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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第三章 最初の街“レイル・マディーナ”
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四十九話 ライvsゾフル・決着

 ──"レイル・マディーナ"、近隣の森にある湖。


 魔術と超能力を駆使し、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人とオスクロ、ザラーム、キュリテの三人はライの傷を治療した湖に辿り着いた。


「この湖が……」


 辿り着いたその時、キュリテが湖を見て感嘆の声を上げる。

 やはり女性ということもあり、美しいモノに興味があるのだろう。

 それに加え、オスクロ、ザラーム、キュリテが捕まっていた時は、湖から少し離れた場所だったので目にする事が無かったのだ。つまりキュリテ達は初見という事である。


「…………。おっと、そうだった。……で、どうすりゃ良いんだ?」


 ザラームもしばし湖に目を奪われていたが、気を取り直してリヤンにどうするかを尋ねる。


「え……と……傷口を湖の水に浸ければ……」


 ザラームに聞かれたリヤンは、傷を治す方法を教える。特に何もしなくても良い事。どういう原理か、傷口を浸すだけで治療されるのだから。


「良し。じゃあ、そのまま突っ込んでも良いんだな!?」


「え……? ……う、うん……」


 ザラームに続き、オスクロが必死の形相でリヤンに言う。そんな表情を見たリヤンは一瞬驚くが、直ぐに返事をした。

 そして瀕死のダークを湖に入れようとしたとき、キュリテが止めるように言う。


「ちょ、ちょっと待って!」

「「……あ?」」


 キュリテの声に反応するオスクロとザラーム。"こんな時に待ってられるか!"的な表情をしている二人に向かい、キュリテは言葉を続ける。


「……それって……ダークさんが窒息しない?」


「「…………あ」」


 素っ頓狂な声を漏らすオスクロとザラーム。

 言われてみればそうだろう。湖の中には地上の生物が生活できる程の空気は無い。

 なのでこのまま湖の中にダークを放り込んだ場合、直ぐに意識を取り戻せなければ最悪、ダークは窒息死してしまうのだ。


「……確かにそうだな……。人魚や半魚人のハーフならまだしも……ダークの奴は魔族の純血だぞ……?」


「クソッ……! どうすりゃ良いんだァ!?」


 悩むオスクロ、ザラーム、キュリテ。

 未だに炎は燃え続けている為、早く炎を消して治療を施さなければダークは死に。治す事優先で湖の中に入れた場合、窒息死してしまう可能性がある。

 どちらを取ろうが、どちらにも死のリスクが降りかかるジレンマ。

 オスクロ達は、この湖の治療速度を知らない。

 仮に傷が癒えたとしても、引き上げるのが早過ぎれば傷が直ぐに開き、流血を止めるものも無いので出血死してしまい、遅過ぎれば先ほど述べたように窒息死してしまう。

 そんな風に悩む様子の三人を見、フォンセが提案する。


「……なら、水魔術と風魔術を組み合わせて空気の入った球を創り、そいつの口元に当てれば良いんじゃないか?」


「「「…………!!!」」」


 フォンセはいつか海底を進んだ時に使った、水の中でも空気を得る方法を提案する。

 水の球体を創り出し、それに風を送り込む事によって空気を水の中でも得る事の出来る方法だ。


「その方法は良いんじゃねェか!?」

「よし……! 早速創るぞ!」


 そして早速その作業に入るレイたち四人とオスクロ達三人。

 今回は口元サイズなので小さいのと、風魔術を中心に使う"魔術師"と、あらゆる現象を起こせる"超能力者"が居た為、容易にそれを創る事が出来た。

 あとはダークの口元にそれを持っていくだけだが、未だに燃え続けているので中々近付けないでいた。


「さて……どうするか……」

「この湖に治療効果があるなら……」

「ちょっとした火傷くらい……!」


 オスクロ、ザラーム、キュリテは自身を犠牲にしてダークにそれをはめようかと悩んでいた。

 それを見たエマは三人を一瞥し、やれやれと前に出て言う。


「……ハア……。ならば私がやろう。私はヴァンパイアだからな。少しの傷など痛くも痒くも無い」


 それはエマがダークに水と風を合わせたボンベをはめるという事。確かにヴァンパイアならばちょっとした火傷など何とも無いだろう。

 その様子を見たレイは提案する。


「じ、じゃあ、私がこの剣で炎の威力を抑えるよ!」


 レイはエマの負担を減らす為に、自身の持つ勇者の剣を使用して炎の威力を弱らせると言う。

 レイの剣は振るうだけで森を断つ事が出来る。なので力を調整すれば炎の威力のみを抑える事も出来ると考えたのだ。


「なら……俺もだ。刀で炎を弱めるのは朝飯前だからな?」


「……ふふ、そうか……分かった。頼んだぞ。レイに魔族の刀使いよ」


  それを見たザラームも名乗り出、それを聞いたエマも了承する。

 そして剣と刀を使い、炎の威力を一瞬だけ弱らせたあとエマが魔術と超能力で創られたボンベをダークの口元に嵌める。仕上げにオスクロとザラームが湖へダークを放り込んだ。

 ザパーン。と、水にモノが入る音が辺りへ響き渡り、こけの生えた岩や近くの木々を濡らす。

 あとはライの勝利を待つレイ、エマ、フォンセ、リヤンと、ダークの復活を待つオスクロ、ザラーム、キュリテだった。



*****



 ライとゾフルは同時に跳躍した。

 その衝撃によって更地が再び消し飛び、粉塵と共に大きなクレーターが造り上がる。


「馬鹿め! 炎と雷を使って空を飛べる俺に空中戦を挑もうってのか!?」


「んなこと知るか……!」


 空気を踏み、空中で身を捻りつつ回し蹴りを放つライ。ゾフルはそれを受け止め、受け止めた掌から電流を与える。


「食らいやがれッ!!」


「……ッ!」


 バリバリと、激しい電流によってライは一瞬怯むがゾフルを蹴って距離を取り、地面に着地する。


「イテテ……。やっぱ使うか? ……いや、自分でやろう……」


 ライは無効化の能力がある魔王の力を使うか一瞬考えるが、今は使わないで置こうという結論に至る。


「ククク……どうだ? 俺の電撃はよォ……?」


 そしてゾフルも着地し、歩きながらライに向かって言う。

 それを聞いたライは少し考え、


「そうだな……『ほんの少し』……痺れた程度だ」


「……あん?」


 挑発を交え、全く効いてなかったかのように言った。挑発に乗り安いゾフルは口角を吊り上げ、言葉を続ける。


「じゃあ……もっと食らわせてやるかァ……!!」


 一瞬にして速度を雷速まで上げたゾフルはライ目掛けて空気を痺れさせながら向かう。

 それはさながら一筋の閃光のよう、そんなゾフルの姿を捉えるのは至難の業だろう。


「出来るか……?」


「…………がッ……!?」


 ──が、しかし、ライは雷速ならば容易く捉える事が出来るので、向かって来るゾフルに上段蹴りを食らわせるのは容易な事だった。

 顎を蹴り上げられたゾフルは動きが止まり、棒立ちの状態で空を見上げる。


「ほらよ……!」

「……ガハッ!?」


 そのまま腹部に蹴りを放ち、ゾフルを吹き飛ばすライ。

 その蹴りによって飛ばされたゾフルは木々や建物を貫通し、砂を巻き上げながら遠方に消えた。


「……」


 それを確認したライは追撃する為にゾフルの後を追い掛けて行く。一方のゾフルは何とか体勢を立て直していた。


「クソ……!」


 足と片手を地面に突き刺し、それを軸にして勢いを殺すゾフル。そしてその顔を上げた時──


「まだだァ!!」


 ──ライは拳を突き出してゾフルに急接近していた。


「クソヤロ……!!」


 ゾフルは自身の速度を雷速に上げ、紙一重で何とかそれをかわす。

 通り過ぎる際に風圧がゾフルの髪を揺らし、頬に小さな傷を付けた。


「言っただろ? 雷速程度なら軽く捉える事が出来るってな?」


 ライはゾフルを見ながら両手を広げ、確認を取るような素振りで話す。

 口調はからかっているような軽い感じだが、ライの目は笑っておらず射抜くような瞳だった。


「ハッ、そうだな。少し……油断した……!」


 対するゾフルは鼻で笑い、自身の不甲斐なさを馬鹿にするような口振りで言葉を続ける。


「少なからず……お前"も"幹部を倒しているんだ……。幹部レベルの実力があるって事を忘れていた。その見た目はまんまガキだからな。……油断はいけねェ事だったなァ?」


 油断し過ぎた。と自虐交じりに言葉を続けたゾフルは片手を自分の前に突き出す。


「つー事で……油断はしねェ……闇雲に近寄るんじゃなく、遠距離からチビチビ攻めるとすっかァ……」


 次の瞬間、紅蓮の炎をライに向かって放出した。


「まあ、それが良いかもな?」


 ライはほとんど微動だにせず、顔を少し反らすだけでゾフルの炎を避ける。

 標的に当たらなかったゾフルの炎は突き進み、ライの背後を火事にした。その熱量は凄まじく、近くに居るだけでその熱さを感じる程だ。


「オイオイ……自然を破壊するなよ?」

「テメェが言えたことか?」


 ライが苦笑を浮かべてゾフルに言い、ゾフルはライに返す。

 そしてそんなやり取りを終えた後、直ぐ様二人は攻撃を仕掛け合う。


「アンタが遠距離なら、俺はその距離を縮めれば問題無えよな……?」


「ハッ! そうかもな! 近付ければ……の話だがなァ!?」


 大地を蹴り砕き、音速を超越した速度でゾフルに向かうライ。距離によって不利になるのなら、それを縮め不利になら無ければ良い。実に簡単な事である。

 そんなライに向け、ゾフルは両手を突き出した。


「死ねェ!!」


 それと同時に放たれた灼熱の轟炎と目映まばゆい光を放ついかづちはライを目掛けて突き進む。

 深紅の色と少しの黄色を織り交えた青白い光が混ざり合い、失明しそうな程の光は真っ直ぐライに狙いを定めていた。


(少し眩しいが……)


 ライは目を細めながらその軌道を読み、二つの技を掻い潜る。それらは背後に当たり、背後にあった木々を焼き尽くす。


(それだけだ……!)


「…………!」


 そしてライはゾフルに向かって回し蹴りを放ったがしかし、ゾフルはしゃがみ込んでそれをかわす。

 そんな空気を切ったライの脚が通った場所には砂埃が舞い上がる。


「今だァ!!」


 しゃがみ込んだゾフルは直ぐに立ち上がり、片手から炎、もう片手からいかづちを放出してライに掴み掛かる。


「……ッ!」


 そして届き、力強くライの両肩を掴むゾフルはニヤッと笑って一言。


「捕まえたぜ……死ね!!」


 刹那、ライの全身に数千度の炎と数億ボルトを超越した電流が超高速で駆け巡った。


「────ッ!!!」


 通常ならば消し炭になってしまうほどの攻撃を受けたライは思わず叫びそうになる。

 それを見たゾフルは勝ちを確信したような、それ程に邪悪な笑みを浮かべて言う。


「クハハ!! 痛みをこらえてねェで!! さっさと叫び声を上げろよォ!! ガキなんだからなァ!! 泣いても良いんだぜェ!!?」


 そんなライの様子を見、心の底から楽しそうに高笑いをするゾフル。二つの攻撃を受けながら、ライは何とか言葉を発する。


「……ッ! ハッ……! 抜かせ……! どうせお前の攻撃は……星を砕ける訳じゃねえんだろ……?」


「……あァ?」


 ライの言葉を理解していない様子のゾフル。それを無視し、ライは歯を剥き出しにしつつフッと笑って言葉を続ける。


「この俺に……一撃でもダメージを与えたけりゃよお……。山河や天地を砕く『程度』の……自然でも出せるような攻撃じゃなく……支配者や神や勇者や……魔王が出すような……! ──世界を……星を……宇宙を……!! 『全てを粉々に粉砕するような攻撃』でもしてみろッ……!」



 ──刹那、ライはゾフルの腕を弾き、数千度の轟炎と数億ボルトのいかづちから抜け出した。



「なにッ!?」


 ゾフルは困惑の声を上げる。

 先程も述べたように、ゾフルが放っていたのは触れた者を一瞬で消し炭に出来る攻撃だ。常人なら数秒も持たずに死に行くであろう攻撃。


「ハッ……ちょっとは痛かったぜ……?」


 それを受けてもなお、ライは軽い火傷や擦り傷程度の負傷しか受けていなかった。

 ライはゾフルに放った言葉を続ける。


「そして……俺とお前の距離は僅か数センチ程度……これなら……『確実に俺の攻撃がアンタに当たる』……!!」


「…………!?」


 そう、ライは始めから、『確実にゾフルを仕留める方法を考えていた』のだ。

 いくら魔王(元)を宿し、魔族の中でも上位に食い込む実力があったとしても忙しなく動く者に攻撃を当てるのは少々面倒である。

 なので、ゾフル本人が自分の近くに来る事、尚且なおかつ確実な一撃を与える事が最優先だった。


「見せてやるよ……のちに世界を支配する俺の、本当の力って奴をなァ……! (オイ、魔王。トドメは俺でも刺せるが……お前も攻撃をしたいだろ?)」


【ああ、良いぜ。どのみちお前の勝ちは確定してんだ。いっちょ俺の力も……冥土の土産に見せてやるか……】


 そして、ライの片腕に漆黒の渦が纏わり付く。

 ライは自分の力だけで良いと言ったが、トドメを刺すだけならば魔王(元)を使っても良いか。という考えだったのだ。


「て、テメェ!! な、何なんだ!? その腕に纏わり付いているモノはよォ!?」


 ゾフルも二度目にして、ようやくライへ纏わり付く漆黒の渦に気付いた。

 ──が、もう既に遅かった。『遅過ぎた』。ライは最後にフッと笑い、ゾフルに一言。



「…………元・魔王だ……!!」



「────────!!!!!!!!」



 ──その刹那、ゾフルが……『消し飛んだ』。



 ライは魔王を片腕だけに纏い、ゾフルを殴り付けた。

 それによってゾフルは、この世から消滅したのだ。

 因みに、ライとゾフルが居たこの場所は斜面にあった為、魔王(元)を纏って放った一撃はこの世界を一周する事すら無く、遥か上空へ飛んでいく。

 その衝撃は宇宙の星々を砕き、何処までも何処までも……止まる事無く飛んでいったという。

 ゾフルは最期に何かを叫んでいたが、ライの耳にその叫び声は届く暇が無かった。

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