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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
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四百七十話 第一層へと続く道

 ──"九つの世界・世界樹ユグドラシル・最下層・泉地帯"。


 生物兵器の未完成品との戦闘から数十分。ライたちは朝食を終え、支度も終えて泉地帯から進んでいた。

 まだ近場なので水の感覚は残っており、進む道中の空気にも多少の水分が含まれている。朝特有の湿気も相まり、肌には水気を感じていた。

 生物兵器との戦闘はあったが、それ以降は特に大きな事も無く比較的平穏に進めている現在。その気になるのなら光の速度で先を急いでも良いが、それはしない。今朝は早くから魔王の力を使ったので、あまり疲労を蓄積させぬ為に温存しているのだ。

 温存している理由。それは、敵の気配はまだ無いがいつ襲って来てもおかしくないからである。支配者クラスの主力が来ても対応出来るように、力を温存し続けているという事。


「そろそろ次の層が見えてきても良さそうだけど……まだその気配は無さそうだな」


「うん。同じような景色がずっと続いているね」


「ふふ、一つの地域や地帯だねで惑星・恒星並みの広さはあるこの世界。全体で宇宙並みはあるんだ。本来なら数年掛かっても一つの泉からもう一つの泉には行けない。恐らく、私たちは私たちが思うよりもかなりのハイペースだぞ」


 辺りを見渡しながら、呟くように話すライ。それに返すレイとエマ。

 周囲にあるのは自然。木々と草花。空からは日の光が差し込んでいるが、今回は全方位から差されている訳では無いのでエマも傘一つで抑える事が出来ていた。

 そんな、代わり映えしない景色から一向に進んでいないような感覚に包まれるが、エマ曰くそういう訳でも無いらしい。

 知っての通り、九つの世界と"世界樹ユグドラシル"はかなり広大な面積を誇る。惑星や恒星。銀河系に銀河集団。そして宇宙。それ並みの広さがあるこの世界では、国と国。地域と地域の間隔がかなりある。なのでライたちのペースはかなり早いとの事。

 一日で一つの地帯から一つの地帯へ進む程の速度を例えるなら、世界を一周したあと更に別の星へ向かう程なのだ。つまり、ライたちはライたちの感覚よりも進んでいるという事である。


「へえ。実感ないなあ。まあ、進んでいるならそれで良いか。けど、そうなると色んな場所に配置されている敵はかなりの距離を進んでいるって事なんだな。不可視の移動術が"空間移動"の魔法・魔術みたいに点と点を行き来する瞬間移動の一種なら可能なのか」


「まあ、此処は敵が創った従来とは異なる偽りの世界だからな。創った者ならば全ての場所は一度は見ているだろうし、それならば"空間移動"で進む事も可能な筈だ」


「やっぱ、地の利は相手にあるって事だな。とことん不利な世界だ」


 他愛ない会話をしつつ、更に先へ進むライたち。条件は色々と不利だが、そもそも進まなければ始まらないので文句などは言っていられない。

 元々人通りなどもあったのか、この地帯には道がある。創られたばかりの世界なので人など始めから居ないのだろうが、人通りがあったというのは本来の"世界樹ユグドラシル"についてである。

 再現では無く本来の"世界樹ユグドラシル"がある世界では人間や神や妖精など、多種多様の生物が行き来するであろう故に道も再現したのだろう。それもあって通りやすさがあった。

 当然の事ながらライたちを惑わせる為の偽りの道という可能性もあるが、先を示すような印なども無いのでこの道を進む。そしてグラオの性格から、全力で戦いたいのに惑わせて体力を奪うという事は多分無いだろう。


『シャアアアァァァァッ!』

『シャアアアァァァァッ!』

『シャアアアァァァァッ!』


「……」


 歩いていると、魔物の国の兵士であろう巨大な獣が大口を開けてライたちへ吼えていた。

 何の魔物かは分からないが、身体を纏う黒光りや白。翠色すいしょくの鱗から龍。もしくは蛇の一種だとうかがえる。神域に近い龍族ならば相応に高貴な気配がある筈。それが無いとなると、目の前に居るのは種族で言えば蛇だろう。蛇と言っても特別な力は感じない。つまり、突然変異で巨大化した普通の蛇だ。通常の蛇ではないので一応魔物の類いである。


「そら」

『『『シャッ……!?』』』


 その蛇を見たライは軽い口調と共に跳躍して左端の蛇の顔を蹴り、真ん中と右側の蛇を巻き込んで壁に激突させる。

 軽い一撃とは思えない程の衝撃が周囲を包み、壁に放射状の巨大な亀裂が生じて崩壊させる。次いで連鎖するように周りの壁が砕け、轟音と共に砂塵が視界を埋め尽くした。


「……あ、音で敵にバレちまうか?」


 開いたてのひらと腕を横に薙ぎ、空中に舞った全ての砂塵を軽く扇いで消し飛ばすライ。

 そんなライは、吹き飛ばした後に先程生じた瓦礫の音で敵に見つかるかもしれないと懸念していた。


「大丈夫だろ。いずれ敵とは会う事になる。昨日さくじつは逃げ続けていたからな。最上層を目指すに越した事は無いが、逃げ続けているというのは結局、今後行われるかもしれない戦闘を先延ばししているに過ぎん」


「ハハ、確かにな。否定はしない。けどまあ、先延ばしにしたお陰でこの距離を進めたんだ。それに免じて勘弁してくれ」


「やれやれ。余計な疲労を蓄積しないという事には同感だが、逃げ続ければ後から戦うものが増えるだけだ。ほどほどの処理はした方が良いぞ」


「ああ。肝に銘じておくよ」


 実際、余計な戦闘を行わずに先へ進めるのならばそれはそれで良い事である。

 だが、敵の本拠地が分からない現在。高確率で元の世界へ戻る為の場所が同時に敵の本拠地という可能性もある。なのでその敵を減らす為にも、ある程度の戦闘は行った方が良いとの事だ。


「まあ、敵にも回復させる力を持つ者は居るだろうし、戦うにしても時とタイミングが重要ではあるな」


「ああ、そうだな」


 これにて会話を一区切りし、ライたちは一つの穴の前に立つ。そこを見上げ、顔を下ろして正面に広がる深淵を彷彿とさせる穴を覗く。その穴は何処までも暗く、闇しか映していなかった。


「穴……? かなり奥まで続いているみたいだけど……もしかしてあれが先に続く穴かな?」


「……。ああ、十中八九第一層に続く穴だな。まあ、逆さまの"世界樹ユグドラシル"は本来の第一層が第三層みたいな扱いだけど……気にしなくて良いか」


 突然現れたその穴。それが示す事は複数。上層へと続くトンネルか、敵の仕掛けた罠か、はたまた何かの生き物の巣か。可能性を上げればキリがない。

 しかし、ライたちはその穴が上層へと続くトンネルの可能性が高いと読んでいた。というのも、周囲の木々が穴へと続く門のように立ち並んでいたからだ。

 従来の自然ではこの様な形になる可能性は低い。まるでライたちをいざなうように、木々のトンネルが大口を空けた穴へと続いていたのだから。


「折角の手掛かりだ。警戒だけして入らないのは得策じゃない。皆、準備は良いか?」


「「うん」」

「「ああ」」

「ええ」

「うむ」

『ハッ、当然だ』


 それならば入らない理由はない。ライがレイたちに訊ね、全員が肯定するように頷いて返す。最終的にこの穴へ入り、内部を確かめるという事に決定した。



*****



 ──"九つの世界・世界樹ユグドラシル・最下層・洞窟"。


 その穴は、洞窟だった。

 先の尖った天井岩から滴る水滴が灰色の地面に落ちて小さな音を響かせる。複数の水溜まりが足元に作られており、ライたちが歩くたびにピチャピチャと水と靴が接触して軽快な音を鳴らす。

 闇より深い洞窟に響くその軽快な音は、逆に焦りや不安感を生み出してしまいそうな音だった。

 無論、数々の修羅場を潜り抜けてきたライたちにとっては微塵の恐怖も感じぬ程度の音に過ぎないが。


「奥まで続いているな。基本的に一本道だ。周りの様子を見る限り、どうやらこの洞窟はトンネルだったって事だな。奥にある出口は何か分からないけど、第一層へ続く道の線が高まってきた」


「うん。少し不気味だけど、敵の気配も無いし安心して進めそう。……罠とかが無ければだけどね」


 高まる信憑性を実感しながら先頭を歩くライと壁に触れ、軽く撫でるレイ。指先に砂を寄せて軽く擦り、両手を軽く叩いて払う。

 敵の気配は無いが、罠などの可能性を警戒して進んでいるライたち。

 敵が気配を消せようと、透明になろうと物音一つ起こさなかろうと実態があろうと無かろうとライは気付く事が出来るまでに成長していた。なので敵が居ないというのは確実。となると残る不安要素が罠だけという事なのだ。


「見たところそれっぽい物は無さそうだな。まだ入り口に近いからって可能性もあるが、少なくとも近隣には罠などが無い。試しに石ころを放ってみたが反応無しだ」


「ああ。俺も試している。先頭は異常が無いし、エマがそう言うなら此処ら辺の一帯には罠とかも無いって事だな」


 壁。前方。後方。天井。如何なる所を探しても罠は見つからない。石ころを放って少し先も調べてみるが、何も無し。結果、この場所に罠などは無いという事が分かった。


「ふむ。今朝から人化していて良かった。お陰でこの狭い洞窟に引っ掛かる事は無さそうだ」


『そう言えば、朝からずっと人の姿じゃねえか、ドレイク。確かにその方が見つかりにくいが、お前的にはそれで良いのか?』


「ああ、構わぬさ斉天大聖殿。戦闘はまだ起こっていない。ならば、動きやすい形の方が良いからな」


『ハッハ。そうか。なら、その方が良いかもな。好きで人化してんなら、何も言わねえよ』


 その近くでは人化した状態のドレイクと斉天大聖こと孫悟空が雑談をしている。何でも、今朝からずっと人化したままのドレイクが気に掛かったらしい。しかし本人が納得しているので、これ以上は野暮な指摘はしなかった。

 それからライたちは罠を確認しつつ進み、数十分程洞窟の中を歩いていた。敵も罠も無く進める道中。そして、光が差し込み白く明るい出口が視界に映り込んだ。


「お、見えてきたな。多分あれが出口か。本当に敵も罠も無かったみたいだ」


「本当だね。随分とあっさり着いたけど、何もないのかな?」


「さあ、どうだろうな。しかしまあ、早く着いたならばそれで良いだろう」


 うん。と、エマの言葉に頷くライたち。ライとレイは敵や罠が無かった事を気に掛けていたが、無いなら無いで良いという結論に至ったのだろう。

 最後も警戒を解かずに進み、その出口からライたちは洞窟の外へと飛び出した。



*****



 ──"九つの世界・世界樹ユグドラシル・第一層"。


「此処が……第一層か……?」

「本当にそうなら、綺麗な所だね」

「複数の神々の国が存在していると聞く。もしかしたら、その影響もあって穏やかな景観なのかもしれないな」


 ライたちの視界に映った景色は、一面に広がる緑だった。

 洞窟から抜けると同時に吹き抜けた風に煽られ、ライたちの髪を揺らす。明暗の差に少し違和感を覚えつつもそれは去り、優しく明るい緑色の世界が目に入る。

 この世界は逆さまの"世界樹ユグドラシル"なので第一層は下層の一つなのだが、それでも上部には空がある。最下層の泉地帯からも空が見えたので、恐らく全層からも空は見えるのだろう。

 空には鳥も飛んでおり、敵以外の生き物は初めて見る。どうやらこの世界の景色に合わせて創造していたらしい。

 快晴の青空と、その下に広がる緑の大地。自然豊かで、空気にも淀みが無く澄んでいる。過ごすには快適であろう場所だった。


「良い所だな。今が"終末の日(ラグナロク)"じゃ無ければ少しくつろぎたいくらいだ」


「ふふ、そうも言っていられないだろう。さて、そろそろ先に進もうか」


「ああ。まだまだ上はあるからな」


 美しく、穏やかな気候の第一層。しかし上下が逆であるこの世界はまだまだ最上層まで遠い。なので一息吐く暇もなく先へ進まねばならなかった。

 最下層の泉地帯を抜けたライたちは、最上層を目指す為に第一層の世界を進むのだった。

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