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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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四百八十七話 氷の国

 ──"九つの世界・世界樹ユグドラシル・第三層"。


 兵士や仲間たちを探しながらも高速で移動していたドラゴンたちは、第二層と比べてより一層寒さが目立つ更に薄暗い場所に出てきていた。

 そう、此処──第三層。

 第三層は元々死の国"ヘルヘイム"、氷の国"ニヴルヘイム"、炎の国"ムスペルヘイム"などのように暗い国が多い。なのでその国々の感覚が直に伝わりこの様な雰囲気をかもし出しているのだろう。

 植物の殆どは寒さ故に枯れ果てており、樹木は木その物が凍り付いた白い樹氷となっていた。しかし寒いは寒いが雪などのような物も無く、あるのは内部に光が反射して暗さの強くなった氷のみ。溶けない程に寒いからこそ、長年の光が籠ったのだろう。

 最も、この"世界樹ユグドラシル"は即席で創られた物なので長い月日が経過した様子を再現したに過ぎないのだが。


『此処に来て、随分と寒くなった。体感温度が一気に低下したな。第三層……分かっていた事だが、かなり暗くて寒い場所だ』


 凍り付く暗い氷点下の世界を見渡し、ドラゴンがワイバーン、フェニックス、猪八戒。そして自身の連れる数百匹の兵士たちに向けて話した。

 それを聞いていた主力の二匹と一人はドラゴンの言葉に反応を示して辺りを見渡す。そして感じる事が一つだけあった。


『それにしても、少し寒過ぎはしないか? ここには死の国、氷の国、炎の国がある。体感では、少しばかり死の国や氷の国の影響が大きく出ているような……』


 それは、その気温。

 此処に存在する世界が一つを除いて寒いという事はおおむね理解出来るが、それにしても寒過ぎるのだ。

 そう、まるで既にこの場所が氷の世界へと化しているかのように。

 その言葉を聞いたドラゴンは首をとある方向に向け、ワイバーンたちに向けて話を続ける。


『その考え、恐らくその通りだろうな。見てみろ、あの場所を。恐らく彼処にこの世界に存在する何かの国がある』


『『『…………!!』』』

『おお……!』

『これは……!』

『なんと……!』

『光……?』


 ドラゴンが目線で指す場所。そこを見たワイバーンたちは大きな反応示し、兵士たちは思わず声が漏れる。遠くてよく見えないが、その場所は青白い輝きが放たれていたのだ。

 ただの光ならまだしも、こんな暗い世界に存在する青白い輝き。明らかに異常だろう。ドラゴンたちは更に速度を上げ、直ぐ様そちらへ向かう。


『ふむ、予想通りの国だな。何処までも青く、透き通っている。しかし暗く、分厚い多数の氷が存在する──氷の国・"ニヴルヘイム"だ』


 氷に包まれ、国その物が氷と化した場所、"ニヴルヘイム"。

 この国は第三層に存在するもう一つの国である死の国、"ヘルヘイム"と同一視される事もある。だが此処は死者の国という訳では無く、ただ本当に氷だけの国だった。

 上から下まで全方位を氷が覆っており、建物のような建造物は全て凍っている。先程遠方から見えた青白い光はどうやら、差し込むかすかな光が反射し合って周囲に放出されたものが反映されただけのようだ。

 此処にある物はただ凍っているだけでは無く、不自然な凍り方で不規則な光の屈折が起こっているから周囲に大きく放出されているらしい。

 見方によっては氷だけで造られたこの街は美しい幻想的なものとも感じるだろう。儚く淡い青が国を多い尽くし、それによって生み出される輝きが彫刻のように整った街並みをより際立たせる。

 一つ一つの建物がガラスのように透き通っているので、光があらゆる方向から差し込み暗いながらも確かな視界を確保出来ていた。

 氷の国の氷の世界は、マイナス数十度の体感温度など忘れ去ってしまう程に壮大な景観だった。

 そんな、全てが氷像によって形成された街。もとい、国。ドラゴンたちは早くも九つの世界の一つである国の"ニヴルヘイム"に辿り着いたらしい。


『此処が"ニヴルヘイム"ですか。見た感想だけを述べるのならば美しい街ですね。私は身体が炎なので寒さもそれ程感じませんし』


『確かに美しさはあるが。如何せんこの気温だ。我らにとっては寒さもある。身体が炎なのは私生活に置いて使い道は無いが、こいう時は羨ましさもある』


『何だか、失礼な言い方ですね。こう見えて色々と役には立つのですよ? 炎も周囲に影響を与える事はありませんし』


『だから僕たちは寒いままなんだね……』


『知りませんよ。生まれついてこの身体ですからね』


 暫し氷の街並みに感嘆のため息と共に見惚れるフェニックスと、寒さを感じつつその言葉に返すワイバーン、猪八戒。兵士たちはその光景を眺め続けており、ついには言葉すら発さなくなっていた。

 だがワイバーンと猪八戒の言う通り、確かに見る分ならば十分目の保養となりうる美しさを秘めているが、一瞬寒さを忘れても直ぐに寒さを思い出してしまう。写真や映し出された映像として見るなら何の不具合や問題も無いのだが、見るだけというものとその場に居るという事は大きく違うのだろう。

 そのやり取りを横に、ドラゴンは一度翼を羽ばたかせて身体の方向を転換し、ワイバーンたちに視線を向ける。


『さて、感想など言いたい事は色々とあるだろうが、俺たちの目的はこの世界に来ているかもしれない兵士たちの捜索。かなり寒い街だが、もしかしたら此処へ居る可能性もある。基本的に幻獣には毛皮や分厚い脂肪があるからな。マイナス数十度ならば耐えられる者が殆どだろう』


 その内容は、兵士たちの捜索について。

 始めは脱出口を探すのが第一優先目標だったが、兵士たちが来ていると分かったので先へ進みつつ兵士たちを探すチームになったからだ。

 その為、街などのように目立つ場所があるのなら積極的にそこを捜索する必要があるという事である。

 それが目的と理解しているワイバーンたちから当然否定の言葉は出ず、ドラゴン、ワイバーン、フェニックス、猪八戒と兵士たち数百匹は氷の街へと足を踏み入れた。



*****



 ──"九つの世界・世界樹ユグドラシル・第三層・氷の国・ニヴルヘイム"。


 "ニヴルヘイム"に入ったドラゴンたちを向かい入れたのは、てつく冷風と依然として青く美しく輝く氷の街並みだった。

 遠方から見てあれ程の輝きを発していた街は近付くと目映さ故に眼を開く事すら難しいと思っていたが、どうやらそれは杞憂だったみたいである。

 輝きは絶えず放出されているが、それは眼にダメージを与えるような激しい光では無い。

 元々"青"という色自体が寒さを感じさせる寒冷色や人を落ち着かせる鎮静色のイメージが強く、実際眼に優しい色である。なので輝きが強くとも、特別に強い光と思わせる事も無いのだろう。


『さて、此処からは数手に別れて兵士たちを探すとしよう。幸いかどうかは分からないが、この街は青一色。我らの色合いからしてこの街では目立つ。敵が居ればそれは不都合だが、今のところ敵の気配は無い。各々(おのおの)で捜索し、街を見て回るのだ』


『『『はっ!』』』

『ああ、了解』

『分かりました』

『ブヒッ』


 ドラゴンの指示と共に、一斉に散らばる主力と兵士たち。

 気配は無かったが敵に遭遇した場合を想定し、ドラゴン、ワイバーン、フェニックス、猪八戒をリーダーした主力中心のチーム分けをしたのだ。これならば仮に敵と遭遇したとしても対抗出来、目立てば直ぐに駆け付ける事も出来るので街一つを探索するに当たって都合が良いのである。

 早速青き街の探索、捜索に取り掛かるドラゴンを筆頭にした幻獣たち。寒さはあまり変わらないが、体感温度を一気に下げる風をしのげるので建物の中を主に捜索していた。

 その理由には自分たちの寒さを凌ぐ為という事もあるが、他の兵士たちが来ていれば少しでも寒さを防げる場所に隠れていると推測したのでそこを探しているのだ。


『オイ、居ないか!』

『誰か居ませんか!』

『オーイ! 誰か!』

『オイ! 皆の者!』


 ドラゴンたちは四方に別れ、ワイバーンが北。フェニックスが南。猪八戒が西。ドラゴンが東を捜索する。

 一概に東西南北と言ってもその方向から建物の内部、隙間まで多種多様だが、大まかに別れた結果がそうである。それから数分後、ドラゴンが炎で溶かした一つの建物から影が飛び出してきた。


『ド、ドラゴン様!』

『支配者様!』

『おお、我らはまだ神に見放されていなかったか……!』

『いや、支配者様自身が神のような存在。見つけ出してくれたのは神では無く支配者様だ!』


 その数、数十の兵士たち。紛れもない本物で、この寒さ故にかなりの体力を消費している様子だった。

 しかしこの寒さなら当然。幻獣ではなく常人ならば既に凍死していた事だろう。風を防げる建物と分厚い毛皮に脂肪のお陰でドラゴンが来るまで死する事なく耐えられたと見て間違いない。


『オイ! 此処にも居たぞ!』

『此方もです!』

『ブヒッ! 此処にも!』

『『『我らも見つけました!』』』


『うむ! 一先ず一ヵ所に集め、火でもいて暖めてやれ!』


『『『はっ!!』』』


 その後、四方八方から掛かる声。

 近距離でも聞こえるのは街が小さいからでは無く、飛ばされて来た者は全員が近隣に避難していたみたいだ。

 なのでドラゴンも聞こえるような声音で主力たちや兵士たちに言い、暖を取らせるように指示を出す。魔法・魔術の得意では無い幻獣だとしても、中には炎を吐ける者や炎を生み出せる者が居る。だからこそ頼んだ事である。従来の獣は炎を苦手とするが、それは幻獣たちにはあまり関係の無い本能だった。


『それで、此処に居たのはお前たちで全員か? 他に何処かへ行った者とかは居るかどうかを教えてくれ』


『はっ! 実はまだおります! この国の近隣に呼び出された我らですが、先ずはこの国へ入りました。それから複数のチームに別れてこの国を探索。それが昨日の出来事です。貴方たちの捜索力ならばもう既にこの街に居る者たちはみな見つけた筈、なのでこの街に居ないとあらばこの国の何処かという事でしょう』


 ドラゴンの問い掛けに、自分の知る事を話す兵士たち。どうやら他にも兵士たちは居たらしいが、この国のこの街には居ないようだ。というのも、元々はこの街を探索していたのでこの国の別の場所になら居るかもしれないらしい。

 ならばやるべき事は一つ。半分の主力と兵士をこの場に待機させ、残りの主力と兵士たちで別の場所の探索だ。一国の捜索にたった半分の数というのは少々心許こころもとないが、昨日の夜に兵士たちが来たとして今はそれから数時間しか経っていない朝から昼に掛けての時刻。それ程遠くには行っていないと推測出来る。


『──という事だ。俺とワイバーンのチームで他の者たちを探してみる。お前たちは暫く暖を取っていてくれ』


『『『はい!』』』


 その事を主力と兵士たちに言い、再びチームに別れたドラゴンたち幻獣の国の主力と兵士一同。

 決められたチームはドラゴンとワイバーン。フェニックスと猪八戒。この両主力が中心的になったチームらしい。当然異論の言葉は上がらず、みながそれに同調する。

 その後、二手に別れた二チームは一方がこの場に残り、一方が再び街の探索へと向かった。



*****



 それから数分後、街の探索をしつつ兵士たちを捜索していたドラゴン、ワイバーンのチームは巨大な亀裂があり、一本の根が伸びている場所に居た。

 前方には巨大な亀裂が見え、霧が深くて見えにくいが何やらその更に遠方から熱気を感じる。対する根の示す方向は水気の含んだ気配。そんな、二つの地点にドラゴンとワイバーンは立つ。他の兵士たちは近くではあるが別の場所に居るので、これを見ているのは二匹だけだった。


『さて、ドラゴンよ。我らが向かうべき道は二つある。一つは前方の熱地帯。一つは下方の水地帯だ。どちらにする?』


『そうだな、よく見ればあの亀裂の幅は数百キロは下らない。いや、数千キロか数万キロか? 霧が深くてよく見えぬな。何はともあれ、兵士たちだけではあの亀裂を飛び越える事は不可能だろう。故に、下方に向かう』


『ああ、我もそう思っていたところだ。気が合うでは無いか』


 ワイバーンの問い掛けに、一瞬だけ考えて返すドラゴン。

 亀裂の向こうはドラゴンたちならば全力で飛行すれば数分。ドラゴンだけなら数秒で到達出来る距離だが、兵士たちの力量では数週間から数ヵ月は掛かってしまうだろう。なので居るとしたら下方の水気を感じる場所だと考えたのだ。


『そうと決まれば、さっさと向かうか。"ニヴルヘイム"近隣の街と場所……恐らく遠方の何処かに"ムスペルヘイム"があって、この下方に泉の一つがあるのだろう』


『そうだな。この下に行けば一時的に兵士たちから離れる事になるが、直ぐに戻るのならば無問題だ』


 二匹の龍は互いを見て頷き、一度の羽ばたきで飛行して根の方向へと向かう。水の気配を感じる事から、マイナス数十度でも凍らない水があるのか根元の方はこの場所よりも気温が高いと分かった。なのでそこに兵士たちが居ても凍死する事は無さそうである。

 根元の方へ飛び込む途中、ドラゴンは兵士たちを見て一言。


『皆の者! 俺とワイバーンは根元の奥に向かう! 何かあったら、直ぐに呼ぶように!』


『『『はっ! 分かりました!!』』』


 それは兵士たちへの確認。ドラゴンとワイバーンが居なくなれば、混乱が生まれてしまうかもしれない。なので自分のチームである兵士たちには教えておいたのだ。結果、兵士たちは大声で返す。

 それを聞いたドラゴンは安心して根元へと向かう。ドラゴンたち幻獣の国の主力一同。彼らは第三層の世界へ着き、氷の国に到着した。その一方で、ドラゴンとワイバーンだけが根元の最奥を目指して進むのだった。

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