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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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四百九十五話 第一層・乱入者

 ──"九つの世界・世界樹ユグドラシル・第一層・アースガルズ"。


 オーディンが去って数分。ライは兵士たちを捜索しつつ、景色を堪能して、悩みながら先を進んでいた。

 オーディンから祖母や先祖についての話をもう少し聞きたかったのだが、それは叶う事が無かった。悪魔でライ自身に答えを見つけ出させようという魂胆なのだろう。

 だが、まだ若いが故に先の答えを知りたいライはヤキモキした気持ちで"アースガルズ"を進む。


(…………)

【元気がねェな。ま、知りたい事を教えられねェからそんな感覚なんだろ】

(…………)


 魔王(元)がそんなライに向けて話すも、ライは答えない。

 その感覚は不安や焦燥にも似ており、何とも言えぬ感覚モノ

 苛立ち、悲しみ、怒り。マイナスの様々な感情が複雑に混ざり合い、結果としてよりマイナスな感情へと引きり込まれてしまっているのだ。

 魔王(元)は呆れたような声音で言葉を続ける。


【ったく。お前は割りと精神面に強いと思っていたが、身内の事になるとてんで駄目だな。まあ、確かに年齢的には魔族としてまだまだ赤子並みだが。色々と割り切って旅に出てんだろ?】


(ああ……まあそうなんだけど。やっぱ気になっちゃうんだよな。祖母が生きているかもしれないって思うと、やるせない気持ちになる。自由自在に生き返らせる事の出来る奴が相手に居るからな。他に居てもおかしくない……。だからこそ気になるんだ)


 早くにして父や母と別れてしまったライ。なので育ててくれて、死刑になった者に会えるなら会いたい気持ちが強いのだろう。

 両親や祖父は物心が付く前に別れた。生死は不明だが、恐らく街ですれ違っても分からない筈。なので唯一の血縁とも言える存在が大切なのだ。

 この世には生死を操れる者が多数では無いが存在する。そんな者が何かの気紛れで生き返らせてくれたかもしれない。そんな有りもしない事を考えているうちに意識が暗くなっているのだろう。


(けど、問題は無い。遅かれ早かれ、いずれ来る別れだからな。生きているかどうか、それだけ知れれば良かったんだ)


【だが、オーディンの奴がそれを教えずに消えたから気になると。ハッ、下らねェな】


(ああ。自分でも分かっている。血縁者が居ないからこそ、俺は血縁者に引かれているんだと思う。確信が一つ。一つだけあればそれで良かったんだ)


 当然、ライは現実を直視出来ている。何時か来る別れ。それを知っていたから。

 なので、死んでいるのならはっきりと死んでいると教えて貰い、生きているのなら生きていると教えて欲しかった。ただそれだけ、ただそれだけがライの望みだったのだ。


【ま、オーディン的に言えば、お前は答えを見つける事が出来るっー事だ。教えられなくとも、その答えをさっさと見つけちまえば良いだろ】


(……。そうだな、そうするか。確かオーディンには"試す者"って異名もあった筈。俺に答えを教えず、どう行動するのか見ているのかもしれないな……)


 魔王(元)の励ましから、オーディンの事を脳に巡らせて様々な可能性を考察する。その結果、異名の一つに相手を試す事に関してのものがあったと思い出した。よって、うだうだと暗くなるより自分でその答えを見つけ出そうと思考し直す。

 仮にオーディンが全て知っていたとして、それをさっき聞いてどうなるかは分からない。生きていたとしても、そこに向かう事は出来ないからだ。

 祖母について割り切る事はまだ出来ていないが、戦争中の今その事を考えていても意味が無い。私用で周りに迷惑を掛ける訳にはいかないからだ。

 ライは魔王(元)の案に乗り、一先ず祖母と先祖の事はく事にした。今は戦争の為、"アースガルズ"の探索を続けるのだった。



*****



 ──"九つの世界・世界樹ユグドラシル・第一層・森の中"。


 所変わって、場所は同じく第一層の森の中。そこではエマ、ニュンフェ、ドレイク、孫悟空、アスワド、ラビア、ジャバルの六人と一匹が女体化したグラオと戦闘を続けていた。

 グラオは数の不利など全く意に介しておらず、ハンデとも言える女体化した身体で戦闘を続けていた。

 その素肌は露になっており、何も纏っていない状態。つまり、防御する物が無いのだ。なのに支配者クラスの実力を持つ数名と世界でも上位に入る実力者を前でも余裕の表情で戦闘を続けている。何とも規格外の強さだろうか。


「向こうは静かになったようだね。まあ、支配者と支配者の戦いでこの程度の被害は少な過ぎるし、どっちも撤退したって考えた方が良さそうだ」


 エマたちを相手にしつつも、依然として変わらぬ飄々とした態度で遠方を見て話すグラオ。

 両陣共に本気では無い戦闘だが、それでも両者はかなりの力を秘めている。その戦闘で余所を見る余裕があるとは、中々のものだろう。


「余所見している場合か? とはいっても、確かに貴様にとっては私たちなど取るに足らぬ相手か」


「君達が本気なら良いんだけどね。本気じゃない君達だと、僕が相手をする必要など無いんじゃないかなって思ってくるよ」


「ふう……男の時と同じ口調で話すな。何かゾワゾワする」


「ハハ。僕っていう女性も何人か居るでしょ? あと、男っぽい性格の女性もね?」


 駆け抜け、拳を放つエマとその手を片手で防ぐグラオ。そのまま片足を蹴り上げ、エマの腹部を打ち抜いた。それと同時にエマが吐血し、次の瞬間に吹き飛ばす。

 その周りからはニュンフェと孫悟空が来ており、グラオはそちらに向き直った。


「はあ!」

『そら!』


「ハハ、良いね」


 レイピアと如意金箍棒にょいきんこぼうを放ち、挟むようにけしかける二人。グラオは紙一重で避け、露となっている素肌を傷付けずに二つを避けた。レイピアは膨らんでいる胸の前。如意金箍棒にょいきんこぼうはスッと伸びた背筋の後ろを通り抜ける。

 その瞬間に体勢を低くし、素早くニュンフェの腹部に膝蹴り。孫悟空の顔に肘打ちを放って二人を怯ませた。一瞬止まった隙を突き、片足を軸に立ち上がりそのまま一回転して回し蹴りを放つ。

 それを受けた二人は同じ方向に吹き飛び、砂塵を巻き上げて遠方を砂埃で埋め尽くした。


『──カッ!』

「やあ!」


 その頭上から、ドレイクが炎を吐き付けラビアが光の球体をグラオ目掛けて放った。炎と光球。その二つが合わさって大きな爆発を起こし、グラオごと周囲の森を吹き飛ばした。


「悪くない連携だったよ。結構良かった」

『……!』

「っ!」


 背後に姿を見せ、ドレイクの尾を掴むグラオ。掴むと同時にドレイクを得物えもののように振るい、ラビアに叩き付けて下方へ落下させた。

 勢いよく落下した一人と一匹はそのまま地に叩き付けられ、粉塵に飲み込まれて姿が消え去る。


「"悪魔の足(イブリース・カダム)"!」

「オラァ!!」


「最後は君達か」


 魔力を込め、杖を振るって巨大な黒い足を放つアスワド。ジャバルは加速を付けて力を込め、隕石の如く蹴りを放った。

 それらを一瞥したグラオは小さく言い、その二つを正面から受ける。そして魔法の足を消し去り、ジャバルの足を掴んでいた。


「……ッ! やべ……!」

「そう、ヤバイね」

「……ッ!」


 反応するジャバルを無視し、片足を放って遠投するグラオ。ジャバルは第二宇宙速度程の速度で真っ直ぐ飛び、ほうきに跨がるアスワドと正面衝突した。

 そのまま吹き飛び、何時の間にか上空へと姿を見せていたグラオが灰色の長髪を揺らして踵落かかとおとしを放つ。二人は蹴り落とされ、爆発を彷彿とさせる土煙が舞い上がった。


「さて、これで全員吹き飛ばしたかな。けど、直ぐに起き上がるんだろうな。特にヴァンパイアと斉天大聖と龍は」


「正解だ。私は直接日に当たらなければ問題無いからな」

『俺は、普通に身体が頑丈だからだ』

『俺は龍だからだ』


 腕を組み、周りを見渡していたグラオに向けて話し掛ける三つの影。

 先程吹き飛ばしたエマ、ドレイク、孫悟空が戻ってきたのである。それを既に予想していたグラオは特に反応を見せず、相変わらず女体化した姿で腕を組んでいた。


「やっぱりね。まあ分かっていたけど。それより、胸って腕を組んで乗せていたら少し楽だね。また新しい事を知ったよ」


「私たちの存在は完全に眼中に無いか。胸が邪魔なら、男の姿に戻れば良いじゃないか。ハンデなど要らん」


「ハハ。ハンデありでこの有り様さ。一噌いっその事、年老いたり子供の姿で戦って上げようか? それならやり易さはあるでしょ?」


「トコトン私たちを舐め腐りきっているな。気に食わん」


 エマたちを前にしても、関係の無い事を話して軽薄に笑うグラオ。それは完全に挑発と理解出来ているが、面と向かって言われると腹立たしくなるのだろう。故にエマは苛立っていた。


「じゃ、老化や若返る事は無しにしておくよ。後悔しても遅いからね?」


「抜かせ。さっさと男の姿に戻し、それなりの力を使わせてやる」


 組んでいた腕を解き、髪を触って払うグラオ。指と指の間に長髪をすり抜けさせ、サラサラと流れるように揺れた。

 それも挑発行為と分かっている。相手のペースに乗せられては元も子も無いので、次は何とかこらえてグラオに向き直った。


「「……!」」

「「……!」」

『『……!』』


 ──その瞬間、突如として森を吹き飛ばす程に大きな爆発が起こり、エマたちとグラオの前に一つの影が姿を現した。


「む? 此処も外れか。無駄に広く作ったものよのう、カオス。本人は女体化して遊んでおるのが腹立たしい」


「ハハ。そう言わないでくれよ。支配者さん?」


「まさか……!」


 ──そこに姿を見せたのは、少々機嫌が悪い様子で人化した状態のままの支配者。

 その言葉からするにライを探していたみたいだが場所が分からず、適当に暴れながら進んだ結果エマたちの元に到達してしまったのだろう。

 グラオ一人でも手を焼いているというのに、支配者まで加わっては勝算は絶望的である。


「仕方無い。こんな所で暴れている奴等も腹立たしいからの。纏めて始末しておくか」


「オイオイ、僕の獲物を奪わないでくれるかな?」


 理不尽な事を口走り、エマたちに向けて構える支配者。グラオは一瞬支配者を睨み、此方も横取りされまいとエマたちに構える。

 少々どころでは無く、かなりマズイ状態。エマたちとグラオ、支配者の戦闘は嫌な次のステージに移った。



*****



 ──"九つの世界・世界樹ユグドラシル・第一層・アースガルズ"。


「……? 何か、向こうから凄い轟音と爆発が響いているな……。一度や二度じゃなくて、複数回だ。それに、嫌な気配も感じる」


 "アースガルズ"を探索し、兵士たちを探していたライは遠方から聞こえた爆発を感じていた。

 一回二回ならばちょっとした戦闘であるかもしれないが、今回はそんなに生易しいものではない。それに加え、威圧感が此処まで届く程の実力者が居るという事も分かる。

 嫌な気配も感じ、つまるところかなり遠方の様子が気に掛かっていた。


【クク。どうする? もしかしたら、テメェが思う最悪の事態になっているかもしれねェな?】


(……。ああ、そうだな。そろそろ俺たちを見つけて支配者クラスが来ていてもおかしくない。まだもやもやが残っているけど、そんな事を言っている場合じゃないな)


 その気配を前に、ライを促す魔王(元)。

 ライはまだ身内の事を割り切れていないが、仲間も身内と同じくらい大切に思っている。故に、それを断る理由など無いのだ。


「じゃ、行ってみるか」


 そのまま踏み込み、第三宇宙速度程に加速して進むライ。仲間がピンチならば、なるべく早く到達したいというもの。なので相応の速度を出していた。

 九つの世界・"世界樹ユグドラシル"。そこの第一層にて、ライが向かう事で第一層に居る主力クラスの大部分が集おうとしていた。

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