表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第二十二章 ユグドラシルとラグナロク
466/982

四百五十九話 敵の行動

 ──"九つの世界・世界樹ユグドラシル・最下層・三つの泉付近"。


 魔族たちの戦闘が終わってから数時間。光の速度で根元付近を進んでいたライたちは、明るく開けた場所に出ていた。視界が明かりで染まると同時に、水気の含んだ風が吹き抜ける。九つの世界にして"世界樹ユグドラシル"の中であるが、風などといった自然現象は普通に感じる事が出来るのである。


「此処は……"ミーミルの泉"の次だし、"ウルズの泉"ってところか」


「「「…………」」」


 "世界樹ユグドラシル"を枯らさぬ為に常に流れている泉、それが"ウルズの泉"である。

 レイたちがライの横でぐったりと倒れている中、ライ、ドレイク、孫悟空は"ウルズの泉"へと近付く。


『本来ならば、この泉を管理する者が居て常に管理している筈だが、此処は本来の"世界樹ユグドラシル"とは違う。何故泉がそのままの状態で保たれているのだろうか……』


『さあな。だが、此処が"ウルズの泉"って事には違いねえな。見ろ。所々に泥が流れている。"ウルズの泉"汚れを消し去る為と、流れを止めねえ為に泥は使われたものだ。此処には確実にその場所だ』


「確か、此処から先に行くと第一層にある"アース神族"って言う神群の国"──アースガルズ"があるんだっけか。逆さまだから最上層は第三層の死者の国付近になるけど、最も過ごしやすくて清潔な国々は第一層だった筈だな」


 泉の水を掬い、手から溢すように泉の中に戻すライ。流れ落ちた水は泉の中の水と接触して王冠状の輪を形成する。暫し波紋が浮かび上がり、そのうち水の揺れが収まって元の静かな泉に戻った。


「結構進んで来たみたいだな。いや、あの速度でまだ"ウルズの泉"付近って言うのは進んでいないのか?」


「さあ……どうなんだろう。九つの世界が宇宙並み。ううん。それ以上の広さっていう事は知っているけど、一つの世界の間はどれ程か分からないからね」


 立ち上がり、周囲を眺めながら呟くライ。基本的に美しい泉のある最下層は見る分には素晴らしく、目の保養に持ってこいだ。

 ライたちを囲むようにそびえるのは、深い翠色すいしょくの青々とした葉を宿す木々。最下層にも拘わらず空から日の光が差し込んでいた。

 その光に照らされて"ウルズの泉"はキラキラと輝き、風に煽られて水面が揺れる。

 支配者や相手の主力から数時間戦い、逃げ回っていたライたちだが、ようやくここいらで一息を吐けるかもしれない。常に警戒はしているが、最下層という事も踏まえて敵の兵士なども見当たらなかった。


「良い場所だろ? 本当、退屈しちまう程にな」


「やれやれ。君も景色を楽しむという事を覚えたらどうかな、ゾフル? 折角滅多に来れない九つの世界と"世界樹ユグドラシル"に居るんだから」


『うむ、そうだな。地獄から帰って来たのだから、この世を楽しむのもまた一興。我の国では景観などを重視した建物が多かったぞ。特に庭園などは見所がある。木や岩の配置から砂の並びにまで手を抜かずに一つの景色を作り出しているからな』


「へえ、それは見応えがありそうだ」

「ハッ、景色より争いの方が好きなんだよ、俺は」


 ──そう、兵士達は見当たらなかったのだ。

 なので、ゾフル、ハリーフ、酒呑童子しゅてんどうじという主力が居るという事はあり得る話だった。事実、現在ライたちの前にそれらの主力が姿を見せたのだから。

 木の上からライたちを見る彼らは、あまり関係無さそうな話をしている。なのでライたちはゾフル達に気付かれぬよう、ゆっくりとその場を後に──


『おっと、逃がさぬぞ。主ら。実力がある割りに進んで戦闘を行おうとしていないらしいでは無いか?』


 ──行かせてはくれなかった。当然だろう。恐らく彼らはライたちと戦う為に後を追って来たのだから。

 酒呑童子しゅてんどうじは刀を振るい、斬撃を飛ばしてライたちの向かう先に亀裂を作った。


「ハハ、やっぱり行かせてくれないな。それにしても、ゾフルとハリーフはまあ分かるとして……酒呑童子しゅてんどうじなんて珍しい組み合わせだな? 共通点が手を組んでいるって事しか無い程に無い。何とも奇妙なもんだ」


 斬撃の亀裂を見、軽く笑って三人の方を向くライ。

 確かに同じ魔族にして、同じ国で幹部の側近だったゾフルとハリーフの組み合わせだけならば何ら不思議では無い。付いていた街と幹部は違うが、ヴァイス達よりも確実にこの二人の方が先に出会っていたのだから。

 そこに酒呑童子しゅてんどうじという、接点がまるでない存在が加わっているのが意外だったのだ。

 そんなライの言葉を聞いた酒呑童子しゅてんどうじはフッと笑い、ライたちに向けて言葉を続ける。


『フフ、もう主が答えを言っているでは無いか。我とこの者たちは既に同士となっている。敵を討つに当たって、同士と手を組むのがそれ程までにおかしいか?』


「成る程。一理ある。確かに何もおかしくない。組み合わせが少々異質ってだけだ。それも、俺たちから見た主観の評価。アンタらが手を組もうと、何の問題もなかったな。アンタらから見れば、幻獣の国の主力と手を組んでいる俺たちも不思議な存在になってしまうや」


 酒呑童子しゅてんどうじの説明を聞き、納得したように頷くライ。

 ゾフル、ハリーフのみならず、ヴァイス達や魔物の国の者達と既に同盟を結んでいる百鬼夜行。考えて見れば、ライたちがニュンフェやドレイク、孫悟空と協力しているように、例え酒呑童子しゅてんどうじが誰と共に行動しようとも全く変では無かったのだ。


『分かれば良い。我とこの者らは盃を交わした仲。既に戦友であるのだからな』


「盃なんて交わしたか?」

「いいや、別に」


 ナチュラルに嘘を吐き、二人に否定される酒呑童子しゅてんどうじ。しかし全く気にせず、然も有りなんの如く、会話を続ける。その自由奔放さ加減に思わず苦笑を浮かべるライたちと、味方ながらに呆れるハリーフ。ゾフルも特に気にしてはいないようである。

 酒呑童子しゅてんどうじはその横で刀を振るい、ライたちを挑発するように告げる。


『さて、主の疑問が解決した所で戦闘へと移行しようではないか。我らはみな、主らとの戦闘を望んでいる』


「クク、それは当たりだな……!」

「フフ、私はどちらでも構わないけどね」


 木から降り、ライの前に着地して本当の意味で前に立ちはだかる三人。酒呑童子しゅてんどうじは刀を構え、ゾフルとハリーフは魔力を込める。

 既に戦闘の準備は出来ているらしく、三人は殺る気に満ちていた。


「まあ、また隙を見て逃げるかな……」


「オイ。それを俺たちの前で言っちまうのか?」


「ああ。俺たちは戦闘じゃなくて、悪魔で最上層を目指す事だからな」


 告げ、構えるライ。その言葉にゾフルは呆れるが、一応ライも少しは戦う気になったので良しとする。後ろではレイたちも構えており、ライたちとゾフル達の戦闘が始まろうとしていた。



*****



 ──"九つの世界・世界樹ユグドラシル・第三層・ヘルヘイム"。


 此処は九つの世界、最上層に位置する場所。死者の国"ヘルヘイム"。

 本来はこの第三層にある氷の国"ニヴルヘイム"・死の国"ヘルヘイム"・炎の国"ムスペルヘイム"。計三つの世界は最下層だが、グラオの手によって本来とは真逆の最上層となっている。

 そのうちの一つである冷たく、正に死を彷彿とされるこの場には魔物の国、ヴァイス達、百鬼夜行の主力が複数居た。


「やあ皆。気分はどうかな? 既に戦闘に行った者たちはお疲れ様。ライ達と魔族達。そして幻獣達が全員、上の階を目指して進んでいるけど、彼らはみなが順調そうだ」


 その者達に向けて第一声。何人か戦闘から帰った者も居るので、先ずは気遣いの言葉を掛けた。その後の本題ではライたちと魔族たち。幻獣たちという上を目指して進む者たちの進行状況を告げる。順調にこの場を目指して進みつつあるとの事。

 ヴァイスの言葉を聞き、ヴァイスに訊ねるのはリッチであるマギア・セーレ。


「順調って言うのは分かったけど、これからどうするの? 兵士達を配置しているとは言っても、当然普通の兵士に足止めなんか不可能。生物兵器の兵士達も同じって訳だし。主力は負けていないけど、結局取り逃がしちゃっているからね」


 訊ねたのは今後について。

 ヴァイス達。というより魔物の国の主力達はライたちを足止めし、"終末の日(ラグナロク)"を長く続けさせるのが目的。それによってどうなるかはさておき、ライたちが順調という事はヴァイス達は順調ではないという事なので気になったのだ。


「フフ。私がこれから言うのはそこだ。彼らは十分な人数が居る。一人一人、一匹一匹がかなり良質な状況でね。対し、私たちの主力はかなり上質だけど、兵士達はそうでも無い。常人や普通の幻獣ならばかなり苦労する生物兵器や魔物兵士もライ達の前では軽くあしらわれるという事だ」


 淡々とつづるヴァイス。まだ本題については言っていない。何時ものように、本題前に語る長い前置きだろう。なのでマギアを始めとし、主力達は静聴していた。

 それを横に、ヴァイスは更に続けて自分の考えている事柄を話す。


「つまり、彼らの部下兵士達もこの世界に送り込んでみるという事さ。無論、兵士では無い一部の者も、だ。これが本当に"終末の日(ラグナロク)"という名の大規模な戦争ならば、相手の兵士達を送り込んで乱戦になった方が魔物の国の君たち的にも良い暇潰しになるだろう?」


『一理あるな。主力や兵士を配置しているが、それでは少々物足りない。主力と出会ったとしても、逃げ出すか多数の相手にやられるかだからな。相手にも兵士を呼べば、更に激しい戦闘となって俺たち魔物からら見ても面白い』


 ヴァイスの提案。それは、魔族の国、幻獣の国から兵士たちも参加させるとの事。

 現在行っている"終末の日(ラグナロク)"とは名ばかりで、戦争という風には見えない。魔物の国の者達が目的とする事の半分以上は暇潰し。即ち、祭りのような盛り上がりが必要という事である。

 相手の兵士たちを呼べばヴァイス達の戦況が不利になるかもしれないが、少なくとも魔物達は盛り上がるのならばその方が良いという考えなのだ。

 他の魔物の国の主力から否定は上がらず、ぬらりひょんを筆頭に構える百鬼夜行やマギアもそれで良いという表情をしていた。今回の戦争は悪魔で暇潰し。当然の事ながら暇潰し以外の目標も各々(おのおの)にあるが、あまり気にする必要もないという事だろう。


「なら、決まりで良さそうだね。私の目的は生物兵器をより完成品に近付ける事。その為、人材や戦闘の経験は多い方が良い。魔族のデータは回収したから、後は幻獣。そして──神・勇者・魔王のデータが欲しい」


 魔族の技をコピーした生物兵器の入った壺を取り出し、フッと不敵に笑って話すヴァイス。

 つまりヴァイスは、生物兵器をより強力にする為データの回収が目的なのだ。それをより効率よく行えるよう、他の国の兵士たちを参戦させようという魂胆なのだろう。


『何だ、ヴァイス殿の目的はそれか。より多彩な争いを見せる事で完成品をより高性能なものにする事か』


「ああ。何事に置いても、実験というものは生物を進化させるからね。実験や様々な試行錯誤によって生き物は次の段階に進めるんだ。中には非道と呼ばれるものや、禁忌、封印されている実験もある。しかし生き物の成長はそのうち世界に何らかの利点をもたらすんだ。それを禁止するなど、愚かな行為じゃないかな。生き物の選別。今は否定している彼らも、いずれはその素晴らしさが分かってくれると良いんだけどね」


『フッ。大きな野望があるようだ。我ら魔物は肉体の力のみで生きてきた故に、実験などの類いは詳しくない。否定も何もせんよ』


 ヴァイスの持論に対し、深くは追求しない魔物の幹部であるヴリトラ。この世の全てを憎んでいるという彼だが──彼だからこそ他人の意見に興味は無いのだ。

 ライたちとゾフル達が出会い、戦闘を行う中魔族たちと幻獣たちは上を目指す。その上にて、ヴァイス達が他の国の兵士を呼び出すと決めていた。"終末の日(ラグナロク)"は、これからより激しさを増しそうである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ