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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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四百九十七話 "アルフヘイム"・二つの壁

 巨大化したテュポーンはその巨腕を振るい、風を引き起こし炎と猛毒を吐いて暴れ回っていた。

 一挙一動で数キロが陥落し、風によって森のある大地が大きく浮き上がる。そのままライたちとエマたち。そしてグラオとテュポーンは空中に運ばれ、滞空する大地に乗り掛かった。


「オラァ!」

「そこっ!」

『ガギャア!』


 そこの中心にて大地を踏み込んだライとグラオ。そして下方の大地に巨体を立たせるテュポーンが衝突する。

 その衝撃で周囲は砕け散り、浮き上がった大地が周りに爆散して消し飛ぶ。そこから二人と一匹が姿を見せ、新たに体勢を立て直して一撃を放った。それによって、第一層の世界が大きく振動して全ての雲と森が消え去り、世界その物が崩れ行く。


「これは少しマズイな……。エマ! ニュンフェ! ドレイク! 斉天大聖! アスワド! ラビア! ジャバル! 全員でこの層に居る者たちに危険と伝えてくれ!」


 その世界を見、それはマズイと悟ったライがグラオとテュポーンに視線をつけつつ声を上げて指示を出す。

 このままでは世界が持たない。なので早めの避難を促したのだ。


「分かった! 数時間経過しているから恐らく兵士たちも見つかっただろう! 私たちは私たちで行動を起こす!」


「任せた!」


 その指示を聞いたエマが返し、ライが改めてグラオとテュポーンに向き直る。一人と一匹はそれを気にせず、ライ目掛けて腕を振るった。二つの腕はライに向けて放たれたがライはグラオの拳を受け止め、テュポーンの腕に足を着けて駆け出した。

 そのままグラオをテュポーンへ目掛けて放り、自身も加速して拳を打ち付ける。


『邪魔だ!』

「おっと、悪いね。文句ならライに言ってくれ」

「悪かったな。二人を相手にするのは面倒なんだ。……いや、今は一人と一匹か」


 飛ばされたグラオをテュポーンが掴み、ライの拳を腕でガードする。テュポーンはそのまま二人を薙ぎ払って吹き飛ばした。が、ライとグラオは空中にある大地へ着地して勢いを止めていた。

 その瞬間に大地を踏み砕いて加速し、テュポーンの元へと向かう二人。テュポーンは両腕を広げ、その二人を止めた。しかし簡単に止まるライたちでは無い。

 テュポーンの腕を弾き、足場にして駆け抜ける。瞬く間に眼前へ迫り、握り締めた拳を頬へ打ち付けた。しかし巨体に似付かぬ速度でかわし、大蛇の尾を振るってライへ打ち付けた。それを受けたライは吹き飛び、空中にある大地と森を砕いて落下する。


「ハハ。ライは僕が頂くよ」

『む? しまったな』


 灰色の長髪を揺らし、大地を踏み砕いてライの方へ向かう女体化したままのグラオ。テュポーンはやってしまったとその後を追う。

 一瞬にしてライの所へ辿り着く一人と一匹は、一つの足によって蹴り飛ばされた。


「生憎だけど、簡単にやられる訳にはいかないんでね」


「そうこなくちゃ」

『つまらぬからな』


 蹴り飛ばされた一人と一匹は数百メートル程度の所で止まり、立ち上がってライへ構える。既に上空に上がっていた大地は落下しており、一つ一つが振動と粉塵を巻き上げる。

 さながら隕石のようにも思えるが、ただ重力に従って数百メートル程度の高さから落ちているだけなのでそれ程の威力は秘められていなかった。

 それらの土塊を上に、自分に降り注ぐ物は砕きそれ以外は軽くいなしながら二人と一匹は相手の方へ視線を向ける。


「それで、どっちも俺に用があるみたいだけど、どうするんだ?」


「聞かなくても分かっている事でしょ? 僕はずっと、ライと戦いたかったんだからね」


『余も同じく。元より、余は主に怒りをいだいておるからな』


 数撃とはいえ、戦闘は既におこなった。なので今更質問しても意味が無いのだが、エマたちをより遠くへ逃がす為の時間稼ぎだろう。

 グラオとテュポーンもそれに気付いたのか定かでは無いが、話に乗ってくれたのならそれで良い。後はどうとでも出来るからだ。


『下らぬ無駄話はもうよい。さっさと貴様を葬ってしんぜよう』


「あらら。会話はもう終わりか」


 しかしライとの戦闘にだけ集中しているテュポーンが相手ではそういう訳にもいかなそうだ。時間を稼ごうとしても戦闘を促される。

 グラオもそういう感覚なので、要するにライの考えは即座に終わりを迎えたという事である。なのでライは軽く足を開き、先手必勝と言わんばかりに次の瞬間に光を超越しながら加速してグラオとテュポーンの元へ到達した。


「なら、何とかして時間を稼ぐか!」

「ハハ。それを口にして良いのかい?」

『下らぬ。さっさと滅ぼすまでだ!』


 光を超越した速度で拳を放つライと、それをかわす一人と一匹。その風圧は前方を大きく抉り、破壊粉砕しながら進んだ。此処が"世界樹ユグドラシル"の第一層で無くては星を何周かして進んでいた事だろう。

 ライとグラオ、テュポーンの戦闘はまだまだ続いていた。



*****



 ──"九つの世界・世界樹ユグドラシル・第一層・妖精の国アルフヘイム"。


 所変わり、此処は全体的に小さく穏やかな街並みの場所。"アルフヘイム"。

 そこはミニチュアのような小型サイズの家や建物が連なり、鍛冶屋のような場所がある。そして自然が豊かな街だった。

 街と街に挟まれているような流れる小川があり、涼やかな風が吹き抜ける。本来は妖精たちが住む街なのでこの大きさなのだろう。そして農作業なども盛んだったのか、小麦畑のような場所や野菜を育てている畑のような場所も多かった。しかしその小麦や野菜は指で一摘まみ程度のサイズしかない。木々は普通の大きさなのに野菜類がこうとは、どうやったらこんなに小さな野菜が作れるのか疑問に思うところである。


「何というか、全体的に小型の街だな。此処は。建物はまだ分かるが、自然まで小型とはどういう事か気に掛かる……」

「ふふ、ああ。けど中々良い街じゃないか」


 そんな小さな街を見渡し、フッと息を吐くように話すフォンセ。それに返すルミエはフッと笑って街の様子を楽しそうに眺めていた。

 此処、妖精の国にはライを除くメイン捜索隊の一つブラック、サイフ、ルミエ、レイ、フォンセ、リヤンの六人が集まっていた。

 ライは一人で行動し、見つけたら合流すると言っていたのでそれに任せ、今のメンバーだけが残ったという事である。


「にしても、他の兵士たちは見つからねェな。何十人かは見つけて他の部隊に預けたが、それ以外は見つからねェ。もうこの層には居ないのか?」


「そうかもしれませんね。兵士たちの数は数百人。対し、俺たちは一つの部隊を数人で分散して探している。それが数時間なんで、他の層にもバラされてる事を考えれば無さそうッス」


 小さな街を歩きつつ、周りを見渡すブラックとそれに返すサイフ。

 そう、既に兵士たちを探して数時間。それに加え、意識を常に気配へ集中しているので一人辺り数百メートルから数キロ。リヤンに至っては数十キロ以上先の気配を感じ取る事も出来る。その気になれば一つの世界に居る全ての生き物を見つける事も可能な神の子孫。当然だろう。

 つまるところ、今はそれ程の力を使っていないとはいえかなりの距離を探している。なのでそれで見つからないのならもうこの世界に居る線は少ないと見ても良さそうという事である。


「けど、この妖精の国には少しだけ気配を感じるよ。もしかして、隠れている兵士が居るのかもしれない」


「うん……。私も感じる……」


 しかしこの国"アルフヘイム"では気配を感じるというレイとリヤン。当然ブラックたちも感じており、誰かが居るという事は分かっていた。なので探索ついでに捜索もおこなっているのだ。


「ま。取り敢えずそこに向かうとして、後はどうするかだな。見つけたらライと合流すっか」


「ああ。それが良いかもな。シヴァさんたちとは第二層で合流出来るだろう」


 そこに向かい、リーダー的な立ち位置であるブラックが話す。ルミエがそれに返し、他からも反論の声は上がらない。

 ブラックたち捜索隊は、"アルフヘイム"にて探索を行う事となった。とはいっても、気配は既に近くにある。なので邪魔などが無ければ直ぐ様見つけ出す事は可能だろう。


「……! また、デケェ爆発音が響いてんな。向こうはアスワドやヴァンパイアたちが向かった場所か」


 ──瞬間、爆音と共に"アルフヘイム"の街が振動した。小さな建物やそこにある木々が揺れ、少し強めの風が吹く。そして、正面の森が抉り取られた。そのまま消え去り、消滅する。

 その爆発を見、遠方の様子を気に掛けるブラック。先程の爆発の位置からするに此処までは数十キロ程離れている筈なのだがしかし、それでも爆風によって森が消滅するなど、尋常な事では無かった。

 何やら巨大な生き物も見え、ただ事では無い様子である。同じくそれを見ていたフォンセが呟くように続ける。


「……。取り敢えず、のんびり探す事は出来ないみたいだな。色々とマズイ状況みたいだ」


「そうみたいだな。兵士たちの事も気に掛かるが、もっとマズイ事が起こっているらしい。さっさと見つけ出した方が良さそうだ」


 フォンセに返すよう、頷くルミエ。何はともあれ、大変な状況である事には違わない。妖精の国である"アルフヘイム"に到着したばかりだが、のんびりと観光などは出来ないようだ。

 ブラックたちは少し焦り、小さな"アルフヘイム"の街を駆け抜ける。気配の位置は数百メートル程度。隠れていたとしても、直ぐに見つけ出せる距離だ。

 少し慌ただしく、捜索隊は"アルフヘイム"の小さな小さな街を奔走する。



*****



 テュポーンが巨腕を振るい、周囲を大きく薙ぎ払った。ライとグラオはそれを掻い潜り、互いに拳を打ち付けて弾き飛ばす。そのまま吹き飛んだライは着地して跳躍し、次いでテュポーンの顔を殴り抜いた。そこへグラオが駆け出し、ライの脇腹へ蹴りを放って吹き飛ばす。ライに殴られたテュポーンは起き上がり、その巨腕を用いてグラオを吹き飛ばした。


「そういや、何でアンタらは攻撃し合ってんだ? 一応今は協定の関係にあるんじゃなかったのか?」


 砂塵から立ち上がる、無傷のライは身体の土汚れを払ってグラオとテュポーンに気になった事を訊ねる。

 グラオ達からすれば、此処に居る敵はライただ一人。しかし何故かグラオとテュポーンは味方も狙っている。それが気に掛かったのだ。

 それを訊ねられた、同じく無傷のグラオは女体の素肌に付いた汚れを払いながら立ち上がる。


「あー。それ? 何でだろうね。なんとなーくテュポーンには少し腹が立っていてね。ほら、何か自分勝手じゃんあのテュポーンって魔物」


『それは此方の台詞だ。カオスよ。余も主に怒りを覚えている。自分勝手な者というのは嫌になるものだ。やれやれ、そんな者に世界が創られたとはな』


 同じく、無傷のテュポーンも起き上がった。どうやらグラオとテュポーンは馬が合わないらしく、隙あらばどさくさに紛れて互いを打ち倒そうと考えているらしい。

 ライからすれば両方とも自分勝手で面倒臭い相手だが、仲間割れ的な事になっているのならばそれで良いと割り切っていた。

 それならライの苦労も一つ減る。敵組織の中で最も力の強い主力の一人と一匹が争い合っているのだ。疲労も少なく終われるかもしれないという事である。


「まあ、あと僕は純粋に強者と戦いたいって思っているからね。支配者とライ。彼らと戦えるなんて、数百億年っていう悠久の時暇を持て余し続けた僕にとってはとても喜ばしい事さ。この数ヵ月は僕の神生じんせいの中でも最良に近い日々だ」


 そんな思考を余所に話を続けるグラオ。

 数百億年という、ライの生きてきた十数年からは途方も無い時間。グラオはその大部分を退屈に過ごしていた。時折宇宙や星を創ったり生物を創造していたが、それも直ぐに飽きる。なので自分と互角並みの存在が嬉しいのだろう。

 テュポーンにもその様な節があり、常に平穏という時を暇に過ごしていた支配者。ライやグラオという強者には苛立ちもあるが退屈凌ぎを行えるだけでも良さそうだ。


「成る程ね。まあ、どの道俺が越えなくちゃならない二つの壁。正面突破でもしてみるか」


 グラオの話を聞き、永い時を想像して止める。ライにも世界征服という目的がある。"終末の日(ラグナロク)"などでグラオとテュポーンを相手にしている暇も無いのだ。

 今こうしている時にも、苦しんでいる人々は居るのだから。

 グラオとテュポーン。混沌と支配者。ライが越えるべき二つの壁を前に、ライは魔王の力を引き上げ自分の力と合わせて実質的な八割となった。

 ライとグラオ、テュポーンの戦闘は数キロから数十キロを吹き飛ばす程度には留まらない。まだまだ激しさを増し、その戦闘が続いて行くのだった。

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