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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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五百十三話 黄金の館

 ──"九つの世界・世界樹ユグドラシル・第二層・小人の国・ニダヴェリール・黄金の館"。


 拠点から少し進み、目的だった黄金の館に到達したシヴァたち魔族の国の主力はその館を見上げていた。

 その館は見ての通り全体が光沢を映す金色こんじきの装飾が施されている。

 屋根があって窓があり、出入り口となりうる扉もある。つまり、本当にただ黄金で出来ただけの館である事に変わりは無い。しかし当然、黄金というだけあって美しさはある。柱の一本一本。煉瓦レンガのように加工された塊。全てが黄金からなっており、朝日の光に反射してよりきらびやかな輝きをかもし出していた。


「派手だな。かく派手だな」

「ええ。何というか、朝の小さな光だけでも眩しい程に派手ですね」


 黄金の館を見、その目映さに目を細めるシヴァたち。そこまで激しい光では無いが、朝の薄暗い景観なので少し眩しく見えるのだろう。


「それで、どうする? 一応俺たち全員が入れそうな大きさはあるが、中が狭くなりそうだ。俺的には、何人かの主力だけが探索してみた方が良さそうだが……お前たちはどうだ?」


 建物の大きさは常人サイズ。この人数は入り切ったとしても内部を圧迫しそうなので主力の何人かが館内を調べ、残った主力と兵士たちが外で待機するという方法が最も良いだろう。

 なのでそれを訊ねるシヴァ。一応支配者なので、自分勝手な行動は避けるように心得ているのだ。

 そんなシヴァの問いにシュタラたちが返した。


「ええ。それで良いと思います。何が起こるか分からないというのは、何も館の中に限りませんからね」


「同じく。俺もそう思います」


 シュタラとズハルを中心に、周りの魔族たちも頷いている。その方法が一番無難なものと理解しているので、反対する理由は無い。

 なのでさっさと待機メンバーと探索メンバーを決め、シヴァたちは"ニダヴェリール"にあった黄金の館へと足を踏み入れた。



*****



「中も中で大層な輝きだな。金貨何枚分の建物だよ」


「さあ。けれど、この建物の大きさからしても金貨何百何千万枚は作れますね。どうせ偽物でいずれ消え去る世界ならこの建物ごと持って帰りますか?」


「いや、別にいい。これくらいなら簡単に創造出来るからな。しかしまあ、"世界樹ユグドラシル"を再現すると同時にこんな建物を造るってのはやっぱカオスはかなりの実力者だって事だな」


 シヴァとシュタラが会話をしつつ黄金の館内を歩く。

 他に居るメンバーはズハル、ウラヌス、オターレドと、シヴァの街"ラマーディ・アルド"に居る者たちだった。というのも、慣れたメンバーの方が本来の目的でな無い事を探索するに当たって行動しやすいので選んだのだ。


 そんな黄金の館の内部は家具などの物を含め、全てが黄金で出来ていた。

 玄関口から中に続くものは長い黄金の廊下。そこにあるものは黄金の壁。黄金の歩廊。黄金のシャンデリアに黄金のテーブル。黄金の花瓶。黄金の額縁。と、全てが黄金色の装飾品。美しくはあるが、やけにチカチカした色合いで目が疲れそうな感覚だった。

 外から入り込む光がその黄金類に反射して更なる光を高める。常人が長時間此処にいれば、少しばかり酔いに近い感覚となりそうな程である。


「こんなところに兵士は居なさそうだな。仮に昨日さくじつ来て居たとして、夜を明かそうとしても眠りにくそうだ。まあ、姿は隠しやすそうだけどな」


「まあ、気配は常に集中してるんで、何かが居れば分かると思いますが……奥の方に何かは居ますね」


「それも、かなりの強者のようです。それが敵ならば少々骨の折れる相手かもしれませんね」


「そうみたいだな。けどまあ、俺たちが居れば支配者クラスとも対等以上に戦えるだろうし、あまり警戒し過ぎるのも逆に問題かもしれない。ま、警戒するに越した事は無いんだけどな」


「どっちなのよ、ウラヌス。けど、一理あるわね。シヴァさんも居るし、余程の相手じゃなきゃ私たちはこたえないでしょう」


 シヴァ、ズハル、シュタラ、ウラヌス、オターレドの順で兵士たちを探しながら話す。

 何やら最奥から強い気配を感じてはいるが、それは兵士では無いようだ。

 しかし特に焦るシヴァたちでは無い。仮に相手が主力クラスの実力者だったとしても、この五人が居れば大抵の相手には勝てるのだろうから。

 その様な事を話しつつも歩みを進める五人は黄金のトンネルを彷彿とさせる程に輝いている歩廊を抜け、ひらけた大広間に到達した。そこも全てが黄金で出来ており、黄金の鎧に黄金の銅像。黄金の窓枠。後は黄金のシャンデリアなど渡り廊下で見たのと同じような物がある。

 しかし唯一黄金ではないガラス張りのステンドグラスもあり、黄金だらけのこの部屋でステンドグラスは存在感が増していた。

 外から差し込む光によってステンドグラスが光を放ち、黄金だらけの大広間に赤や青、緑に黄色などの色彩を映し出す。その異物感は黄金に反射し、より黄金の存在感を現す役割を果たしていた。


「大広間か。あの大きなステンドグラスのお陰でそれ程の光は放ってねェみてェだな。こんな場所が他にもあるなら落ち着く事も出来そうだ」


「そうですね。それなら他の兵士たちが居てもおかしくありません。まあ、他の気配はありませんから最奥にある強い気配の持ち主しか居ないのでしょうけど」


 この場所は他に比べて輝きが控えめである。というのも、黄金以外の色を放つステンドグラスがあるので控えめに見えているのだ。なのでこの場所ならば落ち着いて休養を取る事も可能だろう。

 しかし、感じる気配からして既に兵士たちのような味方が居ない事は分かっている。故に辺りを見渡した後、直ぐ様奥の方へと向かって行った。


「それにしても、かなりの広さがある館だな。確かに小人の国に黄金の館があるという伝承はあったが、まさか此処とはな」


「はい。けど、恐らくその通りでしょう。その伝承にあった黄金の館が此処なのでしょうね」


「黄金の館か。これを造った神か人間か魔族かは派手な物好きだったのかもしれねェ」


「そうだろうな。それか、権威を示すのには豪華絢爛な建物か何かを造って示すのが一番だろうよ」


「そうね。権威を持っているからこそ、知名度と形でより強力に示して誇示するのが良いんでしょうね」


 黄金の渡り廊下を歩きつつ、黄金の館について話すシヴァ、シュタラ、ズハル、ウラヌス、オターレド。

 本来の目的である兵士たちは居なさそうなので、最奥さいおうを確認したら直ぐに戻るつもりなのだろう。

 そして辺りを見ながら暫く進み、巨大な黄金の扉の前へ到達した。


「此処が最奥の部屋みてェだな。この館が城なら王室といったところか。城じゃねェけど」


 他愛ない事を話しつつ、到達した場所の扉を見上げるシヴァ。

 その扉は大きな黄金の扉。黄金のみならず赤や青の宝石などの類いも付けられており、大層な派手さだった。

 それはさながら、そこに居る者の存在を誇示するようなそんな感覚。何はともあれ、此処に居る強い気配の持ち主を確認するのが今の目的なので遠慮せず勢いよく扉を開いた。



*****



『────遥か昔、私は着けたら本物の髪になる黄金のカツラ"シヴのカツラ"。魔法を動力に進む帆船はんせん"スキーズブラズニル"。そして穿うがてば必ず勝利する槍"グングニル"を創らせた事がある。それでとある者達と勝負をしたんだが……まあ、結果として私は負け、頭を取られそうになった。まあそこは十八番の嘘で乗り切ったが……結局は口を縫われるという目にあった事がある。──名乗り遅れたな。魔族の者達。私の名はロキ。黄金の館(此処)は私の対戦相手だった者達の一族の館だ』


 ──扉を開けた瞬間、そこには壁の黄金に触れながら聞いてもいない事を淡々とつづる悪神が居た。

 その名を聞き、少しばかり危機感の無かったシヴァたちの顔色が怪訝そうなものに変わる。同時に警戒を最大限に高め、その者──悪神ロキへと視線を向けた。


「ロキ。なんでテメェがこんなところに居やがる。俺も親父に名前や伝承くらいしか聞いた事が無いが……本物と会うのは初めてだ」


『親父? フム。知らんな。長い時の中で出会い、別れた者は多い。誰だ、お前は?』


「シヴァ。って言えば名前くらいは知っているだろ」


『……。成る程。宇宙を破壊し、創造する神か。──全然知らなかった』


「嘘吐け」

『そうだな。私は嘘吐きなんだ』


 ロキを前に、名前や伝承は知っているシヴァが話し掛ける。しかしロキは嘘を織り交えたり淡々と続けたりと、自分のペースにシヴァを乗せて返していた。

 しかしその程度でペースの乱れるシヴァではない。ロキは嘘を吐くのが好きな神と分かっているので、乗せられないように気を付けているのだ。


『それで、何をしにこの館へ?』


「質問してるのは俺だ。最初に聞いただろ、なんでテメェが此処に居るのかをな。この場合の"此処"ってのは"世界樹ユグドラシル"の事だ」


『成る程。先に聞かれていたか。親父とやらが気になって気付かなかった。失敬』


「それも嘘だろ。テメェは質問を知った上で逆に質問して来やがった」


『そうだな。流石はシヴァ。一筋縄では行かないようだ』


 平然と嘘を吐くロキへ呆れるようにシヴァが返す。相手は飄々としており、このままでは埒が明かないような感覚が生まれた。

 なのでシヴァはため息を吐き、肩を落としてロキへ訊ねる。


「はあ。もう面倒臭ェ。居た理由はこの際置いておく。此処に居るって事は俺たちみてェに召喚されたって事だからな。単刀直入に聞くとして、お前は敵と味方。そのどちらでも無い。この三択ならどれを選ぶ?」


『そうだな。四、両方にとって敵寄りの中立だ』

「オーケー分かった」


 ──刹那、シヴァ目掛けて灼熱の轟炎が放たれた。

 その炎は床や天井の黄金を溶かしながら進み、シヴァを狙う。それを見たシヴァは片手を出して炎を破壊し、即座に消し去ってロキへ構えた。


「そういやテメェ……両方にとっての敵寄りとか言ってたな。となるとなんだ。魔物の国の奴らかそいつらと協力している奴に会ったみてェだな」


『ああ、会ったぞ。それと、お前と同じ魔族にもあったが……私が確実に仕留めた』


「嘘吐け。見たところテメェの動きに少しぎこちなさがある。目覚め立てか疲れてんのか分からねェが、幾らロキとはいえ今のテメェにゃ俺の部下たちはられねェよ」


 会話の最中さなかにも仕留めたという嘘を平然と吐くロキだが、今のロキの動きを見たシヴァはそれが嘘であると即座に見抜いた。

 しかしロキは敢えて何も言わず、身体を炎へと変化させてシヴァへ放つ。


「っと。答えねェか。まあ、俺は全知じゃねェがテメェに部下は殺られてねェと理解している。その嘘をずっと突き通すつもりなのか?」


『やれやれ。やはり面倒なものだ。もう少し嘘に反応してくれても良いだろうに。感情豊かな者ならば仲間が死んだと聞かされれば激昂してり易くなるのにな』


「生憎、俺は感情豊かだ。だが部下は信頼している。テメェの嘘に踊らされてちゃ支配者なんかやってられねェよ」


 放たれた炎を消し去り、岩石を創造して生み出すシヴァ。それを隕石の如く放ち、黄金の館を大きく揺らす。


『支配者? 成る程。お前の事か』


 ロキの炎によって溶けていた黄金は岩石の衝突で波打ち、周囲に波紋を広げる。

 ロキはライたちから支配者という存在は知ったので、シヴァを見てその強さを実感していた。そんなロキは跳躍して隕石をかわし、身体を変化させてシヴァの頭上から炎を──


「シヴァさんばかりに戦わせる訳には行かねぇでしょ。"重力ジャーディビーヤ"!」


『む?』


 ──放つ前に、ウラヌスによって重力の災害魔術が放たれてロキが地に落ちた。

 重力に伴って勢いよく落下したロキの場所から更に波が広がり、シヴァたちが溶けた黄金に濡れる。溶けた黄金はかなりの高温だが、シヴァたちはそれでも涼しい顔をしていた。


『重力操作か。周りの者達も中々のやり手らしいな。しかしダメージは無い』


 黄金の波が揺らぎ、火柱が立ってロキが姿を見せる。同時に黄金を払い、黄金に染まったロキがシヴァの側近たちへ視線を向けていた。


「ハッ。テメェら輝いてんな。このまま彫刻として飾っても良さそうだ」


「シヴァ様。貴方が言えた事ではありませんよね? シヴァ様も黄金に染まってますよ」


「アイツ、炎その物みてェだな。まあ、ロキは火の化身とも言われてっから別におかしくはねェが」


「まあ、俺の重力は炎でも関係無いからな。炎も地上にあるうちは重力に従っているんだから」


「呑気ね、貴方たち。支配者さんに至ってはロキとの戦闘とは関係無い事を話しているじゃない」


 そんなロキの事は大して気に掛けていないシヴァたち。あの程度でやられる玉では無いと理解しているのでこの様な態度が取れているのだろう。

 一方で黄金を焼き払ったロキは再び炎となり、消えるように姿を隠した。


「姿を消したか。まあ、周囲に他の炎はねェから今見えている炎が全てロキなんだろうな」


 周囲には炎が存在している。ロキが炎その物になれる特性を知っているので、シヴァたちは特に焦る事もなく周囲の炎を掻き消した。

 しかしそこにロキはおらず、揺らぐ炎の欠片だけがあった。つまり新たな炎を顕現させ、別の場所へ移ったというのが道理だろう。


「んで、そっちが先に仕掛けて来たんだから遠慮せずにぶちのめしても良いよな?」


『フフ、駄目だと言っても遠慮はしないだろう。私が大嘘吐きという事をお前達は知っているからな』


「ああ。そうだな。どの道遠慮せずに倒すつもりでいる」


『なら来るが良い。昨日の今日でなまりが解消されつつある。仕上げまではまだ掛かるかもしれないが、相手になってやろう』


「だから仕掛けて来たのはテメェだろ」


 シヴァがツッコミと共に周囲の炎を全て消し去る。そこにロキはおらず、次の瞬間には改めてシヴァたちの正面へと姿を現していた。

 今日日きょうびの朝。"世界樹ユグドラシル"にある世界の第二層・小人の国"ニダヴェリール"の黄金の館にて、破壊神シヴァ率いる魔族の主力と悪神ロキの戦闘が始まった。

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