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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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四百八十九話 フヴェルゲルミルに居た主力

 ──"九つの世界・世界樹ユグドラシル・第三層・フヴェルゲルミル"。


 水気を多く含んだ泉地帯の一つ、"フヴェルゲルミル"。ドラゴンとワイバーンは敵か味方か定かでは無いが、感じる気配に向けて直進していた。

 この広い"世界樹ユグドラシル"にある広い泉。二匹はそれなりの速度で移動し、泉の水を周囲に巻き上げながら加速する。本来は移動するに当たって泉の中を通ると時間が掛かるのだが、翼のある二匹は全くの別。移動するだけでその余波が広がり、爆発的に水を巻き上げる事を除けば楽に進めていた。


『しかし、泉の向こう側とはな。翼のある兵士たちは多いが、歩行移動を行う者たちもそちらへ向かったのだろうか』


『さあ、そればかりは支配者の俺でも分からない事だな。乗せて行くというやり方があれば、泳ぐという方法もある。この低気温の中で泳いだら命の危機があるが……治療のやり方もあるから不可能ではない』


『結局、何もかも分からないという事か。しかし、それが普通。敵が元々そこに陣取っているだけという可能性もあるからな。難しいものよ』


 もう一度翼を羽ばたかせ、更に二匹は加速した。

 その衝撃が青い洞窟のような泉地帯を大きく揺らし、周囲に衝撃を走らせる。空気がそれに伴って纏割まとわり付き、ソニックブームを起こして進む。近くに生き物が居たら、それに巻き込まれ死してしまっていたろう。当然生き物が居たら二匹も速度を緩めるが、居ないというのは兵士たちを探し易くなるので中々に有り難いものだった。


『さて、そろそろ向こう岸に到達する。敵が来るか味方が居るか、二つに一つだ』


『どちらでもない両立の立場が居るかも知れん。他にも様々な線がある可能性はほぼ無いが、限りなく0に近い可能性を含めたら選択肢は無限だ』


『それはかなり面倒だな。やはり選択肢は敵か味方かだけで良いだろう』


『奇遇だなワイバーン。俺もそう思っていたところだ』


 対岸に辿り着き、二匹は翼の羽ばたきで勢いを殺す。それによって背後の泉が割れるように舞い上がり、周囲の氷からなる岩肌に水を打ち付けた。そのまま辺りは静まり返り、少しだけ辺りを見渡した後二匹は先へ進む。

 それからほんの数分で生き物の気配がより強くなる場所に到達した。敵か味方か、その答えは分からないがこの先にそれがある事は確定だろう。


『これは、俺たちが思うよりも厄介な状態みたいだ』


『ああ。殺気で溢れ返ってやがる。敵か味方か……その両方だったみたいだな』


 そこは、高台だった。下方に続く崖が見え、地面とは数十メートル程の高さがある。

 そしてそこで行われていた事柄から、ドラゴンとワイバーンは頭を抱えてため息を吐く。


『『『──ギャアアアァァァッ!』』』

『『『──ガギャアアァァァッ!』』』


 ──武装した幻獣と魔物、そして妖怪達が激しい争いを繰り広げていたのだ。

 両者の爪と爪。妖怪の刀と幻獣たちの爪がぶつかり合って火花が弾け散り、その巨体を持ってして体当たりを行う。その衝撃は岩石を砕き大地を抉る程だったが、互いにこたえた様子はなさそうだ。

 となれば戦闘は続行される。弾かれた身体を捻り、巨腕を叩く幻獣。魔物と妖怪はそれを受け止め、周囲に衝撃を散らす。次いで幻獣の懐へ刀を差し込む妖怪だが頑丈な鉄の鎧を纏っている幻獣兵士は身体を反らし、刀に鎧をぶつけてダメージを防ぐ。それによって幻獣、魔物、妖怪はその場を離れて互いに向き合っていた。


『見たところ、幻獣たちの方が押されているな。数でも圧倒的に不利なようだ。生物兵器が居ないのは幸いだが、このままでは部下兵士たちがやられてしまう』


『ああ。急いで下方へ降り立つとしよう。話している時間すら勿体無い。ところでワイバーン。着いて来れるな?』


『誰にその口をく。我は仮にも幹部にしてお前と同じ龍族だ。あの程度の群れ、容易く薙ぎ払う事が出来る』


『そうか。俺が聞いたのは愚問だったようだ。反省しなくてはならないな』


 互いに交わし、一度の羽ばたきで空中に浮かんで一気に下降する二匹。その瞬間に音速を超え、ソニックブームで崖を抉りながら落下する。

 一方で押されている兵士たちに視線を向け、その速度のまま魔物と妖怪の間を突き破った。


『『『…………!?』』』

『『『…………!?』』』

『『『…………!?』』』


 その三種族は、全員が同じ反応を示す。突如巻き起こった旋風と共に魔物と妖怪が吹き飛ばされたのだから当然だろう。

 何がなんだが理解出来る筈も無く、その瞳を見開き風の出所へ視線を向ける事しか出来ていなかった。


『よく堪えてくれた、我が同胞たちよ。少し休み、受けた傷を癒すと良い。これからは俺たち……いや、我ら支配者と幹部が敵の相手を努めるとしよう』


 ──その声が聞こえてくるまでは。

 それによって魔物兵士と妖怪兵士達は見て分かる程に青ざめ、幻獣の兵士たちからは割れるような歓声と共に雄叫びが聞こえてきた。


『し、支配者様と幹部様だァッ!』

『ドラゴン様! ワイバーン様!』

『御無事だったのですか……! それは良かった……! これは良い知らせです!』

『や、やった……! これで魔物と妖怪との戦闘が一段落付くぞッ!』


 ドラゴンとワイバーンを前に、各々(おのおの)で歓喜する幻獣兵士たち。支配者というものは絶対的な存在。故に、味方として参戦してくれるのならば言葉では言い表せぬ程の頼もしさがあるのだ。


『クッ……! 退け……! 退けェ!! 者共ォ!!! 相手が支配者と幹部では分が悪い!!! 優先だった我らの戦況は今この瞬間、不利なものへと変化した!! 相手するだけ無駄だァ!! 我らの主力をお呼びするんだァ!!!』


『『『お……オオオオオオ!!!!』』』


 ドラゴンとワイバーンを前にした瞬間、敵陣は蜘蛛の子を散らすように退却する。前述の通り、それ程までに絶対的な存在である支配者と幹部。

 彼らを前にした魔物と妖怪の兵士達は逃げ出しつつ主力を呼ぶと言っていたが、先程までの戦闘では主力格は参加しなかったらしい。

 確かに数十の兵士たちを相手に、態々(わざわざ)主力が戦闘に参加していては弱い者イジメもいいところだ。魔物の国の支配者はどうか分からないが、敵の幹部格は基本的に正々堂々とした戦闘を望んでいるので参加しないだろう。

 かくいうドラゴンとワイバーンも敵が逃げるのならば戦闘はしないと決めていた。実際、まだ地に降り立っただけだ。その余波で相手の兵士達が複数吹き飛んだが、いずれにしても致命傷にはなっていない。

 何はともあれ、部下たちが危機にひんしていなければ戦闘の邪魔をするのは無粋だろう。しかし今回は戦争という口実なので、そんな事も言ってはいられないモノであるが。


『さて、相手の主力の方は一先ず置いておこう。負傷兵はどれくらいだ? 後あまり考えたくないが、もしも居るなら死傷者もだ。さっきも言ったように、此処からは我らが敵の相手をうけたまわる。いつ頃から戦闘をおこなっていたのか分からないが、数時間前でも数分前でも疲れはあるだろう。戦闘というのはそういうものだ』


 そんな主力の事は一先ずき、兵士たちの身を案ずるドラゴン。先程まで戦闘が行われていたので、それによる疲労や怪我などを心配しているようだ。

 例え数分程度の戦いだろうと、身体が傷付けばそこから様々な不調がもたらされる。

 傷付いた直後は痛みで動きにくくなり、細菌などが入ればそこから更に悪化するばかりである。なので戦闘直後の傷具合が一番重要なのだ。


『はっ! それなりの傷を負った負傷者や一時的に戦場を離れた離脱者はいますが、死者はおりません!』


 敬礼し、今の状況を説明する幻獣兵士。どうやら死者はいないらしい。それは吉報だ。しかし負傷者は居るらしいので、完全に安心は出来ない事だろう。ほんの僅かな傷によって今後に大きな影響が与えられる前列は多数あるのだから。


『そうか。なら負傷者を安全なところへ。いや、他の主力たちの所……"ニヴルヘイム"に戻ってくれ。俺は此処に残る。ワイバーンは兵士たちの安全を確保しつつ追尾してくる敵の相手をしてくれ。敵が先程の兵隊だけとは限らぬからな』


『ああ、了解。主力格とも戦ってみたかったが、我はそれ程好戦的という訳でも無い。引き際はしかと心得ている。ドラゴン(お前)が退けというのなら、それに乗ってやろうではないか』


『ああ、感謝する。上に居る他の者たちへも手短に説明をしてくれ』


 ドラゴンの言葉へ頷き、他の兵士たちを先導するワイバーン。あまりに傷が酷い者は自身の背に乗せ、根元の上。すなわちドラゴンたちが始めに来た氷の国"ニヴルヘイム"に戻って行く。

 敵が主力で戦闘が行われるのならば、その余波だけで負傷者が死してしまう可能性があるからだ。なので最も安全であろう、他の主力や兵士たちが居る地上に戻そうと考えたのだ。

 別動隊として行動していたドラゴンとワイバーンは、再び一時的に分かれる事となった。



*****



 それから数分後。ワイバーンと兵士たちが"フヴェルゲルミル"から離れた時、ドラゴンの前に魔物兵士と妖怪兵士。そして彼らが引き連れている主力が姿を現した。

 寒い中待ちくたびれたドラゴンは軽く欠伸あくびをし、緊張感の無い態度で主力たちを前にする。


『成る程、ニーズヘッグと大天狗か。両者共にかなりの力を誇る主力と聞く』


『ハッ、他の奴らが居ねェな。テメェが逃がしてやって、自分テメェ一人だけが此処に残ったっー事か』


『私たちも随分と舐められたものだな。……いや、支配者が残ったという事は舐めているという訳でも無さそうだ』


 呼ばれた主力。"世界樹ユグドラシル"の根を噛み続ける蛇、ニーズヘッグと天上世界を一瞬で滅ぼす事も可能な神通力を秘めた妖怪、大天狗。

 両者共に支配者クラスの実力があり、世界でもかなり上に来る強さを秘めた者だった。


『そう言えば、"世界樹ユグドラシル"のニーズヘッグは何処かをねぐらにしていると聞く。それが此処か?』


『まあそうだな。実際此処は偽物の"世界樹ユグドラシル"で創られた場所に過ぎねェが、やはり居心地の良さはある』


 ふと、ニーズヘッグの姿を見て話すドラゴン。ニーズヘッグは元々"世界樹ユグドラシル"に棲む蛇。なので何処かに本来は棲み家だった場所があるのではと思ったのだ。

 だからどうしたと返されたのなら何も反論する言葉は出ないが、ニーズヘッグはそうであると返す。通常の"世界樹ユグドラシル"ならば元々棲んでいた場所で、そこから根元を噛み続けていたのだ。

 因みにこの話をした理由は、当然ある。世間話をする事で油断を誘い、ついでにワイバーンたちが避難する時間も稼げるのでこう言った話は何気に重要な事である。


『ニーズヘッグ殿。いちいちそんな質問に返さずとも良いだろう。此処は戦場。不意討ちされても文句は言えぬ場所であるぞ。一瞬だけ、隙が生まれていた。ニーズヘッグ殿の力は私も知っているが、相手は支配者。その油断で数十回は死んでいたのではないか?』


『おっと、そうだった。相手のペースに乗せられちまったぜ。支配者となれば、一瞬で数十回殺す事など容易い所業。大天狗が居なければ俺は意識を奪われていたかもしれねェ』


 大天狗に注意を促され、構えを改めて気を引き締めるニーズヘッグ。

 そう、ニーズヘッグが話している時にドラゴンが不意討ちをしなかったのはそこに大天狗が居るので、それを実行すれば確実に阻止されていたから。逆に自分に隙が生まれてしまうのでそれをしなかったのだ。

 大天狗が居なければ、この戦いは既に終了していたかもしれない。


『ふっ、随分とあっさり見抜かれてしまった。元々不意討ちというやり方はあまり好かんが、場合が場合だからな。仕方ない。正面からお前達全員を相手してやろう』


『多勢に無勢。それは気に食わぬが、幻獣の国の支配者であるドラゴン殿が相手ならばそれくらいで丁度良いか。ニーズヘッグ、兵士達。今回は相手の言葉に乗り、数と質。両方で押すぞ』


『ハッ、分ーったよ。俺も一対一サシりたかったが、大天狗にはさっき救われた。それに乗ってやる』


『『『ウオオオオォォォォォッ!!』』』


 ドラゴンが挑発するように言い、それに便乗する大天狗とニーズヘッグ。プラス多数の兵士達。

 衰えているとはいえ、支配者という事実に変わり無し。相手がそれをみずから誘うのならば、それに乗って戦況を有利にした方が良いと判断したのだろう。

 泉地帯"フヴェルゲルミル"で、幻獣の国支配者のドラゴンvs魔物の国の幹部ニーズヘッグ。百鬼夜行の幹部大天狗。その他魔物・妖怪兵士達数百匹の戦闘が始まろうとしていた。

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