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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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四百七十五話 アンデッドと蛇

「"終わりの炎(ラスト・ファイア)"」


 マギアの声と共に、禁断の魔術の爆炎がライたちを飲み込んだ。その炎は更に広がり、木々や大地を焼きながら波のように進む。炎なのに波とは中々におかしな光景である。


「奴も禁断の魔術を……!?」

「フッ、禁断の魔術も何も……アイツがあの本の作者だ。"終わりの水(ラスト・ウォーター)"!」

「なに……!?」


 炎と水が衝突し、大きな爆発と共に水蒸気が周囲に霧散する。

 その隣で、ルミエがフォンセの言葉を聞いて驚愕していた。謎に包まれた禁断の魔術。それの作成者が目の前に居る。しかも敵であるという事が驚愕の対象となったのだ。


『フンッ……!』


 水蒸気に包まれた世界。その世界の上空から声が掛かり、周囲に猛毒が降り掛かる。下方に居る者たちの視界が埋め尽くされたのを確認したヒュドラーが再び猛毒を吐き付けたのだ。

 猛毒は周囲に散り、木々を溶解ようかいさせて腐らせる。即死の猛毒は、内部から破壊するだけではなく身体などのような物質を溶かす力も秘めているらしい。


「オラァ!」


 水蒸気と毒が周囲に散らばる場所にて正面に拳を突き出し、その衝撃でそれらを消し去るライ。

 風圧だけで水蒸気を全て払い、衝撃で毒を消し飛ばす。その毒はヒュドラーの身体に当たるが、どうやら自分の毒で受けるダメージは無いらしく水蒸気が晴れた第一層にズンとたたずむヒュドラーが居た。


「はあ!」

「やあ!」

『……!』


 そこに勇者の剣と幻獣・魔物の魔術で放たれた二つの斬撃が入り込む。数十の首が切り落とされ、その首は筋肉の痙攣で少し揺れて消滅した。

 毒を吐き付け槍のように貫く五百を超える首はかなり厄介である。なので無駄だとは知りつつ、多少でも数を減らす為にレイとリヤンが仕掛けたのだろう。


『フン、下らぬ』

「「……ッ!」」


 そんな二人に向けて首を突き出し、頭突きの要領で吹き飛ばすヒュドラー。反応が遅れたレイとリヤンは吹き飛び、木々を砕いて地面に伏せられた。しかし当たる瞬間に身体を捻って直撃は避け、受け身を取っていたので大したダメージには至らなかった。それでも傷は付いたが、リヤンが近くに居るので簡単に癒す事が出来る。


「"終わりの雨(ラスト・レイン)"!」


 上空で魔力を込め、水の塊を広げるマギア。それを一斉に降らせ、下方に集うライたちを全員狙った。

 それは、魔力を込められた魔術の雨である。当然普通の雨とは何もかもが違う。速度も本来の数千倍以上。圧縮されて放出する水が鉄をも貫く威力と成りうるように、その雨粒一つ一つには凄まじい貫通力と破壊力が秘められていた。鉄の鎧などをもちいたとしても容易く貫き、内側の肉をも削ぐ破壊力はあるだろう。


「雨は別段好きでも嫌いでもないが……この雨は嫌いだな。"終わりの風(ラスト・ウィンド)"……!」


 その雨に対し、風魔術を放って吹き飛ばすフォンセ。普通の雨ならば無問題だが、仲間を傷付けるかもしれない雨は別。どうやらフォンセ自身が成長し以前よりも能力が上がっているらしく、マギアの魔術に魔王の魔術を使わずとも対抗出来ていた。

 しかしマギアはまだ本領を発揮しておらず、先程から放っている禁断の魔術は簡単な手慰てなぬぐさみ。つまり児戯のような子供の織り成す手遊び程度でしかない。

 どちらにせよ本気では無いにしても、魔王の力を使わず今以上にマギアと張り合えなくては話にならないだろう。禁断の魔術同士が張り合えていたとしても、本筋を見ればあまり意味は無いのだ。


「やるな、フォンセ。私も従姉妹として、遠くも血が繋がっている者として応えなくてはならなさそうだ。"終わりの雷(ニハーヤ・ラアド)"!」


「あら、中々やるね」


 ルミエが狙い、上空にいるマギアの上から一筋のいかづちを振り落とした。

 それを受けたマギアは感電し、生じた光が周囲に広がる程の電流を受ける。次いで放電して昼間の空を更に目映く照らすライトとなった。その雷が消え、姿を見せたのはいかづちによって──無傷のマギアである。


「ふむ、やはり効かないみたいだな。予想は出来ていたが、自分の不利な予想通りにいくというのも中々気に掛かるものだ」


「アハハ♪ 貴女も中々良かったよ。名前は……分からないかな。少し調べれば分かると思うけど。まあ、何だかフォンセちゃんに近い雰囲気を感じるね。親戚か何かかな?」


「さて、どうだろうな。フォンセに近いと思うのはこの口調と見た目からじゃないのか? 黒髪黒目の魔族だからな。知っているかもしれないが、私たち魔族には黒髪黒髪の者が多い……と思ったけどそうでもないな」


「へえ。見た目と話し方が似ているだけの赤の他人かぁ。世界は広いし、自分にそっくりな人達は居るかもしれないけど、それはそれで気になるね……」


 スッと目を細め、口元で微笑を浮かべるマギア。どうやら先程ルミエの言った従姉妹という言葉は聞かれていないようだ。恐らくいかづちの音に掻き消されたので耳に届かなかったのだろう。

 そんなマギアは普段は軽い口調で話しているが、静かならばまた違った顔を覗かせる。元々の整った容姿に静かな面持ち。全体的に堅い、冷徹な美人という感覚が今のマギアを覆っていた。


「だったらどうする?」


 マギアの表情と体勢を見つつ肩を竦め、苦笑と共に冷や汗を流しながら警戒して訊ねるルミエ。

 今目の前に居るマギアは、ルミエの事が気になると言っていた。元々ライたちの仲間は全員がお気に入り。本人からすればそんなお気に入りのフォンセに似た、謎の存在。マギアの興味が引かれない訳が無かった。

 なのでマギアは愛らしい唇に白く伸びた人差し指を置き、微笑んで告げる。


「当然、気になるものは身体の隅々まで調べてみるよ……♪」


「……!?」


 ──刹那、"空間移動"の魔術をもちいてルミエの背後に周り、白い両手で覆うように抱き付いた。

 突然の感覚と、氷のように冷たい手。それによって得体の知れぬ不気味さにゾクリと何かが身体を伝い、ルミエはマギアを半ば無理やりほどく。

 ルミエは確かに警戒はしており、いつ来ても良いように構えていた。しかし見抜く事が出来ずに背後を取られてしまったのだ。

 それが例え"空間移動"の魔法・魔術だろうと少しでも魔力が零れるのならば即座に気付く事が出来る。どんな熟練者だろうと、必ず少しは魔力の気配を感じ取れる筈なのだ。

 だが、マギアはそうでは無かった。ほんの少しの気配すら感じさせずにルミエのバックを取ったのだから。

 そしてルミエは理解する。マギアという存在は、自分が思うよりも遥か遠くの存在であり、その実力には計り知れぬ程に深い溝があるという事を。歯を食い縛り、解いたマギアに改めて構える。


「まさか、これ程までとはな。ふふ、少し油断し過ぎていたみたいだ。反省しなくてはな……」


「ハハ♪ 私が近付いた瞬間に気付けただけでも上々だよ、ルミエちゃん♪」


「名乗った覚えは無い筈なんだがな……」

「えーと、何となく……かな?」

「何となくで名を知られる訳が無いだろう。ふむ、魔法・魔術には様々な種類がある。そのどれかを使えば名くらいは分かるんだろうな」

「まあ、そんなところかな?」

「曖昧だな、先程から」


 距離を置き、マギアを警戒して観察するルミエ。警戒するというのは、何も戦闘に置いてだけでは無い。あらゆる方面に置いての身の危険を感じた警戒である。


「ルミエ!」

「フォンセか。私は大丈夫だ。まだ何もされていない」


 その近くに、ルミエの身を案じたフォンセが"空間移動"の魔術を使って姿を現す。形としてはマギアを挟むものとなったが、それだけで優位になれた訳では無い。

 得体の知れぬ力を持つマギア。全力に近いものは以前魔王となったフォンセが見ているが、それから更に力が上がっている可能性もある。なので日が変わるごとに未知数となるのだ。


「なんでもないにしては、随分と親しそうだね、二人とも。ちょっとジェラシー感じちゃうなぁ~。けど、そうなるとやっぱり普通の関係って訳じゃないよね……?」


「さあな。私たちの関係などどうでも良いだろう。私とルミエは何でもない関係だ」

「ああ。ただ少し、仲が良いだけのな?」


「ふぅん? まあ、それは後で良いかな。お気に入りは最初から手に入れるつもりだし、貴女達は大歓迎だよ」


 微笑む二人と、ムッとした顔で話すマギア。敵とはいえ、二人に隠し事をされているのが気に入らないのだろう。性格的には年齢の割りに幼いが、実力は確かなアンデッドの王であるリッチのマギア・セーレ。フォンセとルミエの二人が相手でも苦戦するだろう。


「何だか、向こうは向こうで盛り上がっているみたいッスね」


「ハッ、盛り上がってるっったって敵との話だろ。戦闘の準備は整っているって事だ」


「俺たちはこのデカブツを何とかしなきゃならないからな。此方は此方で大変だ」


 フォンセ、ルミエ、マギアのやり取りを横に、ヒュドラーを見て話すサイフ、ブラック、ライ。

 フォンセたちの方は問題無いと見ているが、自分たちは厄介な耐久力を誇るヒュドラーを倒さなくてはならない。なのでまだまだ苦労しそうなものであった。


「ライ! 私たちも手伝う!」

「うん……! 手伝わせて……!」


 そこに姿を見せるレイとリヤン。一度ヒュドラーによって吹き飛ばされたが、ダメージは既に治療したので戦闘を行うに当たって大きな支障は無いだろう。


「レイ、リヤン。そうか、なら頼む。手伝ってくれ。相手の首は多いからな。数は多い方が良い。広範囲に魔術を放てるフォンセやルミエは足止めされているけど、俺たちも広範囲を攻撃出来ない事もない。ヒュドラーの首を全て破壊しなくても、本物を見つければ良いだけだからな。数の多い方が効率が良い」


 レイとリヤンを見、フッと笑って話すライ。人数は多い方が良い。相手の数が多いので、多いからこそそれに越した事は無いのだ。

 なので手伝ってくれるというのならばそれを頼るという事はヒュドラーを打ち倒す近道となりうるものだった。


『フッ、お前達が相手となるか。実力者のうち二人が向こうへ行ったのならば、此方としてもそれなりにやり易さがある。いざ参る……!』


 告げ、五百を超える首を周囲に伸ばすヒュドラー。それが次の瞬間に加速し、下方に立つライたちを狙って突き進む。空気を切り裂く音が響き、音速を超えた事で生じるソニックブームの輪がヒュドラーの首一つ一つを覆っていた。


「ハッ、やってやろうじゃないか……!」


 踏み込み、魔王の力を宿した拳を放つライ。その衝撃が目の前のヒュドラーを狙い、百を超える首を消滅させた。しかしまだ収まる事無く迫る首。ライは跳躍し、空中にて回し蹴りを放ちその首を全て消し去った。


「サイフ、行くぞ! "無数の剣アダド・ラー・ニハイィ・セイフ"!」

「うす、ブラックさん! "無数の矢アダド・ラー・ニハイィ・サハム"!」


 まだ槍のように進む首は止まらない。それに対してブラックが無数の剣魔術を使って切り落とし、サイフが雨のような矢を放って首の機能を停止させる。それによってまた百を超える首を消し去ったが、まだ本物は見つからない。


「やあ!」


 次いで勇者の剣を横に薙ぎ、目の前に迫る首を切り消すレイ。

 切り落とせなかった首が大口を開けてレイに迫るが、それを跳躍してかわし、首を足場に立つ。周囲からはまだまだ首が来る。レイは回転斬りのように首を足場に回り、周囲から来る首をも切り落とした。

 次々と首は現れる。一つ、また一つの首を足場に別の切り落としてヒュドラーに迫り、連続で首を切り裂いた。


「邪魔……!」


 カオスの力を使い、拳を放つリヤン。それだけで多くの首を消し去り、次いでバロールの魔術を用いて再び首を消し去る。

 物理で砕き、炎で焼き払い、水で貫き、風で切り裂き、土で押し潰す。幻獣・魔物、複数の神々。多数の力を操れるリヤンは相応の手段をフルに使ってヒュドラーを止めていた。


『フム、再生が間に合わぬな。それ程の猛攻……少々辛そうだ』


 ライたちによって瞬く間に消される首を引っ込め、大口から猛毒を吐き付ける。物理的な力では意味が無いと悟ったヒュドラー。なので遠距離から神殺しの猛毒でけしかけたのだろう。


「オラァ!」

『ぬぅ……!』


 それに向け、魔王の力と自分の力を上乗せした拳を放つライは猛毒と共に更に増幅した複数の首を砕く。その衝撃が更なる波となって進み、ヒュドラーの九つの身体を吹き飛ばして先程激突した壁へと更に深くぶつかる。

 ライが放った拳の風圧だった事と耐久力の高さ故にあまり吹き飛ばなかったが、それでもヒュドラーを怯ませる事に成功した。


『良かろう。私も久々に本気を出す。どの道この"終末の日(ラグナロク)"は我らの暇潰しとなり続けるのだからな。滅多に出せぬ力を解放する良い機会だ……!』


「そうかい。それは良いな。第一層が吹き飛ばないように気を付けなくちゃ。魔族の味方はまだ数百人は残っているからな」


『フッ、案ずるな。この世界は簡単には砕けぬように創られている。お主も思う存分力を発揮するが良い……!』


 力を上げ、壁から姿を見せるヒュドラー。着地と同時に大地が大きく陥落し、爆発的な煙を周囲に巻き上げた。その一瞬後にライは煙を掻き消し、フッと笑って挑発するように告げる。対するヒュドラーも笑い、ライたちを見下ろして構える。

 ライ、レイ、リヤンとブラック、サイフ。そしてヒュドラー。フォンセ、ルミエ、マギア。彼ら彼女らの織り成す戦闘は、ヒュドラーが本気を出す事で終わりに向かっていた。

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