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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第三章 最初の街“レイル・マディーナ”
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四十七話 vsマンティコア・不穏な動き

『ギャアアアァァァァァッッッ!!!』


 マンティコアは大地を踏みつけ、新たな餌を見つけた猛獣のようにライたちへ向かう。

 マンティコアの一食は軍隊一つ分と謂われている。なのでまだまだ食い足りないのだろう。


『ギャアアアァァァァァッッッ!!!』


 咆哮を上げながらライたちの方へ向かってくるマンティコア。

 走る衝撃と声の振動によって街全体が揺れた。

 そのマンティコアをライは──


「うる……せえッ!!」

『ギャ……!?』



 ──腹部を蹴り上げ、天高く舞い上げた。



 思わぬ衝撃を受けたマンティコアは短く鳴き、成す統べなく天に放られる。

 因みにライは、まだ魔王(元)を纏っていない。


「今だな……」

「私も行くからね?」


 打ち上げられたマンティコアを追撃するのは空を飛べる二人──エマとキュリテである。

 エマは日傘を差しているが、行動する分には何ら影響がない。


「「ハアッ!」」


 その瞬間、ヴァンパイアの怪力と超能力によって強化された肉体の一撃がマンティコアを捉える。


『ギ……!!』


 ライの時より短く小さな悲鳴上げるマンティコア。

 鳴き声を上げ、翼を羽ばたかせるが二つの力に負けて何も起こらず、マンティコアは"レイル・マディーナ"の道に叩き付けられた。

 "レイル・マディーナ"の道は砕け、地面が盛り上がる。


「やるじゃない。お姉さま♪」

「シバくぞ。小娘」


 おどけるような態度のキュリテ。エマはそんな態度に呆れていた。というよりイラッとした。


「じゃあ、次は俺が行くか……」

「わ、私だって……!!」


 体勢を立て直し、立ち上がろうとするマンティコア。

 そんなマンティコアに向かって刀を構えたザラームと、剣をたずさえるレイが突き進む。


「ウラァッ!」

「やあッ!」


 ザンッ! と一振り、小山を切り裂く刀と森を経つ剣がマンティコアを確実に捉えた。


『ギャアアアァァァァァッッッ!!?』


 マンティコアは痛みによって苦痛による悲鳴のような叫び声を上げるが、身体は頑丈らしく致命傷には至っていない。


「なら次は俺らだな?」


「"ら"を付けるな、鬱陶うっとうしい……。私は一時的に手を組んでいるだけだ」


 もがき苦しむマンティコアに向け、オスクロとフォンセが手を向ける。


「"リヤーフ"!!」

「"ファイア"!!」


『ギャア!?』


 それと同時にオスクロが風魔術を放ち、フォンセが炎魔術を放った。それらの風と炎は混じり合い、熱風となってマンティコアを追撃する。


「オイオイ……そこは普通風だろ……」


 そして攻撃を終えたところでオスクロが文句を言う。

 どうやらフォンセが四大エレメントのうち、"炎"を使ったことが気に入らないのだろう。確かに二つの風魔術を組み合わせた方が威力的にも強いからだ。

 それを聞いたフォンセは一瞬だけオスクロを見、吐き捨てるように話す。


「だから言っただろ? 私は一時的に手を組んでいるだけだ……とな? ライが協力すると言ったから協力してやっているだけだ」


「ハッ、そうかよ。本当に頼れるリーダーなんだな。あの小僧はよ。あの若さで女誑おんなたらしなのか?」


『ギャアアアァァァァァッ!』


  フォンセが淡々と綴る言葉に対し、オスクロは苦笑を浮かべて返す。そしてマンティコアは熱風を受けてもなお立ち上がる。

 流石に危険を感じているだろうから逃げ出しても良い筈なのだが、マンティコアは逃げる素振りを見せない。

 マンティコアの食欲というものは、どれほど激しいのだろうか。


「じゃ、次は俺の番か……あー……面倒臭ェ……」


 ダークは面倒臭そうに立ち上がり、大地を踏み砕いてマンティコアの元に向かう。


『ギ……ギャア……?』


 そしてマンティコアがダークの方を向いたとき──


「ほら……よッ!」

『ガ……ギャ……!?』


 ──ダークが容易たやすくマンティコアを殴り飛ばした。

 マンティコアは一瞬にして天空に上がり、そのまま落下して地面に穴を開ける。


「え……えと……私は……」


 他の者たちが攻撃する中、リヤンはどうすれば良いのか分からず、オロオロしていた。


『…………!!』


 マンティコアはフラ付きながら、そんな様子のリヤンを見て尾から棘を飛ばした。

 何もしていないリヤンだが、マンティコアはライたちの攻撃を受けたので警戒を高め、何かされる前に危険な芽は摘んでおくという事だろう。


「え……きゃ……!」


 リヤンは棘を確認し、腕を咄嗟とっさに顔の前へ出して肩を竦ませる。


「おっと……気を付けろよ。リヤン」


 そしてその棘を掴み、いつの間にか近くにいたライは棘からリヤンを守った。

 因みにマンティコアの持つ太い針には毒があるが、小さな棘には毒が無いのでライは素手で掴めたのだ。

 しかしその棘はリヤンのみならず、他に十一本飛ばしていたらしく、レイ、エマ、フォンセとオスクロ、ザラーム、キュリテにダークへと向かう。


「やあッ!」

「こんなもん!」


 レイとザラームは剣と刀を振り、その棘を斬るのでは無く剣と刀の腹で弾いて落とした。


「容易い!」

「効かないよ!」


 エマとキュリテはヴァンパイアの力と超能力を使い、棘を弾き飛ばす。


「ハァッ!」

「チョロいチョロい!」


 フォンセとオスクロは魔術を使い、フォンセの炎で焼き、オスクロの風で吹き飛ばした。

 結果として、レイ、エマ、フォンセとオスクロ、ザラーム、キュリテは棘を全て防いだ。


『ギャアアアァァァァァッッッ!!!』


 棘を防がれたにもかかわらず、闘志を失っていないマンティコアは蝙蝠こうもりのような翼を羽ばたかせ、空気を後ろ足で蹴って一番近くにいたダークを狙う。


「何だ……俺のところかよ……面倒臭ェ……」


 ダークは気だるそうな態度を変えず、マンティコアに構えた。

 マンティコアは更に加速し、空気を揺らしながら突進してくる。これを受けたら一堪ひとたまりも無いだろう。数十メートル程の大岩ならば容易く砕ける速度だったのだから。


『ギャアアアァァァァァッッッ!!!』


「せェ……よ……!」


『ァ……!?』


 そんなマンティコアの顔を蹴り飛ばすダーク。重い脚で蹴られたマンティコアからは鈍い音が鳴り響いた。

 そしてマンティコアは仰け反り、短く鳴いて背中から倒れ込む。


『……ギャアアァァァッ!!』


 倒れたマンティコアはダークの不意を突き、毒のある針が付いた尾をダークに突き立てる。


「……と……!」


 その尾はダークの腕をかすり、小さな傷を付けた。


「オイオイ……毒が回っちまう……ぜ……」


 毒針をかすった割には呑気なダーク。しかし、その傷によって流れる鮮血を眺めていたダークは、


「どうしてくれんだよ……超面倒臭ェだろがッ……!!」


『グギャ!?』


 マンティコアの顔面を思いっきり蹴り抜いた。

 その衝撃にマンティコアは逆らえず、頭から血を流し建物を次々と砕いて吹き飛ぶ。


『ギ……ギャ……!』


 これ以上吹き飛ばぬよう、マンティコアは翼を羽ばたかせて空中で何とか体勢を立て直そうとするが、


「ハハ、ダークって割りと短期なのか? ま、味方になりゃ結構頼もしいな。……今だけだけど」


『ギギャ……!?』


 いつの間にかマンティコアの腹の上にライが乗っかっていた。

 それを見たマンティコアは野生の勘? で、次の瞬間に何が起こるかを理解する。


「ほら……止まれよ!」


 ライはマンティコアの腹の上にで軽く跳躍し、そのままマンティコアを蹴り落とす。


『ガギャ……!!』


 そのまま落下し、瓦礫を巻き上げて大地にめり込むマンティコア。

 ライは軽く跳躍したつもりだったが、どうやらマンティコアには荷が重すぎたらしい。


「ほら……どうした? 軍隊一つを壊滅させる力があんだろ?」


『グ……ギ……ギャ……』


 凄まじい速度で大地に叩き付けられたマンティコアは、何とか起き上がるが身体はボロボロだ。

 ライの言葉を理解しているかは知らないが、挑発に乗る様子は無い。

 少し睨み合うが、レイたちとダークたちもこの場にやって来た事によりその均衡は破られた。


「ハッハッハ! もう満身創痍まんしんそういの状態だな! マンティコア!」


 オスクロが笑いながらマンティコアに言う。その隣ではザラームとキュリテも同意するように頷いていた。

 そう、マンティコアはもう既に満身創痍。動く事すら難しい状態だったのだ。


「で、どうするんだ? ライ? 無闇な殺生を避けたがっているお前だが……マンティコアは……まあ、迷い込んで来ただけのようだが?」


「そうだなあ……」


 そしてエマが言い、ライはどうしたものかと考える。ライは無闇な殺生を好まない。余程の事では無い限り、相手を生かそうと考えているのだ。

 そしてライは少しだけ考えたあと、直ぐに案を出した。


「……よし、ここはこの街を治めているダークに決めて貰おうか。この街のリーダー的存在であるダークがきっちりとした判決を出した方が良さそうだしな」


 それはダークが決めるということだ。

 この街を治めているダークならばこの手の魔物の扱いは慣れている筈だからである。


「俺かよ……面倒臭ェ……」


 ダークは面倒臭そうに頭を掻き、ボーっとしなながら一言。


「じゃ……殺処分で……」


「「「オーケー!」」」


 刹那、オスクロ、ザラーム、キュリテが飛び出した。


「あ、やべ……」

「え……? ええ……?」


 ライは何をするか理解し、動物好きのリヤンの目を手で覆って隠す。

 リヤンは急に目元へと温かい手が当てられ、視界が無くなったので困惑していた。


「ま、やっぱそうだよな! うちの住人を次々と食らいやがってよォ!!」


『ギャ……!?』


 そんなライとリヤンがやり取りを行っている中、まずはオスクロがダークの言葉に返しながら風魔術でマンティコアを天に上げる。


「当たり前か……。テメェが捕食した奴らの中には良い話し相手もいたんだぜ?」


『ガ……ギ……』


 次いでザラームが刀を縦と横に振り、マンティコアを四等分に切り裂く。辺りにはマンティコアの血が飛び散る。

 それによってマンティコアは絶命した。


「やっぱり、同じ種族を殺されるのは……私的にも頂けない……かな?」


 そして最後にキュリテの超能力でマンティコアの亡骸を粉微塵にし、遠方に吹き飛ばした。

 こうして、マンティコアの処分は終わったのだった。



*****



 ──少し経ち、"レイル・マディーナ"は復興作業に入っていた。


「あー……やっぱ面倒臭ェ……毒が回って少しクラクラしやがる」


 ダークは復興作業を眺めながら痛そうな頭を抱えていた。

 マンティコアの毒は猛毒で、普通の人間や魔族なら死に至ってしまう筈なのだがダークはちょっと目眩がする程度だったのは流石だろう。


「大丈夫ー?」

「ったく……普通即死だぞ?」

「まあ、何はともあれ解決したから問題は無ェだろ」


 そんなダークを囲むように眺めているキュリテ、オスクロ、ザラームの三人。

 ライたちもある程度作業の手伝いを終え、ダーク達の元へ行く。


「ハッ、流石の幹部様も毒には参っている様子だなあ」


「フッ……確かにその様だな。まだ話し合いは終わっていないが……今日は無理そうだ」


 からかうように笑って言うライ。

 そんなライの後ろにはレイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人も来ていた。


「ああ……面倒臭ェが……確かに話し合いは無理そうだ……。まあ、この程度の毒なら寝ていりゃ治るだろうよ……」


 そんなライたちに目をやり、頭を押さえながら言うダーク。

 どうやら本当に具合が悪いようだな。と、苦笑を浮かべながらライは言う。


「まあ、今回はマンティコアだったからな。中々強い魔物だろうし、しょうがねえだろ。アンタも毒による傷だけで良かったな」


「ああ、そうだな……。どのみち面倒なのは変わらんがな……」


 ダークはライの言葉に対し、気だるそうな態度を変えずに話す。

 そんなライたちとダーク達九人の元に近付く影──


「ククク……ご苦労さん。まあ、俺は出番が無かったしな……」


 ──ゾフルが居た。

 そういえばマンティコアと戦っているときにはゾフルの姿が無かった。

 そんなゾフルを見てダークが訝しげな表情で言う。


「そういや……お前は来ていなかったな……何でだ? 戦い足りねェって言っていた割にはよ……?」


「ああ……それはだな……」


 こちらのゾフルも飄々とした軽薄な態度を取りながら、ダークに近付いて話す。


「……ぶっちゃけ、マンティコア程度ならアンタらだけで十分だと思っていたんだよ。……ほら、軍隊一つ潰せるっったってそれは人間の軍隊だろ? それに……魔族の幹部と、その幹部を倒した者がいりゃあオーバーキルも良いところだ。だから今回の俺は降りたんだよ」


 嘘か真か、どうやら手に汗握る戦いをしたいらしく簡単に勝てる相手には興味が無いらしい。

 ダークは脱力した態度でゾフルに話す。


「へー……俺もそうすりゃ良かったな……。俺も高みの見物決めてりゃ、面倒な事にはならずに済んだかも知れねえ……」


 ハハ、と力が抜けた、気の抜けるような笑みを浮かべるダーク。面倒な事というのは毒の事。ダークは体調不慮なのでそれに対して少し安静にしなくてはならない事が面倒なのだろう。


「ハッ、そうかもな。今のアンタならそこら辺の奴でも勝てんじゃね?」


「そうか……?」


 互いに言葉を交わすダークとゾフル。

 そしてゾフルはダークの元へ更に近付。


「ま、要するに……」


 ポンと、ダークの肩に手を置いたゾフルは言葉を続ける。


「『お前が消えればそれで良い』んだがな?」


「…………!?」



 ──刹那、何かを切り裂いた音と共に、ダークの首が焼き切られた。



「「「「「──!?」」」」」


「「「…………な!?」」」


 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンとオスクロ、ザラーム、キュリテは目を見開いて驚愕し、ダークの方を見る。


「……ゾ……フ……ル……!?」


「アンタが幹部の時代はもう終わりだ。これから"レイル・マディーナ"は、俺が治める」


 虚ろな目でゾフルを睨むダーク。ゾフルは言葉を淡々とつづった。

 ダークの首は何とか繋がっているが、切られた部分からは灼熱の火炎が舞い上がっていた。

 ゾフルが出した紅蓮の炎はパチパチと音を立て、ただ静かに燃え続けるのだった……。

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