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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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四百八十話 性別

「そらっ!」

『伸びろ如意棒!』


 煙の中から姿を現し、拳を放つグラオと正面から如意金箍棒にょいきんこぼうで迎え撃つ孫悟空。それらがぶつかり合った衝撃で周囲に砂塵が舞い上がり、二人がその場で停止した。

 その背後からドレイクが巨腕と鋭い爪で切り掛かり、アスワドが四大エレメントの魔法をもちいて攻め入る。


「良いね! 怒濤の攻め。それでこそ強者の在り方だ!」


 それらを全身を使って弾き、吹き飛ばす。そのまま跳躍して空気を蹴り、大地に拳を打ち付けて多数の土塊を造り出した。

 何をしているのか一瞬分からないが、横からうかがえるその不敵な顔付きから推測は出来る。


「ほら!」


 次の瞬間、その土塊を全て蹴りの風圧でエマたちに向けて吹き飛ばした。

 それは巨大な物から小さな物まで大小様々な土塊。それらが第三宇宙速度を超える程の凄まじい速度で進みつつエマたちを狙っていたのだ。


『フッ!』


 その土塊に尾を放ち、第三宇宙速度を超えた速度の土塊を全て弾き砕くドレイク。光の領域で戦闘を行える本人たちからすれば第三宇宙速度は取るに足らない速度。弾き返す事は容易く出来るのだ。

 土塊は逆にグラオの方へ向かい、本人は片腕を振るってそれを砕く。その影からヴァンパイアのエマが姿を現し、グラオをじっと見つめる。


「おっと、催眠か……」


 それが何なのか気付いたグラオは直ぐ様エマの腹部に蹴りを入れ、吹き飛ばすと同時に跳躍して距離を置く。そこに光の球が二つ送り込まれ、空中でグラオを光の爆発に包み込んだ。

 その衝撃と風圧が周囲に散り、視界を埋め尽くす砂が漂う。


「ダラッ!」


 その砂塵に姿を眩ませていたジャバルが突っ込み、空中で数回転すると共に威力の高めたかかととしを放つ。その踵は砂塵に包まれたグラオの頭に直撃し、そのまま下方へと落下させる。

 下では孫悟空とドレイクが構えており、いつでも仕掛ける事の出来る体勢へとなっていた。


「"妖術・爆炎の術"!」

『ハァ──ッ!!』


 落下するグラオに放たれるは、二つの爆発的な炎。落下したまま、その炎に飲み込まれるように沈んだ。

 もう一つの太陽を彷彿とさせる炎はかなりの高温で、あまりダメージが無かったとしてもそれなりの効果は期待出来そうだった。


「そこです!」


 そして、そこから、木陰に身を潜めていたニュンフェがレイピアを振るって魔法を放つ。

 その剣尖には炎が纏われており、ドレイクと孫悟空の生み出した炎がニュンフェの炎に縛られていた。


「炎の牢獄。と言ったところでしょうか。この程度で長時間抑えられるとは思いませんが、数秒でも稼げればやり様はそれなりにあります故……」


 二つの炎に合わせて作った、炎の牢獄。

 グラオならば脱出は造作も無さそうだが、支配者に匹敵する一人と一匹の炎に幻獣の国幹部の魔法が合わさったのだ。少なくとも数秒は抑えられると踏んでいた。


「なら、高い威力の一撃を食らわせるか……! "妖術・大炎槍"!」

『うむ、そうしよう……!』

「助太刀します……"四大元素(アルバァ・オンスル)"!」

「私も……"光の大砲(ヌール・ミドファウ)"!」

「なら、私もか?」

「俺はどうすりゃいいんだ……?」

『ハッ、岩か土塊を蹴り飛ばせば良いだろ』

「ならば、そうするか……!」


 炎の牢獄に向け、各々(おのおの)が最強では無いが高威力の技を放つ。

 孫悟空は巨大な炎の槍を。ドレイクは先程よりも強い轟炎を。アスワドは四大エレメントの塊で、ラビアは巨大かつ速い光球を。エマが再びいかづちを落とし、どうすれば良いのか迷っていたジャバルは孫悟空の提案で近くの土塊を蹴り飛ばす。

 それらが全て炎の牢獄に放たれ、炎の牢獄ごと吹き飛んだ。そのまま周囲では爆発が起こっており、黒煙に包まれていた。


「で、今度はどうだろうか……」


 煙が晴れ、炎の牢獄があった場所を見やるエマ。そこからは炎が消えており、グラオの姿すらも消え失せていた。

 ヒュウと風が吹き抜け、エマの髪を撫でる。暫くそちらを見たエマは、ため息を溢すように息を吐いて肩を落とした。


「駄目だったか……」


 導き出した結論は失敗。隣では他の者たちも静かに頷いており、満場一致でグラオには攻撃が通じていないと判断された。

 攻撃が通らなかったのは元々だが、今回は先程までとは勝手が違う。一斉に放った攻撃はグラオにかわされたという事だ。


「正解。食らっても別に問題無かったけど、確実な一撃を入れる為には消えた方が良いからね」


「やはりな」


 その刹那、背後に回り込んでいたグラオがその場に居た者たちを全員吹き飛ばした。

 一方では拳を放ち、一方では蹴りを放つ。それらを受けたエマたちは更地となっている大地を擦り、遠方にて砂埃を舞い上げていた。


「やれやれ……あの程度で貴様が消え去る訳が無いからな……。消えていた時点で分かったよ」


「ハハ、直ぐに起き上がるか。流石は不死身のヴァンパイア。傘も落とさなかったなんて感嘆だよ」


「心にもない嘘をそうよく言えるな」

「いやいや、感心しているのは事実さ」


 エマたちがグラオは居なくなったいたと気付いた理由。それはグラオの姿が攻撃の跡地から消えていたからだった。

 そう、先程からあのような攻撃を受けても無傷に等しい状態だったグラオ。身体の作りが根本的に違うのだ。

 それなのに先程は一斉に受けて消え去っていた。つまり、どの様な形であれ大抵の攻撃を受けても身体は残る。もしくはほぼ無傷。なので消えていた時点で気付いていたのである。しかし着ていた上服は無くなっており、それは燃えて消え失せたと推測出来る。細身ながらも鍛えられた身体からはまさしく戦士の風格があった。


「それで、他の人達は結構遠くに吹き飛んだけど……君一人で抗うのかい?」


「まあ、そうするしか無いだろう。ドレイクや斉天大聖は直ぐにでも戻ってくるだろうし、アスワドやニュンフェ。後魔族の側近もそこそこの早さで戻ってくる筈だ。ほんの数秒、貴様を足止め出来れば十分という事だ」


 グラオの問い掛けに、淡々とつづる。実際、本気では無いあの程度の攻撃を受けてもアスワドたちは大したダメージを負わないだろう。なのでエマが数秒でも稼げれば直ぐ様戻って来、グラオとの戦闘を続行出来ると考えたのだ。

 その言葉を聞いたグラオは不敵に笑い、最後に一言。


「出来るのかな?」

「やるしかない。が正しいな」


 ──刹那、グラオが大地を踏み砕き、エマにも目視出来ぬ速度で拳を放った。

 それを顔面に受けたエマは脳が破裂し、目玉や歯が飛び出しながら頭が吹き飛ぶ。次いで身体に蹴りを放たれ、内部から破裂しつつ遠方に吹き飛んだ。

 その距離にグラオは即座に追い付き、地へ叩き付けるように身体を粉々に粉砕する。次いで脳漿のうしょう枝垂しだり、脳や目玉がデロンと飛び出した頭を持ち、更に細かく粉砕した。

 一瞬にしてミンチよりも細切れになったエマの身体。それが即座に再生し終え、グラオの身体に触れる。その瞬間その身体に雷撃が走った。天候を操る力を利用し、身体に纏ってそれをグラオに放ったのだ。感電したグラオは特に表情を変えず、拳一つで再びエマの身体を粉砕する。


「おいおい、神というものは古来より女性を好いているのではないのか? もう少し丁重に扱ってくれ」


「オイオイ、どんなに攻撃しても直ぐに再生するなんて。君、何者だい? 僕の知っている女性はこんなに再生力高くないと思うんだけどな」


 それすら即座に再生し、不敵な笑みで話すエマ。グラオも笑い、苦笑を浮かべつつエマを見る。傘を除いた衣類は先程の攻めで糸屑一つ残らず消え去っている。それ程の攻撃を受けても尚、エマは即座に再生したのだ。

 常人ならば。いや、達人クラスですら何十回も死に至る程の攻撃。流石のグラオも、余裕は残っているが若干引き気味だった。


「ふふ、貴様は一応男だろ。男性は女性に優しくするものだぞ」


 それを見抜いたエマは、相手の余裕が少し崩れているのを察して畳み掛けるように話す。揶揄からかう事に置いては中々に慣れているので、相手が何者だろうと構わずに話せるのだ。


「ハハ、僕に性別の概念は無いよ。男の姿の方が動きやすいからこの見た目だけど、その気になれば女性にもなれる。試しになってみようか?」


「ほう、ならばなってみるが良い。その場合は幼い子供には優しくするものだと思うがな」


「幼いって。君、数千年生きてるよね?」


 エマの揶揄からかいに対し、華麗に流すグラオ。年の功というのならば数百億年生きているグラオの方が一枚上手なのだろう。元々、性別という概念の存在しないものなので男でも女でもあるらしい。

 しかしエマもただでは引かない。仮にグラオが女性となるのなら、見た目からしてエマは幼い少女という扱いが出来るからだ。


「どの道、年下には優しくしてくれよ?」

「ハハ、それはかよわい年下限定さ。仮に弱くても、相手が戦士なら僕は真面目に戦うけどね。取り敢えず女性の姿を見たいんだっけ」


 駆け、グラオの懐に潜り込むエマ。グラオは軽く跳躍して離れ、その身体を変化させる。胸に二つの膨らみが現れ、灰色の髪が伸びてその艶が増す。瞳が大きくなり、鍛えられた筋肉質な身体は柔らかな女性のものになりゆく。

 本人の言うように、グラオは男から女へと変化した。妖艶な見た目となり、無言ならばグラオとは気付かないだろう。


「ほら、僕は女性にもなれる。これで分かっただろ。僕に性別という壁は存在しないのさ」


「ふ、ふふ……話し方が男の時と同じだぞ。声は高くなったが、逆に言葉で言い表せぬ程の凄まじい違和感が襲い掛かって来る……」


「ねえ、なってみろって言っておいてその反応は酷くないかな? 僕だって動きにくいこの姿は戦闘に不向きって思っているし」


 苦笑を浮かべ、グラオの身体を見るエマ。なってみろとは言ったが、あまりの変わり様に一瞬遠い目をする。性別を変えるだけならば見た目はあまり変わらないと踏んでいたみたいだが、そんな事は無かったみたいだ。


『オイオイ……少し離れてたら何か変な事になってんぞ……女? 上半身が裸……恥女か?』


『いや、雰囲気からは先程の敵と同じ者と窺える……』


「となると、性別を変えたって事ですかね。何故でしょう」


「成る程、神様なら出来なくもないという事ですか……」

「女の子になっちゃったんだね」

「何でもありだな、神ってやつは」


 しかし、それもあって時間を稼げた。なので吹き飛ばされていたアスワドたちがこの場につどう。

 少々見た目の変化に気圧けおされ戸惑ってしまったが、時間が稼げたので上々だろう。


「ハハ、皆来ちゃったか。まあ、役者はつどったって事かな?」


 灰色の長髪を揺らしつつ八重歯を見せ甲高い声で悪戯っぽくコロコロと笑い、エマを始めとして全員に視線を向ける女性のグラオ。

 その見た目と声にまだ慣れないが、他の者たちは性格から間違いなくグラオと理解した。


「その姿で戦うのか?」


「どうしようかな。胸にある二つの塊は邪魔だけど、君達が相手ならこれくらいのハンデが丁度良いかな。最も、これだけじゃハンデが足りないかもしれないけどね」


「ふん。腹の立つ言い方だな。しかし、私たちにとっても都合が良さそうだ」


 胸を持ち、軽薄に笑って挑発する。少々腹立たしいが、ハンデをくれると言うのならそれも良いだろう。

 目の前のグラオに対し、エマ、ニュンフェ、ドレイク、孫悟空、アスワド、ラビア、ジャバルが構える。何がどうあれ、敵である以上打ち倒すだけである。


 ──そしてその時、遠方からとてつもない轟音が響き、山程の大きさはある土塊がこの場に居るグラオを含めた全員に振り掛かってきた。


「なにっ!?」

『なんだ!?』


 エマとドレイクが声を上げてそちらを見、それに続くように全員がそちらを見て大きな反応を示す。

 ただ一人、グラオ・カオスを除いて。


「成る程。向こうは向こうで大きな盛り上がりを見せているみたいだね。少しだけ予想とは違うのかな……」


 向こうの盛り上がり。その言葉からなる意味は一つ。大きな戦闘が行われているという事。エマたちはそれを察し、呆然と遠方を見る。


「まあいいや。僕たちは僕たちで、楽しんでみようじゃないか」


「……。果たして、楽しめるかな……?」


 跳躍し、山程の大きさはあるであろう土塊を粉々に粉砕するグラオ。その土塊の砕けた風圧に髪を揺らし、エマはフッと笑う。続いて土塊の欠片を更に細かく粉砕し、全員が今一度改めて向き直った。

 まだ此処の戦闘は終わらない。しかし、遠方では新たな戦いが行われているらしい。エマたちとグラオたちの戦闘が続く中、新たな刺客と仲間たちも戦闘を行っている様子だった。

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