五百話 第二層での行動
──"九つの世界・世界樹・第二層・虹の橋"近隣。
第一層から"虹の橋"を渡り、暗く閑散としている第二層の世界に来たライたちは改めてチーム分けをしていた。
というのも、新たに増えた戦力。それは主力クラスでなくとも、頼りになるものであろうからだ。
特に兵士たちや、ライたちからすればマルスたちなど、捜索に置いて数程頼れるものは無い。なのでより効率良く捜索を行えるよう、新たにチーム分けを行っているのだ。
「んじゃ、基本はさっきと同じだが、数が増えた。だからさっきと殆ど同じチームで、少しだけ手を加えるとする」
「「「はい!」」」
『『『はっ!』』』
全体を纏める役を努めるブラックがメンバーを決め直していた。基本的は先程と同じらしいが、ほんのりと変わっているらしい。
その後、ブラックは淡々とメンバーを発表して行く。確かに先程と同じ感じだが、魔族の兵士たちや幻獣兵士たちが組み込まれている。そしてライたちの名はまだ出ていない。
「んじゃ、最後だ。まあ、残っていたメンバーがチームになるだけだから簡単に分かるだろ。チームは俺、サイフ、ラビア、シター、ライ、女剣士、ヴァンパイア、女魔術師、静かな奴、エルフ、ドラゴンの息子、斉天大聖。以上だ。ライたちの目的がマルス王を探すことなら、必然的に俺たち"マレカ・アースィマ"のメンバーも加わる事とする。第一層にマルス王たちが居なかった今、第二層から第三層に居る可能性がグッと上がったからな。殆ど勝手な都合なんで兵士は付けねェ。良いな?」
「「「了解!!」」」
『『『御意!!』』』
決まったチーム、それは"マレカ・アースィマ"のブラックたちとライたちが手を組む形となった。というのも、ライたちがマルスたちを探したがっている事は知っているのでマルスの拠点である"マレカ・アースィマ"のメンバーとライたちが組むという事が一番手っ取り早いからだ。
自分たちの王を探すブラックたちと親戚を見つけ出すライたち。その利害は一致出来る事だろう。
「俺たちは何時ものメンバーに加えてブラックたちが協力するのか。けど、戦力に偏りが生まれないか? 支配者クラスの実力者は俺たちに数人居る事になるが……」
「それも承知の上だ。最も、相手の支配者やカオスはテメェを狙っているみてェだからな。戦力をそちらに傾けた方が色々と都合が良い。マルス王が心配なのは俺たちも同じだからな。多少は鍛えてやったが、まだ主力クラスと戦える力はねェ。それに、魔族の主力っ言ーだけあって他の奴らも十分過ぎる程に戦えるからな」
しかしその戦力を気に掛けるライ。ブラック曰くテュポーンやグラオがライを狙っている事とマルス捜索に集中する事を踏まえた上での編成らしい。
とはいったものの、ライ、レイ、フォンセ、リヤン、ドレイクに孫悟空と支配者クラスの実力者が多いのは気に掛かるところである。それに加え、エマ、ブラックは他の幹部クラスの実力。そして側近のサイフ、ラビア、シターも粒揃い。何はともあれ、かなりの偏りが生まれている事に変わりは無いのだ。
だがブラックの言う事にも一理ある。それに他の主力が強いという事も理解しているのでこれ以上話さなくても良さそうである。
これにて、ライたちと魔族の国主力たちの第二層でのチームが決まった。現在は昼を回ろうかという時間帯。これから再び捜索が再開されようとしていた。
*****
──"九つの世界・世界樹・第三層・死者の国・ヘルヘイム"。
死者の国というその名の通り暗く、冷たい世界。その場には今、消滅した第一層から戻って来た主力や兵士。そして他の層に居た主力と兵士達が集まっていた。
そのうちの多数が負傷しており、アンデッドの王であるリッチのマギア・セーレに治療を受けている者達の中には主力クラスの者も居た。
「いやー、久々に怪我したなあ。危うく意識を失うところだったよ」
『フン、主が邪魔をしなければ余は勝利していた。やはり主から先に始末すべきか』
「それはこっちの台詞だよ。君が居なければライと一対一で戦えたというのに」
その負傷者の中には、混沌を司る原初の神カオスのグラオと魔物の王である支配者、テュポーンも居た。
グラオとテュポーン。何れも片腕を大きく負傷しており、見るだけで痛い程に変色している。しかしグラオは軽薄に笑い、テュポーンはグラオの文句を言っていたりと割りと余裕のある態度だ。しかしそれは既に治療を施されたからだろう。治療を受けたので表面的なダメージしか残っておらず、話す余裕が生まれたという事である。本来はもう少し苦悶の表情だったかもしれない。
「けど驚いたよ。今はもう違うけど、グラオが女の子になっていたんだからね」
「ハハ。ハンデを与える為に僕はあの姿になったんだ。お陰でこの様さ。……いや、もしかしたら僕が何時もの姿でもそれなりのダメージを受けていたかもしれないね。ライは更に成長していたよ」
「へえ?」
マギアはグラオの治療をしつつ、先程見たグラオの女体化に興味を示していた。
マギアもグラオの女性姿を見た事が無かったらしく、それもあって興味深いのだろう。対するグラオはそんな事よりもライの成長を気に掛けており、ライが成長しているという事を嬉々として話していた。
マギアもその答えは予想出来ていたので、グラオに此処まで言わせるライの事を気に掛ける。
『だが、吐いた唾を飲み込む訳にもいかなかろう。体勢が整い次第、余は再びライの方へ赴くつもりだ』
「それは僕も同じさ。決着は付けるつもりで居るよ。引き分けで終わるなんて、それこそつまらないからね。まあ、今までもライとは引き分けにしかならなかったけど」
そして当然、グラオもテュポーンもライとの戦闘を諦めた訳では無い。今は治療仕立てで少しばかりの疲労も感覚が残っている。なので体勢を立て直してから改めて攻めるつもりのようだ。
当たり前だが怪我と共に疲労も治療した。なので完治しているのだが、先程の今なので少々精神的な疲労が残っている。だから今回は置いておくという事にするつもりなのだろう。
「そう、戦る気満々って訳。貴方たちには熟呆れちゃうよ。まあ、それが貴方たちのやり方なんだけどね」
グラオとテュポーンの言葉を聞き、呆れたように腕から手を離すマギア。治療は既に終わった。なので何時までも掴んでいる必要が無いから離したのだ。
しかし呆れながらもそれがグラオの性格と割り切っている様子のマギア。
何はともあれ、これで治療は終えた。まだ無傷の主力達も居るヴァイス達と魔物達と百鬼夜行。なのでライたちへ刺客を送る事は可能だろう。
グラオ、テュポーンが休養している時、他の者達も着々と準備を進めていた。
*****
──"九つの世界・世界樹・第二層"。
チーム分けを終えたライたちは各部隊ごとの行動に移り、兵士たちの捜索を中心とした第二層の探索を続けていた。
第一層に比べて暗くジメジメした雰囲気の第二層。そこを歩いているだけで気が滅入りそうな雰囲気だが、特にその事は気にせず進めていた。
「何て言うか、暗いな此処。大きな光どころか、木漏れ日すら入って来ていないな」
「ああ。その様だな。だが、私にとってはこの方が良い環境だな。差し込む日差しが少ない分、行動範囲が広がるというもの。それもあって傘を畳んでもあるける」
「アハハ……。確かにエマにとってはこの方が行動しやすそうだね」
回りを見ながらその暗さを実感するライと、折り畳んだ傘を片手に話すエマ。
そんな上機嫌なエマを前に、隣ではレイが苦笑を浮かべていた。基本的に明るい性格のエマだが、今日は何時もよりも明るい。日光の有無だけで此処まで変わるのかと思ったのだろう。
「ハッ、随分と賑やかだな。一応此処も敵地なんだが、そんな事は関係ねェっ言ー感じだな。目的は覚えているよな?」
「ハハ。関係はあるさ。それに、目的は当然覚えている。兵士たちの捜索。特にマルス君。いや、マルス王のな」
「クク、それを理解してんなら構わねェ。まあ、暗い雰囲気よりは明るい方が良いからな」
ライの言葉にクッと笑って返すブラック。敵地で慎重にならない事を気に掛けていたが、最終的な目的と諸々の事柄については理解しているようなので良しとする。
元々ブラックもそういう性格なので楽しい事なら拒否しないのだ。
「まあ、それはさておき。アンタたちには宛とかあったりするのか? マルス君が行きそうな場所とか」
「ふむ、どうだろう。兵士たちのような主力以外に召喚された日から昨日の今日で数時間は経過している。召喚された場所に留まっている訳でも無さそうだが……マルス王の行く宛とかも思い付かねェな。まあ、兵士たちが居るなら誰かと共に行動している可能性もある。街があればそこに居る可能性もある。森があるならそこに居る可能性もある。可能性は多い」
「つまり、手掛かりは0って訳か。一先ず街を探してみるのが良いかもな」
「ああ、それが良さそうだ。可能性があるとして、そこが街なら拠点にも出来るからな」
マルスたちや第二層に居る兵士たちの手掛かりは無い。だが、可能性は多数ある。
可能性が多数あるのはそれに伴って更に面倒な事にもなりうるが、選択肢が多く当たりも引けると取れる。兵士たちやこの層に召喚された主力たちと出会う可能性もあるので、外れの少ない選択肢となっている事だろう。
何はともあれ、先ず第二層での第一目標は街を探す事となった。
「ふむ。確か、第二層にある街は小人の国"ニダヴェリール"と、黒い妖精の国"スヴァルトアールヴヘイム"。巨人の国"ヨトゥンヘイム"。そして人間の国"ミズガルズ"だな。小人の国と黒い妖精の国は同一視される事があるからその二つは国の近隣にあると見て良いだろう。私たちは"虹の橋"を通って来たから、恐らく一番近い国は人間の国"ミズガルズ"だな」
国や街を目指すに当たって、第二層の国々をおさらいするエマ。長年の知識があるので行った事の無い"世界樹"についてもある程度は知っているのだ。
グラオが創造したこの"世界樹"は、逆さまという事以外に地形に変わりがあるという訳では無さそう。なので"虹の橋"の近くには人間の国"ミズガルズ"があると踏んだのだろう。
「人間の国"ミズガルズ"か。確か、第一層の"アースガルズ"と"虹の橋"が近いんだっけか。"アースガルズ"に寄った時"虹の橋"には気付かなかったな……」
目ぼしい国が案に上がり、改めて思考するライ。
本来、第一層にある神の国"アースガルズ"と第一層と第二層を繋ぐ"虹の橋"は近隣に位置している。そして"虹の橋"を渡って第二層に来た時は直ぐ近くに人間の国"ミズガルズ"があるのだ。
つまりそれらの国々は目と鼻の先だったのだが、"アースガルズ"に寄った時現れたオーディンに気を取られて気付かなかったのだろう。
ライは一人で成る程と呟いて納得する。その反応に他の者たちも気付いたが、呟きで生じたワードからライが"アースガルズ"に寄っていた事は分かったのでライの邪魔をせぬよう口を噤む。
「……。ライ、"アースガルズ"に寄っていたんだ……」
「……ん? ああ。そういや言い忘れていたな。第一層の世界で俺は"アースガルズ"に寄ったんだ」
しかしリヤンは既にライの思考が終わったものと理解しており、自分が気になった事を話していた。
というのも、それは何もレイたちが鈍いという訳では無い。たまたま近くにリヤンが居たので思考が終わった事が分かっただけである。
邪魔にならぬのならばと、レイたちもライとリヤンに混ざって話を行う。
「へえ。どうだった? 街並みとかは」
「ああ、結構綺麗な街だったよ。確かに神の国ってのも頷ける美しさだった」
「なにか面白そうな物はあったか?」
「フォンセの示す面白いの定義は分からないけど、特になかったかな。綺麗な普通の街だったよ」
「やれやれ。私が言える立場じゃないが、そんな事話している暇はあるのか?」
その光景を見、呆れたように話すエマ。ライが寄ったという"アースガルズ"についての話も良いが、本来の目的は違う。なのでその事を話したのだ。
それを聞き、ライ、レイ、フォンセ、リヤンの四人は改める。
「ハハ。悪かったよ、エマ。今は人間の国"ミズガルズ"に寄るって事を話すんだったな」
「「ご、ごめん」」
「すまない。一つの山を越えたから受かれてしまった」
「ああいや、そこまで言わせるつもりは無かったんだが……。まあ良いか。一先ず今の目標は九つの世界・"世界樹"にある人間の国"ミズガルズ"という事で良しとしよう」
思わぬ謝罪に肩を落とすエマ。確かに余計な事を話している暇は無い状況だが、思ったよりも深く反省したので何故か逆に気圧されそうになる。
なので謝罪はさておき、改めて本来の目標を話した。国や街を探すのならば、目的は必然的に第二層の世界にある国になるからだ。
「ああ。それで良い。ブラックたちとニュンフェたちも賛成で良いんだな?」
「構わねェぜ」
「ええ、構いません」
そのまとめに、頷いて返すライはブラックとニュンフェたちに促す。ブラックとニュンフェがそれに返し、後ろでは"マレカ・アースィマ"メンバーとドレイク、孫悟空も頷いていたので反論は無さそうだ。
九つの世界・"世界樹"にある人間の国へ行くという目的が決まった今、ライたちは少し早歩きで人間の国"ミズガルズ"を探す行動へと移るのだった。




