四百七十二話 魔族の捜索隊
──"九つの世界・世界樹・第一層・森の中"。
魔族の主力であるブラックたちと出会ったライたちはブラックたちと共に、道という代物では無いような草が生え仕切った足元の見えない森の中を掻き分けつつ進みながら会話をしていた。
というのも、ライたちが此処に来るまで誰とも会わなかった事。そして一日多く居る分、ライたちよりも第一層に詳しいブラックたちに話を聞けばそれなりの情報を得られるかもしれないという事を踏まえて共に会話しながら進んでいたのだ。
「へえ。目立つ場所を拠点に、そこから兵士たちを探しているって事か。シヴァたちは第二層を目指して進んでいるから、ブラックたちが後を追う形なんだな」
「ああ。隊を作ったのは、何も孤立を避ける為だけじゃねェ。そこから更に分断すりゃ、効率良く味方を探せると思ったからだな。中々良い考えだろ?」
「そうだな。けど、今の話を聞くに、探索隊はブラックがリーダーなんだろ? 何でアンタらは部下の兵士たちを連れていないんだ?」
「ま、言うなれば成り行きだな。本来は幹部を個別隊のリーダーにして、戦力を均等にさせようと思っていたが、それじゃ幹部への負担が大きい。って事で、俺のチームに俺を含めた主力を三人入れる事でバランスを保ちつつ、他のチームでは幹部や側近が指揮を執って兵士たちを動かしてんだ。今回の探索は俺たちがメインだからな」
「……メイン?」
ブラックたちのチームは、ブラック、モバーレズ、サイフの三人だけ。
というのも、幹部二人と側近一人が居れば戦力的にも申し分無く、リーダーが動かすべく兵士たちが居ないので動きやすいとの事。この少数チームで動いているのには理由があるようで、その理由的にはブラックたちが探索隊のメインらしい。
隣で小首を傾げるライに対し、ブラックはクッと笑って言葉を続ける。
「ああ。無論兵士たちも優先すべき捜索対象ではあるが、奴らは仮にも兵士だ。己の身を守る術や、キャンプとかの野宿。森の中にある物で食えるもんと食えねェもんとか、生きる上で必要な事は誰よりも心得ているから問題無い。一番の問題は、人並み以上は武術を心得ているが、それを専門とする兵士たちには劣る──マルス王の捜索だ」
「……! マルス君の……!」
ブラックたちの本当の目的、それは"マレカ・アースィマ"にして王を努める者──マルス・セイブル。つまりライの親戚の捜索だった。
マルスの名を聞き、普段は冷静なライが見て分かる程の動揺を見せる。その隣で、事情を知らないニュンフェとドレイク、孫悟空が訝しげな表情でライを見ていた。
「マルス君っていうのはね、本名マルス・セイブル。……ライの親戚なんだ」
「……! それでですか」
「何と……!」
『成る程な。流石のアイツも、身内の事となりゃ血相を変えるんだな』
疑問を浮かべるニュンフェたちに説明をするのは事情を知っているレイ。話などは聞いているので、詳しい説明をする事も可能なのだ。
それを聞き、ニュンフェ、ドレイク、孫悟空は各々の反応を示す。彼らにも家族は居る。もしくは居た。それが親戚という立場だとしても、ライの感覚は理解出来ているのだ。
「ああ。マルス王の捜索。それが俺たちの第一目標。悪魔でまだ可能性の段階だが、マルス王が居るとなればヴィネラ王妹や執事のカディルが居る可能性もある。王様たちは鍛練を行っているが、兵士たち程の力を持っている訳でもねェ。だから第一優先で探してんだ。……念の為にもう一回言うが、確定じゃねェ。悪魔で居る"かもしれない"っ言ー可能性の段階だぜ?」
「あ、うん。理解している。けど、相手が主力級を集めているなら、確かに街の王も連れて来られている可能性もあるな。王の捜索となれば、目立つ行動は避けたい。それで三人チームなのか」
本当に居るかは分からない。しかし居るかもしれないのならば、探さなくてはならないのがその国を収める幹部の役割。
魔族の国に王政の街は少ないが、幹部である以上主君を護るのも努めの一つである。なので"マレカ・アースィマ"の王を捜索するのに一番適切な人材はそこの幹部という事だろう。
「で、俺たちは今何処に向かっているんだ? 今来た俺たちとっちゃ、右も左も分からない第一層。ブラックたちの案内が無けりゃ、確実に迷うぞ」
「胸張って言うな。……まあそれはさておき、だから俺たち捜索隊の拠点に向かってんだ。テメェらが居たって事が分かりゃ、それによって得られる利益もあるからな。最下層について色々と聞けるし、戦力を増やす事にも繋がる」
「ふぅん。まあ、どちらかと言えば先に進みたいけど、敵が来たら共に戦うって事には賛成だ。俺もこの層について聞きたい事がそれなりにあるからな」
利害の一致。それによってライたち八人とブラックたち三人の計十一人はブラックたちが拠点にしていると言う場所へ行く事になった。
勝手に進められた話ではあるがレイたちから反対の意見は出ない。元々行く宛もあって無いようなものだった。なので目的地があり、味方になりうる者が居るのならそれで良いという事になったのだろう。
「じゃ、着いて来てくれ。そろそろ集合と状況説明の為に一度全員が集まるから、まあ無駄な時間にはならねェだろ」
「ああ、そうするよ。知らない者たちじゃないからな。聞いたチーム分けだとキュリテは別動隊らしいけど、一応全員知っている」
「まあ、贅沢言うならキュリテにも会いたかったね」
「知り合い……ですか?」
「うん。一緒に旅した仲間なんだ」
「成る程」
もう既に、ライたちはブラックからチーム分けなどの話を聞いている。なので全員知り合いではあるが、最も親しいであろう者が居ない事も理解していた。少しだけ残念そうだが、この世界に居る事は変わらないので何れは会える事だろう。
何はともあれ、ライたちとブラックたちは拠点となっている場所に進んでいた。
*****
──"九つの世界・世界樹・第一層・森の中・捜索隊の拠点"。
それから道無き道を数十分進んだライたちは、ブラックたちが拠点としているという場所に到着した。
周囲は足元から腰まで見えぬ程の草や多数存在する木々に囲まれているが、この場所だけは草などが無く拓けた造りとなっている。どうやら元々木々以外何も無かった場所を開拓し、捜索隊の者たちが全員収まる程の広場を作ったらしい。
特に目印のような物は見つからないが、何を目標にこの場所へ集まれるのかが少しばかり疑問だが、まあ、あまり関係無い事だろう。
「よ、久し振りだな。魔族の国の強敵たち」
「「…………」」
「「…………」」
「「「「…………」」」」
「「「「…………」」」」
「「「「…………」」」」
軽い声と共に交わされたライの言葉に、魔族の国のブラック、モバーレズ、サイフを除いた"タウィーザ・バラド"のアスワド、ナール、マイ、ハワー、ラムルの五人と"ウェフダー・マカーン"のシャドウ、ルミエ、ジャバル、バハル、アルフの五人。
"マレカ・アースィマ"のラビア、シターの二人に"シャハル・カラズ"のファーレス、サリーア、ロムフ、ラサースの四人。
計十六人の魔族の国の主力たちは唖然としていた。当たり前だろう。来ているかもしれないというマルス、ヴィネラ、カディルを探しに行った筈のブラックたちが苗字が同じだけの、全くの別人を連れて来たのだから。
「何だ、テメェら! 随分と久しいじゃねえか!」
「あ、ライ君! 久し振り! 元気だった!?」
「ああ、シャドウ、ラビア。久し振り」
「……。ふふ、久しいな、フォンセよ」
「ああ、ルミエ。久し振りに会えて嬉しいよ」
皆が唖然とする中、真っ先に話し掛けるのはシャドウ。そしてラビア、ルミエと続く。
シャドウとラビアは性格的に見て直ぐに打ち解けるのは分かる。しかし魔族の者たちは、明るいには明るい性格だがルミエが向かうのは意外だったようだ。"ウェフダー・マカーン"の者たち以外が小首を傾げ、訝しげな表情でルミエの事を見ていた。
「ああ、そう言えば私の街の者以外には言っていなかったな。名は知っていると思うが、紹介しよう。私の従姉妹、フォンセ・アステリだ」
「「「「…………あ?」」」」
『「「「「…………は?」」」」』
「「「「「…………え?」」」」」
「なんと……!」
「成る程ね。フォンセちゃんの親戚だったんだ、ルミエちゃん! だから仲良しなんだね♪」
その紹介に魔族の主力たちは、一人を除いて全員が目を見開いていた。
その中には、しれっとライたちの仲間であるニュンフェ、ドレイク、孫悟空も混ざっている。初耳だったのだ。当然と言えば当然かもしれない。
「おいおい、マジか。まさかルミエに従姉妹が居たとはな」
「ならば、ルミエ殿とやら。お主も魔王に関した力を有しているのか?」
「……!」
ルミエの従姉妹に驚くブラックと、それならばルミエも魔王と関係しているのか気に掛かるドレイク。魔王という言葉を聞き、次は魔族の主力全員がピクリと反応を示した。
「その反応、やはりお主たちも魔王が何たるかを知っているか。となると、フォンセ殿の親戚がどういう意味を持つという事も分かっているみたいだ。お主たちからすれば、ルミエ殿の親戚であるフォンセ殿がその意味を持つ……という事になるな」
「ああ。みてェだな。そうか、ライたちと旅をしているなら、エルフとドレイク。そして斉天大聖がその事についても分かっていても不思議じゃねェ。魔王関連の話はルミエが危ねェ。だから知らない者たちの話題に出すつもりはなかったが……知ってんなら話は別だ」
神妙な顔付きで、フォンセとルミエの先祖について話すドレイクとブラック。
そう、魔族たちは皆がルミエ・アステリの先祖を知っている。そして、その親戚が居るのならばそうなっているという事も全て知っているのだ。
しかしそれは、悪魔で他の魔族の街に住んでいる主力について。ルミエについてなら、"ウェフダー・マカーン"の者たちは既に理解している。にも拘わらずドレイクの言葉に反応を見せた理由は、ニュンフェとドレイクと孫悟空が既に魔王について知っていたからだ。
ライたちが魔王について知っている事は理解出来る。だが、魔族の者たちは一部を除いてニュンフェ、ドレイク、孫悟空については知らない。なのでその三人が魔王について知っている事が気に掛かっていたのだろう。そしてその驚き様から、フォンセが魔王の子孫であると知らない者も多かったらしい。
「魔王か。まさか、この世界の"終末の日"じゃなくて俺たちの世界の魔王で驚愕する羽目になるとはな。存在するだけで殺されるかもしれねェ血縁者が二人も居るとは、本当に何が起こるか分からねェ世界だ」
「ハッハッハ! だが、一時的に味方にもなってくれんだろ? そう考えれば、これ程頼もしい事は無いじゃねえか! 本当にその気があればだけどな! 無論、お前たちが先へ行く事を望むのなら俺的にそれを否定する理由も無いって訳だ!」
しかし戦闘などの経験や不思議な出来事についての経験は豊富な魔族の主力たち。一瞬は取り乱していたが、即座に立て直す。最も、ライたちが味方になる事の頼もしさは文字通り身を持って実感している。なので味方になるなら歓迎なのだ。
「ああ。俺的にもマルス君の事は気に掛かる。レイたちが良いなら、もう少しだけ手伝いたいけど……どうだ?」
「アハハ、断る理由は無いよライ。一度知り合ったなら、何かあった時は助けたいからな。まだ確定じゃないけど、可能性があるなら探してみた方が良さそう」
「ああ。この世に何人居るか分からない親戚。私と同じ種族の者はアレだが、マルスはまともな奴だったからな。構わないさ」
「そうだな。私も同じような感覚だ。親戚とはルミエとしか会っていないからな。数少ない血縁者の為に動きたいという気持ちは分かる」
味方になる。その言葉。ライたちには先へ行きたいという気持ちも多少あるが、何よりマルスたちの事が気に掛かる。親戚や血族という存在に対してエマとフォンセは思うところがあり、他の者たちは断る理由が無いのでライの考えに賛同する。
それが決まったところで、ライは改めてブラックたちへ視線を向けた。
「なら、俺たちも手伝う。この広い世界での戦争。戦力は多い方が良いからな。兵士たちにも家族が居る。それを知っていて立ち去る程非情にはなれない」
「ああ。なら、改めて言おう。夜露死苦な。うちの王や魔族の国の兵士たちを共に探してくれんのは頼もしいもんだ」
ライが手を差し出し、それを取る捜索隊のリーダーであるブラック。他の主力たちからも否定の声は上がらず、ライたちとブラックたちとの協定が結ばれた。
上の階層を目指す途中、ライたちは第一層にて魔族の国の者たちの捜索を手伝うのだった。




