると告げるスルト。

 一人と一匹、計二つの敵が相手とはいえ、足元の肉を抉られ腹部に大打撃を与えられた現在。これからするに、スルトからしたドラゴンと猪八戒もかなりの強敵なのだろう。

 しかしそれは当然かもしれない。支配者と伝説に近い存在となった妖怪。例え一つの世界を崩壊させた事のあるスルトだとしても、そう簡単に突破出来ないのだから。


『手強いというのはお互い様だったな。だが、この国をさっさと抜けるのが俺たちの目的だ。通らせて貰おう』


『通さないのが自分の役目だ。優秀な者は連れて帰り、そうでない者をこの場で切り捨てる』


『……。なら、何故先程は俺たち全員を切り捨てようとした? 俺たちが纏まっている所を狙ったのだ。もしも避け切れなければ連れて帰る事は叶わなかっただろう』


 連れて帰ると述べるスルトに対し、小首を傾げて訊ねるドラゴン。元々連れて帰るつもりだったのならば、先程の切断でドラゴンたちが切れていた可能性を考えるとフェニックスくらいしか確実に生き延びる者が居ないのだ。

 なのでそうなってしまえば本末転倒なのでは? と気になったのである。


『フッ、生きているでは無いか。自分は優秀な者を連れて帰るように言われている。それで死んだのならば、それは優秀では無かったというだけでしかない』


『成る程な。そういう事か。ならば、我ら幻獣、俺たち主力を含め兵士たちも全員が優秀と見て良いのだな?』


『ああ、構わぬ。言わば先程の炎剣をかわせるかが第一試練のようなものだからな。例え力が弱くとも、指示に従いかわした兵士も十分に優秀と言えよう』


『……。そうか。……』


『『……?』』


 スルトの返答を聞き、暫し黙り込むドラゴン。スルトと猪八戒はその様子を見て訝しげな表情をする。先程まで言葉を続けていたドラゴンが急に黙り込んだという事が気に掛かったのだろう。

 しかし含みのある言い方にスルトは動かず、ドラゴンの言葉を待つ。猪八戒も怪訝そうに見守り、ドラゴンはスルトへ言葉を返した。


『ならば、条件付きで俺たち全員をお前達の拠点へ連れて行ってくれ。それならば抵抗もしないで着いて行こう。今回の戦闘、俺たちの敗北として構わない。降伏する』


『ブヒ!?』


『……。条件だと?』


 それはスルトの、というより、ヴァイス達の目的である優秀な者の選別を条件付きで受けるという事。ドラゴンは、主力たちだけでなく連れる兵士たちも優秀と見られたので、それならば問題無いと踏んで降伏したのだろう。

 猪八戒はその返答に困惑した面持ちでドラゴンを見やる。そんな猪八戒を余所に、ドラゴンは条件を話す。


『着いて行く道中。この世界に居るであろう味方兵士の回収だ。そして、お前達が複数作り出している生物兵器の製作に我らの味方を巻き込まぬという事。無論、拘束などで自由を縛る事も却下だ。その代わり、我らがお前達の元へ行く。この三つが条件だ』


 ドラゴンが出した条件。それは三つ。ドラゴンたちの味方である兵士たちの捜索と、その兵士たちを生物兵器の製作に関わらせない事。そして自分たちの自由である。

 その条件を聞いたスルトは動きを止め、思案するように口を出す。


『ふむ、兵士達の回収と自由は縛るな。生物兵器関連の事柄に巻き込むな……か。兵士達の回収はまあ良しとしよう。生物兵器関連も、自分はよく分からぬから干渉しないで置く。となると残り一つの条件だが……自分たちの拠点に連れて行くとして問題が起こってはならない。特に支配者に暴れられたら少々面倒だ。決して暴れぬと誓うのなら飲み込まない事もない』


 それは当然の事だった。

 仮にドラゴンの自由を約束したとして、スルト達の拠点で暴れない保証は無い。そうなれば、様々な不利益が生じるのは目に見えている。なのでその約束だけはスルトも飲み込め無いようだ。

 逆に条件として、暴れないという事を付け足した。


『成る程。最もな意見だ。ふむ良かろう。なら、不測の事態が起こらぬ限りは暴れないと誓う』


『"不測の事態"か。何を示しての不測の事態か分からないが、これ以上争っても此方の疲労が募るだけ。そもそも自分はそこまで魔物の国やヴァイス殿ら、百鬼夜行に忠誠を誓っている訳でも無い。その条件を飲むとしよう。このまま戦ったとしても自分に不都合な事の方が多くなりそうだ』


 スルトの条件へ、不測の事態という新たな条件を付け足して飲み込むドラゴン。スルトはドラゴンの条件を受け入れ、炎剣を仕舞って体勢を緩くする。

 そこへ困惑する猪八戒がドラゴンの元へ建物を足場に近寄り、耳元で慌てながら言葉をつづる。


『ち、ちょっとドラゴンさん……!? それで良いの……!? 一応まだワイバーンやフェニックスが敵の相手をしているんだけど!』


『む、そうだったな。オイ、スルトとやら。巨人兵士達の進行を止めてくれ。傘下に下るという訳では無いが、この戦いはもう無意味だ』


『分かった。貴重な戦力を削る事になりそうだからな。互いに』


 猪八戒の言葉を聞いても尚、特に慌てぬドラゴンがスルトへ指示を出す。優秀な者を集めている相手にとって、それを削るのは相手にしても都合が悪いと分かったので慌てていないのだ。

 それから数分後、開始してから短時間の戦闘は終わりを告げた。



*****



 戦闘が終わり、ドラゴンたちは幻獣の国の者だけで集まっていた。唐突に戦闘が終わった事へ兵士たちやワイバーンたちは困惑していたが、ドラゴンがその概要を話す。


『──という事で、我らが相手の拠点に行き、ある程度の条件の元戦闘を終わらせたという事だ』


『……貴様、ドラゴン! その様な理由で戦闘を中断したというのか!? 条件付きとはいえ、降伏するとは……龍族の恥となるぞ!』


『ワイバーンさん、落ち着いて下さい。恐らくドラゴンさんには何かの考えがある筈です』


 ドラゴンから概要を聞いたワイバーンは激昂し、ドラゴンに突っ掛かっていた。しかしそれもそうだろう。誇り高き龍族として、如何なる形や理由があれど降伏するという事が許せないのだ。


『理由? そんなものは心得ている。恐らくこのまま闇雲に探すより敵の拠点を突き止め、兵士を探した方が良いと踏んだのだろう。だが! 我は貴様が降伏した事が許せぬのだ……! それを知っている我らからすれば敗北とはならない。しかし、傍から見れば完全なる敗北! 龍たる者、そう簡単に敗北を認めてはならぬのだ!』


『……!』

『ブヒ……!』


 ワイバーンは当然、ドラゴンの目的を知っていた。スルトにも猪八戒にもフェニックスにも言わなかったが、形がどうあれ相手の拠点を突き止めこの世界に連れられた兵士たちの捜索が効率よく行えるようになる。それが目的だった。

 しかし、それを知らぬ相手からすればドラゴンたちは敗北をきっした身と思われるだろう。なので誇りの高いワイバーンはそれが許せなかったのだ。


「ふむ、まさかそんな事を考えていたとはな。この力を解除せず、暫くお主らの兵士達に紛れて正解だった」


『……!』


 ──そこへ、ぬらりと一人の老人が姿を現した。ドラゴンたちと幻獣兵士たちはそちらを向き、警戒を高めて視線を向ける。

 しかし周りに居るのは味方だけ。敵が居るのならば、普通は分かる筈なのだが、何が何だか分からなかった。


「おっと、失敬。まだ解除はしていなかったか。まあ、これ以上此処に居ても見苦しい喧嘩を見せ付けられるだけ。もう良いじゃろう」


『お前、何を言って……。……? ……!?』


「名乗り遅れたの。ワシはぬらりひょん。スルト以外に居た、もう一人の主力じゃ。一応返事はしたんじゃが、それ以降特に話していなかったからのう。仕方無いじゃろう」


『ぬらりひょん……! また随分と大物が潜んでいたようだ……!』

「ほっほ。ワシもまだまだやれるじゃろう。久しいの、ドラゴンよ」


 警戒を高めるドラゴンたちに対し、軽薄に笑って返すぬらりひょん。ずっと居たのに気付かず、味方と思い込んでいた。そう、まさしくそれがぬらりひょんの能力だろう。

 そんな主力を横にひょんと消え、数百メートル離れた場所でぬらりひょんは手を振っていた。


「なーに、大した事では無い。その考えも推測の範囲内じゃ。どの道、お主らは不測の事態が起こらぬ限り暴れぬという約束。それを破らぬ限りは何もせんよ」


『…………』


 腰に刀を仕舞い、何時の間にか剥がしていたドラゴンの鱗を片手に立ち去るぬらりひょん。ドラゴンたちが約束を破るのならばその時点で首をねていた。そう言わんばかりの威圧感がぬらりひょんにはあった。

 ただの刀では傷一つ付かぬドラゴンだが、ぬらりひょんの刀は別。妖力をもちいて強化しているので、あらゆる物を切断する力が秘められている。下手な行動は出来ないと、改めて理解した幻獣たち。


『……。そういう事だ。恐らく、我らが抗い続けていたら多くの兵士が犠牲になっていたかもしれない。今回は相手から見た敗北。俺たちからしたら勝利。それが一番良い考えだろう』


『……ッ。だが、我はまだ許せぬぞドラゴン。龍族の誇りの元、いつかこの借りを返す』


『構わぬ。この世界には他の種族が来ている事が確定している。不測の事態が起こらない方が難しいというもの。我らは敵の拠点へ行き、その者たちを待つのが合理的な判断だ』


『……』


 完全に味方だと思い込んでしまったぬらりひょんの存在に、この猛暑の中にもかかわらず寒気のする冷や汗を掻き、ワイバーンへつづるドラゴン。ワイバーンは何も言わず、渋々その意見を飲み込んだ。

 九つの世界・"世界樹ユグドラシル"第三層・炎の国"ムスペルヘイム"での戦闘は、三つの条件の元ドラゴンたちが敵の拠点へ行く事で決着が付いた。

 腑に落ちぬ様子のワイバーンと共に、ドラゴン、フェニックス、猪八戒がぬらりひょんやスルト達の方へ向かう。

 これにて第三層、幻獣の国の主力部隊。支配者ドラゴン率いる者たちの"世界樹ユグドラシル"探索と兵士たち捜索は終結するのだった。

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