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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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五百十一話 二日目の終わり

 ──"九つの世界・世界樹ユグドラシル・第二層・小人の国・ニダヴェリール"。


 此処は第二層にある小人の国、"ニダヴェリール"。

 そこは自然が豊かで、小人の国らしく全てが小さい街だった。

 軒並み連なる建物は常人の下半身程の大きさ。この国に居れば常人が巨人と化すだろう。しかし当然巨大な建物もあり、それは常人並みの大きさである。

 この国の建物は元の世界にあったような石造りの物とは少々違く、どちらかと言えば幻獣の国にあった自然の木を利用した物に近い。だとしたら常人よりも遥かに小さな木を使っているが、小人からすればかなりの大きさだろう。

 足元には小さな花畑が広がっており、小さくとも鼻腔を甘い香りがくすぐる。建物や別の用途以外の植物も多数あり、それからするに建物用の植物とそうではない植物に分けて植物を育てているようだ。しかし時間帯的に全体的に暗いので、建物の影と花の匂いから建物や花の位置がある程度分かるくらいでしかない。

 そんな、ライたちも幻獣たちも来ていないこの国には今、第一層を探索していた者たちとは違うもう一つの魔族の国の主力たちが集まっていた。


「いやー、しかし。また随分と小せェ街だな此処は」


「まあ、小人の国ですからね。これくらいが妥当なのでしょう」


 その小人の街を見て率直な感想を述べるシヴァと、それに返すシュタラ。

 因みに元々シヴァはこのメンバーとはぐれていたが、先程合流してこの国を見つけたという感じである。シヴァのチームに居る魔族たちは全員が小人の国に興味を示しており、小さな建物を掻い潜って街を探索していた。


「うわあ……すごーい! 可愛い街だね♪ 此処!」

「五月蝿い……。騒ぐなよ……キュリテ……。面倒だ……」

「ダークさん、相変わらずですね」


「見たところ、此処にゃ俺たちの仲間は居ねェみてェだ。こんなに国を見渡せるが、気配も何も感じねェ」


「ああ、そうみたいだね。この国は小さい分、隅々まで目が届く。それで見えずに気配も無いという事はそういう事何だろうね」


「そうね。シュタラはシヴァさんの相手で忙しいみたいだから私たちでもう少し探してみようかしら」


 一方ではキュリテ、ダーク、ザラーム。

 一方ではズハル、ウラヌス、オターレド。

 彼女たちだけではなく、他の主力たちも小人の国"ニダヴェリール"を捜索しているが魔族の味方兵士たちは見つからないようだ。

 他の国よりも小さな此処だからこそ、探しやすさがある。それで見つからないので、この国には居ないと判断したのだろう。


「そうか、居ねェか。だったらもうこの国に居る理由はねェが……。そろそろ日も暮れてきたからな。つーかもうほぼ夜だ。休める場所は見つかりにくいから、一先ず今日は此処を拠点にしとくか」


「そうですね。今日も中々に濃い一日でしたし、休める場所を見つけたのなら休む事が良いでしょう」


「うし。決まりだな。全員を集めてくれ」

「はい」


 シヴァの言葉に頭を下げ、魔族の主力たちを集めるシュタラ。事を説明した結果、他の者から異論は無く穏便に片付いた。

 小人の国"ニダヴェリール"についたシヴァ率いる魔族の主力たちは、そこを拠点に休むのだった。



*****



 ──"九つの世界・世界樹ユグドラシル・第三層・死者の国・ヘルヘイム"。


 シヴァと魔族の主力たち。ライたちとフェンリルたちが出会っていた時、ヴァイス達の居る"ヘルヘイム"でも食事を摂りつつロキについての話し合いが行われていた。

 何せ、ロキの出現はマギア達も知らなかった事態。そうなればヴァイス達や魔物の国の者達も知らなかった事態という事なので、相応の騒ぎになるというものだ。


「成る程。悪神のロキが現れた。それでライ達との戦闘は中断された訳か。話を聞く限り本物のロキみたいだし、恐らく敵の兵士達を連れて来る時一緒に封印された何かが来てしまったんだろう。兵士達だけではなく、兵士達が所有する武器とかもこの世界に来ている。その可能性はあるからね」


 言葉を聞いたヴァイスが推察を織り交えて話す。

 この世界では何が起こってもおかしくない。想像しうる事は全てがあり得る事となるのだ。なので特に驚いてはいないが、ロキというものが敵になる可能性はあるので油断は出来ないだろう。


「ハハ。ロキか。この世界に来ているなら久々に戦ってみたいね。中々やるよ、彼」


『そんな事はみな知っておるわ。馬鹿が』


「一々突っ掛かって来るね。るなら答えるよ……支・配・者・サ・ン?」


『上等よ。そのつもりで突っ掛かっておるのだからな』


「今はやめてくれ。君たちが暴れてはこの世界も消え去ってしまうからね。そうなってしまえば私の目的は遂行されなくなる。方法は変えれば幾らでもあるけど、多大な労力を消費するだろうからね。私たちの中でも最強の一角を担う君たちは貴重な戦力なんだ。君たちの暇潰しと私の目的が完了したら自由に動いても良いよ」


 相変わらず仲の悪いグラオとテュポーンの会話を途中で止めさせ、場を落ち着けさせるヴァイス。

 目的が何を示すのかは分からないが、グラオとテュポーンは強力な戦力である事は変わらない。なので無駄な争いはさせないようにしているのだろう。


『何故お主に余の自由を制限されなくてはならない。あまり下に見ておるとお主から消すぞ』


「おっと、それは勘弁。そうだね、君に向けて言いたいのはこうかな。君とグラオが戦えばこの世界が消え去る。つまり、ライとの戦闘も行えなくなってしまうという訳さ。それはテュポーン。君も嫌だろう?」


 苛立つテュポーンへ向け、飄々と対応するヴァイス。軽い態度だが、テュポーンからすれば確かに理にかなっている。

 なので口を噤み、改めて開いて言葉を続ける。


『むぅ……。確かにそうなれば嫌だな。こんなものと争う為にライと戦えなくなるのは気に食わぬ。先程の戦闘でますます怒りを覚えたからの……』


「それは此方の台詞さ。何故アンタ如きと戦って僕の楽しみを奪われなくちゃならないんだ」


『何を……?』


「はいはい。君たち一旦落ち着こう。つまりそういう事さ。だから今回は見送る。"世界樹ユグドラシル"での騒動が終わったら好きに暴れても良いからね。私たちに被害が及ぶ範囲外で」


 これにて話を切り上げるヴァイスは、一口水を含んで飲み込んだ。グラオとテュポーンは相変わらずだが、今回はヴァイスの言葉に賛同したらしく、グラオは大人しく腰掛け肉を頬張りテュポーンは人化して楽な体勢となる。

 ヴァイス達も知らなかったロキの存在は、一先ず置いておく事にするようだ。

 話が終わり死者の国"ヘルヘイム"にて、ヴァイス達と魔物達。百鬼夜行は各々(おのおの)で休息を取っていた。



*****



 ──"九つの世界・世界樹ユグドラシル・第二層・人間の国・ミズガルズ"。


「なんと……! 父上がライ殿たちの前に姿を……!」


『ロキか。名ならば大抵の者は知っている悪戯好きの神。まさかこの世界に居るとは』


『しかし何故』

「ロキかぁ……。なんか怖そうだね」

「怖いも何も、恐ろしい存在である事に違いはありませんね……」


 宴会のような雰囲気となっている人間の国"ミズガルズ"にて人化したフェンリルたちは、ライからロキについての事を知らされていた。

 反応はフェンリルを筆頭に、当然全員が驚愕している。まさか悪名高き悪神がこの世界へ来ているとは夢にも思わなかったのだろう。ライたちもそうだった。

 何が起こってもおかしくないこの世界だが、ロキの存在はあらゆる意味で驚愕する事柄だろう。


「まあ、そういう事だ。ヴァイス達の仲間だろうと見境無く攻撃を仕掛けていた。つまり、どちらの味方でも無く敵であるってさ事さ。もっと簡潔に言えば、新たな敵が増えたって事だな」


「成る程……。いや、我が父故にその強さはしかと理解している。元々俺が炎を吐けるのは遺伝のようなものだからな。しかし、父上が敵となると、その強さは支配者クラスと言われている俺やヨルムンガンドよりも上だろう。長い眠りによるブランクによって今回は早めに切り上げたのだろうが、次に会うとしたらかなりの被害が訪れるやもしれん……」


「ああ。覚悟は常に決めているけど、苦労する事は免れないだろうな」


 告げ、片手のパンを千切って食し飲み込むライ。

 ロキは不完全なままライたち、ブラックたち、マギア達を相手にしていた。それが完全となったら最後、甚大な被害が周囲を襲う事は明確である。

 レイたちや他の主力たち。兵士たちもそれを聞いて生唾を飲み込む。


「……。あれ? ラ、ライさん!?」


「お、起きたかマルス君。おはよう……いや、こんにちは……こんばんはか? グッナイ? ……はお休みか……。まあ、兎に角おはよう」


「アハハ……。適当で良いと思いますよ」


「──お兄ちゃん! ……っ。兄様!」

「やあ、ヴィネラ。心配掛けたね」


 その緊張の中、宴の席の近くに建てられた土魔法と土魔術の建物の中から今まで眠っていたマルスが現れ、ライとヴィネラを筆頭にみなの視線がそこに集まる。

 当のマルスはヴィネラには返していたが、まだ状況を把握していない。一番近くに居たライへ視線を向け、少々困惑しているようだ。

 しかしライの隣に居る人化したフェンリル。すなわちリルフェンと反対の隣に居るヴィネラを前に何とか状況を整理し、改めてライたちへと向き直った。


「──成る程。見たところ、フェンリルさんたちはライさんたちと合流した様ですね。それで小さなうたげの席を設けたと言ったところですか……」


「ああ、そんなところだ。けど、マルス君に話さなくちゃ行けない事もある。今はそれについて話し合っていたんだ」


「話さなくちゃ行けない事? いえ、ライさんの表情から大凡おおよそは分かりました。その話を聞きましょう」


 ライの言葉を疑問に思うマルスだが、先程まで挨拶の迷宮に迷い込んでいたとは思えぬその真剣な表情から、おふざけなどでは無いとさとりライの前に正座する。

 聞く態度になったのを確認し、ライはマルスへ向けて言葉を続けた。


「──って事なんだ。だから、ヴァイス達。魔物の国の主力達。百鬼夜行が俺たちの敵で、新たにどちらにも属さないロキが参戦するかもしれないって事だ」


「ロキ……! 成る程。ただ事ではありませんね……! 僕も優雅に寝ている場合ではありませんでした……!」


 ロキの話を聞いたマルスは、寝起きだが目が覚める程の衝撃を受けていた。それも当然である。理由はフェンリルたちと同様だ。

 そんなロキが居ると知り、焦りを見せるマルス。ライはそんなマルスを制し、更に続ける。


「慌てなくても大丈夫さ。今は来ないだろうからな。根拠は無いけど、ロキはブランクがあると自分で言っていた。少し力を蓄えているんだろうな。それが何処かは分からないけど、此処は偽物だとしても宇宙並みの広さはある"世界樹ユグドラシル"。銀河系程の距離を破壊しても何兆分の一の影響も出ないから思う存分に暴れてブランクを解消している筈だ」


「それってかなりマズイんじゃ……」


「ハハ。そうかもしれないな。だけど、兵士たちは近くの場所に召喚させられていると思うから、兵士たちの心配は無いだろう」


「そ、そうでしょうか……」


 本人を前にしたが、少々楽観的なライ。妙な頼もしさもあるが、やはりマルスは腑に落ちないようだ。

 というのも、そんな危険な存在が居るにもかかわらず楽観的なライが気に掛かるのだろう。その心境を読み取ったライは目の前のマルスに向けて言葉を紡ぐ。


「当然、警戒していない訳じゃない。相手が強敵と分かっているからこそ、休息を取れる時に取っているんだ。回復の魔法・魔術があれば大抵の事は済むけど、それは表面的な疲労やダメージしか取れない。だから精神的な疲労を含め、休める時に休んでおくのさ。まあ、受け取り手次第じゃ屁理屈にも聞こえるだろうけどな」


「そ、そうですか。けど、確かに一理ありますね。実際の戦争でも引き際や休むタイミングを間違えれば己の軍に甚大な被害を与えてしまいます。なら、僕も休むだけ休みましょう。それに、先程まで寝ていた僕が言えた事ではありませんし」


 休養も戦争。休める時に休まなくてはならないというのは、実際に国々を旅して来たライが判断した事である。

 マルスも先程まで寝ていたのであまり強く言う資格は無いと自覚している。なのでライの言葉に賛成した。


「マルス君、食欲はある? 今は食事時。一先ず休養を兼ねて今は食事を摂るとしようか」


「あ、はい。いただきます」


 食べ物の入った器を指差し、マルスに促すライ。

 考えてみれば、自分自身が此処に来てロクな食事を摂っていなかったと思い出すマルス。それによって空腹感を覚える。なのでマルスはライの隣に座り、ライとヴィネラには挟まれながら食事を摂る事にした。

 ライたちとフェンリルたち。シヴァたち魔族の主力。そして敵対勢力であるヴァイス達に魔物の国。百鬼夜行。全ての主力たちは今、日の落ちた"世界樹ユグドラシル"の世界にて、一時の休息を取っている。

 そんな主力たちが各々(おのおの)のやり方で過ごすこの世界で、この世界に来てからの二日目が終わりを迎えるのだった。

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