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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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四百七十六話 尾行者との戦闘・決着

 ──ヒュドラーが一歩踏み込み、一瞬にしてライたちとの距離を詰めた。同時に数の減った首を突き出し、下方で見上げるライたちへ放つ。大砲を彷彿とさせる程の破壊力を秘めた首は直進して激突し、辺りに大きな粉塵を巻き上げた。


「それが本気か? さっきの攻撃と何も変わっていないように見えるけど」


『フッ、何事に置いても小手調べは必要だ。本気を出すとは言ったが、直ぐに出すとは言っていない』


「面倒臭い奴だな。まあいいや。だったら全力を出す前に打ち倒すだけだ!」


『やってみよ!』


 踏み込み、一気に詰め寄って拳を放つライ。ヒュドラーは紙一重でかわし、傾いた状態で複数の首を突き出して仕掛ける。それを回し蹴りで消し去り、空気を蹴って胴体へと攻め入った。そのまま更に速度を上げ、九つのうち二つの胴体を拳で撃ち抜いて粉砕させた。

 それによって一瞬動きの止まるヒュドラー。その隙を突き、一つの胴体に蹴りを入れて再び壁へと激突させる。そこから大口を開けた頭が生え、空中に居るライが飲み込まれた。その首を砕き、鮮血に濡れたライが姿を見せる。


「やってみたけど、まだ本気を出さないのか?」


『ああ。しかし、小僧は私を打ち倒すと言ったが……逆に問おう。まだ倒せぬのか?』


「ああ、そうみたいだな」

『そうか、ならば本気を出さなくとも良いだろう』

「オイオイ、さっき言った言葉を否定するのか?」

『さあ、どうだろうな』


 ──刹那、ヒュドラーの頭が多数消滅した。それと同時に生じた猛毒が周囲に広がり、ライの移動だけで消滅する。次いでライを狙った首が先程よりも更に速度を上げて突き進み、一つ一つを確実に消滅させるライ。


「ハッ、俺を差し置いて勝手に盛り上がってんじゃねェよ! "巨大な剣(キビーラ・セイフ)"!」


 それを見ていたブラックがクッと喉を鳴らして笑い、剣魔術によって創り出した剣を横に薙いだ。そのまま多数の首を切り落とし、ライのようにヒュドラーとの距離を詰めて次々と首を切り裂いて行く。一瞬にして周囲は鮮血と肉片で埋まる。


「続きます! "矢の雨(サハム・マタル)"!」


「その隙を突く!」


 次いで空に矢魔術を放ち、首の動きを止めるサイフ。止まった瞬間にレイが勇者の剣を振るい、止まった首を全て斬り落とした。その首を足場に跳躍し、首から首へと移動しつつヒュドラーに近付く。


「倒すの……一々面倒……!」


 リヤンは幻獣・魔物の力を使ってヒュドラーの首を破壊するが逃した首は気にせず、取り敢えず何となくでヒュドラーの元へと向かっていた。

 空を飛べる幻獣・魔物もおり、魔術を使っても飛行が出来るので難なく距離を詰めていた。

 ヒュドラーは本気を出すと言っていたが、まだ出していない。それならば気にせずに仕掛けようという魂胆なのだろう。結果として、レイ、リヤン、ブラック、サイフの四人もライに続いてヒュドラーとの距離が縮みつつあった。


『そうだ。それこそが狙い! どうせ本気を出すのなら、多数を纏めて吹き飛ばした方が良いからな!』


 猛々しく吠え、再び大地に踏み込むヒュドラー。本気を出すと言ってまだ全力を出していなかった理由は、レイたちとの距離が遠かったかららしい。なのでライたちとレイたちの距離が縮むその時、本当の意味で全力を出そうというのだろう。

 次々と放つ首を止め、身体全身を硬直させる。同時に筋肉へと力を入れ、最高で最大の一撃を放つ体勢が整えられた。


『行くぞ、者共……! お主達には今一度、十二の功業の一つである"レルネーのヒュドラー"を攻略して貰う……!』


「良いぜ、ヒュドラー。その挑戦……受けて立つ!」


 全身に力を込めた、ヒュドラーの臨戦態勢。ライたちはそれを受け入れ、全員が力を込める。しかし今回ライは銀河系を吹き飛ばす程の力を使うつもりはない。レイちとブラックたちが居るので、今のまま。魔王の四割。実質七割の力で十分だと考えているのだろう。

 ヒュドラーは身体中の毒を分泌させてコーティングし、完全に準備を終えた。猛毒と星を砕く一撃。それが合わされば、確かにかなりの破壊力が生まれるという事だ。

 魔物の国幹部、ヒュドラーの本気。それが今ライたちの前で解放されようとしていた。


『────ハッ!』


 そして、ヒュドラーが踏み込んだ。

 一瞬にして光の領域を超え、猛毒でコーティングされた身体が小さなライたちの元へ向かう。

 その一動でヒュドラーの背後にあった壁が崩落し、一瞬の数万分の一秒でライたちの元へと到達した。


「オラァ!!」

「やあッ!!」

「はあッ!!」

「"刺剣(ラー・セイフ)"!!」

「"巨大な矢(キビーラ・サハム)"!!」


 しかしライたちもライたちで、ヒュドラーが動き出す前に技の準備はしていた。

 ライは魔王の力を四割纏った拳を、レイは勇者の剣を力強く薙ぎ、リヤンは己が見た幻獣・魔物の中で最も力の強いカオスの力を、ブラックは巨大な剣の剣尖を、サイフは巨大な矢を。彼らはみなヒュドラーが動く前に攻撃を放っていた。なので光の領域を超えるヒュドラーの突進に抵抗出来たのだ。

 ライならば光の領域を超えた一撃だろうと、一息吐いてからけしかけても余裕で間に合う。しかし、それをしてはレイたちの一撃に合わせる事が出来なくなるのでレイたちと共に放ったのだ。

 同時に放つ事で、四割の力でもヒュドラーを迎え撃てると考えた故の行動だろう。それならば力を温存しつつ、打ち倒せるかもしれないからである。


 そして次の瞬間、光の領域を超えたヒュドラーと各々(おのおの)の技を放ったライたちが激突した。

 その衝撃が第一層全域に広がり、轟音と共に周囲を崩壊させる。その破壊の余波は更に広がり、ライたちの居る場所から広範囲が吹き飛んだ。気付いた時、既に周囲は粉塵に包まれていた。



*****



『……まさか……これ程までとはな……。二度目だ。十二の功業の一つである"レルネーのヒュドラー"を攻略されるとは……!』


 ──意識が刈り取られ、気を失うヒュドラー。

 ライたちが放ったその一撃。それは的確にヒュドラーを打ち抜き、結果として打ち倒した。その命を奪うには至らなかったが、意識を奪えたのなら上々だろう。

 その場には何も残っておらず、あらわとなった無機質な大地のみが佇んでいた。本気という割りには破壊の規模が小さくも感じられるが、恐らくライたちの力によって相殺されたからこの程度の威力に留まったのだろう。本来ならば恒星くらいは軽く吹き飛ぶ程の威力が秘められていたのだから。

 魔王の四割。上乗せされた実質七割はそれ以上の威力を秘めている。なので倒せたという事だ。


「……。前より、幾分か楽に倒せたな……レイたちとブラックたちが手伝ってくれたからだ。ありがとう」


「アハハ、お礼なんて良いよ。ライ一人でも勝てた相手だからね」


「ああ。だがまあ、残るはさっきの魔術師女だ。俺たちは少しくつろぐか、今後について話し合ったりでもしとくか」


 以前戦った時より、多少は楽な戦闘だった。しかしまだフォンセ、ルミエとマギアの戦闘は終わっていない。戦いに水を差すような野暮や事をせず、ライたちはブラックの言うように二人vs一人の戦いが終わるのを待つ事にした。



*****



「向こうの方は終わったみたいだね~。あらら、ヒュドラー負けちゃったみたい。さて、と。私たちはどうする?」


「無論、まだ終わらんよ。私たちの戦闘は終わっていないのだからな」


「ああ。互いにそれなりの技は使っているが、フォンセとお前は全くの本気では無いようだからな」


 戦闘開始から数分。ヒュドラーの決着が付いたのを見るマギアは、軽薄に笑ってフォンセとルミエへ訊ねた。元々好戦的という訳では無いマギア。ヒュドラーの助けに来たのだが、そのヒュドラーがやられた今は戦う必要も無いと見ているのだろう。

 しかしフォンセとルミエ的にはまだ納得出来ておらず、戦闘準備も万端だった。


「なら、さっさと終わらせちゃおうかな。"終わりの嵐(ラスト・ストーム)"♪」


 その瞬間、魔力を込められた風雨が放たれた。一瞬も掛からずにそれが嵐と化し、フォンセとルミエを襲う。山をも吹き飛ばし兼ねない暴風が進み、周囲を大きく吹き飛ばした。


「そちらが嵐ならば、私たちも相応の力を叩き込もう……"終わりの風(ラスト・ウィンド)"!」


「ああ、その言葉に賛成だ。"終わりの風(ニハーヤ・リヤーフ)"!」


 暴風雨の嵐に二つの風をぶつけ、マギアの嵐を相殺するフォンセとルミエ。その風が周囲に散らばり、木々を吹き飛ばして更地を造り出した。


「へえ、やっぱり禁断の魔術じゃもうあまり意味無いんだね……なら──"女王の炎(クイーン・ファイア)"……」


「……! 避けろ、ルミエ!」

「……!?」


 刹那、マギアによって全てを焼きら払う、女王の絶対的な炎が放出された。

 その炎は全てを飲み込み、周囲を業火で埋め尽くす。このままでは第一層と、自分たち以外の者が全て焼き尽くしてしまうかもしれない。


「これは……使わざるを得ないな……」

「……! フォンセ……?」


 そして、フォンセに闇が纏った。万物を飲み込み、我が物としてしまうと錯覚する程の深い闇。それを見たルミエは目を見開き、驚愕した面持ちでフォンセを見やる。

 それもそうだろう。突如としてフォンセが闇を纏い、威圧感を上昇させたのだから。

 しかしルミエも鋭い感性を持っているのだろう。それによって何かに気付き、ルミエはフォンセから離れた。


「そうか。フォンセは既にその、魔王の力を身に付けていたのだな。邪魔にならぬよう、私は離れておこう」


「ああ、すまないな。ルミエ。しかし、この力の存在は知っていたのか」


「ああ。子孫だからな。いずれは使えるようになるかもしれないとは思っている。けど、私には使えないからフォンセに任せる」


「うん。任された」


 ルミエがフォンセから離れた理由。それは魔王の力をフォンセが使うからである。その危険性はルミエも理解している。邪魔をせぬ為、敢えて距離を置いたのだ。

 その口調からルミエもいずれ魔王の力を使えるかもしれないが、それは今では無い。なので見守るだけにしたのだろう。


「成る程ね。ルミエちゃんはフォンセちゃんの家族……もしくは親戚だったんだ。だから親しくて雰囲気が似てるって事……」


「やっと気付いたか。何度かお前の前で言っていたのだがな。聞こえていなかったみたいだ」


「そうみたいだね。けど、ルミエちゃんはやらないんでしょ?」


「ああ、従姉妹いとこの足手纏いは御免被る。私は手出しせんよ」


 "空間移動"の魔術を使い、フォンセ、マギアから距離を置くルミエ。自分の強さはわきまえているので、それによって邪魔をするという事はしないらしい。

 基本的に好戦的ではないマギアも後を追う事をせずに改めてフォンセに構えた。


「けど、私たちが本気を出すとこの世界が壊れちゃうからね。次の一撃。それで決めようか。ヒュドラーがあの様子じゃ、そろそろ引き上げた方が良さそうだからね」


「ああ、別に良いさ。激し過ぎるとルミエを巻き込んでしまう。一撃で決まるのならばそれで良い」


 マギアの提案。それに了承し、此方も敵へ構える。魔王とアンデッドの王が戦闘を行えば、通常よりも頑丈というこの世界ですら持たないだろう。なのでルミエの身も案じ、この一撃で終わらせようという考えに賛成なのだ。


「なら、さっさと決めようかな?」

「ああ、それが手っ取り早くて良い」


 魔力を込め、互いに互いを狙うフォンセとマギア。

 一撃で決めるといったが、この二人はヒュドラーと違って本気は出さないだろう。なのでこの世界が壊れる事は無さそうだ。


「"魔王の炎(サタン・ファイア)"!」

「"女王の炎(クイーン・ファイア)"!」


 ──そして、一切の無駄もなくそれらは放たれた。

 本来ならば世界を焼き尽くしてしまう程の炎。本気では無い事を踏まえても、その破壊力は凄まじいものがある。一瞬にして広範囲を焼き払う轟炎。次の瞬間にそれが破裂し、森全体を包む業火が──『消火された』。


「これで終わり。結果は引き分けだったね。フォンセちゃん?」


「……。ああ、そうだな、リッチ」


「もお。その名前は好きじゃないんだけどなぁ……」


 マギア・セーレによって。

 二つの炎は互いに衝突し、結果として互いを打ち消し合って消えたのだ。最終的な消火はマギアがおこなったが、此方でもライたちとヒュドラーのように相殺し合ったので被害が少なく済んだのだ。


「けど、約束は約束だからね。今回は引き分け。フフ、強くなって嬉しいよフォンセちゃん♪ それでこそさらい甲斐があるからね♪」


「……笑えない冗談だな」


 笑い、そのまま消え去るマギア。一撃で決めるという言葉に嘘偽りは無く、本当にそのつもりだったらしい。あっという間に消え、フォンセとルミエの視界にマギアは居なかった。


「……。何が目的だったんだ、あのマギアとかいう奴は。フォンセは知り合いみたいだが、何か知っているか?」


「いや……。ヒュドラーを助けに来たという割りには手助けらしき事はあまりせず、一人と一匹が協力する姿も無かった。全く分からない奴だな、マギア(アイツ)は……」


 ヒュドラーの手伝いという名目だったにもかかわらず、特に手伝いという事もしなかったマギアに困惑するフォンセとルミエ。この二人をヒュドラーから離しただけでもそれなりの手助けかもしれないが、イマイチ実感が湧かない。


「ふむ。何も分からない、か。なら仕方無い。分からぬ事を考えるのも場合によっては必要だが、今はその時では無い。ライたちの元へ戻るとするか」


「ああ。そうしよう。マギアの口調から、ヒュドラーも連れて帰ったならもう居ないだろうからな」


 互いに見合せ、頷くフォンセとルミエ。考えても仕方無い事は考えず、ライたちと合流してから今後について決めようという意見に纏まった。

 これにてヒュドラーとマギアによる第一層、捜索隊への襲撃は謎を残しつつ終わりを告げたのだった。

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